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好事家の世迷言。(初代)

※はてなブログ『好事家の世迷言。(続)』へ移転計画中。

調べたがり屋の生存報告です。

EP30 柏木圭子編(JC第17巻)考察。

2021-12-27 | 『シティーハンター』原作考察
やってきた春』

読みやすく分かりやすくバランス良い作劇の中、見逃せない要素の多い快作。

1.性的倒錯。
今回、冴子経由で護る事になったゲストキャラは、まさかの男装女子・柏木圭一こと柏木圭子。
役者志望の彼女は5日間、獠に対して途中まで、香に至っては最後まで異性を演じきる。
現実では考えにくい展開だが、こちら読者は説得されてしまうのは、北条氏の力量ゆえだろう。
いわゆる一般的な男女カップルではない、(厳密には違うが)「女×女」に「男×男」、そして「性別逆転デート」まで出る勢いには、後続作品『F・COMPO(ファミリーコンポ)』の片鱗も感じられる。

2.「香=さらわれ要員」の法則。
作品の構造上、何度も狙われる香。
今回は初めて拉致監禁される羽目に陥り、獠の機転で救われる。
まさに盛り上がる展開だが、創りやすいパターンのためか、以降のアニメオリジナル展開で多用され、印象が薄まったのは残念な点。

3.リアルタイム加齢。
香の生年月日は1965年3月31日と描かれていたところに更に、「今年で23」と明記され、本作の登場人物は私たちの現実とリンクして加齢すると確定。
この手法は『キャッツアイ』と同様、読む際の親近感や臨場感を得やすいメリットの一方、作品を永久には続けられないというデメリットが横たわる。
少なくとも少年漫画としては、「いつか終わる」事が決定したのだ。

それでは。また次回。

EP29 冬野葉子編(JC第16・17巻)考察。

2021-11-28 | 『シティーハンター』原作考察
『恋人はシティーハンター』

ジャンプ作品において冴羽獠は、ディープな女性ファン達を最も多く惹き付けた主人公の一人と言って良いだろう。
証拠物件としては、ジャンプコミックス巻末のファンレターを見てほしい。

この度の“美女”・冬野葉子は、そんな女性ファンを投影したような人物。
都会のヒーロー・シティーハンターに一目会おうと夢抱くジャーナリスト。

葉子(と自分)の安全を守るため、正体を隠してトラブルシューティングに勤しむ獠は、まるで変身ヒーローのよう。
獠自身、正体を明かすべきか揺れるが、主に葉子の正常化バイアスが強すぎるせいで、成り行きはこじれるばかり。

このエピソードは他の回より一層、動的なギャグシーンと、静的なシリアスシーンとの乖離が激しい。
こちら読者としては、ドタバタとした騒動に大笑いすると同時に、『CH』世界は本来一般人とは相容れない“死”が隣にある場なのだと再確認させられる。

最終的には葉子も、獠たちの本意を受け入れ、“彼”を自分の心の中だけに秘めると決める。
憧れを捨てた彼女は、代わりに理解を得たのである。

それでは。また次回。

EP28 次原舞子編(JC第15・16巻)考察。

2021-10-25 | 『シティーハンター』原作考察
『越してきたおとなりさん』

作者十八番といえる、レオタードの似合う“美女”。
大舞台を夢見て練習とバイトに励む次原舞子は、華やかな80年代によく似合う。

このエピソードの特徴は、“美女”の生活拠点。
彼女たちは狙われた際、獠&香のアパートに身を寄せる事が多いが、舞子は諸事情から、彼らの隣家に当たる集合住宅で一貫して生活している。

この「隣家」という一つのワードから、必然的な出来事が積み重なって、読みごたえのある事件が展開されている。

獠が住人たちにちょっかい出す→
住人たちが逃げるから事故物件扱いになる→
誰も住まないから盗品が隠される→
家賃が安いから舞子が住む→
舞子が見つけたから盗品が所在不明になる→
窃盗犯たちが舞子を狙う

事件の言わば核となるアイテムも物語のごく序盤で印象的に扱われている。フェアプレイ的展開と言えて、個人的に好みだ。

舞子のバイト先のハンバーガー店が『皆川由貴編』とリンクしているなどの小ネタも楽しい。

なお、余談ながら、舞子のお守りであるマスコット人形は、後のTVSPで同型が登場している事を述べておこう。

それでは。また次回。

EP27 アルマ編(JC第15巻)考察。

2021-09-29 | 『シティーハンター』原作考察
『ハーレム地獄』

今回の“美女”・アルマは、片岡優子→皆川由貴→の系譜を辿る、令嬢の究極、お姫様こと王族である。

ここ暫くからの反動か、やや現実離れしたエピソードに感じる。
読み返すほどに、セリジナ公国とはどういう国か分からなくなる。
中東なのに教育(それも女子)が進んでいる一方、王位継承者(これも女子)は生涯秘匿され、外遊も一切ない。
おとぎ話か、今時の転生異世界のようだ。
そもそも論として、曲がりなりにも王族が失踪したら国際問題として、日本が完全に報道規制を敷くだろうし。

リアリティラインを上げる方便として、セリジナ独自の言語にまつわる描写があるが、漫画ならではの表現という域に留まっているのが物足りない。
独自の言い回しでもあれば良かっのだが。

もっとも、こうした細かい設定は、マクガフィンに過ぎない。
重要なのは、特別な“美女”を獠たちが誠意をもって護るという主題だ。
私の初読、子供心には、さして気にならなかったのがその証拠。
実際、画面に映える名場面も多い。
中でも終盤、摩天楼の夜景でのやり取りは、ファンなら必見だろう。

なお、余談として、前回登場した麗香が少しだけ登場するが、彼女の出番は原作ではここでほぼストップ。
アニメ版では獠と香の仲を応援する有能な探偵として活躍しているため、人によってはギャップに戸惑うかもしれない。

それでは。また次回。

EP26 野上麗香編(JC第14・15巻)考察。

2021-08-29 | 『シティーハンター』原作考察
『越してきた女(ひと)』

第4フェーズ開始。

この辺りの連載当時は、TVアニメ放映も習慣化・常態化。
作品として最も筆の冴えてる時期。

『銀狐再登場編』を乗り越えた獠と香、二人の変遷が一段落した事もあり、こちら読者も安心して事件そのものに浸る事が出来る。
展開は実に分かりやすい。

今回のゲストキャラは?→冴子の妹!
麗香の生業の実態は?→暴力団を脅迫!
悪どく金を稼ぐ目的は?→元同僚・友村の家族を守る!
友村を殺したのは誰?→深町警部!
黒幕は誰?→黒川警視正!
追い詰める手段は?→警視庁の全員を証人に!
野上姉妹の思惑は?→お互い思い合ってた!

以上、毎週毎回新たな謎が出題されては解答されるのが繰り返される、ドコから新規に読み始めても没入しやすい、カンペキな構造。
連載当時リアルタイムで読んでた人が本当に羨ましい。

その一方、この作品で重要モチーフだろう「麻薬」が、さりげなく扱われていたり、通読ファンとして興味深い小ネタも多く、書ききれない。

なお、麗香は次の事件でも少し登場する。
あくまでも少し、であるが……。

それでは。また次回。

EP25 銀狐再登場編(JC第14巻)考察。

2021-07-25 | 『シティーハンター』原作考察
『香ちゃん狙撃さる!?』

作者が最終回として想定したかもしれない重要エピソード。

構造は『川田温子編』と似ている。
『手塚明美編』で登場した銀狐や、教授と名取かずえ達といった外部の刺激によって、獠と香の二人は、それぞれ自らの持つ感情を自覚する。

獠は香を「失いたくない」と。
香は獠に「守られたい」と。
この感情を素直に打ち明け、受け入れれば話はまとまるが、そうは問屋が卸さない。

獠は偽悪的かつ露悪的に振る舞って香を消極的に遠ざけようとする。
香を裏社会に引き込んだ責任を取ると語るものの、彼女とのつながりを物理的に絶つまでの行動は出来ず、葛藤を強める。

一方、香は自分で自分を守り戦うために、海坊主のトラップ技術を会得する。
獠の後ろでなく、横に立てる存在を目指そうとする。
つまるところ、獠への恋愛感情をいったん封じたわけだが、その決意は逆にいっそう彼女を魅力的に輝かせる。
男性キャラと(ギャグ描写でなく)対等にバトルする女性キャラというのは、少なくとも連載当時の少年漫画で見た覚えは私にはない。

ともあれ、これで二人の関係は新たな段階に入った。
二人それぞれ相手に片恋し続ける、客観的には相思相愛、蜜月の期間が始まるのだ。

フェーズ3「ストルゲ」終了。フェーズ4へ。
(※ストルゲ。友情的恋愛。安定した穏やかな関係)

それでは。また次回。

EP24 氷室真希編(JC第13巻)考察。

2021-06-29 | 『シティーハンター』原作考察
海坊主からの依頼』

実のところは「海坊主再登場編」と呼んだ方が良いかもしれない。

とにかくこの事件、海坊主にまつわる情報量が多いのだ。

「ファルコン(隼)」という異名や、獠が「海坊主」と名づけた経緯。驚異的な耐久力。
更には本名、それから弱点。
口下手で赤面しやすく、そして猫、特に子猫に怯えるという設定は、強面で子供心に怖い海坊主のイメージを、良い意味で破壊した。
いわゆるギャップ萌えが生じた瞬間である。

海外で傭兵を生業にしていたという過去も、見逃せない布石。
実は他にもこんな事情が……と風呂敷を広げる素地が出来た。
その内の一つは無論、獠も海坊主と同じ、という真希の直観だ。

また、やはり後に重要になる「罠(トラップ)」の初出もこの事件。
連載当時は「ブービートラップ」の表現の方が多かったため、「罠」にルビが振られている点が興味深い。

ただ、そんな男たちの領分に、真希は必要以上には踏み込まない。
自分の父親と海坊主の事情にも触れまいと配慮する。

なお、余談ながら、この「氷室真希編」は劇場アニメ版『愛と宿命のマグナム』の前日譚に位置づけられている事も予備知識として添えておこう。

それでは。また次回。

EP23 手塚明美編(JC第12・13巻)、考察。

2021-05-31 | 『シティーハンター』原作考察
出逢って恋して占って

前回の結城礼子編で、言わば黄金の方程式が得られた事により、ストーリーは一段と洗練されていく。

手塚姉弟ら、複数のゲストキャラの思惑が複雑に絡まる内容が、テンポ良く描かれていく。
意外な展開に驚かされる、ミステリ的側面が強まった。

特に、明美の成長ぶりには注目すべき。
彼女は、大人たちに流される進路を払い除け、占いに流される自分の考えを改める。

また、この回で初登場する殺し屋、銀狐は『シティーハンター』全体を語る上での最重要キャラの一人。
断じて忘れてはならない。

因みに、アニメ版で明美を演じているのは当時のアイドル、国生さゆり氏。
このエピソードは、アニメの話題作りのために芸能人を起用する走りでもあったのだ。

それでは。また次回。

EP22 結城礼子編(JC第12巻)考察。

2021-04-29 | 『シティーハンター』原作考察
美人キャスターの実力』

連載当時、世の話題になり始めていた「女子アナ」をフィーチャリングした事件。

このエピソードをもって、『シティーハンター』の様式美、偉大なるマンネリズムが完成する。

専門職の美女が事件と関わって狙われる
美女に手を出そうとする獠に香がハンマー
敵を獠が撃退して美女が惚れる
同時に美女は、獠と香のコンビネーションを目の当たりにする
美女は人の情の大切さを悟り、成長して身を引く

このテンプレートさえ守れば、極論を言えば誰でも『シティーハンター』のプロットを書ける。
アニメオリジナルの大半はこのパターンだし、私事になるが自分の二次創作も同様である。

改めて読み返すと、実は今回、特徴少ない事件なのだ。

だからこそ、獠が無言で礼子を豪雪から守ったり、人質に取られた香が自身で敵をいなしたりといった名場面たちが、読者に強く印象づけられる。
今後のエピソードは、如何に王道を通るか、または覇道に動くかといった論点にも注目したい。

それでは。また次回。

EP21 野上冴子再登場編(JC第11巻)考察。

2021-03-29 | 『シティーハンター』原作考察
『ある夜の“マチガイ”』

情報量も非常に多い上、登場人物の関係が掘り下げられている重要な事件。

今回、槇村の過去が描かれた事で、
「香←→獠←→冴子」の図に、
「獠←→槇村←→冴子」の図と、
「冴子←→槇村←→香」の図が加わっ
た。

これらに更に、
連載開始時にあった「獠・香・槇村」の
の図を重ねれば、
「獠・香・槇村・冴子」の4人の関係が確立する。
作中で冴子が述べた「三角関係」とは言い得て妙で、むしろ彼らは4人それぞれで三角形を、つまり全員で「正四面体」を成り立たせているのだ。

特に、槇村を挟んで、香と冴子の関係が築かれた点は大きい。
組織のボスとの戦闘で、自己犠牲で香を救おうとする冴子と、その冴子と共に生きようと戦う香の対比は、CH全編でも名場面と言えるだろう。

……という難しい話は横に置き、作者の美麗な画を堪能するのも悪くない。
レオタード、水着、下着、それからSM衣装まで見れる漫画ってあんまり無いと思うから。

それでは。また次回。