心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

脳は心座かホトケノザ~こころこころというこころ

2009-02-23 15:07:12 | 精神医学・精神病理学
どうもです。いきなりですが,脳は心の座,と言い出したのは,誰でしょう,それはヒポクラテスです,などとお手製の豆知識を披露して,そっからギリシア哲学だの科学だのを訳知り顔に語ろうだなんて思ってませんよ!(勝手にブチキレ)

にしても,親王問題もとい心脳問題,すなわちハードウェアがどうしたソフトウェアがすべったころんだ,とかメタな概念操作あるいはテキストクリティークに汲々とするのをよしとしたくない,よしとしたくないんですよね。

心なんて仮説概念だろ,んなもんいらね,と頑張ったのはスキナーさんで,頑張った甲斐あって,それがある意味正しかったのは,まあいわゆる行動療法だとかABAだとかをみてれば,よく分かるわけですけど,一方で,いや仮説概念大事ちゃいますのん? の勢力はメジャーであり続け,それは認知行動療法,という名称からも明らかなわけですよ。さらにまた一方で,概念を概念として概念的に精緻に追求しよう,という勢力,たとえば精神分析なんかも,脳科学に仮説概念提供したり,臨床エビデンスを着々と確立したりして,メタな概念操作,必ずしも無意味ならず,という状況なんでありますね。

んーでも,21世紀は心の時代だ的なことを20世紀のうちから言われてた気もするんですが,どうもそれが,いつの間にか,というかそもそもそういうのはあったわけですけど,どうみても「脳の時代」と言われるにふさわしい空気が醸成されているのが昨今でして,これはつまり専門的な話というよりは,「脳のせいにすれば万事OK」的なというか「万事,脳のせいにさせていただきたい」的な空気,一般に充満してることは,今さら本を挙げて示すこともございますまい。

一方で,じゃあ心は元気ですか,と言われると,むしろ,スピリチュアルがたいそう元気です,ついでに血液型占いも超元気ですという状況で……意外なことに,心という場合,心=脳,もしくは,心=スピリチュアル,というなんか大変な二極化が起こっている! なんて思ったりもする出版事情であります。

そんななか,「心」派の私としては心を痛めているわけですよ! というか「心」という概念は賞味期限切れとして埋葬と亡霊しちまう前に,「心」を問うことの意味および意義を再確認してからにしてくれ,と思うわけです。極限まで対象化するのも,極限まで神秘化するのも,どっちもノー! 

……とここまで書いたところで,この文章の落ち着き先が見えない! 皆目見えない! と思い,強引に軌道修正したいと思うのですが,じゃあ,上の文章を消しちまえよと言われそうではありますが,まあまあせっかく書いたものを消すのもなんかもったいないじゃないですか? 私ってよく天然って言われるじゃないですか? って知らねーよという空気が満載のなか,消しませんよ,だってもしかしたら誰かしらが異常に深読みしてくれて,僕を過剰評価してくれるかもしれないから……などという妄想をしつつ,


サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
下條 信輔

筑摩書房 2008-12
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サブリミナルぅ? という人は,ある意味正しいけど,ある意味正しくない。サブリミナルぅ?と印象を持つことへのリスペクトを評しつつも,これは読んでほしいと思うサブリミナル。

もちろん,新書ですので,これで最新知識を得ました,というのはいかにもさみしい感じですが,それはさておき,僕が特記したいのは,これが「心」の本であるってことですね。このご時勢,「心」の本を書くのは大変で,それこそ,「脳」の本を書くほうがある意味楽だと思うんですけど(いやもちろん大変ですけどね),これは「心」の本ですので,気鋭の著者の心意気を感じる,正確にいえば,その心意気が行間からプンプンとサブリミナル,なのであります。

余談ですが,読書って行為は,むしろ潜在認知がメインなのかもしれない,と思うほどに,目的的でない読書の有用性ってのはあると思うんですよね。校正作業なんかしてると時に文字や文章のゲシュタルト崩壊したりすることもあるわけですけど,人間漠然と注意を払い続けるのは結構難しいもんだなと思いつつ,その間の膨大なるメタな知覚認知,必ずしも無駄じゃなくってよ,と思ったりすること,しばしばですというサブリミナル。

ま,そもそも下條先生といえば,

 
マインド・タイム 脳と意識の時間マインド・タイム 脳と意識の時間
下條 信輔

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これの翻訳を手がけられているわけですね。誰かこれをHere And Nowと関連させて述べてくれまいか? などと妄想しつつも,ここでサブタイトルに「脳」とあるのは,出版社の事情だと思いますけど,閑話休題,まあこの本の価値については今さらどうこういうものではないですが,


「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤
下條 信輔

講談社 1999-02
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さらに噛み砕いてくれてるのがこれですね。って言っても,実はこっちのほうが出版年としては古いんですけどね。

それはともかく,誤読してるのかもしれませんが,僕がこれらを読んで思うことは,概念やっぱ有効,ってことでして,極端にいえば,概念ぶち上げるのが心理学者の仕事だろう,くらいに思うほど,概念やってくれてるのが,むしろ心地いいと思うわけです。クオリアとかでなしにね。

脳科学いうても実は実際現状穴だらけ,であることは,本当はみんな知ってるわけですけど,穴に目をふさいでマンセーしてる学者はいないと思いますが,出版社からはマンセー本を依頼されるし,出版社は出版社でマンセー本が売れると思ってるし,読者は読者で学問的な誠実さよりもエンターテイメントを! と思ってるわけですけど,そんな中で,分かりやすけど,実はとっても分かりにくいものを,分かりやすいものを装って出版するという誠実さは,もっと(一般人に)評価されていいと思うわけです。

そしておそらくですけど,概念を吟味する姿勢がなければ


脳と精神疾患 (脳科学ライブラリー)脳と精神疾患 (脳科学ライブラリー)
加藤 忠史

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この本なんか読んでもフーンで終わってしまうと思うわけで,それはいかにもモッタイナイ! もったいないだけですめばまだいいですけど,


精神疾患は脳の病気か?―向精神薬の科学と虚構精神疾患は脳の病気か?―向精神薬の科学と虚構
功刀 浩 中塚 公子

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とか読んで,必要以上に,恐怖心を養うのもなんかどうですかね,という気もし。どっちにしろ成果は成果として踏まえ,成果でないものは踏まえない,利益とリスクを考えるために,研究者には道徳心を,一般人にはリテラシーを,と当たり前のことを思うわけですけど,

あと,ちょっと脱線しますけど,


世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
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行動経済学! と今さら鼻息荒くしたいわけではなくて,概念を使って,新たな見方の可能性を提示する,ってところが面白いわけですよね,というメタ経済学なんでして,この調子で,メタ科学研究史誰かやってくれないかな,なんて妄想したりもしますね。

それはさておき,まあなんていうか,科学的知識なりの「概念の受容」ってのは難しいものがありますね,専門家においても一般人においても。それこそ,血液型占いなんて,受容と需要の歴史でのみでいえば,歴戦のツワモノなんでありますし,アメリカで進化論を信じてる人は40%なんつうのも,進化論なんて100年そこそこの新参,ともいえるわけですよね。

というわけで,実は,「心」はその受容にわりと失敗し続けてきたのかもしれない,特に近年は,と思ったりもしますが,そこで試合終了ですよ,諦めたら(倒置法)ということで,心理学には頑張ってほしいですし,それは臨床心理学も同じ。

もっともカラダも大事!(どっちらけ)

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昔,闘将麺類男(たたかえ! ラーメンマン)において,耳の穴からナメクジを侵入させて,感情のないパーフェクト・ファイティングマシーンを製造するというトラウマ描写がありましたが,脳に寄生虫がいたら堪ったもんではございませんよ!

「脳にも?」ってのは,ま時代時代,ま感じ感じ,と思って頂いて,そこは差し引いても,生活する生物としては寄生虫,知っておきたいとこですね。ま,僕ら人類も一種の寄生虫でして……いや寄生獣か……などとスケールの大きな辞世の句,詠んでみたいものですよね!(なんなのか)

……

ということで,まあ概念大事,そして,寄生虫は怖い,ということで今日のところは〆させていただきます。

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