英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

ロンドン塔はちょっと苦手・・・

2006-07-31 | イギリス
何故かこれまでロンドン塔には1回しか行ったことがありません。
いつも観光客でいっぱいだし、警備をしているビーフィーターは横柄だし(撮影禁止場所でカメラをカバンに入れてなかっただけで頭ごなしに怒られたことが・・)、王様の系図ってのがちょっと不得手だし・・・、幽霊は信じないし・・、ってことで勝手に先入観作って避けて来てました。そのロンドン塔で始まるミステリーをこの度・・・。


ポール・ドハティ「白薔薇と鎖」

時は16世紀、ヘンリー8世の御代。
スコットランド王ジェームズ4世は和平協定を一方的に破棄し、突然イングランドに侵攻するがフロドンの戦いに敗れ命を落とす。ジェームズの妃マーガレット・テューダー(ヘンリー8世の姉)はその後再婚したがヘンリー8世を頼ってロンドン塔に身を寄せていた。
物語はこのジェームズ4世の死をめぐるスコットランドの動きを探ろうと、ヘンリー8世の宰相を務めたウルジー枢機卿(ハンプトン・コート宮殿は元は彼の屋敷。後にヘンリー8世に分捕られた。)が甥のベンジャミン・ドーンビーとその従者ロジャー・シャロットに情報収集を密に依頼するところから始まる。
ドーンビーとシャロットはまずロンドン塔に捕らえられていたジェームズ王の元従医から話を聞こうとするが、突然この従医は厳重な警備が採られる密室の中で殺される。残されたのは謎めいた詩がひとつ。容疑者はマーガレット妃も含めて関係者多数・・。
ここからドーンビーとシャロットの謎解き冒険が始まるのですが、物語全体は絶えず好色で酒飲みのシャロットの語りで綴られていきます。時に話は脱線し、シェークスピアの戯曲のネタは俺様シャロットが教えたのよ!なんて嘘か本当かわからないホラ?がちりばめられたりしますが、楽しい探偵コンビの登場には変わりありません。
どこまでが歴史的事実か、どこからがフィクションなのかちょっと最初はまごつきますが、当時の風俗描写も含めて楽しめるミステリだったかな。

ちょっとロンドン塔をもう一度見学したくなりました。

想像できますか?

2006-07-25 | 日常
イギリスのある英国国教会系小学校でジョン・レノンの「イマジン」を禁止したというニュースがちょっと前にありました。下の歌詞が宗教的ではないとの判断かららしいのですが、保護者たちが学校の措置に行き過ぎだと反発しているとか。

Imagine there's no countries
It isn't hard to do
Nothing to kill or die for
And no religion too
Imagine all the people
Living life in peace....

一方、娘が通う近所の英国国教会系幼稚園では、そんなゴタゴタもなく、先日梅雨の合間をぬって「夕涼み会」が開催されました。
お母さんたちが準備した金魚すくいやゲームを楽しんだあと、小さなグラウンドでみんなで盆踊りです。こちらの英国国教会系は「いいかげん」が売りものですから、ロシア民謡もドラえもん音頭もみんなで楽しんじゃいます。
子供たちはみんな浴衣姿で、いっしょうけんめいお稽古した踊りを披露してくれます。この日だけは泣き虫もいじめっ子もみんな笑顔。娘も調子にのって何度もくるくるまわります。くるくる、くるくる・・・。



想像できますか?この子たちの未来が・・・。
この踊りの輪のようにみんなで手をつないで笑ってる未来を・・。


本当に想像できますか?
今の世の中で・・・・・。

ディケンズの出世作

2006-07-24 | イギリス
楽しい本を見つけました。

チャールズ・ディケンズ
「英国紳士サミュエル・ピクウィック氏の冒険」

これはC・ディケンズの出世作と言われる「ピクウィック・クラブ」の抄訳です。このピクウィック・クラブ、1836-1837年にかけて月刊分冊版にて発行された小説で、当初は数百部しか売れなかったものが、号を重ねる毎に人気が増し、最後は大変な反響を呼んだというものだそうです。主人公ピクウィック氏のスタイルを真似る者が続出するという人気ぶりだったとか。訳者梅宮氏によれば、この作品の魅力が日本では今ひとつ理解されてないという思いから、抄訳というよりむしろ翻案にちかいやり方で枝葉の話を割愛し、理解しやすいように話をぶった切って再構築した訳ということです。完訳が良いに決まってますが、ボリュームや訳の古さに尻込みして食わず嫌いになることに比べればこれは「あり!」だと思います。というか、大変楽しい時間を過ごすことが出来ました。
物語は、ピクウィック・クラブの創始者であり会長であるサミュエル・ピクウィック氏が、三人のメンバーとともにイギリス各地を廻り、そこで見聞きしたことをクラブに報告するという計画から始まります。メンバーとは女好きなタップマン氏、詩人肌のスノッドグラス氏、そしてスポーツ万能?のウィンクル氏の三人。そして途中からピクウィック氏の従僕を勤めるサム・ウェラー。
次から次に巻き込まれる珍事件。突然決闘を申し込まれたり、女子寮に忍び込むはめになったり、宿に戻れば見知らぬ婦人と相部屋になったり、意図せず下宿屋の未亡人と婚約しちゃったり、それがもとで婚約不履行の訴訟を起こされたり、そんでもってフリート監獄に入れられちゃったりと ドタバタが2重3重と続きます。でもピクウィック氏はいつもスローで平然。とにかく「間違ったことは大嫌い!」というけっこうプリンシプルなオヤジなのです。前にご紹介した「ボートの三人男」がどちらかと言うと斜に構えたユーモアなのに対し、このピクウィック氏なかなか精力的に人生を楽しんでますね。
次は是非完訳を!と調べてみると・・・筑摩文庫版は・・・絶版ですか・・。


スピルバーグの「宇宙戦争」

2006-07-14 | イギリス
DVDにて鑑賞。
原作はご存知H・G・ウェルズ。映画では舞台をニューヨークに置き換えて進行します。この映画、どうも酷評が多いようなのですが、私は楽しませていただきました。
原作同様、いきなり宇宙人が人類に先制攻撃をしかけます。人類は何が攻撃しているのか何が起こっているのかもわからずに殺されていきます。そりゃ侵略者が「私は宇宙人です。今から行きますよ」なんて挨拶してくる訳ないのですが、予兆などの説明なしに宇宙人が操るマシンにより徹底的に破壊されるのです。わずか2日で世界は征服され、人類はただただ逃げ惑うばかり・・・。
こういう潔さはけっこう好きです。

以下ちょっと感じたこと
途中出会ったおじさんが、
「大阪じゃ、やつらのマシン2つを倒したって聞いたぜ。日本人にやれるならおれたちだって・・・」
と言ってますが、もし本当なら大阪人はどうやって倒したのでしょうか?
たこ焼きでも投げつけたのか・・。パチパチパンチでもやったのでしょうか・・・。
ちょっと気になります。

主演はトム・クルーズ。トム・クルーズだから絶対に死にません。でもちょっとスーパーマンすぎます。
それと冒頭のシーン。トムが埠頭のクレーンの運転名人ということが描かれてますが、私はてっきりそのうちトムが宇宙人のマシンを奪って得意のクレーン操作で敵をやっつけちゃうのではと思ってました・・・。(原作とは違うけど)

階級を楽しむイギリス人

2006-07-13 | イギリス
新井潤美「不機嫌なメアリー・ポピンズ」(イギリス小説と映画から読む「階級」)

【問題】
もういちど聞き返す時、「What?」と「Pardon?」どちらが「上流」とみなされるでしょうか?

階級社会と言われるイギリス。普段使う言葉、アクセント、購読する新聞、住む場所、習慣、趣味・・・これらが属する階級の色を明確に表すのか?
イギリス小説に仕組まれた「階級」表現。そしてそれが映画化された場合はどうなるのか?「アッパー・ミドル・クラス」と「ロウワー・ミドル・クラス」この2つの軸で小説、映画を読み解くとまた楽しいイギリス像が見えてきます。
新書って必要に迫られないと読まないのだけれど、久々に面白い本でした。イギリス好きにはお薦めです。

以下は俎上に上げられた作品たちです。

ジェイン・オースティン「エマ」、「高慢と偏見」
映画「クルーレス」
ヘレン・フィールディング「ブリジッド・ジョーンズの日記」
映画版「ブリジッド・ジョーンズの日記」
映画「サウンド・オブ・ミュージック」
シャーロット・ブロンテ「ジェイン・エア」
映画版「ジェイン・エア」
P・L・トラヴァーズ「メアリー・ポピンズ」
映画版「メアリー・ポピンズ」
ダフネ・デュ・モーリア「レベッカ」
映画版「レベッカ」
ディケンズ「大いなる遺産」
映画「マイ・フェア・レディ」
E・M・フォースター「眺めのいい部屋」
映画版「眺めのいい部屋」
ジョン・ファウルズ「コレクター」
映画版「コレクター」
H・G・ウェルズ「タイム・マシン」
映画版「タイム・マシン」
アントニー・バージェス「時計じかけのオレンジ」
映画版「時計じかけのオレンジ」
J・K・ロウリング「ハリー・ポッター」
映画版「ハリー・ポッター」
カズオ・イシグロ「日の名残り」
映画版「日の名残り」
P・G・ウッドハウス「ジーヴス・シリーズ」
ハニーフ・クレイシ「郊外のブッダ」
映画「ベッカムに恋して」
その他

買ってしまった・・・

2006-07-12 | イギリス
新しいスピーカーが届きました。
2年間迷いに迷った末、下した結論がB&W(Bowers & Wilkins)。新しいCM1にしようかなとも思ったのですが、好きなCDで試聴をした結果、音のやさしさの方を取り705に決めました。
これまで持っていたビクターのスピーカーが、ウーハーのエッジがボロボロになっていたこともあり、バフバフの音しか出ない有様でしたのでようやくステレオシステムの復活と言うところでしょうか。
早速梱包を解きアンプと繋いでみます。スタンドをまだ買ってないので取りあえず畳の上に直置きしたのですが・・・。うーん、こうやって下に置いちゃうと何か鳥の巣箱のようにも見えます。
肝心の音はどうでしょう。ソニー・ロリンズを鳴らしてみますか・・・。あ、いいですねえ。バリバリと迫力ある鳴りは期待出来ませんが、聞き疲れしないバランスのよい音が楽しめそうです。次にはブランデンブルグの5番をかけてみましょう。うーん、弦楽器のアンサンブルが凛として響いてきます。よしよし、じゃあマリア・カラスでいじめてみましょうか。おう、エクセレントです。満足です。
まだ、スタンド無の状態ですから、低音の厚みなどはまだまだですが、これからきちんとセッティングをすれば10年、20年とお付き合いが出来そうです。
毎日家に帰るのがちょっと楽しみになりそうです。(今までが楽しくない・・という意味ではないのですが)

B&Wはイギリスのメーカーですが、製造はデンマークで行なっています。




クールビズな小説

2006-07-10 | イギリス
暑いです。
会社の冷房が効きません。
だいたいクールビズなんて愚かな制度がいけないのです。
これ幸いとみんなネクタイ外してますが、どだいファッションセンスがない輩ですから、どうみても拘置所に連れていかれる逮捕者のようです。
家に帰れば、これまた暑い我が家です。
4階建ての4階西向きの部屋は太陽の熱を余すところなく吸収し、私の帰りを待っています。
どうも日本の気候は暑いか寒いの2極化がどんどん進んでいるように思えます。
いっそ2ヶ月のバカンス制度を導入すれば、意外と仕事に集中出来るかもしれません。
こういう寝苦しい時の読書は「寒い」本に限ります。
かといってスリラーは苦手なのでこれを・・・

アリステア・マクリーン 「女王陛下のユリシーズ号」

登場人物は全て男。
舞台は軽巡洋艦ユリシーズ号。
任務は輸送船団の護衛(それは独海軍戦艦をおびき出す囮作戦)
気温は氷点下(波飛沫が瞬時に凍る極寒)
未曾有の悪天候。
付きまとうUボート。
襲い掛かる爆撃機。

過酷な航海の連続で水兵の反乱すら起きたユリシーズ号。責任を追求され一日の休息も与えられないまま、再び極寒の海に派遣される。艦長ヴァレリーは病身を押し、自らの死期を悟りながらもその著しく士気の低下した艦を静かに毅然と任務に導く。
寒さと疲労と恐怖に支配された艦に容赦なく繰り返される攻撃。船団は1艦また1艦と海に消え、戦う猛者たちも1人また1人と命を落としていく。
「ここで死んだ彼らはむしろ幸せだった。これから起こることを知らずにすんだのだから・・」こういう表現が随所で語られますが、それぐらい絶望的な戦いが延々と続き、最後にユリシーズ号は・・・・・。

特攻同然の作戦と言えば戦艦大和を思い浮かべますが、フィクションでありながら、非常にリアルな描写で読者を絶望の航海に誘ってくれます。

そうです。暑いからといって安易にクールビズファッションに走ってはいけません。たとえ猛暑でも涼しい顔してネクタイきりりと締めましょう。汗疹ぐらい我慢して・・。

原題は「HMS Ulysses」。第2次世界大戦中の設定ですから、「国王陛下の・・・」と邦題は付けられるべきなのですが、何故に女王陛下なのでしょうか。

極楽詣で

2006-07-05 | 日常
先週末は近くの極楽寺山までドライブです。(30分で着いちゃいます)
山頂にある極楽寺からは広島湾の島々が見渡せます。
この山の山頂部分にはお寺の他に「蛇の池」という周囲500mぐらいの灌漑用の池があり、キャンプ場としても整備されています。池には一面蓮が生育しており、写真では見にくいですが白やピンクの蓮の花が沢山咲いていました。どうして山のてっぺんにこんな池がと思っちゃうのですが、やはり極楽だからでしょうか。
池の水はとてもクリアで鯉やフナがいっぱいいます。それと亀も。キャンプ場の管理棟で売っている餌を投げると魚や亀が我先にと大騒ぎに・・・。亀の中には足元まで上がってくる積極的なやつまでいます。
もっと汚い池を想像してたのですが、けっこうきれいだったので今度はバーベキューでもしに来ようかな。なんと言っても極楽ですから。

写真だと蛇が出てきそうな池に見えますが・・・

ミュージカルは楽しい(1)

2006-07-04 | イギリス
ロンドンと言えばミュージカル。昼間、美術館巡りなどで足が棒になっていても夜は劇場街に繰り出さないと・・・・。
私が最初に体験したミュージカルは89年の「メトロポリス」。これは戦前のドイツで作られたフリッツ・ラング監督の同名映画のミュージカル版ですが、大規模な舞台装置が日本でも評判で、当時絶対見に行きたくって、確か高い手数料を払って日本でチケットを手配して行った覚えがあります。劇場はピカデリー・サーカスに程近いピカデリー劇場でした。
劇場の楽しみは開演前から始まります。早めに入場しBARで飲み物を楽しむも良し、パンフレットで予習するも良し、仲良し同士時間ぎりぎりまでロビーでだべるも良し、みな思い思いに開演ベルまでを楽しんでます。
さてその時の席ですが、確かドレスサークルと呼ばれる2階席中央最前列のかなりいい席でしたが、予想に反してあまり客が入っていないのです。全体で7割程度の入りでしょうか・・。これなら何も手数料払ってチケット手に入れなくても、ロンドンで十分入手出来たどころか、ハーフプライスチケットでも手に入ったかもと思うとちょっとがっかりです。でも希望の演目を希望の日時と席で観れるのですから、良しとしましょう。
「メトロポリス」は地上の楽園に暮らす資本家と、その圧制に耐え扱き使われる地下の労働者たちの物語。マシンに支配され、過酷な労働を強いられる人々。ひょんなことから労働者階級の娘が出てはならない地上に迷い込み、資本家の息子がそれを見て恋に落ちる。資本主義の象徴としての重量感あるマシンのセットが冒頭から観客を圧倒します。絶えず響く蒸気の音と金属音。場面が変わり地上のセットに変わると、次々に天井から違うゴンドラがステージに下りてきます。そしてクライマックスはサイボーグロボットと人間が一瞬の間に入れ換わるというイリュージョン。舞台を目で楽しむという意味ではよく出来た演目でしたが、肝心の音楽がピンと来ません。ラストはそれなりに感動的なのですが、劇場を出た後いつまでも口ずさんでしまうというほどではありませんでした。でも最初の体験としては「楽しい」の一言でした。
それにしてもイギリス人は幕間休憩の時にアイスクリームを食べるのが大好きなんですね。客席での飲食はもちろんいけませんが、休憩時間のみ売り子さんがアイスクリームを売りに来ます。大きな身体の紳士が嬉しそうにアイスを買いに並んでいる光景は微笑ましくもあります。


劇場遊びを覚えてしまった私は、次の日大きな過ちを犯すことに。
もう一つミュージカルを観て帰ろうと、次の日の朝、チャリング・クロス・ロードの何軒も連なるチケット・エージェンシーの一つに入って見ました。出てきた店員は何とスキンヘッドに鼻ピアスの兄ちゃん・・・。しかも「ハロロー」とかなりの巻き舌です。本能的に「やば!」と思いましたが、聞くだけ聞こうと「レ・ミゼラブルの今夜のチケットあるか」と尋ねると、あっさり「あるよ。42ポンド。手数料4ポンド」と言うじゃないですか。
じゃあ、いただきましょうと金を払うと、彼は何やらカードの裏に番号を書き込み「これを5時にここに持ってきて。チケットはその時渡す」とのこと。
半分騙されたかも・・と思いつつも、ちょっとスキンヘッドが怖かったのでそのままカードをもらって店を出ました。
夕方5時になり、再び店に・・。
朝のスキンヘッド兄ちゃんが「今日はチケットを渡すのが7時になった。7時にまた来てくれ」と・・・
あー・・46ポンドが・・・でも・・
で、7時前に再度店に行くと、今度は大勢の人が店内にいます。アメリカ人夫婦、イタリア人グループ?フランス人女の子二人組み・・そして私・・・
スキンヘッド兄ちゃんは、しきりに時間を気にしながらカウンターの中でイライラしています。
ここでやっと理解しました。
このエージェントは劇場で毎日出るキャンセルチケットを入手し転売するところだったのです。その日に限ってキャンセルが予定より出ないのでしょうか、未だにチケットが届いてないようです。
そうこうするうちに、髪がおっ立ったケバイ化粧のお姉ちゃんが帰ってきました。スキン兄ちゃんと目があうと、お姉ちゃん肩をすくめて渋い顔をします。
明らかに良い席が確保出来てないことがわかります。
スキン兄ちゃんは書類に目を通すとすかさず「グッドシート!グレート!」と呟きます。(演技が下手すぎ!)
さてそれからが大変です。入手できたのはかなり後ろの席の模様。皆が払ったのは一番高いストゥール席の料金。当然ながら、英語が得意?なアメリカ人が抗議役を任されるのですが、スキン兄ちゃん、その手のクレームには慣れてるようで、「金は返せない。この席が嫌なら観なけりゃいい。そろそろ開演だぜ(翻訳想像)」と時計を指差すばかり・・・
みんなスケジュールが限られたツーリストばかり・・、やっぱり今夜「レミゼ」が観たい!結局、しぶしぶ条件を呑むことに。
と、ここでまた問題が・・。
チケット屋にある書類は正式なチケットではなく、劇場で引き換えなければならないバウチャーのようなもの。とにかく「レミゼ」が上演される「パレス劇場」まではこの面子でいっしょに行かなければならないことに。しかも私以外はパレス劇場の場所がいまいち分かっていないという事態に・・・。
「ボ、ボクガパレスシッテマス・・」仕方なく私がこの哀れなツーリストを引き連れパレス劇場に案内するはめに・・。劇場までの道中、アメリカ人の奥さんが旦那に言ってます。「何でもっと強く言ってやんないのよ。だからイギリス人にしてやられるのよ。(翻訳想像)」 旦那「仕方ないだろ。もう始まるんだから。ほらあのジャップについて行かないと・・・(翻訳かなり創作)」
ようやくこの多国籍チームが劇場に着いたのは開演5分前でした。窓口でチケットと交換すると、私の分はフランス人女の子二人組みとの連番一枚になっており、劇場に入ってもこの二人組みといっしょの行動です。それもほとんど天井桟敷・・・。階段入り口もストゥール席とかサークル席とは別のものになっており(明らかに金持ちと下層階級を隔てる考えで・・・しかも天井桟敷には休憩時に楽しむBAR自体がありません・・。)、ひたすら上に上に上りやっとこさ席に着くことが出来た次第でした。
舞台ははるか奈落の底にある感じ。それに上から覗き込むアングルですから、有名なバリケードのシーンでは向こう側の裏方まで見えちゃう始末。
でも、それを補っても余りある3時間半の迫力のステージでした。ただ「レミゼ」はかなり英語力を必要とします。始まる前に疲れ果てていた私にはちょっと難しいところもありました。でも隣のフランス人二人娘は最後のエンディング(再び立ち上がるフランス人民たちの場面)では感動して泣きじゃくっていましね。
劇が終わったのは11時過ぎ。フランスギャルたちと会話を楽しむ語学力もない私は、すごすごとパレス劇場を後にしたのでした。

劇場は変わりましたが、20年以上も続くロングラン。まさにメガミュージカル。

霧の中の読書

2006-07-03 | イギリス
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
原題は「Never Let Me Go」

「教わってるようで、本当はよく教わっていない。」
トミーが語る先生の言葉ですが、この言葉が読者にも投げかけられる。
全編を通して静かに語られるキャシーの想い出話。
読者は読み進めていくうちに、物語の全体を早い段階でイメージする。我々はどこに連れていかれるのか、どんな読後感をもたされるのか。でも全体はわかっても細部は見えてこない。逆に細部が鮮明になっても全体が掴めない・・・。
通奏低音のように絶えず流れる「不安」、「哀しみ」そして「諦め」。うっすらと霧が出た道をキャシーの声に導かれながら、我々はページをめくる。
かつてカズオ・イシグロは、「日の名残り」でイギリスが失ったものを美しく描いてみせてくれましたが、この作品では現代人が失っていくものを、抑制の効いたタッチで描いてくれたのかもしれない。
ヘールシャムという全寮制の施設。「介護人」と「提供者」。描かれるテーマは近未来の悲劇なのかもしれないが、我々現代人共通の喪失感、そしてそれを乗り越える成長を描こうとしているようにも感じられる。一人一人にとっての「提供」という行為・・・。(深読みでしょうか?)

秀作です。