うまさいと

お馬さんは好きですか?

長距離競走の復権はなるのか。

2005-03-09 00:55:32 | 競馬
壮大なタイトルで始めてしまったが、何のことはない、単に2/22付けのThoroughbred Timesの記事をJAIRが訳していたものを見ただけに過ぎない。

Thoroughbred Times
JAIR

概要としては、大手ブックメーカー(本当かどうかは知らない)であるLadbrokes社がSt. Leger S.(GB G1 T14f132y:英セントレジャー,日本でいう菊花賞)のスポンサーになるということ。それについて、現在Doncaster競馬場の運営に携わっているArena Leisure社の社長が「いいねぇ」ってコメントをしたということか。昨年もBetfairがスポンサーについていたわけだし、まぁ何も問題は無いとは思うのだが。

私は競馬史については全くダメなんだけれど、確かSt. Legerの方がDerby S.(GB G1 T12f10y:英ダービー)よりも歴史は長かったと思う。St. Legerのここ最近の3年程は優勝賞金が240,000£で一定しているが、同じ英国クラシックというカテゴリで比較すると、ここ最近は優勝賞金が約180,000£付近で推移している2000 Guineas S.(GB G1 T8f:英2000ギニー,日本でいう皐月賞)よりも高賞金であることがわかる。

確かに、優勝賞金が800,000£を超えるDerby S.と比較すると少ない気はするが、もう一つの3歳限定のG1であるSt. James's Palace S.(GB G1 T8f:セントジェムズパレスS,日本でいうNHKマイルC)の14~160,000£と比べると全く見劣りはしないし、140,000£付近で推移している長距離随一の権威を持つGold C.(GB G1 T20f:アスコットゴールドC,昨年はイングランディーレが出走)と比べても高賞金である。

さらに、蛇足気味ながら主要10f路線辺りとの比較を付け加えると、Champion S.(GB G1 T10f:英チャンピオンS)よりも少しだけ高く、International S.(GB G1 T10f88f:英インターナショナルS)よりも少しだけ低いといった程度である。所謂中長距離のG1と比べても全く劣るどころか、むしろ賞金だけで考えれば高いことがわかる。

ちなみに、King George VI & Queen Elizabeth Diamond S.(GB G1 T12f:Kジョージ)の優勝賞金は435,000£だが、このレースとDerby S.の賞金だけは、群を抜いて高く、別格であることも言っておく。


では、なぜこの賞金に引かれることなく、他のレースに流れてしまうのか。

この流れはNashwan辺りからなのだろう(多分)。Nashwanから後はクラシック二冠を達成したにも関わらず、三冠、つまりSt. Legerに出走せずPrix de l'Arc de Triomphe(FR G1 T2400m:凱旋門賞)を狙うという流れに収束したのだろうと。

これはNijinskyがSt. Legerに急仕上げで出走した後にSasafrasに負けてしまったということが影響しているのか。
それとも、莫大なオイルマネーを持ち合わせた方々は、英国三冠よりも、欧州三冠を目指す方を選んだか。

多分後者なんだろうと。あくまで推測だが、英国圏で育ったわけでなければ、既存の英国三冠に興味を示さないだろうとは思う。でも、私はHamdan殿下がどこで育ったのかわからないけど。多分UAEなんだと思ってるけど。

そもそも、Nashwanの場合は、英国三冠よりも欧州三冠(当時はこういった考え方は存在していなかったとは思うが)の方がより価値が高いと考えて、こちらを選択したのだろうと考えられる。St. Legerの後にPrix de l'Arc de Triompheを狙おうとすれば、中2週のローテーションになってしまうことから(日本ではきついだろうが、海外ではそうでもない気がする)、絶対に勝たなければならないレースが中2週で組まれているという事実は陣営にとってもお馬さん自身にとっても、精神的にも肉体的にもいいことであるとは言えまい。そこでより重要度の低い英国三冠を切ったと。



では、今度は「三冠」ではなくSt. Leger S.単体としての価値について見てみる。

この距離に難色を示す陣営は多い。例えば長距離を走ればそれだけ疲れが残るとか、そういった考えを持っている方も少なくないのではないか。答えはわからない。お馬さんに聞いて。

ではレース自体に人気が無いということなのか。ある意味そうとも言えるのかもしれなが、そうではないのかもしれない。特に長距離レースの人気が無いとかそういったことも無いだろう。但し、さほど人気が無いレースに勝ったお馬さんの人気が著しく跳ね上がるということはなかろう。そして、その種牡馬としての人気もさほど上がるものでもないだろう。

真面目な話をすると、種牡馬事業を基盤にした、例えばCoolmoreなどは「将来の種牡馬としての価値」を考える必要性があるために、より現実的なレース選択を迫られることが挙げられる。つまり、より「合理化された」レース選択を迫られていると言えるだろう。約3000mの長距離を走ることができるスタミナをアピールするよりも、ダートも走れた方が種牡馬としての価値が上がるなど、言ってみれば「夢のある(私にとって)」レース選択ができない可能性が出てくることは否定できないはずである。

他の事業で財を成したオーナーはそういったことを考えなくてもいい(完全にというわけではないだろうが)わけで、趣味の範囲として走らせることができる、と私は考えている。だから私は、ビジネスとして競走馬をもつよりも、道楽として競走馬を走らせる方が好きだと言ってしまおう。といっても、多分うまくやればビジネスにしたら儲かるわけだが。

よっぽどお金の余ってそうなHamdan殿下が現実路線を選んでしまったというのはおいといて、次はこの長距離路線を盛り上げる方法が無いのか?と素人ながら思案してみる。



最近はシャトルスタリオンがこの種牡馬産業における重要な一角を担うようになってきているが、主にシャトルする先は南米ではなく豪州である。オーストラリアは日本と同じく3層構造(日本は中央・地方の2層だけど)を持ち、大レースは芝のみになっているはず(多分)。そして、国民に人気の高いレースといえばMelbourne C.(AUS G1 T3200m)であり、その地位も権威も英国におけるGold C. , St. Leger S.の様に失墜してはいない。さながら日本の天皇賞・春のように。このレースはハンデ戦なのだが、それが一層面白さを出しているとも言えるのだろう。ただ、アメリカでは徐々に大レースからハンデ戦を減らす動きがあるので、豪州がどういった対応(多分何も変わらないとは思うが)をするのかには興味がある。

さてと、豪州と日本は似ているのではないかということを匂わせたわけだが、敢えてここでその相違点を比較してみる。

日本は古馬王道路線として2000~3200m辺りが真のチャンピオンディスタンスと考えられている風潮がある。ここで重要なのは、2000~2500mまでの4つのレースと、3200mの天皇賞・春がポツンと離れている感じがするわけだが、その前哨戦と言える3000mの阪神大賞典の価値が全く衰えていないことが鍵になっている。つまり、その王道路線の流れとして3000mのレースが存在するわけで、決して天皇賞・春自体が「ステイヤー路線の頂点」とかそういった扱いを受けているわけではないということである。

一方豪州は、Melbourne C.のみが長距離では抜けていて、あとは2000~2400mが主になっている。この辺り、日本とは違い、Melbourne C.へと駒を進める場合、一流馬ではCox Plate(AUS G1 T2040m)やCaufield C.(AUS G1 T2400m)をステップにする例が多く見受けられる。私個人の印象では、確かに一流のメンバーが揃うけれども、Melbourne C.のみが孤立しているといった印象を受ける。

最近は日本もシンボリクリスエス、ゼンノロブロイ、タップダンスシチーなどの天皇賞・春の相次ぐ回避などもあり、長距離路線も少々地盤沈下気味かと思わせるところもあるが、昨年の豪州を見ていても、Melbourne C.にElvstroemは出走したけど、Grand Armeeは出走しなかったというのと同じようなものだろうし、天皇賞・春路線へのマスコミのボルテージの上がり方を見れば、少なくとも他国と比べてまだ安泰であると言えるだろう。


ふと気付いたわけだが、豪州や英国の様に、一年中3000m以上の距離を走り続けられる様な番組が組まれているかといえば、日本はNoである。

ダイヤモンドS 3400m
阪神大賞典 3000m
天皇賞・春 3200m
ステイヤーズS 3600m

という4つしかない3000m超の重賞を見てもわかる通り、日本にはまだ「長距離路線」といった概念が存在していない。豪州にそういった概念が存在するのかどうかは不明だが、豪州はニュージーランドと合わせて、8つの3000m超のG1が組まれている位だし(しかもその全てがハンデ戦)、英国にはそれこそ3000m級の長距離重賞がうなっている。この概念が存在しないことが、日本では未だ衰退傾向が無いことを示しているのだろう。

さて、英国や豪州との比較をしてみたわけだが、意外と参考になりそうでならない。

但し、一つわかったことがある。世界的に衰退しているといわれるこの長距離路線の真の復興を願うには、長距離路線の整備は逆効果であるということだ。つまり、天皇賞・春なり阪神大賞典なりの権威を何とか維持しつつ、なおかつ中距離路線で覇を争うお馬さん達をそのフィールドにもってくることが、衰退防止への第一歩と言えるのではないか。今のところは、図らずも「JRAが何もしない」ことが良い結果につながっていると言えるだろう。

JRAの色々な改革(ジャンプレース拡充とか牝馬路線拡充とかダート路線拡充とか)の動きが、長距離路線の拡充という方向に向かないことを願うのみである。

結局今回は「日本の長距離路線を衰退させないためにはどうしたらいいか」という結論に落ち着いてしまったわけだが、次回はきちんと「世界の長距離路線の復興」について考えていきたいと思う。

とりあえず、Makybe Divaが来てくれたら狂喜乱舞する方向でひとつよろしく。

まだやるのかよ、という突っ込みは無しの方向で。