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好事家の世迷言。(初代)

※はてなブログ『好事家の世迷言。(続)』へ移転計画中。

調べたがり屋の生存報告です。

EP40 天野翔子編(JC第23・24巻)考察。

2022-10-25 | 『シティーハンター』原作考察
『飛ぶのが怖い!?』

『シティーハンター』を知識として知りたかった読者なら、『ブラッディー・マリィー編』で完結したと見なして差し支えない。
ここから先は、有り体に申せばファン向けに移行していく。

というのは、『CH』という作品の構造が変化していくからだ。
今までは、依頼人の“憑き物”を、獠(と香)が攻略していく物語だった。
それがある種、逆転する。
獠自身が秘めている“憑き物”を、香(と依頼人)が攻略していくのだ。

それで今回暴かれたのが、獠の「飛行機恐怖症」。
(女好き以外)弱点皆無の完璧超人に、とうとう弱点が付与された。
遙か前、『野上冴子初登場編』からの消極的伏線が回収された。
もっとも、流石に伏線として弱い事は否定できず、アニメ版とは設定に食い違いが生じてしまった。
そのため、今回のエピソードのアニメ版は、大幅に展開が異なっている。

以下、余談。
今回は『シティーハンター』全体で最も作画が“美しい”と、個人的に思う。
リアリズムとデフォルメのバランスも絶妙で、俯瞰やあおりなど描きにくい視点から、動画の一瞬を切り抜いたようなコマも多い。
クライマックスの爆弾解除シークエンスは、まるで「動画を読んでいる」ようだ。

何より外せないのが、夜の獠と香の、一枚絵。
闘争に明け暮れた戦士に初めて訪れた安らぎの時間。
其を見守るのは、その彼が唯一心を許した聖女。
この絵から、いわゆるピエタを連想するのは私だけではないと思いたい。

それでは。また次回。

EP39 神村愛子編(JC第22巻)考察。

2022-09-25 | 『シティーハンター』原作考察
『お嬢さんにパイソンを!』

第5フェーズ開始。

『シティーハンター』の再起動(リブート)である。
「『パイソン』という銃をふるう『スイーパー』という探偵業を営む
『シティーハンター』という異名をもつ冴羽獠という主人公が、
パートナーの『香』と共に依頼を受けて事件を解決する」
という設定の復習が、1話に全てまとめられている。

下ネタやエロネタなど過激な描写も極力排除。(一点だけ例外があるが後述)
銃撃シーンこそあれど、血の一滴もなければ死臭もない。
ごく平和な犬捜しが二転三転、序盤から丁寧に敷かれた伏線が、複数の思惑と共に回収される様が素晴らしい。

獠&香の恋愛は一段落という事か、本エピソードでの描写は弱い。
獠をポケベルで監視&管理する香は、さながら一歩引いた保護者である。

その代わりというか、今回の事実上の主役だろう“美女”、神村愛子のインパクトが凄まじい。
「女子大生探偵・神村愛子」の題で2時間ドラマ作れそうだ。
ただ、彼女の人となりは、連載当時だから許されたのかもしれない。
非常識とさえ思われかねない純真無垢もそうだが、酒の一口で暴言暴力を尽くすようになる、あの過激な豹変にまつわる描写は、現在ではアルコール依存症と危険視されるのではなかろうか。
彼女が別件のトラブルに遭う、または起こす事がないよう祈るばかりだ。

それでは。また次回。

EP38 ブラッディ・マリィー編(JC第22・23巻)考察。

2022-08-28 | 『シティーハンター』原作考察
『ふりかえった O・SHI・RI』

『シティーハンター』最大の転機(ターニングポイント)。
実際、TVアニメ版第2期では、このエピソードが最終回となる。

アメリカから、マリィーという風が吹き込む事で、獠と香の緩やかな時間が終わる。
(念のため注記するが「マリィー」である。注意)

今回の事件では、「冴羽獠」というキャラクターの前提が、端的に言って瓦解する。
「経歴が明かされない」という消極的伏線が回収され、「経歴を一切持っていない」という、ある種明確な過去が暴かれる。
結果、ファン必読だろう挿話、「3.26」イベントが生まれる。

ところで、私は「シティーハンターは『憑き物落とし』の物語である」と繰り返し述べている。
主人公たる獠は、今までずっと依頼人たちを救ってきた。
今回もマリィーの抱える問題を解決している。

しかし今回、本当の意味でマリィーを救ったのは、むしろ香である。
香は「弱い普通の人間」だからこそ出来る事に全力で挑み、困難から脱却した。
ここぞという場面での、海坊主や冴子らの活躍も見逃せない。
キャラ全員が協力し合った事で、大団円に届いたのだ。

かくて、『シティーハンター』の構造はここから逆転する。
成長した香によって、獠自身の“憑き物”が落とされる段階に入る。
彼は、(あくまで比喩的表現だが)「大人の男」を一旦やめる。
香と並ぶ「少年」として、生まれ直し、生き直す事となる。

フェーズ4「エロス」終了。フェーズ5へ。
(※エロス。情熱的恋愛。いわゆる恋愛感情)

それでは。また次回。

EP37 武田季美子編(JC第21・22巻)考察。

2022-07-28 | 『シティーハンター』原作考察
『セーラー服パニック!』

1話だけ気軽に読むには、寧ろオススメのエピソード。
富豪の確執あり、時を超えた純愛あり。
シティーハンターってこういう話だよねという、世間のイメージが分かりやすく描かれている。

だがしかし。第1話から一気に通して読んでいる今の自分には、どこか違和感がつきまとう。
語弊を覚悟で述べれば、獠が“幼い”のだ。
あるいは、“青い”と言ってもいいだろう。
特に、この度のゲストキャラ・武田季美子と接する場面で。

今まで18歳未満の少女キャラは、竜神さやか、松村渚、麻生かすみ(初登場)……と多く登場している。
彼女らと関わる獠は、どちらかというと父性的だった。
それが、この季美子編では変貌している。
憑き物を粛々と落とす「導師」から、自らも共に足掻く「同志」へと。

こうも獠のポジショニングが動いた理由の一つは、青年誌の台頭という時代背景がまず大きい。
結果、少年漫画に求められる「ヒーロー」は「成人」から「青少年」へ移ったのだ。

今一つは、前話『立木さゆり編』を経た香の、飛躍的な成長にある。
彼女は、確実に一人前に、平時における獠の保護者のような立場にまで達した。
「この依頼受けますいいですね!」「はい……」
という下りなど、隔世の感さえおぼえる。

かくして二人は、ついにほぼ対等な関係に至った。
が、そんな安寧な時間は、間もなく終わるのだ。

それでは。また次回。

EP36 立木さゆり編(JC第20巻)考察。

2022-06-29 | 『シティーハンター』原作考察
『憂いのMy Sister』

『ユニオンテオーペ初登場編』で述べられていた、香の出自が再度クローズアップされる。
同時に、『銀狐再登場編』で述べられていた、獠の秘めた感情が改めて明かされる。
これを最終回としても成立するだろう、集大成のような展開。

かつては他人に守られる甘えもあった香は、他人を守り抜けるほどの強さを得た。
同時に、自らの限界も見極め、必要以上に驕る事もない。
彼女はスイーパーのアシスタントとして、確実に成長した。

一方、獠には、香を「手放したくない」という、ややエゴイスティックな感情が芽生える。
連載当時でいえば亭主関白的強権を、令和21世紀を踏まえれば未熟な依存心を示す。
更に「決して人を殺させない」という感情の下、香の了承を得ないまま銃を細工している件も明かされる。

「死なせたくない」なら手放せばいいのに。
「手放したくない」なら人殺しを止めるべきでないのに。
そんな決定的にムジュンした二律背反(アンビバレンツ)。
が、そういった非合理的な感情を抱く事こそが、人間らしさの証拠だ。
人によって導かれる答えは唯一でなく、常に不定である。

香の肉親である立木さゆりも、獠と香の生活を見届けた末に語る。
「“わたしの“知ってる真実より、かの女が知ってる真実のほうが、より真実だわ」と。

『シティーハンター』世界における真実は、客観的事実よりも、個人的主観に基づく。
『氷室真希編』でも述べられた、それが絶対のルールなのだ。

それでは。また次回。

EP35 牧原こずえ編(JC第21巻)考察。

2022-05-25 | 『シティーハンター』原作考察
ビル街のコールサイン』

このエピソードからしばらく、「コミックス収録順」でなく、「ジャンプ初出順」に物語を追っていく。

(コミックス:さゆり→こずえ→季美子→愛子→マリィー)
(ジャンプ:こずえ→さゆり→季美子→マリィー→愛子)

初読の場合は無論、コミックス収録順に読んで構わない。
が、読み慣れている方々は是非、今一度、ジャンプ初出順で通読してみてほしい。
作者が獠と香の関係を、少しずつ変化させながら描いている事を感じられるからだ。

閑話休題。
今回のゲストキャラは、CH三大小学生キャラの一人・牧原こずえ。
(彼女の姉・友佳も登場するが、保護者としての便宜的な扱いに留まっている)

ある事情から車椅子生活をしているこずえは、立ち歩く事が出来ないため、近隣住宅を望遠鏡で覗くのを趣味にしていた。
それをきっかけに、彼女は不思議な人物ーー獠たちと出会う。

こずえのキャラ造形は「冬野葉子+西九条沙羅」だろう。
まるで記者のような好奇心から始まった憧憬は、やがて年相応の淡い初恋に結実する。
彼女の視点から描かれる獠は、導き手(メンター)としてやはり適切に機能している。
逆に言えば今回は、彼が“底の知れないヒーロー”として描かれる、ほぼ最後のエピソード。
次回から、長らく覆われていたヴェールが、捲られていくのだ。

それでは。また次回。

EP34 麻生かすみ再登場編(JC第19・20巻)考察。

2022-04-28 | 『シティーハンター』原作考察
『再び空飛ぶオシリ!』

登場人物たちがリアルタイムに歳を取る設定を活かし、
麻生かすみが成長した姿で2年ぶりに再登場。
同一人物の17歳と19歳を描き分ける説得力は、まさにこの作者の画力ならではだ。
 
そのかすみ、ひいては長老の、つまり泥棒一族全体の“憑き物”を、
今回の獠は落とす事になる。
その際に扱われる、長く秘めたまま散った純愛というモチーフも作者の十八番。
 
ただ、実はこのエピソード、この場で言葉で説明するのが難しい。
『名取かずえ編』に匹敵するブラック、というか下ネタに満ちたエピソードのためだ。
この内容をアニメ化せしめたスタッフにも感服するしかない。
 
細かい部分もかなりのカオス。
やにわにジャンプコミックスを読者に宣伝するメタ展開したり、
海坊主&美樹の登場意義が獠の失態を嗤うためだけだったり、
獠がなぜか古典文学に精通してたり。
中でも、悪役となる泥棒。
崇司の操る催眠術は極めてフィクショナルであり、『美樹初登場編』のそれを遙かに超えている。
 
最終的に、かすみは「キャッツアイ」店員という枠に収まってレギュラー化した、と言いたいところだが、残念ながら成功したとは言いがたい。
かすみは結局、前作品のオマージュという立場を超えられずにフェードアウトしていく。
麗香のようなアニオリ活躍も多くなかったのは残念な限りだ。
 
それでは。また次回。

EP33 西九条紗羅編(JC第19巻)考察。

2022-03-22 | 『シティーハンター』原作考察
『哀しい天使』

「紗」である。沙羅双樹の「沙」ではない。
CH原作における「3大・女子小学生キャラ」の一人目。
『牧野陽子編』に続く「3大・オカルト要素エピソード」の一つでもある。
紗羅は他者の心を読み取る、言うなればテレパス能力を持っている。

幕開けは、喫茶店「キャッツアイ」。
『美樹初登場編』で述べた通り、早速CHキャラの拠点として機能する。

事件の核は、極めてシンプル。
富豪一族の弟が兄とその娘を狙うという、いっそ戯画的なまでに典型的お家騒動は、今回もマクガフィンに過ぎない。
重要なのは、悪意(≒殺意)に曝されているという紗羅の状況と、その対応についてだ。

まず、乳母(ナニィ)である麻上亜紀子は、想い人の忘れ形見でもある紗羅を守るため、その一環として獠たちに解決を依頼する。
が、危険から離れようと足掻き続ける紗羅と亜紀子に、獠と香は異を唱える。

「傷ついても、それを克服する勇気と心をもたなきゃ!!」

年少者を導く、いわゆるメンターとして動く、少年漫画として王道の回と言えるだろう。

なお、余談ながら、このエピソードのボイスドラマ版は秀逸。
機会あれば是非一度聴いてみていただきたい。

それでは。また次回。

EP32 美樹初登場編(JC第18・19巻)考察。

2022-02-24 | 『シティーハンター』原作考察
『海坊主(ファルコン)にゾッコン!!』

野上冴子と双璧をなすレギュラーキャラ・美樹が初登場。
喫茶店『キャッツアイ』が初登場したエピソードでもある。
これで『シティーハンター』という作品の舞台は、ひとまず完成した。

『野上冴子再登場編』でも述べたが、人間関係のドラマは「正四面体」で安定する。
「獠&香」「獠&海坊主」と、『銀狐再登場編』の「香&海坊主」の師弟関係に続き、今回「海坊主&美樹」という強固なカップリングが誕生。

美樹は傭兵として単独で戦えると共に、想い人を支えるパートナーとしてもほぼカンペキな振る舞いを魅せる。
香から見て、美樹は理想的な未来を示す先輩とも言える。

そして、このエピソード最大のポイントは、前述の喫茶店という場が定着した事。
あらゆるキャラが自由に集まれる、言わば最重要拠点。
こうして『シティーハンター』世界に、緊張感に満ちた「事件」と「恋愛」の他、安寧な「日常」が最後のピースとして収まったのである。

最後に。このエピソードで美樹が突然、当たり前のように催眠術を使いこなしてて、読んでて困惑した当時の私。
この設定は、後の事件でまた突然再登場するので覚えておく事。

それでは。また次回。

EP31 芹沢綾子編(JC第17・18巻)考察。

2022-01-28 | 『シティーハンター』原作考察
『墓地のナンパニスト』

私は以前から『シティーハンター』とは「憑き物落とし」の物語と述べている。
連載初期は特に顕著であり、苦しみから逃れるために塞いだり荒れたりするゲストキャラも散見された。

今回の綾子も、「大切な人の死」という憑き物を抱える。
ただ、彼女の場合は、他要素のインパクトが大きい。
「年の差婚」「極道の妻」「女子大生」「絵描き」と続くから、最初の「未亡人」(←コレも最早死語)が、かすんで見える。
ゲストキャラと言うより、むしろ主人公系の風格。
そのじつ、彼女は文字通り、新しい生活を描こうと何度も足掻き、ほぼ独力で進歩的な結論に至る。
ただ、良くも悪くも安定してしまっていた吉祥組の環境では、相当の時間を要しただろう。
獠たちのサポート(と、敵対する組からの攻撃)は、その時間を縮めたという意味で、充分に意義があったわけだ。

こうした、きめ細やかな人情物の趣は、華やかな戦闘や激しいギャグと同等、あるいはそれ以上に重要視されており、作者のその後の作品における十八番になっていく。
実際、このエピソードの事件要素はせいぜい、組の抗争という構造のみである。

因みに暴対法こと「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」は1992年から施行されている。
よって、吉祥組が最後の侠客と呼ばれるのは、まさに連載当時の現実に即していたと言えよう。

それでは。また次回。