紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「顔のない男」北森鴻

2005年04月27日 | か行の作家
以前読んだ「闇色のソプラノ」と同じくらい、
お腹の中に“違和感”がどっしりと居座って、
あまり良くない気分で読み進みました(^^;)。
しかーし。それも全部計算づくだったのね、ということ。
工藤さんや陶子さん、那智先生などが出てくる物語は、
安心して楽しめるのだけれども、本作や「闇色のソプラノ
共犯マジック」といった、ちょっと変わった雰囲気の
物語も北森さんは書くのですねえ。といっても、これらが
面白くないのかというと、そうではなく、練りに練られた
その“構成”を楽しむ物語に仕上がっているのです。

雑誌連載時は連作短編という形をとっていたようですが、
1冊にまとまるとハッキリ分かりますね。これは長編です。
根底に流れるのは“顔のない男=空木”の存在。
全身骨折で死亡した男・空木の身辺を探るうち、
2人の刑事は、次々と新たな事件に遭遇していきます。
空木に少しでも近づいたと思ったら、いきなり突き放される…。
そんなことを繰り返されると、途中で止まらなくなる
じゃないですか(笑)。後半は一気に読んでしまいましたとも。

何がすごいって、これだけ違和感というかイヤーな感じを
味わいながら(笑)、それでも、主人公同様に振り回されつつ、
しかも物語にぐいぐい引き込まれていくんですよ。たぶん、
作者の思惑通りに翻弄されたんじゃないかと思います(笑)。
ついでに言っちゃいますが、ラストは「ほほーっ」と
ため息モノです(^-^)。あっ。それから、名前は明かされ
ませんが“三軒茶屋のビアバー”、出てきますよー。


顔のない男」北森鴻(文春文庫)