うまさいと

お馬さんは好きですか?

安田記念について思うこと。

2006-06-07 03:24:50 | 競馬
デューク進路妨害の末15着~安田記念(スポニチ)
ザデューク迷惑走行で被害続出/安田記念(ニッカンスポーツ)

日本のマスコミの記事を引用したのはこのブログでははじめてかもしれないですね。ちょいと気になる記事について書いてみたいと思います。先日の安田記念にBullish Luck, Joyful Winner, The Dukeと香港馬が三頭参戦したこともあり、非常に見応えのあるレースとなった・・・はずでしたが、少々The Dukeのお行儀が悪かったということだそうです。ニッカンスポーツの記事によると

まず向正面3コーナー手前で外へ斜行。インセンティブガイに3度ぶつかった。
横山典騎手(インセンティブガイ)「こける寸前だった。6着に来ているのだから、もったいなかった」
外にはじかれたインセンティブガイは、オレハマッテルゼと接触。1番人気馬は折り合いを欠き、直線伸びず10着に終わった。
柴田善騎手(オレハマッテルゼ)「流れが落ち着いたところでぶつけられて、一気に行ってしまった」
ザデュークとインセンティブガイの直後にいたカンパニーは、バランスを崩してつまずいた。審議ランプが点灯。3コーナーでも、ザデュークの乱行は続く。外から抜こうとしたカンパニーに2度ぶつかった。
内田博騎手(カンパニー)「危ないと思って気をつけていたが、急に3頭分外に来られた。そこで掛かってしまった。あれは確信犯。こんなことなら前に行けば良かった」


ということだそうです。どうやらThe Dukeのお行儀は関係者が一斉に非難する程相当悪かったようです。他にも結果的に「他の香港馬を助ける形となった」などと幾つかのところで読みましたが。それはさすがに憶測の域を出ないことではあるのでしょうけれど。

ここで、非常に興味深いエントリを見てみることにします。
ドウェイン・ダン、やらかしたみたいですが(Four-beat gait)@Perlinさん
このエントリを読ませていただきますと、どんなマスコミよりも非常にドウェイン・ダン騎手について詳しい考察をされています。というか、こういった記事を出すのが競馬マスコミであって欲しいと切に願う次第なのですが・・・っと、話が逸れました。要するに「多少荒っぽいことをしても勝つためには手段を選ばない騎手であり、それを期待して乗せている部分もあるのではないか」といったところではないでしょうか。

さて、私なりにパトロールビデオを観てみたのですが、普段観ないのでぶっちゃけどこが審議スレスレでどこかからが審議なのかがさっぱりわかりません。素人目で観た率直な感想を書いてみます。

一つ目。スタートして20数秒後、The Dukeはまず最初に内にいるシンボリグランと接触しているように観えます。これは、その直後に柴山騎手が振り返っている[28秒]アクションによっても、何らかの接触、もしくは接触に非常に近い出来事であったことが推測されます。その後、白い帽子のダイワメジャーが内から少し寄れて、それに連れて(押されて?)寄れたシンボリグランがThe Dukeに接近し、それに呼応するようにThe Dukeがカンパニーの方に寄れている[33秒]ように観えます。この二度目のシンボリグランとの接近がはっきりと接触を伴ったようには観えませんが、これはThe Dukeだけの非になるのでしょうか。この向正面での外斜行の過怠金は5万円となっています。わざと、にはどうにも見えませんし、もしわざとであればこれはもっときつい処分が下りていたことでしょう。

二つ目。続いてインセンティブガイ(横山典騎手)に何回も体当たりしている件[37-40秒辺り]についてなのですが、これは完全にThe Dukeに非があると言えるのではないでしょうか。お馬さんの首自体が外を向いているので、言い逃れはできないでしょう。

・・・が、ここで少し視点を変えて、面白い事実を述べておきましょう。このThe Dukeは香港馬なのですが、実は香港の競馬場(Sha Tin, Happy Valley)というのは両方共右回りの競馬場であり、直線のレースは行われるものの、左回りの競馬というのは全くありません。そしてThe DukeにはマカオのTaipa競馬場への遠征暦がありますが、この競馬場もやはり右回りです。つまり、The Dukeは「左回りを一度も経験したことがない」のです。但し、東京競馬場で行った調教での左回りはあるでしょう。それはJoyful Winnerにも同様に言えることです。しかし、だからといって「外斜行を許す」のとは全く別問題であり、ここへの過怠金3万円という処罰に対しては何ら問題があるとは思えません。

ただ、今私が書いた「Bullish Luck以外の二頭は左周りの経験が無い」ということを関係者の方ならば知っていて当然です。私のような競馬社会に全く関係無い素人が知っているレベルのことです。ここからは少しこじつけになりますが、ならば「なぜ「そうなる可能性(コーナーで器用に曲がれない)を頭に入れておかなかった」のでしょうか。「これは些細な問題であり、そんなこと関係無いではないか」とお考えになる方も多いと思いますが、こういった些細なことが勝負の明暗を分けることだって当然過去にあったから言っているのです。そして、そのせいで「勝ちを失った」と言われた例が実際にあったのです。「全然国際レースじゃない」とコメントしたインセンティブガイの横山典騎手自身も跨ったことのある馬が、こともあろうに「国際レース」において似たような「コーナーでの予期不可能ではない不利」が降りかかったことがあったのです。そう、このレースの出走馬の中にいる一頭の身に。

3年前の12月に行われたHong Kong Mile(HK-G1 T8f)において、Ninetyfive Emperorというシンガポールのお馬さんが出走していました。その当時、シンガポール新記録となる10連勝を樹立し、Hong Kong Mileの後にもRaffles International C.(SIN-Gd1 T1800m), Lion City C.(SIN-Gd1 T1200m)なども勝っている立派なお馬さんです。このNinetyfive Emperorはシンガポール唯一のKranji競馬場(左回り)でしか走っていませんので「右回り」の経験は勿論ありませんでした。香港に来てからの調教でも右回りがぎこちなかったりと「レースでは果たして大丈夫なのだろうか」との噂が流れていたそうです。そして本番、華麗に逃げるNinetyfive Emperorの外につけた1番人気のローエングリン(鞍上はK Desormeaux)は、懸念された通りにコーナーで大きく外に膨らんだNinetyfive Emperorのあおりを受け、致命的な距離ロスを被ってしまいました。勝ち馬との1-3/4馬身差は「あの距離ロスさえなかったら・・・」と悔やまれるものでした。

重箱の隅をつつき返すような事例かもしれませんが、新馬戦などでもコーナーを曲がりきれずに突っ走っていくお馬さんもたまにいますす。今回のThe Dukeの3角での外斜行が許されるかと言えば当然許されることではありません。しかし、その上であえて「なぜ」という苦言を呈するのです。

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私が一番気になったのは横山典騎手の「全然国際レースじゃない」という発言についてです。一般的な解釈としては「こんな不利ばかりのレースをやるための国際レースではない」や、私の意見に対する答えとして拡大解釈するならば「例えばコーナーも満足に曲がれないような騎手や馬が出てくるんじゃない」といったところでしょう。そのような苦言は実際に乗る騎手の方からの意見が正しいであろう思いますし、私自身何ら間違っているとは思いません。しかし、世界は広い。今回も「香港馬の中で犠牲になって、残り二頭を援護した」なんて噂も囁かれているようですが、それはそれで大いに結構なのではないか、とも思えるのです。

01年のIrish Champion S.(IRE-G1 T10f)において、その当時の欧州芝の二強と言われていたGalileoとFantastic LightのKing George IV & Queen Elizabeth S.(GB-G1 T12f)に続く二度目の直接対決がありました。互いのペースメーカー同士がそれはもう反則スレスレで、相手の陣営の本命の進路を狭めてみようとしたり、わざとムチを顔の前で大きく振るってみたりと「総力戦」とも言える闘いでした。

99年のPrix de l'Arc de Triomphe(FR-G1 T2400m:凱旋門賞)を覚えておられるでしょうか。あのレースの枠順は完全に非公開で決められるのですが、1枠には図ったようにエルコンドルパサーが、そして内の枠にはこれも図ったように各陣営のペースメーカーが集められていました。これでは先行脚質であるエルコンドルパサーが閉じ込められてしまう、と考えた方も多いはずです。そう、図ったように。

「日本と外国とは違う」。その通りです。日本ではペースメーカーなどを良しとはしないことも皆さん知っておられると思います。しかし、国際レースにおいては、そういったことは、例えばディープインパクトが挑む海外では普通に起こり得ることなのです。勿論、明らかな反則というのはだめですが、それに近いことならば幾らでも存在するのです。日本の競馬は世界的に見ても非常に「綺麗」だと言われています。だからこそ、高額賞金であり、綺麗な競馬を目指して各国から短期免許を得た腕利きの騎手が続々と押し寄せてもくるのでしょう。それは勿論良い事ですし、そうやって日本が「綺麗な競馬をする国だ」と認められることは、日本人として非常に誇りを感じます。もしその競馬を頑なに守りたいのならば、むしろその行為自体に断固とした「騎乗停止処分」を言い渡せないJRA側に非があるのではないかとさえ考えてしまう始末です。私は「香港馬共謀説」についてはあったかなかったかという事実は一切知りません。現実的に考えれば、オーナーも違いますし、まず無かったと言っていいでしょう。ただ、もしそれがあったとしたら、それがこの「綺麗な競馬をする」日本の地で起きてしまったということも、また同時に事実として認めるべきではないでしょうか。

最後に言っておきますが、今回の3角での外斜行について、私は明らかに「反則」だと考えていることを再記しておきたいと思います。