紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「スタバトマーテル」近藤史恵

2004年09月13日 | か行の作家
まるで折原一のような倒錯の世界(違)。
どれが事実で、どれが虚構か…。
でも、そんな中にいても、変わらないものがある。
それは、“愛”(きゃー。自分で言ってて恥ずかしー)。
その“愛”を軸に繰り広げられるミステリーがとても秀逸。

女って、強いよね(^^;)。
改めて実感させられました(笑)。

プロの資質を持ちながら、本番で歌えない声楽家・りり子。
若くして高名を得ながら、母なしでは作品を描けない版画家・大地。
欠けたものを補い合うように惹かれるふたり。
そして、惨劇が始まった…。

しょっぱなから重いし痛い。さすが近藤さん。
りり子の目を通してストーリーは進んでいくのですが、
りり子自身が問題を抱えるだけに、心の叫びを聞きながら
物語を読んでいるようなもの。声楽家としての問題だけではなく、
同じ女性として分かりすぎるほど分かるもどかしい気持ち、
これって、他人で追体験すると、どれほど“しんどい”かが
よく分かりますね(^^;)。案外短かったので、最後の方は
一気に読んでしまいましたが、眉間にシワ、寄りっぱなしです(笑)。

基本的に近藤さんの作品って、どんなにヒドくても(笑)、
最後にはちゃんと“救い”を残してくれるんですよね。
梨園のシリーズ(「ねむりねずみ」「散りしかたみに」)しかり、
カナリヤシリーズ(「カナリヤは眠れない」「茨姫はたたかう」)しかり。
でも今回は、一旦救われたかのように思えるんだけれども、
果たしてソレは実際のところ“救い”なのだろうか、と。
「ガーデン」とか「凍える島」とか、後味悪い作品もありますが、
そんなに後味悪くはないけど、昇華されるほど救われるわけでもない。
でも、近藤さん、好きです(^-^)。

最近気付いたのは、舞城さんと同じだな、ということ。
舞城さんの作品は、胸に“ずずん”とくるけど、
近藤さんの作品は、胃に“ずずん”とくる。
で、どっちも自分なのですよ。
舞城さんが私の理想で、近藤さんは私の現実。
結局、どっちからも逃げられないんですね(笑)。

「スタバトマーテル」近藤史恵