不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

「鉄のゆりかご」

2006年04月07日 23時58分08秒 | Memories

 それにしても、「タモリ倶楽部」って、どうしてこんなに「その筋」の人以外にはスカみたいな企画を放送できるのだろう。
 まあ、例によって、私は「その筋」の方に近かったと実感したのですが。^^;

 今日の放送は、「工業地帯」の魅力であった。
 そう、夜の工業地帯を見るたびに、私は、そのことを思い出す。



 初めて、一昼夜の船旅を経験したのは、二十歳の夏。
 大阪に向かうフェリーだった。

 男二人の貧乏旅行。
 船旅に憧れてという理由ではなく、もっとも安く大阪まで行くには、と考えての選択だった。

 が、現実は、そう甘くなかった。
 安くするために、当然船室は2等。
 船室と言っても、何か仕切りがあるわけではない。
 大雑把な衝立があるだけで、後は何の仕切りも無いフロアである。
 そこに、毛布をかりて雑魚寝するのだ。
 しかも、エンジンに近い場所だから、一晩中、結構な振動と音に悩まされる事になる。

 だが、実は、ワンフロアとは言っても、その中に比較的良い場所と悪い場所が有って、その選択を間違うと、これまた更に悲惨な目にあう。

 通路になる場所だと、一晩中、誰かが手洗いに行ったり水を飲みに立ったりするので、おちおち寝ていられない。
 壁側が取れたと喜んでいると、実は振動の良く伝わる場所で、これまたおちおち寝ていられない。

 更には、こういうフェリーには、常連で長距離トラックの運転手が乗り込んでおり、良い場所は、あっという間に彼等に占められてしまう。
 そういう事を、最初から知っていれば、こちらもそれなりに考えて場所取りをしたのだろうが、何分、最初に書いたとおり、こちらは初めて。

 案の定、ろくでもない一角しか残っていない羽目になり、真直ぐ足を伸ばして横になる事さえ難しい状況であった。
 それでも、旅の相方は奇妙な体勢のまま、夜中には寝てしまったのだが、まくらが替わると眠れないたちの私は、全く眠れなかった。

 翌日は結構なハードスケジュール。
 それゆえ、少しでも眠っておかねば、一日を台無しにしてしまうかもしれない。
 そう思って、何とか私も眠ろうとしていたのだが・・・。
 相方が、大きないびきを書き始めた時点で、とうとうギブアップ。
 気持ち良さそうに眠っている相方を残して、デッキに出てみる事にしたのだ。

 デッキに通じるドアを開いた途端、心地よい風が吹き込んできた。
 冷房が入っているとは言え、大勢の人いきれで蒸し暑い2等船内に比べれば、よるの瀬戸内の風は、心地よくて当然である。

 私が出たのは、四国側。
 夜の海の上には、殆ど明かりが無く、遠く四国沿岸の光が微かに見えるだけ。
 後は航路を示す、海上ブイの明かりと時折擦違う船の明かりだった。
 暫く、その景色を眺めていたが、やがてふと思い立って、上の甲板の展望デッキに上がってみた。

 そのとき、目の前に飛び込んできたのがこの工業地帯の明かりであった。
 あれは瀬戸内の本州側だから、どのあたりだったんだろう?
 何本も並び立つ太いパイプ。
 何箇所も青い光で照らし出されており、高いところには所々、赤いランプが明滅してる。
 今なら、差し詰め、映画「ブレードランナー」に登場する都市の様、とでも言えば宵のか。

 ある意味、これ以上無い無機質な風景のはずなのだが、私には、何故かそれが暖かく感じた。
 はじめてみる光景なのに、どこかで見たような。
 そんな場所は他に知らないのに、懐かしいような。
 光の灯る工場群を見つめていると、何故かそんな感情が溢れてくるのだった。

 だが、その景色を何時までも見ていることは出来なかった。
 丁度、入り組んだ海岸沿いに有った所為か、その工場群はあっという間に島影と言うか、そんなものに隠れて見えなくなってしまったのだ。

 それは、逆に、私がもう少し下のデッキで海を眺めていたり、もう少し、毛布に包まって眠ろうと努力していたら、決してその光景を見る事はできなかった、という事でもある。

 工場群の明かりが見えなくなった後も、私は暫くボーっとしていた。
 自分の見たものが、現実とは思えなかったからだ。
 暫くして、やっと興奮が醒めた頃には、短い夏の夜は、もう白みかけていた。

 私は慌てて船室に戻ると、その不思議な感情を抱いたまま、数時間だけだったが眠りにつくことが出来た。

 そう、その船にのって、私たちが向かっていたのは、「日本SF大会 大阪大会」通称「ダイコンIII」であった。
 今思えば、現在のオタク文化発信の超魁となった大会に向かう途中のフェリーでの出来事。
 何かしら、暗示的なものが有った気もするのだが・・・。

 かくして、私は今だに、夜の工場群やコンビナート群を走っていると、そのときの事を思い出すのである。


 それにしても・・・恐るべし!タモリ倶楽部。

追記:【TB】それぞれに目蓋へ残る情景を抱いて。 工場萌えな日々
 Leftyさんに教えてもらったので、遅ればせながら出演されていたブログ主さんにTB送らせて頂きます。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございます! (ぷよぱぱ)
2006-04-10 00:18:16
★Leftyさん

 先に追記しちゃいましたが、まさにこのブログ主の方が、出演されていたんですよ。

 思いいれたっぷりに話す方々を見ていて、やっぱり「タモリ倶楽部」って、そういう「拘りのある人」に、理解が深いよなぁと納得していました。



 タモリ自身が、「てっちゃん」なので、そういう「拘り」は解るのかもしれませんね。



 URLお教え頂き、感謝です!
返信する
そんなあなたに (Lefty)
2006-04-08 07:39:10
有名どころみたいですが私が知ったのが結構最近なのであえて紹介。



工場萌えな日々

http://d.hatena.ne.jp/wami/
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