左側頭部を指で2回弾かれる
2012年10月某日、2人の中年男が江西省吉安市万安県の道路沿いで相撲を取っていた。
相撲を取っていたのは、後に加害者になる温強(ウェン・チャン)と被害者になる劉明(リュウ・ミン)さんだった。
「ドン!」、温強は劉明さんを地面に引き倒した。
温強は学歴は小学校卒。彼は農閑期に村から万安県に出てきて、バイクタクシーの商売をしていたが、15年前に傷害罪で執行猶予を受けたこともあり、気性が荒かった。
この日の商売は儲からず、二人は賭け相撲勝負をしていたが、結果は何度やっても劉明さんの負けだった。彼は負け不服とし、「もう一回」と温教に挑んだが、やはり負けてしまった。
「もう一回!俺は50元賭ける、やるか?」、劉明さんは温強を挑発して、もう一度勝負を挑んだ。
しかし、番狂わせとはならず、やはり劉明さんは負けた。悔しい劉明さんは、温強が注意をそらした隙に、温強の左側頭部を2回指で弾いた。(デコピン)
「バカ野郎!」、温強が強く反応した時、劉明さんはすでに遠くに走り去っていた。この時、温強の心の中には怒りの炎がメラメラと燃え上がっていた。
翌日、温強は路上で劉明さんに遭遇し、何も言わずに殴りかかったため、劉明さんは走って逃げるしかなかった。温強は劉明さんを警察の交通大隊まで追いかけたが、警官が現れたため、その場は収まった。
体調が思わしくない
帰宅した温強は、劉明さんに頭を2度指で弾かれたことを気にしていた。
「あれ以来、全身の具合が良くない」、「きっと、劉明に指で弾かれたせいだ」と考えるようになっていた。
ある日、ほかのバイク運転手と話をしている時、温強がそのことを話したところ、周りの者たちは冗談のつもりで「お前、劉明に“五百銭”(方言で頭部のツボのこと)を押されたんじゃないか?」と言ったが、温強はそれを聞いてひどく驚いた。
「絶対に劉明にツボを解かせなくては!」、そう考えた温強は劉明さんに対し、再度怒りを爆発させた。彼はすぐに家族と共に劉さん宅に押しかけ、劉明さんを脅して“五百銭”のツボを解くように迫った。
そもそも、ツボのことなど全く知らない劉明さんにとっては、何のことやら、さっぱり意味不明だった。しかし、温強は劉明さんがツボを解除する気がないと勘違いし、両家は激しい言い争いとなり、またもや警察が介入する騒ぎとなった。
その後、温強は立て続けに万安県人民医院、万安県中医院などを受診し、医師により多発性頭皮血管腫、頭部外傷と診断されたが、頭蓋内の異常は何も見られなかった。しかし、温強は体の具合が悪いと感じていた。
そして、知人の紹介で温強は何の医療の資格もない漢方薬の「※はだしの医師」(※文革中に養成された農業の傍ら医療に従事する無資格医)、邱(チウ)大師に治療を求めた。
邱大師は地元では「神医」(カリスマ医師)とウワサされる人物で、温強の“五百銭”の一件を聞くと、「(温強の)体の不調は“五百銭”を点かれたせいだ。早急に治療をしなければ、助からない」と言った。
病院では病気が見つからない
2000元あまり(約3万3050円)を使い、温強は邱大師に大量の漢方薬を処方してもらった。
薬を服用し始めたばかりの時は、何となく良くなった気がしたものの、しばらくすると、また体の調子が悪くなり始め、薬の効果が良くないと感じ、そのせいで憂鬱な気分になった。
「自分の命は長くない」と考えた温強は、自分勝手に売春婦のところに通い、その結果、性病にかかってしまった。
前に患った病気も治っていないのに、また新しい病気を患った温強は、再び邱大師の診察を受けた。このことを聞いた邱大師は「前にも言った通り、やはり、早くツボを解かなくてはダメだ」と言った。
その後、温強は何度も劉明さんのところに押しかけては、「ツボを解け」、「治療費を払え」と脅迫した。
劉明さんは何度も“五百銭”については何も知らないと説明し、治療費の支払いを断ったが、温強は信じようとしなかった。
「劉明が“五百銭”のツボを解かなければ、俺はあいつの目の前で死んでやる!」、温強は邱大師の話を固く信じていた。
劉明さんは温強からの「嫌がらせ」を避けるために、万安県を離れて、吉安市区に出稼ぎに行くしかなかった。
一方、温強は一向に体調が良くならず、家族の勧めで、大きな病院に受診することにした。
まず、吉安市中心人民医院で受診し、その後、上海長海医院で受診した。診断結果は梅毒と盲腸多発性ポリープで、これらは秘孔(ツボ)を点かれたことと全く関係がなかったが、温強は“五百銭”を点かれたせいでこうなったたと考えた。
この時、温強は前後して1万元(約16万円)あまりを使い病院にかかった上に、1年も薬を飲んできた。
しかし、病院ではずっと彼の「病気」を検出できなかったため、温強の劉明さんに対する怒りは、さらにヒートアップした。三角ナイフを布に包みバイクに乗せ、あちこちで劉明さんの行く先を聞いて回り、復讐を企んでいた。
「ツボ解除」を拒否され殺人へ
2013年8月下旬、あの「ツボ点き」の一件から、もうすぐ1年が経とうとしていた頃、劉明さんは万安県の街に戻った。
しかし、彼は温強が人から自分が万安県に戻ってきたことを聞いているとは思いもよらなかった。
「劉明、逃げるな!」、8月29日、劉明は自宅の近くの路上でバイクに乗った温強と遭遇した。
温強は「お前とは知り合いじゃないのに、なぜ俺の命を害するんだ!お前が前に点いた“五百銭”のツボ、今すぐに解いてもらうぞ!治療費も支払え!」と、劉さんに迫った。
「誰が払うか!」
劉明さんが強い態度を取ったので、温強は暴力的な態度に出た。
劉さんは、その様子を見てバイクから鉄の棒を取り出し、温に殴りかかったが、逆に棒を奪われてしまった。
温強はすぐにバイクからナイフを取り出し、劉明さんの太ももを突き刺した。
「殺さないでくれ!」、劉明が苦しそうに頼んだが、温強は構わず、再び劉明さんの胸を2度突き刺し、すぐさまバイクで逃走した。
結果、劉明さんは出血多量で死亡した。
温強は山に逃げ込み、その後、妻と親属に電話をかけ「事件を起こしてしまった。俺の病気はもう治らない、その上、ナイフで人を刺し殺してしまった」と言った。家族の説得で、彼を逮捕しようと取り囲んでいた警察に投降した。
逮捕後、温強は劉明さんをナイフで刺したことを後悔していたが、以前として病気になってしまったという考えから抜け出せずにいた。温強は取り調べの職員に対し「俺は秘孔の“五百銭”を点かれてしまった。血管が全部硬くなり、もうすぐ死ぬ」と語っているという。
事情聴取をした職員が温に対し専門的な精神鑑定を行ったが、すべて正常だったという。
事件後、公安機関は邱大師に調査を行ったが、この人物は診療所や看板を出しての診療は行っておらず、普段は主に農作業を営んでおり、たまに診察を行い“民間療法”の漢方薬を処方している程度だった。
警察の事情聴取に対し、邱大師は「私は健康作用がある漢方薬を売っているだけで、人体に悪影響はない」と述べ、温強に対する“診断”も、単に温強の言い分に従い、2000元あまりの薬代を騙し取るためだったと告白した。
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前代未聞の「ツボ殺人事件」。
秘孔を押されて死ぬなんて、武術映画や漫画の世界の話みたいですが…、勘違いとか思い込みって死ぬほど恐ろしい!
余計なことを言ったバイク運転手たちや「神医」は、温強を唆した罪には問われないのだろうか。
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