紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「邪悪な花鳥風月」岩井志麻子

2004年09月27日 | あ行の作家
 一方変わって、こちらは現代が舞台。
 時代が違うだけで、こんなにイメージが違うのか!
 というくらい、雰囲気が違います。
 おどろおどろしさが消えてしまって、
 私的にはあまりホラーな感じがしない(笑)。

 美貌と才能とお金、すべてを持ちあわせた作家の「私」。
 執筆をするために借りたウイークリーマンションの窓から、
 隣のアパートが見える。そこに暮らす人たちを題材に
 物語を描き始める「私」…。

 幻惑の世界、というよりは、混迷の世界、なのかも。
 この狂い具合、どろどろ具合がいい。
 そして、最後には決して救われないところも魅力(笑)。
 どうしてか、岩井志麻子の作品だと、
 救われなくても痛くもなんともないんだよね(笑)。

「邪悪な花鳥風月」岩井志麻子

「魔羅節」岩井志麻子

2004年09月27日 | あ行の作家
志麻子節、炸裂。
あなたは、どこへ行こうとしているの(^^;)。
と思いつつも、でもこれって、事実だよな、と思ってみたり。

岩井志麻子といえば、「ぼっけえ、きょうてえ」
ホラーというイメージが強いかもしれないけれども、
私的にはホラーというより、明治の貧しい岡山。
明治だからこそ、貧しいからこそ、岡山だからこそ。
時代・経済・環境がそろってこそ、
生み出される物語に深みと影が増す。

所は岡山市、とある貧しい長屋の一室。
男娼の兄は夕方になると身支度を整えて出かけていく。
それを見送る妹との2人暮らし。
両親が亡くなり、貧しい農村を捨ててきた2人だが、
ことあるごとに思い出す歌がある…。(「魔羅節」)

表題作を含め全8作を収録した短編集なのですが、
タイトルを書くのもはばかられるようなものばかり(^^;)。
カバー裏の一節を引用してみますが、

「血の巫女・岩井志麻子が、呪力を尽くして甦らせた、
 蕩けるほど淫靡で、痺れるほど恐ろしい、岡山土俗絵巻」

と。ここで注目したいのは、“呪力を尽くして”という
ところではなく(笑・てか、志麻子ねーさんならありうる)。
“甦らせた”という部分ですね。
幕末から明治初頭にかけて、それこそ怒濤のような時代の
流れに乗って、というか、乗れた人はそれはいい生活を
してるんでしょうね。大半の人は、その流れに身を任せるだけ
だったのだろうと思われます。なすがまま。どうにか
なってみないと分からない、というのが正直な気持ちでしょう。
しかしながら、乗ることもできず、身を任せることもできなかった
人たちはどうなったでしょう。取り残され、誰にも省みられず、
きっとずっとそのまま、蚊帳の外に置かれたのではないだろうか、と。
そこで何があったかなんて、歴史の表舞台には出てこないんです。
それを、呪力で(笑)甦らせたんですね、この人は。
ちょっと呪いのパワー強すぎですが。
どんなに卑猥なタイトルだろうと、どんなにエロくてグロかろうが、
私は岩井志麻子の描くこの手の話に惹かれます。

「魔羅節」岩井志麻子