それにしても、「タモリ倶楽部」って、どうしてこんなに「その筋」の人以外にはスカみたいな企画を放送できるのだろう。
まあ、例によって、私は「その筋」の方に近かったと実感したのですが。^^;
今日の放送は、「工業地帯」の魅力であった。
そう、夜の工業地帯を見るたびに、私は、そのことを思い出す。
初めて、一昼夜の船旅を経験したのは、二十歳の夏。
大阪に向かうフェリーだった。
男二人の貧乏旅行。
船旅に憧れてという理由ではなく、もっとも安く大阪まで行くには、と考えての選択だった。
が、現実は、そう甘くなかった。
安くするために、当然船室は2等。
船室と言っても、何か仕切りがあるわけではない。
大雑把な衝立があるだけで、後は何の仕切りも無いフロアである。
そこに、毛布をかりて雑魚寝するのだ。
しかも、エンジンに近い場所だから、一晩中、結構な振動と音に悩まされる事になる。
だが、実は、ワンフロアとは言っても、その中に比較的良い場所と悪い場所が有って、その選択を間違うと、これまた更に悲惨な目にあう。
通路になる場所だと、一晩中、誰かが手洗いに行ったり水を飲みに立ったりするので、おちおち寝ていられない。
壁側が取れたと喜んでいると、実は振動の良く伝わる場所で、これまたおちおち寝ていられない。
更には、こういうフェリーには、常連で長距離トラックの運転手が乗り込んでおり、良い場所は、あっという間に彼等に占められてしまう。
そういう事を、最初から知っていれば、こちらもそれなりに考えて場所取りをしたのだろうが、何分、最初に書いたとおり、こちらは初めて。
案の定、ろくでもない一角しか残っていない羽目になり、真直ぐ足を伸ばして横になる事さえ難しい状況であった。
それでも、旅の相方は奇妙な体勢のまま、夜中には寝てしまったのだが、まくらが替わると眠れないたちの私は、全く眠れなかった。
翌日は結構なハードスケジュール。
それゆえ、少しでも眠っておかねば、一日を台無しにしてしまうかもしれない。
そう思って、何とか私も眠ろうとしていたのだが・・・。
相方が、大きないびきを書き始めた時点で、とうとうギブアップ。
気持ち良さそうに眠っている相方を残して、デッキに出てみる事にしたのだ。
デッキに通じるドアを開いた途端、心地よい風が吹き込んできた。
冷房が入っているとは言え、大勢の人いきれで蒸し暑い2等船内に比べれば、よるの瀬戸内の風は、心地よくて当然である。
私が出たのは、四国側。
夜の海の上には、殆ど明かりが無く、遠く四国沿岸の光が微かに見えるだけ。
後は航路を示す、海上ブイの明かりと時折擦違う船の明かりだった。
暫く、その景色を眺めていたが、やがてふと思い立って、上の甲板の展望デッキに上がってみた。
そのとき、目の前に飛び込んできたのがこの工業地帯の明かりであった。
あれは瀬戸内の本州側だから、どのあたりだったんだろう?
何本も並び立つ太いパイプ。
何箇所も青い光で照らし出されており、高いところには所々、赤いランプが明滅してる。
今なら、差し詰め、映画「ブレードランナー」に登場する都市の様、とでも言えば宵のか。
ある意味、これ以上無い無機質な風景のはずなのだが、私には、何故かそれが暖かく感じた。
はじめてみる光景なのに、どこかで見たような。
そんな場所は他に知らないのに、懐かしいような。
光の灯る工場群を見つめていると、何故かそんな感情が溢れてくるのだった。
だが、その景色を何時までも見ていることは出来なかった。
丁度、入り組んだ海岸沿いに有った所為か、その工場群はあっという間に島影と言うか、そんなものに隠れて見えなくなってしまったのだ。
それは、逆に、私がもう少し下のデッキで海を眺めていたり、もう少し、毛布に包まって眠ろうと努力していたら、決してその光景を見る事はできなかった、という事でもある。
工場群の明かりが見えなくなった後も、私は暫くボーっとしていた。
自分の見たものが、現実とは思えなかったからだ。
暫くして、やっと興奮が醒めた頃には、短い夏の夜は、もう白みかけていた。
私は慌てて船室に戻ると、その不思議な感情を抱いたまま、数時間だけだったが眠りにつくことが出来た。
そう、その船にのって、私たちが向かっていたのは、「日本SF大会 大阪大会」通称「ダイコンIII」であった。
今思えば、現在のオタク文化発信の超魁となった大会に向かう途中のフェリーでの出来事。
何かしら、暗示的なものが有った気もするのだが・・・。
かくして、私は今だに、夜の工場群やコンビナート群を走っていると、そのときの事を思い出すのである。
それにしても・・・恐るべし!タモリ倶楽部。
追記:【TB】それぞれに目蓋へ残る情景を抱いて。 工場萌えな日々
Leftyさんに教えてもらったので、遅ればせながら出演されていたブログ主さんにTB送らせて頂きます。
先に追記しちゃいましたが、まさにこのブログ主の方が、出演されていたんですよ。
思いいれたっぷりに話す方々を見ていて、やっぱり「タモリ倶楽部」って、そういう「拘りのある人」に、理解が深いよなぁと納得していました。
タモリ自身が、「てっちゃん」なので、そういう「拘り」は解るのかもしれませんね。
URLお教え頂き、感謝です!
工場萌えな日々
http://d.hatena.ne.jp/wami/