紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「海神(ネプチューン)の晩餐」若竹七海

2004年12月07日 | わ行の作家
近ごろでは、若竹七海=昭和初期の豪華客船。
この図式が成り立ちます(笑)。
大きいなモノから小さなモノまで、“悪意”を描かせたら
5本の指に入るといわれる若竹さんですが、
(私が言っているだけですけど(笑))
この作品に漂うのは、憂い。
登場人物たちのものなのか、もしかしたら、
豪華客船「氷川丸」の憂いなのかもしれません。

タイタニック号の沈没から20年後。資産家の息子・本山高一郎は、
アメリカはシアトルへと向けて旅立つことになっていた。
旅立ちの前日、横浜で偶然出会った級友に押しつけられたのは、
タイタニック号沈没の際に持ちだされたという原稿。
高一郎はそれを携えて豪華客船「氷川丸」へと乗り込むが、
彼の周りでは不思議な出来事が次々と起こり…。

昭和ヒトケタという時代。今を生きる私には想像すらできませんが、
“破滅”へ向かって、加速度を増していた時期ではないでしょうか。
そんな背景を知ってか知らずか、豪華客船の一等という空間では、
普通とは違った時間が流れます。しかし、それはそこを利用する
普通ではない方々にとっては、いかにも普通のことなのですね。
下々のモノの立場に立ったときの、そういった“憂い”、
そして、そんな一等の船客たちにとっても時代の流れというものは
どうしようもないんだ、という“憂い”。
そう。どこを取っても憂いしか残らない時代なんですね。

横浜で乗船する前に、高一郎は3年ぶりに級友と出会いますが、
もうそこから“事件”は始まっています。高一郎が手にした原稿を
巡って、暗号の発見や原稿の紛失、幽霊騒ぎに死体消失まで、
さまざまな出来事が起こります。それには一つずつ、きちんとした
解決がもたらされるわけですが、しかしながら結局、そんなことは
とても些細なことであるということが、最後まで読んで
初めて分かるようになっているのですねえ。奥が深い。
ますます若竹さん、好きになりました(^-^)。


海神(ネプチューン)の晩餐(講談社文庫)
若竹七海〔著〕

出版社 講談社
発売日 2000.01
価格  ¥ 770(¥ 733)
ISBN  4062647508

bk1で詳しく見る オンライン書店bk1