【Fuku】
レコード(今はCDですが)を製作するには、アーチストの演奏や歌声を最良のコンディションで録音し、その音源を編集(ミキシング)し、盤に記録する最終的な音源へと作り上げる録音技術者(エンジニア)が絶対に必要です。
近年はデジタル技術の進歩により、ある程度は機械によって行えるようになりましたが、日本のロックやフォークが産声をあげた1960年代の後半あたりでは、そうした技術はほとんど職人芸の世界であり、またハード的にもソフト的にも日本は遅れをとっていて、60年代後半のビートルズのアルバムに記録されたような音を日本で作り上げることは不可能と言われてました。
そんな時代に、世界のレベルに追いつくべく、会社の枠にとどまらずに非常に真摯にかつ情熱的に技術の向上をはかるべく試行錯誤しながらレコーディング技術、ミキシング、アレンジと、いい音を作り上げるために人生をかけた方がいます。
吉野金次氏は、日本のフリーランス・レコーディング・エンジニアの草分けです。エンジニア、プロデューサー、アレンジャーとして多くのミュージシャンの音源制作に関わり、名盤の誕生に立ち会ってきました。
はっぴいえんど『風街ろまん』、細野晴臣『HOSONO HOUSE』などの実験的な日本のロック/フォーク創世記の音作りからはじまり、歌謡曲、クラシックとジャンルを超え、いずれもその音楽史上に残る作品にかかわり続けていて、常に新たな技術に取り組みながらも、技術のみにかたよることのない音楽的な姿勢は多くの作り手(音楽のプロ)に支持され続けている方です。また、『朝比奈隆指揮ブルックナー交響曲全集』の録音、プロデュースも行なっていて、わが国のレコーディング技術の向上は彼無くしてはなし得なかったと言われています。
ところが、その吉野金次氏が昨春、脳出血に倒れました。一命は取り止めたものの快復にはまだ時間がかかります。そこで、彼の存在は日本の音楽界にとって宝物のように大切なもの、と考える矢野顕子氏が発起人となり、細野晴臣氏をさそって収益を治療費に充ててもらうためのコンサートを緊急開催しました。
昨年の8月28日(月)に北沢タウンホールという通常は区民の集いなどで使用されるキャパ300の小さな会場に、まさに日本屈指の大物ミュージシャンの方々が全てチャリティー無報酬で集まりました。早く吉野氏に現場復帰してもらって、再び矢野顕子氏の傑作『Super Folk Song』や『HOSONO HOUSE』のような名盤に携わってもらいたい、という想いを、「音楽」でお金に換えて届けたいという、そんな気持のコンサートの模様をストレートに伝えるのが、今回の「音楽のちから 吉野金次の復帰を願う緊急コンサート」です。
矢野氏の働きかけにすぐに応じた細野氏、吉野氏の仕事に30数年前からお世話になっている方々から、つい最近のレコーディングでお世話になった若い方(ゆず)まで、矢野氏の思いにすぐに賛同した方から、つい数日前に知って、以前からの約束を反故にして急遽駆けつけた超大物(井上陽水氏)まで集った本当に贅沢なコンサート、当日参加できた300名ちょっとの方々は本当にラッキーでした。
私は、そのお話を聞いて、ぜひともチケットをと思ったのですが、丁度夏休みで海外に行っている時に重なって、行くことができなかったので、今回のその素晴らしい"ちから"によって実現できた夢の一夜の模様を納めたDVDが出ると聞いて、予約して買い求めました。もちろん、このDVDの収益もまた吉野氏の治療費などに充てられます。
ただ、吉野氏のことをよく知らない人から見ると、なんで有名ミュージシャンでもない方のために、ここまで超大物の方々が無報酬で集まって、その治療費に充てるためにコンサートを開くのか、よく理解できないかと思います。フリーのエンジニアというのは、御指名がかりで仕事していくらの世界ですから、仕事が出来なくなってしまったら、それでおしまいなんです。少しでも彼の手助け(生活面)が出来ればという思いはここから出ているんですが、それだけでなく、今回集まった方々はお金には変えられない素晴らしい技術で自分の作品を世に出してもらったという恩義があります。70年代の吉野氏の仕事には、採算度返しでただただ"いい音"を作りたい、録音技術を向上させたいという思いが詰まっていて、その時の恩恵に報いるべく、今回多くの大物の方々が立ち上がったのだ、という理解が正しいと思います。
円熟味という表現はあたらない、ますます魅力的なアッコちゃんの弾き語りの「中央線」、お馴染みの"東京シャイネス"に"Harry Hosono Quintet"の面々を加えたスーパーバンドを従えての細野晴臣氏のブギ大会、特にDr.Kこと徳ちゃんの久々に聴くバリバリのナッシュビルスタイルのギターがうれしかった。完全に場違いな雰囲気の中で若者らしくふるまったゆずの二人、30数年経っても全く変わらず「一本道」を歩く友部正人氏の健在ぶり、アッコちゃんとの名コンビぶり(ちょっとやそっとじゃあ慌てないところはまさに熟練の技か)でいつも新鮮なター坊こと大貫妙子氏のおちついた歌声、吉野氏への思いを熱く語った後に生ギター一本で歌った「SOMEDAY」が本当にカッコよかった急遽出演の佐野元春氏、久々にベースを取り出し、矢野顕子氏とのデュオで「相合傘」を聴かせてくれた細野氏の余裕、見所満載のDVDですが、演出面とか映像表現で凝ったところは一つもなく、本当にあの夜集まった方々の素のステージのみを収録した超貴重盤です。
ジャンルを問わず優れた音楽を愛する気持ちが人一倍強く、それをより多くの人に届けようとあらゆる努力をしてレコーディング/ミックスを行ってきた吉野さん。今度は必ずや"復帰記念コンサート"で自ら"卓"を仕切ってもらいたい。私自身そのサウンドのファンの一人として、一刻も早い復帰を願います。
#私のレコード棚からサクっと取り出しただけで、画像にあるとおり、数多くの吉野さん作品が並びます。
音楽のちから ~吉野金次の復帰を願う緊急コンサート(DVD)
1. 矢野顕子/夏なんです
2. 矢野顕子/中央線
3. 矢野顕子/右手
4. 矢野顕子/PRAYER
5. 細野晴臣&*東京シャイネス・オールスターズ/モーガン・ブギ
6. 細野晴臣&東京シャイネス・オールスターズ/Pom Pom蒸気
7. 細野晴臣&東京シャイネス・オールスターズ/暗闇坂むささび変化
8. 細野晴臣&東京シャイネス・オールスターズ/ろっかばいまいべいびい
9. ゆず/ユーモラス
10. 友部正人/一本道
11. 友部正人/Speak Japanese, American
12. 大貫妙子・矢野顕子/横顔
13. 大貫妙子・矢野顕子/ウナ・セラ・ディ東京
14. 佐野元春/SOMEDAY
15. 矢野顕子・細野晴臣/相合傘
16. 矢野顕子・細野晴臣/終りの季節
*東京シャイネス・オールスターズ:
浜口茂外也・徳武弘文・コシミハル・伊賀航・鈴木惣一朗・高田漣
2006年8月28日 東京下北沢 北沢タウンホールにおけるライブ
販売元: グリーンドア音楽出版 XQCH92001
DVD発売日: 2007/4/25
レコード(今はCDですが)を製作するには、アーチストの演奏や歌声を最良のコンディションで録音し、その音源を編集(ミキシング)し、盤に記録する最終的な音源へと作り上げる録音技術者(エンジニア)が絶対に必要です。
近年はデジタル技術の進歩により、ある程度は機械によって行えるようになりましたが、日本のロックやフォークが産声をあげた1960年代の後半あたりでは、そうした技術はほとんど職人芸の世界であり、またハード的にもソフト的にも日本は遅れをとっていて、60年代後半のビートルズのアルバムに記録されたような音を日本で作り上げることは不可能と言われてました。
そんな時代に、世界のレベルに追いつくべく、会社の枠にとどまらずに非常に真摯にかつ情熱的に技術の向上をはかるべく試行錯誤しながらレコーディング技術、ミキシング、アレンジと、いい音を作り上げるために人生をかけた方がいます。
吉野金次氏は、日本のフリーランス・レコーディング・エンジニアの草分けです。エンジニア、プロデューサー、アレンジャーとして多くのミュージシャンの音源制作に関わり、名盤の誕生に立ち会ってきました。
はっぴいえんど『風街ろまん』、細野晴臣『HOSONO HOUSE』などの実験的な日本のロック/フォーク創世記の音作りからはじまり、歌謡曲、クラシックとジャンルを超え、いずれもその音楽史上に残る作品にかかわり続けていて、常に新たな技術に取り組みながらも、技術のみにかたよることのない音楽的な姿勢は多くの作り手(音楽のプロ)に支持され続けている方です。また、『朝比奈隆指揮ブルックナー交響曲全集』の録音、プロデュースも行なっていて、わが国のレコーディング技術の向上は彼無くしてはなし得なかったと言われています。
ところが、その吉野金次氏が昨春、脳出血に倒れました。一命は取り止めたものの快復にはまだ時間がかかります。そこで、彼の存在は日本の音楽界にとって宝物のように大切なもの、と考える矢野顕子氏が発起人となり、細野晴臣氏をさそって収益を治療費に充ててもらうためのコンサートを緊急開催しました。
昨年の8月28日(月)に北沢タウンホールという通常は区民の集いなどで使用されるキャパ300の小さな会場に、まさに日本屈指の大物ミュージシャンの方々が全てチャリティー無報酬で集まりました。早く吉野氏に現場復帰してもらって、再び矢野顕子氏の傑作『Super Folk Song』や『HOSONO HOUSE』のような名盤に携わってもらいたい、という想いを、「音楽」でお金に換えて届けたいという、そんな気持のコンサートの模様をストレートに伝えるのが、今回の「音楽のちから 吉野金次の復帰を願う緊急コンサート」です。
矢野氏の働きかけにすぐに応じた細野氏、吉野氏の仕事に30数年前からお世話になっている方々から、つい最近のレコーディングでお世話になった若い方(ゆず)まで、矢野氏の思いにすぐに賛同した方から、つい数日前に知って、以前からの約束を反故にして急遽駆けつけた超大物(井上陽水氏)まで集った本当に贅沢なコンサート、当日参加できた300名ちょっとの方々は本当にラッキーでした。
私は、そのお話を聞いて、ぜひともチケットをと思ったのですが、丁度夏休みで海外に行っている時に重なって、行くことができなかったので、今回のその素晴らしい"ちから"によって実現できた夢の一夜の模様を納めたDVDが出ると聞いて、予約して買い求めました。もちろん、このDVDの収益もまた吉野氏の治療費などに充てられます。
ただ、吉野氏のことをよく知らない人から見ると、なんで有名ミュージシャンでもない方のために、ここまで超大物の方々が無報酬で集まって、その治療費に充てるためにコンサートを開くのか、よく理解できないかと思います。フリーのエンジニアというのは、御指名がかりで仕事していくらの世界ですから、仕事が出来なくなってしまったら、それでおしまいなんです。少しでも彼の手助け(生活面)が出来ればという思いはここから出ているんですが、それだけでなく、今回集まった方々はお金には変えられない素晴らしい技術で自分の作品を世に出してもらったという恩義があります。70年代の吉野氏の仕事には、採算度返しでただただ"いい音"を作りたい、録音技術を向上させたいという思いが詰まっていて、その時の恩恵に報いるべく、今回多くの大物の方々が立ち上がったのだ、という理解が正しいと思います。
円熟味という表現はあたらない、ますます魅力的なアッコちゃんの弾き語りの「中央線」、お馴染みの"東京シャイネス"に"Harry Hosono Quintet"の面々を加えたスーパーバンドを従えての細野晴臣氏のブギ大会、特にDr.Kこと徳ちゃんの久々に聴くバリバリのナッシュビルスタイルのギターがうれしかった。完全に場違いな雰囲気の中で若者らしくふるまったゆずの二人、30数年経っても全く変わらず「一本道」を歩く友部正人氏の健在ぶり、アッコちゃんとの名コンビぶり(ちょっとやそっとじゃあ慌てないところはまさに熟練の技か)でいつも新鮮なター坊こと大貫妙子氏のおちついた歌声、吉野氏への思いを熱く語った後に生ギター一本で歌った「SOMEDAY」が本当にカッコよかった急遽出演の佐野元春氏、久々にベースを取り出し、矢野顕子氏とのデュオで「相合傘」を聴かせてくれた細野氏の余裕、見所満載のDVDですが、演出面とか映像表現で凝ったところは一つもなく、本当にあの夜集まった方々の素のステージのみを収録した超貴重盤です。
ジャンルを問わず優れた音楽を愛する気持ちが人一倍強く、それをより多くの人に届けようとあらゆる努力をしてレコーディング/ミックスを行ってきた吉野さん。今度は必ずや"復帰記念コンサート"で自ら"卓"を仕切ってもらいたい。私自身そのサウンドのファンの一人として、一刻も早い復帰を願います。
#私のレコード棚からサクっと取り出しただけで、画像にあるとおり、数多くの吉野さん作品が並びます。
音楽のちから ~吉野金次の復帰を願う緊急コンサート(DVD)
1. 矢野顕子/夏なんです
2. 矢野顕子/中央線
3. 矢野顕子/右手
4. 矢野顕子/PRAYER
5. 細野晴臣&*東京シャイネス・オールスターズ/モーガン・ブギ
6. 細野晴臣&東京シャイネス・オールスターズ/Pom Pom蒸気
7. 細野晴臣&東京シャイネス・オールスターズ/暗闇坂むささび変化
8. 細野晴臣&東京シャイネス・オールスターズ/ろっかばいまいべいびい
9. ゆず/ユーモラス
10. 友部正人/一本道
11. 友部正人/Speak Japanese, American
12. 大貫妙子・矢野顕子/横顔
13. 大貫妙子・矢野顕子/ウナ・セラ・ディ東京
14. 佐野元春/SOMEDAY
15. 矢野顕子・細野晴臣/相合傘
16. 矢野顕子・細野晴臣/終りの季節
*東京シャイネス・オールスターズ:
浜口茂外也・徳武弘文・コシミハル・伊賀航・鈴木惣一朗・高田漣
2006年8月28日 東京下北沢 北沢タウンホールにおけるライブ
販売元: グリーンドア音楽出版 XQCH92001
DVD発売日: 2007/4/25