世の中、面白いことを研究している人がいます。
人に強制したり、命令したりするのではなく、その人が自発的に興味をもってするように
仕向ける仕組み、すなわち「仕掛」を研究しているんです。
“シカケ”といえば、マジックや魚釣りなどが浮かんできますが、これらのシカケとは
違って、ここでは、『人の行動を変化させる“きっかけ”になるものを「仕掛」と呼び、つ
まり、行動の選択肢を増やす』ということなんです。社会環境面やビジネス面等に活用でき
ないか? の展望が秘められているようです。
昨年、6月に関西で講演された講演録が、新年に届いた会報に記載されていましたので、
この講演録のほか、ネット記事も参考にして、そのサワリをご紹介します。
『仕掛学~「ついしたくなる」にはシカケがある~』と題する講演録は、松村真宏氏(大
阪大学大学院教授、工学博士)が創始した『仕掛学』について、わかりやすく解説されて
います。事例も身近な内容でいちいち“なるほど!”と思わせるものばかりです。
松村氏はもともと理系の方で、AI研究で博士号を取得されていますが、AI分野は、その
元となるデータが必須で、データのないところでは使えない、データは人間の行動のほんの
一部でしかない・・との思いから、もっと広い分野に目を向けて「人間の行動・判断と心理
的な面」に着目して、仕掛の研究をはじめられ、現在は大学で、経済学部、経営学の教授
として活躍されているのです。
氏が、「仕掛」に気づいたきっかけは、大阪の天王寺動物園にあったのだそうです。
動物園のゾウのエリアに、下図のような地上から1mの高さのところに設置されている筒
なんだそうです。
ゾウのエリアに設置された筒
(ネット画像より)
多くの人がその筒を覗きます。覗いた先にはゾウの糞(精巧な模型)が見えるのです。
説明板が設置されていてもほとんど読まれないけれども、この筒によって、人は好奇心から
覗いてみたくなり、ゾウの糞を発見すると、人は園内のあちこちに埋め込まれた仕掛に気が
付くのです。
非常に単純ながら、人々の意識が変わり、行動が変わり発見をもたらす・・大変面白い
現象と捉えられています。そしてそこには、データは全くない・・ことも強調されていました。
前置き的な部分が長くなりましたが、現在ではこの仕掛けを企業等と協力して様々な社会
実験に取り組まれています。そのいくつかを以下にピックアップしてみました。
大学キャンパス内のごみ箱を図のように、バスケットゴールの仕掛ありと何も施さない
(仕掛なし)を並べて5週間実験をしたところ、仕掛ありになんと、1.6倍のごみが入って
いました。些細なきっかっけで意識が変わるようです。
ゴミ箱
(ネット画像より)
また、パン屋さんでの試食率を増やす実験では、単に試食コーナーを設けても、試食した
らパンを買わないといけない?などの負担を与えることから多くの人は協力しませんが、
2種類の味のパン片を並べて、気に入った方のパンに爪楊枝を指す・・という投票形式の
仕掛けをすると、試食率は仕掛なしの11%(468人中52人)から、仕掛ありは20%(520人中
104人)に倍増したそうです。
展示会場内のブースで、アンケート回答者を増やすため、下図のようなアンケート回収
機の仕掛けを設置したところ、何と、回収率が20倍も増加した結果となったそうです。
その仕掛けとは、この回収機は、アンケート用紙を入れると、自動的に折りたたんで、
紙飛行機が飛び出す仕組みになっていたのです。
アンケート回収機
(ネット画像より)
仕掛けを施すことで問題が解決し、さらに自分も楽しんで行動する・・一石二鳥が実現
できるといっています。
仕掛けとは、冒頭に述べました通り、行動変容を強要せずに、行動の選択肢を増やすと
いうことですが、仕掛の要件として次の3つが提示されています。
FADと略されていますが、
①公平性(Fairness)誰も欺くことはしない、②誘因性(Attractiveness)ついしたく
なる、③目的の二重性(Duality of purpose)問題を解決しようとする仕掛ける側の目的
と、行動したくなる仕掛けられる側の目的の二重性 の3つです。
そしてまた、仕掛の限界についても触れられていました。つまり、仕掛は行動の選択肢
を増やすということなので、仕掛に興味のない人の行動を変えることは困難であるため、
もともと全員の行動を変えるということを対象とはしていないが、規制・強制でなく社会
問題を緩和、解決できたり、ビジネス領域のマーケティングなどに活用できる可能性は十分
にあると考えられているのです。
講演録、ネット記事から抜き読みでしたが、結構面白いアイデアだと思いました。
仕掛られた仕組みを見ると“なるほど!”と思いますが、仕掛を作るのが難しいのでは?
と思いました。
出版物があるようですので、取り寄せて読んでみようと思います。
書籍 仕掛学(東洋経済新聞社 2016.10.5 ¥1,500)
(ネット画像より)
仕掛とは関係がありませんが~
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます