ハラボジの履歴書

祖父が日本に渡って来なければならなかった物語を記憶に基づき
在日100年が過ぎようとしているいま書き留めておく。

ハラボジの履歴書  7

2013年06月20日 | Weblog
 口先の欠けた白磁の酒瓶から注がれる清酒は甘い匂いが縁側全体に漂った。
なめるようにして味を確かめた。
これまで飲むマッコリとは全く違う味に、日本の豊かさが浮かぶような
心持になった。
「どうだ」。「うん。これはうまいな」。
「さあ、もっと飲めよ」。
「いや、もったいないから、これぐらいにしておこう」。
「実は、もう一本、面長からもらっているから遠慮するな」。
「そうか、それなら」。今度は一気に飲み干した。

 空腹に流し込んだ酒が内臓に沁みこむようで、すぐに酔いが回ってきた。
それまで、悩んでいたことがウソのようにして頭の中から消えていった。
「ピョンオン、お前に折入って話があるんだが聞いてくれ」。

 すっかり酒に酔ってしまって気が大きくなった。
「なんだ、言ってみろ」。
「実は、お前と一緒に行った博打場に五十円(今の貨幣価値の2万分の一)
の借金があるそれを今月の末までに返さなければ、田んぼをすべてとられて
しまうので、何とか工面してくれないか」。
それまでいい気持ちで回っていた酒が一度に覚めた。
「そんな大金、月末までに工面するって」。
「お前が兄様から水路の補修代に200円預かっていると言っていたじゃないか
その金を一時、俺に都合してくれればいいじゃないか」。
すでに頼みというよりは決まり事のように大完は涼しげに言った。

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