紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「新・世界の七不思議」鯨統一郎

2005年05月17日 | か行の作家
デビュー作「邪馬台国はどこですか?」の続編というか、姉妹編。
今度は、日本の歴史上の謎ではなく、ぐっと大きく視野を広げて
“世界の七不思議”を、在野の歴史家・宮田が斬ります。

舞台は「スリーバレー」といううらぶれたバー。バーテンの
松永、常連客でライターの宮田、歴史学者の静香までは前作同様。
今回はそこに、静香が連れてきた来日中のペンシルバニア大学教授・
ジョセフが加わります。もちろん歴史学者で、日本語も堪能。
来日中の仕事を終えて、本来ならば静香と京都観光を楽しむはずが、
多忙な静香にふりまわされて、毎日「スリーバレー」に通うことに…。

と、ここまで舞台はそろい、毒舌静香とか、料理上手なマスター、
実は博識の宮田とキャラクターもしっかり固まっているのに、
なんだか扱うネタが小粒過ぎる気がしたのです。残念。
“世界の七不思議”と大きく風呂敷を広げたわりには、着地地点が
とても貧相だったり、あるいは、どこかで聞いた説だったり。
「邪馬台国」では、あれだけ自分の知識をひけらかした宮田が、
世界の七不思議については全く知らない、という設定もおかしい。
そこで聞いただけの話を組み立てて“新説”を築くわけですが、
その段階で、世界の神話や歴史的なことはやはり知ってるわけ
ですよ、宮田さん。なのに、七不思議のことだけ知らないなんて、ねえ。

でも、そういった矛盾を抱えつつも、ツッコミながら読む、という
楽しみができるほか(笑)、回を追うごとに豪華になっていく
バーの設備に注目してほしい。いきなりスクリーンが表れ、みんなで
静香のサイトを見ることができたり、しまいにはそれが進化して
各席(といってもカウンターなのに)にパーソナルモニターが
設置されたりしています。バーの経営はどうなんだ? もしほかに
客が来ているならば、彼らの反応はどうなんだ?といった
疑問も解決されないまま(笑)、鯨さんらしい乗りで終始するのが、
この作品の醍醐味なんだと思いますが、いかがでしょう(^-^)。


新・世界の七不思議」鯨統一郎(創元推理文庫)