私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

宮本武蔵『五輪書』

2015-08-04 21:22:28 | 本(人文系)
 
一切の甘えを切り捨て、ひたすら剣の道に生きた絶対不敗の武芸者宮本武蔵。武蔵は、「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」る何十年にも亙る烈しい朝鍛夕錬の稽古と自らの生命懸けの体験を通して「万里一空」の兵法の極意を究め、その真髄を『五輪書』に遺した。本書は、二天一流の達人宮本武蔵の兵法の奥儀や人生観を知りたいと思う人々のために、『五輪書』の原文に現代語訳と解説、さらに「兵法35箇条」「独行道」を付した。
鎌田茂雄 全訳注
出版社:講談社(講談社学術文庫)




剣豪と称えられる宮本武蔵が自身の戦いの体験をもとに、剣の極意を、五つに分けて書き記した書物である。

さすがは剣豪が書いただけあり、戦いに対して、臨場感のある記述が目立つ。
特に、技術論の展開されている、水之巻はその印象が強い。

打ちかかってくる敵に対しては、まず自分が打ちこむ姿勢になることが肝心で、太刀はその体勢に従って打つものだ、という点、
また、太刀を受けるとき、敵の目を突くようにして受ける、という点などなど。
どれも生々しい実感が伴っていて目を引く。

戦術面の記述された、火之巻も実際の体験に基づいて書いているためおもしろい。
戦いの場面でどう動くかの描写はさすがだ。
どこか孫子の兵法に通じる部分もあるように見えて興味深い。

どれもこれも、幾度となく死線を潜り抜けてきたからこその記述で、感銘を受ける。


そんな武蔵がもっとも強調しているのは、型にしろ何にしろ、一つのものに囚われてはいけない、という点に尽きるだろうか。

視線をどこかに固定したり、構え方に凝り固まったり、戦術を一つに定めるなど。
あらゆることに対して、ニュートラルにあることを強調している。

つまるところ、天然自然の中に自分を置き、当意即妙に対応することに尽きるのだろう。
そして当意即妙にぱっと動くようになるためには、鍛錬が必要であるらしい。

その結論は、禅的な世界と剣という戦いの世界を併せ持っており、まさに剣禅一如を地で行くような感じだ。


実際論としては、現代においても、通じるかはわからない。
だが根柢にある、一つのことに囚われることの危険さは、今も変わらぬ通じるものがあり、いろいろ考えさせられた次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)