我が家の飼い猫ミーシャは、いわゆる「茶虎」で薄い茶色をしている。夜になるとベッドで本を読んでいる私の側に来てうずくまる。そういう時には本を読むのをやめて、その軟らかい毛を撫でたり、指で毛を押し分けたりしてやるが、気持ちが良いのか嫌がりもせずにじっとしているので可愛く思う。茶色の毛の下は真っ白な皮膚で、とてもきれいだ。猫の皮膚はどれも、黒猫であっても、そうなのだろう。それを見ていると、ふと三味線のことを考えた。
猫の皮と言うと三味線を連想するが、調べてみると三味線の胴に張る皮は一般に猫の腹のものを使用するようだ。しかし高価であるし生産量が減少して現在は稽古用など全体の7割程度が犬の皮を使用しているのだそうだ。津軽三味線は例外を除き犬皮を使用するとのことで、音質と関係があるのか。合成製品もあるようだが、音質に劣るため好まれないと言う。雌猫は交尾の際、雄猫に皮を引っ掛かれてしまうため雌猫の皮を用いる場合は交尾未経験の個体を選ぶ事が望ましいと言われているようだが、実際には交尾前の若猫の皮は薄い為、傷の治ったある程度の厚みのある皮を使用することが多いそうだ。
三味線の値段は高級なものになると50万円以上もする。もちろん皮は猫だろうが、紅木などを棹や胴の材木に使うのが高級らしい。
http://data.livex.co.jp/okonomi/9604/top.html
これを読むと、三味線の胴の皮つくりの作業は、なかなか大変なものだということが分かるし、何よりも差別と偏見に耐えながらの仕事には頭が下がった。
先日長男の家族と食事した時にこの話が出て、どうやって皮を調達するのだろうと言ったら、息子は養殖しているのじゃないかと言ったが、さてどんなものか。そんな話は聞いたことがない。私が子どもの頃には「犬捕り」、「猫捕り」というのがあった。長い棒の先にわっか(輪)が付いていて、それを犬や猫の首に引っ掛けて捕獲するのだが、犬と違って上にも跳び上がって逃げる猫を上手く捕らえるにはかなりの技が必要だっただろう。捕まえたら袋に入れて持ち運ぶのだが、そのような姿を見たことはある。捕まえた猫の皮を三味線にするのだと聞いていたのでそんなものかと思っていたが、犬は何に使うのかは知らなかった。
犬捕り、猫捕りのイメージがあったためか、昔は「子トリ」という話があって、夜遅くまで遊んでいると「子トリに攫われるよ」と大人から脅かされたものだ。近所の小さい女の子が、怖そうな顔と声で子トリを見たと言ったのを思い出す。そんなことあるもんかと嗤ったら、本当だよ、攫った子どもを袋に入れて歩いていた、袋の中で子どもが動いていたと真剣に言った暗い顔を今でも思い出す。おそらくは犬捕りか猫捕りの姿を見て怯えたのだろう。もう70年以上も昔の夕暮れのことだ。
犬捕りも猫捕りも遠い昔のことになってしまって、今では保健所が野良犬と思しきものを捕獲しているが、やはり昔のような道具で捕らえているのだろうか。猫はどうなのかは知らない。
三味線を弾く女(喜多川歌麿):Wikipediaより