うまさいと

お馬さんは好きですか?

World Racing Championshipsについて。

2006-02-25 01:53:08 | 競馬
World Racing Championshipsの開催中止と今後のあり方について-Part1-

World Racing Championships series canceled for 2006(Thoroughbred Times)

さて、本題のような大それたタイトルをつけてしまい、いささかやり過ぎた感も否めないのですが、暇をみつけてのんびりまったり書いていくという方向でいこうかと思います。今回はおさらいというか初級編というか、まずはWorld Racing Championships(旧World Series Racing Championship)「どういったものなのか」「なぜ開催中止という事態になったのか」を駆け足で見ていくことにしたいと思います。

ということで、上記の通り今年のWorld Racing Championships(WRC)は中止されるそうです。これはIFHA(国際競馬統括機関連盟)と連携して来年の対策を練ろうということでの中止のようなので、07年には新しいWRCがお目見えするということでしょうか。もとはと言えばEmirates Airlinesを擁するMohammed殿下(といってもシェイクが持ってるわけではないような気もしますが)周辺が中心となって頑張っていたものの、03年にDubai World C.(UAE-G1 D2000m)がシリーズから外れてしまい、ダートはBreeders' Cup Classic(USA-G1 D10f)しかないという状況が続いていました。そして04年はたった2レースで1,3着したEpalo(同点でやはり1,3着のSulamani)が、05年に至っては香港のみでしか走っていないVengeance of Rainが王者に輝くという、当初の「芝・ダートのどちらも走れ、かつ世界を股にかける名馬の誕生を」という趣旨からはかけ離れてしまったいわば「悪循環」に陥っていました。従って、この「構想の練り直し」というのはいわば当然のことであり、この開催休止は決して否定的なものではないと考えています。

このシリーズが始まったのは99年のことでした。当初はWorld Series Racing Championship(WSRC)という名前で、Emirates Airlinesというスポンサーがバックについたことでこの計画が実現しました。しかし、今にして思えば99年の第一回の時点で「King George ~ Dubai World C.」という年を跨いだ計画だったはずがいきなり変更になり、その後の「Dubai World C. ~ Hong Kong C.」という年内スケジュールという形に落ち着いたところがケチが付き始めたと言えなくもないのですが。また賞金面に関しても、優勝馬にはUSA$1,000,000という単体のレースよりも下回る金額(総賞金USA$1,000,000以上というのがシリーズ加入の最低条件の一つ)が提示されたということで、これが優勝賞金USA$5,000,000ならばもう少し違ってきた可能性も大いに考えられるのですが、結果的にはシリーズへの積極的な参加を促すことにはならなかったとも言えます。

ポイントシステムは1着12P, 2着6P, 3着4P, 4着3P, 5着2P, 6着1PというF1と同じような方式での世界各地のレースを回る方式で、中には同時期のG1もありますが、それなりに大きなレースを揃えていることなども幸いして、関係者には現実性(シリーズ王者を狙ったローテーションを年初から組む)という面ではかなり厳しいかもしれませんが、結果的にアジアのG1に矛先を向けさせる、それ以前のステップとして関係者の目を向けさせる一助となったのではないかと考えていますので、そういった面でシリーズ創設の意義というのは「一個人の夢の実現」よりも大きかったのではないかと思います。

ちなみにシリーズ創立当初の99年は

Dubai World C.(UAE-G1 D2000m)
King George IV & Queen Elizabeth Diamond S.(GB-G1 T12f)
Irish Champion S.(IRE-G1 T10f)
Canadian International S.(CAN-G1 T2400m)
Cox Plate(AUS-G1 T2040m)
Breeders' Cup Turf(USA-G1 T12f)
Breeders' Cup Classic(USA-G1 D10f)
Japan C,(JPN-G1 T2400m)
Hong Kong C.(HK-G1 T2000m)

という全9レースで行われました。これを見てわかる通り概ね要所は押さえているのですが、よく見るとPrix de l'Arc de Triomphe(FR-G1 T2400m:凱旋門賞)がありません。これはまず種牡馬選定レースという見地から「セン馬出走不可」ということ、そしてホテルチェーンであるLucien Barriereの単独スポンサーという辺りがまずかったようです。現在も単独スポンサーだと思うのですが、その辺りは解消したのでしょうか。ちょうど「ダートでも芝でも走れる」といった能力が好まれるようになった時期と合致して、Dubai World C.とBreeders' Cup Classicを選んでいるのは素晴らしい判断だったと思います。あとは、南半球のCox Plateを組み込んでいるというのが、南北交流(ひいては種牡馬の交流、つまりシャトルという点を見越してのことだったのだろうけど)を考える上では、非常に重要な判断だったと考えます。

00年になると2年のブランクを空けて復活したArlington Million(USA-G1 T10f)を組み入れ、北米における芝の二大競走をこのシリーズに引き入れることができました。ドイツからはGrosser Preis von Baden(GER-G1 T2400m:バーデン大賞)が参入し、ドイツ馬の積極的に参加を促すと共にそのレース自体の地位を押し上げる好結果ともなりました。

01年はついにPrix de l'Arc de Triompheが参入し、ワールドシリーズと冠されるシリーズのあるべき姿(といっても北半球に偏っていますが)が完成されたと言っても過言ではないでしょう。

02年にEmirates Airlineがスポンサーを降りるという出来事がありました。このこと自体は大きなことではない気もしますが、主導権(金銭面でも)を握っていたスポンサーが降りてしまうということが、宣伝目的の興行としてはあまり実益を成していなかったというのが一番でしょうか。また、この年にはQueen Elizabeth II C.(HK-G1 T2000m:クイーンエリザベスII世C), Singapore Airlines International C.(SIN-G1 T2000m:シンガポール航空国際C)とアジア圏から2つのG1がシリーズに参加しています。

03年はイラク戦争により、米国勢の遠征どころかDubai World C.の開催自体が危ぶまれる自体でしたが、通常通り開催。しかしなぜかシリーズからは脱退してしまうという事態となりました。続く第二戦のSingapore Airlines International C.もSARSの影響によりこちらは開催自体が中止に追い込まれました。一方で明るいニュースもあり、夏にRolls Royce社がスポンサーにつくという話題が世間をにぎわせましたが、これも単年契約だったために、実質半年だけのスポンサーということになってしまいました。

04年は1レースしか優勝していない2頭Epalo(Singapore Airlines International C.), Sulamani(Canadian International S.)が共に1着1回、3着1回の16ポイントで並ぶ(賞金差でEpaloの優勝が決定)という低迷振りを見せ、これも話題になりました。World Thoroughbred Racehorse Rankingsでもかなり低い位置につけていたEpaloが王座に就いたことについては、00年のFantastic Lightにも微妙にあてはまる(そのカテゴリではかなり高位にはいるけれど)可能性があるので、ここでは触れないことにしたいと思います。

そして05年の結果がさらに追い討ちをかけることになりました。優勝したVengeance of Rainの成績自体(9戦7勝G1を2勝)にはケチのつけようがないのですが、その9戦全てが香港でのものだったということが「ワールドシリーズ」である意義を否定してしまうものだったからです。昨年スタートしたGloba Sprint Challengeでも「二地域以上のレースに出場して」というのが王者になるための条件にありますが、World Racing Championshipsは純粋なポイント制だったためにこういった事態が起きてしまったのです。この出来事は現行のシステムの限界を浮き彫りにしてしまった形となりました。

また、Thoroughbred Timesにも書いてあるように、今回の開催休止の決定的な打撃となったのが12/21のMichael Osborne氏の死去です。Osborne氏は創設10年足らずの間に一流国際レースの仲間入りを果たしたDubai World C.の仕掛け人とも言える創設委員会の創設時の会長であり、元は愛国立スタッドの獣医であり、役員を務めていた愛競馬協会をはじめとして世界各国の競馬に関わってきた重要人物であり、そして何より2005年にWorld Racing Championship社の会長に満場一致で選出された程の人物だったからです。記事によるとOsboern氏は、シリーズ初期のレースを含めて、レース数やポイントシステムなどの体系を大幅に刷新するという、この現状を打開するために相当な打開策を練っていたようです。

このように複合的な理由から、今年は開催中止せざるを得なくなったというのが実情なのではないでしょうか。次は一体どういった打開策を出してくるかなどを踏まえながら、World Racing Championshipsの存在意義(大袈裟だな)と今後について考えてみたいと思います。

補足(新名称「World Racing Championships」は05年から)