携帯電話の呼び出し音が1回、2回と鳴った。
3回目の呼び出し音が鳴ったのと同時にかわぐちくんが電話に出た。
「ウィーイ!」
かわぐちくんのテンションの高さに、僕はたじろぎ、苦笑いを浮かべた。
僕は「ひさしぶり」と返すのがやっとだった。
「何て、良いタイミングで電話をよこしたんだ坂本!」
かわぐちくんは最初のテンションのまま話を続けた。
「俺、会社を3月いっぱいでやめることにしたんだ。3年間、働いて金もちょっと貯まったし、来月から、旅に出ることにした。いやあ、それにしても良いタイミングで電話をよこしてきたなあ」
「えっ、どこ?どこに行くの?」
久々だということも忘れ、僕は、かわぐちくんのテンションに圧倒された。
「小さい頃からやりたかったんだよね。世界一周。まずはオーロラを観にカナダに向かう」
あまりの驚きに、4月にオーロラが観られるのかという疑問を訊き忘れたと気づいたのは、電話を切った後だった。
かわぐちくんは、想い続けた末に、一つ、自分の夢を実現しようとしていた。
駐車場まで歩く間、
かわぐちくんとの電話の余韻に浸った。
今まで、僕は、どれほどのことをあきらめてきたのだろう?
今まで、僕は、どれほどのことをあきらめざる終えなかったのだろう?
掴みかけて、こぼれ落ちた、あの日。
時間は止まり、景色は色を失った。
ただ、息を吸い、息を吐くだけの屍と化した。
息の根を止められた、あの日。
悲鳴をあげて、陥没した心は塞がらない。
ぽっかり開いた穴からは、後悔が溢れ出した。
神の存在を疑った。
願えど、願えど、遂には叶わなかった。
掴もうとしていた時が栄光だったのか?
確かに、短かったかもしれないけれども、
確かに、幸せに包まれた。
それだけでも、掴もうと出した手は無駄じゃなかった。
大きな幸せに、大きな涙。
久々に電話したかわぐちくんの口癖は、高校の時から変わっていなかった。
「挑め!挑むのをあきらめるな!」
おわり
※この物語はフィクションです。
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かわぐちくんのテンションの高さに、僕はたじろぎ、苦笑いを浮かべた。
僕は「ひさしぶり」と返すのがやっとだった。
「何て、良いタイミングで電話をよこしたんだ坂本!」
かわぐちくんは最初のテンションのまま話を続けた。
「俺、会社を3月いっぱいでやめることにしたんだ。3年間、働いて金もちょっと貯まったし、来月から、旅に出ることにした。いやあ、それにしても良いタイミングで電話をよこしてきたなあ」
「えっ、どこ?どこに行くの?」
久々だということも忘れ、僕は、かわぐちくんのテンションに圧倒された。
「小さい頃からやりたかったんだよね。世界一周。まずはオーロラを観にカナダに向かう」
あまりの驚きに、4月にオーロラが観られるのかという疑問を訊き忘れたと気づいたのは、電話を切った後だった。
かわぐちくんは、想い続けた末に、一つ、自分の夢を実現しようとしていた。
駐車場まで歩く間、
かわぐちくんとの電話の余韻に浸った。
今まで、僕は、どれほどのことをあきらめてきたのだろう?
今まで、僕は、どれほどのことをあきらめざる終えなかったのだろう?
掴みかけて、こぼれ落ちた、あの日。
時間は止まり、景色は色を失った。
ただ、息を吸い、息を吐くだけの屍と化した。
息の根を止められた、あの日。
悲鳴をあげて、陥没した心は塞がらない。
ぽっかり開いた穴からは、後悔が溢れ出した。
神の存在を疑った。
願えど、願えど、遂には叶わなかった。
掴もうとしていた時が栄光だったのか?
確かに、短かったかもしれないけれども、
確かに、幸せに包まれた。
それだけでも、掴もうと出した手は無駄じゃなかった。
大きな幸せに、大きな涙。
久々に電話したかわぐちくんの口癖は、高校の時から変わっていなかった。
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