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好事家の世迷言。(初代)

※はてなブログ『好事家の世迷言。(続)』へ移転計画中。

調べたがり屋の生存報告です。

ホラー→ミステリ→ジュブナイル。

2022-09-28 | 物語全般

『絶叫仮面』(by吉見知子&平山けいこ)、読了。


古本市で見かけ、挿絵の多さに惹かれて入手。
(作者名は文担当と画担当)


この本を読む際には、初出が2009年である事を踏まえる必要がある。
この本の発表当時は、まだLINEが無い。スマホが無い。
SNSではmixiが強かった。前略プロフも賑わっていた。
ケータイはガラケーで、PC含めて個人サイトが力を持っていた。そんな時代。


「その声を聞いたら死ぬ」と伝えられる怪人・絶叫仮面。
主人公である少女・神山沙月は、アヤメというハンドルネームで、その絶叫仮面についてサイトを運営している。
そんな折、絶叫仮面を知っているという投稿から、沙月は現地へ赴く。


読んでいて、何とも言えない不安感が付いて回った。
この話は、ホラーなのか、ミステリなのか。
絶叫仮面は実在するのか。
目撃者を名乗る「カエ」は実在するのか。
そもそも主人公は信用できる語り手なのか。

 

最後まで読んでみて、ジュブナイルという言葉が一番相応しいと結論。
登場人物全員が一応幸せに終わっているから、読後感は悪くない。
ただ、そう結論するには中盤の、主人公から妹への暴力が非常にノイズ。
すんでのところで堪える描写にして欲しかった。


ところでこの作品、作中に秘密が隠されているそうで。
公式サイトにクイズが載っているというからスマホでアクセスしたところ……ことごとく文字化けしてしまっていた。
栄枯盛衰の激しいネットと、不変の小説とは、相性がよろしくないかもしれない。


それでは。また次回。


断らないのは優しさじゃない。

2022-09-26 | 物語全般
『酒とバラの日々』のDVDを見る。

きっかけは、知人との縁で、同名の楽曲を知った事。

ジョーとキアステンは、惹かれ合って結婚、娘をもうける。
お互い辛い生活を乗り切ろうと、夫は妻にお酒の楽しみを教える。
ここまでなら、誠に平和な恋愛もの。

本題はこの先。
彼らは少しずつアルコール依存症に蝕まれ、生活を破綻させる。
そう。実はバリバリ硬派の社会派作品。

そもそも皆さん、瓶から直飲みという、とんでもねー時代情勢なのだが。
夫サイドのブラック企業ハラスメントといい、妻サイドのワンオペ育児ノイローゼといい、ごく普通の人がストレスから酒に逃げる危険については、現代こそ見るべき内容。
「酒依存もチョコレート依存も本質は同じ」「物質依存における症状はアレルギーと同じ」などの観点も、先見の明があり過ぎる。

その後、夫は何度か更生し、そこからまた転落する。
せっかく自力で真実に気づけても、すぐにそれを見失う。
ほんの一滴から加速し、刑事事件を起こし、入院先でガチガチに拘束される。
因みに、こういったくだりの演技、壮絶の極み。見てて恐ろしくなる。

最終的に、夫は安定した生活を取り戻す。
妻は、堕ちたまま。
自分は患者じゃないと言い張り、夫に飲もうと誘惑し続けた。
夫は、きっぱりと断る。
誘惑を断らないのは、優しさじゃない。共依存に過ぎないのだ。
何とも残酷な終わり方だが、逆に希望が残っているとも言える。
妻が更生する可能性も、残されていると信じたい。
どうか彼らが本当の意味で、天国へ一緒に行けますように。

それでは。また次回。

ある真夏の卒業旅行、の原典。

2022-08-23 | 物語全般
『スタンド・バイ・ミー』(byスティーヴン・キング)、読了。

因みに新潮文庫版。
『マンハッタンの奇譚クラブ』と共に収録。

キング作品を読むのは今回が初めてだった。
根本的にホラー作品が苦手というのが最大の理由。
映画で『スタンド・バイ・ミー』の内容を把握して、これくらいなら読めるだろうと決心した。

確かに文章で読んだ方が、少年四人組の個性を感じ取れたと思う。
特にテディ。映画はややマイルドになってるんですね。

同時収録の『マンハッタンの奇譚クラブ』の方は、私としてはかなり衝撃が強かった。
描かれた出来事の当時、まだ広まっていなかった呼吸法(ラマーズ法)から生まれた誤解と悲劇。
クライマックスは凄絶の一言だが、子を思う母の強さも同じくらい強く伝わってくる。
で、そんな奇妙な物語が語られるクラブがまた怪しい。
この世ではない所に存在しているのではと考えさせる余韻で終わる。

だが、手痛い目にも遭ったものの、読後感は決して悪くなかった。
作風こそ恐ろしくとも、作者のきっと柔らかく温かい人柄もまた感じられたから。

最後に備忘録として、記憶に残った一説を引用しておく。

どの作品も、よくできた小説なら必ず与えてくれるものをそなえている──いっときのあいだ、みなさんの心にある現実の重荷を忘れさせ、今まで行ったことのない場所へつれていってくれるはずだ。
(まえがき)

友人というものは、レストランの皿洗いと同じく、ひとりの人間の一生に入りこんできたり、出ていったりする。
(『スタンド・バイ・ミー』)

それでは。また次回。

読書DE落語を学ぶ。

2022-08-18 | 物語全般
『らくごDE枝雀』(by桂枝雀)、読了。

落語について調べてる中、書店で見かけて手に入れた。ちくま文庫。

『鷺とり』『宿替え』『八五郎坊主』『寝床』『雨乞い源兵衛(新作落語)』
以上、5話の幕間として、桂氏と、落語作家の小佐田定雄氏との対談。
対談中の註釈だけまとめて更にもう1対談プラスされてる事には恐れ入った。

その対談で述べられている落語論がまた実に興味深い。
落語は「緊張と緩和」で作られているという論や、演じる側が情を出し過ぎるべきではないという論は、他の物語の分野にも通用する。
中でもサゲの四分類論は、読む価値あり。
あらゆる物語の構造を仕分け出来る優れものだ。

確かに同じミステリでも、終始一貫シリアスに収斂するのもあるし、ほのぼの落ちついてるのもあるし、奇妙な味を残して終わるのもあるし、カタストロフィで収拾不能になるのもあるし、色々あるもんな……。
勉強になりました。

あと個人的には、関西弁のテキストとしても有用かも。
一時期は徹底的に調べていた自分としては、読んでて懐かしい気持ちにもなりました。

それでは。また次回。

或る真夏の卒業旅行。

2022-08-16 | 物語全般
映画『スタンド・バイ・ミー』のDVDを見る。

恥ずかしながら初見である。

あれこれあって、映画館への足が遠くなった。
「午前10時の映画祭」へ出向くのも、今のところは自粛中。
故に、かつてラインナップにあった作品を、いい機会と思って見てみた……が。
脚本も、演技も、映像も、音楽も、確かに秀逸とは思う……が。

私には、少々刺激が強すぎた。
少年たちが旅をする話という、おおざっぱな予備知識しか私には無かったから。
スティーブン・キング氏原作という事と、死体を探しに行く話という事くらいは知っていたから、ある程度覚悟はしていたつもりだが、ちょっと甘かった。

12歳の彼らの喫煙シーンでまず驚いて。その先も驚いて。
沼のヒルに(下着の中まで)食いつかれる。
(必然的かつ効果的にだが)銃弾も飛ぶ。
少年によっては機能不全家庭で苦しんでる。
あと、ハイティーンだろう不良たちの危険運転と器物損壊。
そんでもって、列車に轢かれた少年の死体(そんなグロじゃないが)も、がっつりフレームイン。

何だかんだあっても、振り返れば最高の友人との冒険だった、というテーマは痛いほど理解してるつもり。
こんな目先の描写でショック受けてる私の方が変かもしれない。
もっとのどかなな話と思ってた私が間違ってたんだろう。

それでは。また次回。

筒井ショートショートを読み流す楽しみ。

2022-08-03 | 物語全般
『あるいは酒でいっぱいの海』(by筒井康隆)、読了。

全30話収録の短編集。
因みに河出文庫版。
再読の覚えがある作品が多いが、ブログ記事を見る限り、この本そのものは初読、だと思う。
読書の意欲が落ちている時、今の自分には、筒井作品の短編(というかショートショート)が一番。
この本の中で作者自ら「作品を後世に残す気はぜんぜんない」と断言しているほど、どこまでも気軽に読める内容だから。

不思議なもので、本来なら不愉快極まりないと思われるだろう話が、この作者の文体だとするする読める。
『逆流』とか汚いもんマジで。

書かれた時代を踏まえると感慨深い作品も並ぶ。
毎晩知らない人から電話で嫌がらせをされる『電話魔』。
人口爆発問題が取り沙汰されている『善猫メダル』。
サブリミナルCMに早くから注目している『無限効果』。

既読の話も少なくなかったおかげで、すんなりと読み通せた……と思った矢先に、既刊リストが目に留まった。
ハイデガー入門書も読んでみたいし、その前に唯野教授も読まないと……。
がんばるぞ。

それでは。また次回。

史実として戦争を学ぶ。

2022-07-27 | 物語全般
映画『アラモ』のDVDを見る。

因みに1960年作。
(『アラモ』の映画は、他にもバージョン違いが複数あります)

きっかけは不純。
『うみねこのなく頃に』の台詞に「アラモの砦」という言葉を見かけた事。
いい機会だから、改めて勉強しようと見た次第。

1836年、当時メキシコ領だったテキサスの独立を巡る「テキサス独立戦争」の顛末を描いた作品。

生真面目な指揮官トラビスと、規律にルーズなボウイと、そんな二人の間を取り持つクロケット。

特にクロケットは、まさに清濁併せ飲む好漢であり、仲間たちの戦意を見事にまとめ上げる。
マリアという女性と通じ合うも、安全のために彼女を遠くへ送り出す。

皆で、必要な火薬を敵地から持ってったり、敵地から必要な牛を敵地から持ってったり、大砲に泥詰めてったりという作戦を見るのは興味深かった。

終盤、非戦闘員が避難していく中、盲目の女性が夫へ叱咤と鼓舞を向ける場面も印象に残る。
……という、以上の覚え書きは、実はネタバレレビューサイトから参考にさせていただいた部分が少なくない。

と言うのは、見終えた直後は、ほぼ内容を思い出せず、忘れている事に気づいたからだ。
見た端から記憶が抜けていき、見たはずなのに感想が浮かばない。

理由は明白。
最後は、皆死ぬから。
元より負け戦。
作戦における時間稼ぎのための砦だったのだから、当然だが。
戦争は避けられないのだと分かっていても、やっぱり、嫌だ。嫌なんだ。

それでは。また次回。

90年代の恋愛事情。

2022-07-26 | 物語全般
『ぼくは勉強ができない』(by山田詠美)、読了。

全9話収録の連作短編集。初出は1991年。

恥ずかしながら初読である。
動機も不純。
ある漫画のタイトルの元ネタだからと新古書店で手に入れた。

この本で描かれるのは、高校生男子・時田秀美の生活。
独特な性格の母と祖父の影響から、秀美自身かなり老成しており、良くも悪くも“子供”とは思えない言動を繰り返す。
秀美に言わせたら「そもそもあなたの言う子供って何ですか?」とかなりそうだが。
他人に可哀想と言われるのが嫌いという点には、好感を持った。

ただ、私の場合、この本は年を食ってから読んで正解だった。
性的なエピソードが尋常なく多いのだ。
作中の「真剣に恋愛しているからこそ常に避妊具を持ち歩いている」男子高校生、という図に私は……何かショック受けてる。
高校時代の自分だったら想像の外だ。

もしかしたらと思いついた推論は当たった。
ドラマ『東京ラブストーリー』の放映が、本作と同年(1991年)。
「セ○クス」という語が(日常会話レベルでの)市民権を得た時代と一致。
過激な描写には時代による部分も少なくないだろう。

因みにこの本の第1話が表題作の『ぼくは勉強ができない』なのだが、実はこの挿話が最も読む人を選ぶのではないか。
「優等生のクラスメイトを操って堕落させる」のをユーモアとして流せるか。
人によっては、感情を揺さぶられ過ぎる危険もあるかもしれない……なんて述べる私自身、潔癖症なのかもしれない。

それでは。また次回。

正統派ゲームブックは生きていた!

2022-07-20 | 物語全般
『マッシュル マッシュ・バーンデッドと冒険の書(1)』を繰り返し読んでいる。

5話収録の短編集だが、読了という語を使う事は出来ない。
というのは、この本、今時は希少のタイプのゲームブックだから。

買う前は敬遠し、買った当初も期待値は高くなかった。
というのは、昨今、ゲームブックを名乗っていても、実は作中のパズルを解き続けるパズルブックの場合が少なくないから。

それがいざ読んだら、純粋に文章のみのゲームブックだとは驚いた。
しかも、システムとしてはパラグラフ(段落番号)のつながりのみであり、ダイスも使わない、マッピングも要らない、ポイント制も無い。ほんの少しだけメモが要るかもしれないが、読み手の記憶でも賄える範囲。

それに、本来ゲームブックのパラグラフは1話で400のところを、本作ではせいぜい20~50程度。
なのに枝分かれする展開はバラエティに富んでいて、つまり無駄な段落がほぼ無い。
中でもフィン編は、3種類(実質は4種類)の薬草の調合次第で、都合11通りのエンディングを見られる仕様。

つくづく本作の創り手は、昔ながらの正統派ゲームブックが大好きだというのが伝わってくる。
14番にエンドマークが多いのも、さすが分かっていらっしゃると言いたい。

ところでこの本、第1巻と銘打たれるなら、続刊もあるのかな。
このクォリティを保っていただけるなら、応援したいです。

それでは。また次回。

恋愛小説は苦手と再認識した。

2022-07-10 | 物語全般
『グレート・ギャツビー』(byスコット・フィッツジェラルド)、読了。

恥ずかしながら初読である。
と、書いていいのか少々迷った。

当ブログをさかのぼってみると、ずっと以前にディカプリオ氏の演じる映画を見て、
それでひとまず満足したまま今に至る模様。
原作小説をいつか読もうと思いつつ、気づけば後回しになっていた。

それで、ある縁から古本市で手に入れたのが、村上春樹氏翻訳版だった。
そういえば自分、村上作品にもほとんど手を出した事がなく、せっかくだからと読んでみて。
最後の最後、巻末の長いあとがきまで読んで、それで知る。
本当に申し訳ないが私、この作品と相性よくない。

自分だとどうしても、例えば起きた交通事故に意外な結末とか切望しちゃうわけで。
「これで終わり……?」と、どうにも虚しい気持ちが先に立つ。

私が物語に求めてるのは、布石の帰結、伏線の収斂、予想外の収穫、センスオブワンダー、こういった物なのだと思う。
逆に、情景描写や心理描写のト書きをとっくり味わうという素養には、致命的なまでに欠けている。
だから恋愛小説ってダメなんだな私は。

私のような、必須授業のような感覚で読む奴には、名作文学は端から向いてないかもしれない。
世の中には、こんな本読みもいるんだとお知りいただければ幸いです。

それでは。また次回。