英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

乃木大将!

2009-09-28 | イギリス

司馬遼太郎「坂の上の雲」


いよいよ11月末から放送されるTVドラマ。本箱の奥から引っ張り出してみました。
松山で生まれた秋山好古・真之兄弟と正岡子規の青春と、近代日本の形成期を重ね合わせて描く大作です。ちょっと年配の男性を中心にこの作品のファンは多く存在しますね。
確かに前半は3人の青春記なのですが、正岡子規が早々に亡くなった後(子規の登場が少ないだけに印象も小さくなってしまいます)は、もっぱら日本の命運を決す小説「日露戦争」という形態でしょうか。中でも旅順攻撃をめぐる二百三高地での消耗戦と、バルチック艦隊を迎え撃つ日本海海戦の場面は圧巻。戦争に先立つ1902年、中国に利権を持ちロシアを牽制したい英国が、長年の栄光ある孤立政策を捨てて「日英同盟」を結ぶ件ももちろん興味深いところです。
一番読んでびっくりしたのは、旅順攻撃の司令官「乃木希典」が抜群の人格者ながらも指揮官としてまったくの無能者として描かれている点。彼が決断しなかった結果、無用の攻撃によって膨大な戦死者を生むこととなったというのが司馬遼太郎の考える乃木像なのでしょう。面白いのが、当時の司令官は形として天皇から直接任命されていたため、途中で更迭しようにも誰も何も出来ず、黙って本人が認識するのを待つしかないというのです。この戦争以降、乃木大将は多くの人から崇められ、とうとう軍神となってしまうのですが・・・。ところで、私の通っていた高校には、普段は使わない裏門がありまして、「乃木門」と呼ばれていました。何でも前身の旧制中学時代、3代目の校長先生が乃木希典に心酔しており、乃木希典が小倉の連隊の隊長であった(この時、西南戦争に従軍、連隊旗を薩摩側に奪われる。このことが後の殉死の理由とも)ことから、連隊の営門の石柱を譲り受けてそこに据えたという謂れのある門でした。その校長の乃木大将への心酔ぶりは尋常ではなかったらしく、晩年病に倒れた時には「これではお国のために働けない」と言ってなんと自害したということです。人をそこまで動かす彼の魅力、そしてそれを必要とした時代というものは何だったのでしょうか・・・・・。そう言えば、私の高校時代でも、古文の先生が(なんと名前が大迫力男~おおさこりきおです、だいはくりょくおとこではありません)、蒸し暑い教室で皆がだらけていると、「乃木大将は、一言も暑いとか寒いとか不平を口にすることはなかった!」と檄を飛ばしてましたっけ。


巻末にある日本海海戦の解説図は海戦の進行と合わせて見ると非常に面白い。
この図はまさにT字回頭の場面です。
艦隊の進路の判断一つで(一斉回頭か個々の回頭かによっても全然違う)戦局がまったく違ってくることがよく分かります。


それにしてもNHK、ドラマの放送を3部に分けて3年間かけて行うということですが、「ロード・オブ・ザ・リング」か「ハリー・ポッター」と間違えてませんか?




9月某日

2009-09-25 | 日常
9月の或る日、カミさんが突然切り出します。
「明日は何の日でしょうか!」
「さやかちゃんの誕生日!」と、娘・・・。
「あれ? アメリカ同時多発テロの日?」と、私・・・。
カミさんの目がつりあがります。
「違う!やっぱり忘れてるわ! いーい?けつこんきねんびよ!それも10回目の!」
おっと・・・、そうであった・・・ケッコンキネンビ・・、やっぱり同時多発テロだ・・・。

「どこか食事に連れてって!」と、たたみ込むカミさん。
「やったー!回転寿司がいい!」と、小躍りする娘・・・。
「じゃあ、角に出来た新しい焼き鳥屋さんにしようか?」と、私・・・。
カミさんの声が怒りに震えます。
「全然判ってない!ちゃんとした所にして!」
「ちゃんとしたところって?どこ?」と、考え込む娘と私・・・。

めでたく選ばれた「ちゃんとした」レストラン、「ラ・セッテ」に行ってきました。


これは、二皿目に出てきた「旬を盛り込んだ前菜盛り合わせ」
生ハムにラタトゥイユ、サーモン、イチジクのサラダ、にんじんのピュレ、タコ、トリッパ、うずら、アユ・・・・・・、ワインが進む、進む。
そうそう、この日のワインは、ピノ・ノワール・ビアンコ。
ピノ・ノワールなのにビアンコ?そう、ロゼの様な色合いですが、れっきとした白ワインです。甘いアロマを裏切るすっきりとした辛口です。気に入った。
ちなみにカミさんはお酒が一滴も飲めません。
「なんか、パパばっかり、不公平だよね」と、娘と非難の目線・・・。
とにかく、10年間がんばった自分にご褒美です。
この後、パスタが二皿、そしてメイン、最後にドルチェというコース。
さすが北村シェフの料理は美味しいなあ・・・



贅沢したから帰りは市電を乗り継いでね・・・。





オーバーロード

2009-09-13 | イギリス

アーサー・C・クラーク「幼年期の終り」


浦賀沖に突然現れた「黒船」。ペリー提督は、その圧倒的な「力」をもって、姿を現すことなく日本を統治する。
と、いうお話ではなくて、やってくるのは宇宙人(オーバーロード)です。
その「目的」がなかなか明らかにされないのですが、怖いです。
戦争を禁じられた以外は地球人は何も強制されません。人類はみな豊かになり、いつしか娯楽国家として一つにまとまることに・・・。

「こっくりさん」も登場します。私の小学校時代、「こっくりさん」がクラスで一瞬だけブームに。3日後には全校で禁止令が出されました・・・。
この超常現象が次のお話の鍵となっていきます。
「ニュータイプ」?も登場します。と言うか、ガンダムもこの作品の影響を大きく受けているのでしょう。
最後の地球人となったジャンが求めるのは、バッハの楽譜・・・・。示唆的です。

地球、太陽系、銀河系、そしてその外・・・・
インキュベーターとしての役割を終えた地球の最後には言葉を失います。







夏のスナップ③

2009-09-12 | 日常

九州国立博物館でやっていた阿修羅展にも行きました。
開館30分前に着きましたが、既に長蛇の列。
かなりの人が朝日新聞社が配った招待券を持ってます。


音声ガイドは黒木瞳だ。
耳元でやさしく阿修羅の世界を語ってくれます。

阿修羅像は興福寺で何回か見たことがありましたが、
興福寺国宝館での展示は雑然とならべられているだけでしたので
有難味が今ひとつ・・・・。
今回の展示は照明などの演出も利いていて存在感があります。
しかし、人が多い。阿修羅を見に修羅場を通る・・・
八部衆立像など見所もあるのですが、
全体の展示数が少ない!という印象です。
出口付近では同様の声がいくつか聞こえてきます。
まあ、中金堂再興のための資金集めなのでしょうし、
招待券での鑑賞ですから文句は言いますまい。

昼は小倉に戻り、名店「田舎庵」で鰻を。


この田舎庵、今時珍しく夏場は天然物を食すことが出来ます。
昨年までは、天然物が入れば養殖物と同料金での提供でしたが、
今年から天然物は別料金というシステムに変わったと、
各席にお詫びの文章が置いてありました。
この日の天然物は有明海筑後川河口のもの。
でも、我々は迷わず養殖物(焼津産)を注文します。


美味しい!
のっている鰻の量で松、竹、梅と値段が分かれていますが、味はどれもいっしょ。
少しごはんの量が少なめなので大盛り(無料)が男性にはいいかも。

鰻は田舎庵です!







夏のスナップ②

2009-09-11 | 日常
一泊旅行に蒜山高原に行きました。


ジャージー牛は、ここ蒜山に全国の3分の一が・・・


高原を一周するサイクリングロードもあります。
コロ付きで一周は無理無理!

利用した宿は休暇村。
1泊2食で、すぐ近くにある遊園地(ジェイフルパーク)のフリーパス(2500円)が付いて、1万円という格安プランでした。


このジェイフルパーク、もっと寂れてると思ってましたが、
なかなかがんばってました。
ほど良く混んでて、でも何回も乗れて・・・・
でも私は高所恐怖症・・・・
こんなスカイサイクルも実はドキドキです。

蒜山の魅力の一つはアクセスの良さ。
高速降りたらスグ!です。
蕎麦なんかもなかなかに美味しいです。






夏のスナップ①

2009-09-09 | 日常
有ったのか無かったのか・・・今年の夏。
簡単に振り返ると・・・・。


NYに住んでいる従兄弟ファミリーと久しぶりに再会。
NYでは花火は禁止なんだって。
だから子供たちは大喜び。


その従兄弟たちと、陶芸やってる私の弟の家(工房)に。
涼しげに見えるけど、蒸し暑い1日だった。


ayaneちゃんは7歳にして凄腕バイリンガル。
機関銃のように出てくる会話に、おしゃべりな娘もしばし沈黙・・・。
さすがNY育ち、描く絵もどこかサイケデリックな色使い。





愉快、痛快、奇奇怪怪

2009-09-01 | イギリス

ディケンズ「デイヴィッド・コパフィールド」

随分と昔、当時復刊された岩波文庫の旧版で読み始めたのですが、ちっとも面白くなく1巻途中で放った
らかし・・・。今回、新潮文庫で再スタート。こちらも訳が古いですね。これなら5巻本となってちょと
割高ですが、岩波文庫(新版)の方が挿絵も充実していてお得かも。
肝心の感想ですが・・・・、面白いじゃないですか!
物語のスピード、奥行などがバランスが悪く、のどごしが今ひとつよろしくない!とか
主人公デイヴィッドくんは何ら自分で人生を切り開かずに、周りに導かれているだけじゃないか!とか
いくら運命の2人とはいえ、運命的に殺してしまうのはいかがなものか?とか
最後、オールスター登場とばかり、出演者をカーテンコールさせるのはちょっと行き過ぎ!とか
突っ込みどころは満載なのですが・・・
とにかく面白いんです。出てくる登場人物たちが!
富める者、貧しい者、働き者、ずぼらな者、賢い者、おばかな者、健やかな者、不具なる者、祝福され
る者、呪われる者、正直な者、邪な者、賞賛される者、卑怯な者、・・・・・・・・・・・・・
正直言って、デイヴィッドの人生なんてどうだっていい、むしろ沢山の登場人物の顛末、エピソードが
この作品の価値そのものです。19世紀ヴィクトリア中期のロンドン、ミドル階級から底辺階級の人々の
暮らし、路地裏、宿屋、パブ、劇場、駅馬車,etcの描写を取り混ぜ、とにかく可笑しく、時に哀しく綴られていきます。

以下、マイフェイバリット登場人物です。
まずは良い人
「ベッツィ・トロットウッド」 デイヴィッドの大伯母さん。家の敷地に入る驢馬を撃退する。デイヴィッ
ドを連れ戻しに来たマードストン兄妹を撃退する。おぞましいユライア・ヒープを「ウナギか!」と一
喝する。などなど痛快な性格でデイヴィッドの後ろ盾となる。ロンドンは火事が多いので屋上非常口の近くに部屋を取りなさい!ロンドンはスリばかりだから片時も油断してはいけない!なども口癖です。
「ペゴティ」 デイヴィッドの乳母。いつも献身的にデイヴィッドの世話をしてくれる。デイヴィッドを抱
きしめる度にお仕着せのボタンが弾けてしまう。
「ミスター・ペゴティ」 ペゴティのお兄さん。学も財も無い身分であるが、その純朴な性格と真正直な生
き方でデイヴィッドの力になってくれる。
「ミスター・ディック」 ベッツィー伯母さんの家の下宿人。ちょっと頭が足らないが、いつまでも忘れな
い少年の純真さでデイヴィッドに係わる人々をいつも和ませてくれる。
「ウィルキンズ・ミコーバー」 デイヴィッドの大家さんだが、いつも借金取りに追われとうとう債務者監
獄に入れられてしまう。慢性金欠病のくせにいつも大きな夢を見ている。一方で手紙魔。その文章は難解かつ傑作。彼の作るポンチ酒は美味そう。ディケンズの父親がモデルと言われる。
「トラドルズ」 デイヴィッドの学友。学校時代は先生に怒られてばかりのぱっとしない存在。骸骨の落書
きが得意。すぐ人に同情する性格で、ミコーバー氏にも多額の金を用立てする。
「アグニス・ウィックフィールド」 ちょっと出来すぎ感もある女性の鑑(あくまで男性視点として)。
悪いやつ
「ユライア・ヒープ」 いつも卑屈で気持悪く身をよじり、触る手は濡れてる様なキモイ男。デイヴィッド
に異常なまでの対抗心を燃やし、邪悪な計画を遂行する。
「スティアフォース」 デイヴィッドの親友。恵まれた身分の出であるが、それゆえの甘やかされた歪んだ人格形成をしている。彼のデイヴィッドへの悪影響を一番にアグニスは指摘するが、デイヴィッドはその時には理解できない。
「マードストン」 デイヴィッドの継父。デイヴィッドの母親との再婚後、妹のジェインとデイヴィッドに辛く当たり家を牛耳ってしまう。
「リティマー」 スティアフォースの従僕。ちょっとジーヴス的存在感を示し期待を抱かせるが単なる小市民。デイヴィットの苦手な相手。
ちょっと哀しい人
「ミス・モウチャー」 身体的な欠陥をものともせず、懸命に生きる人。スティアフォースの裏切りに知らずと加担するが、そのことを悔い、デイヴィットとの約束を果たし最後には大活躍をする。彼女の姿は岩波文庫版挿絵を参照のこと。
「ミス・ダートル」 スティアフォースの従姉妹。彼との関係はちょっと歪んだ愛情関係か。激しい感情表現でデイヴィットを固まらせる。

それ以外にも名も無き泥棒、古着屋、給仕などなどこれでもかと魅力的?な人々が登場します。台詞はありませんが、ベッツィ伯母さんの使用人ジャネットもけっこうお気に入りです。ちゃんと幸せな結婚をして良かった!

ロンドンでの丁稚奉公から逃れるために、ひもじさ堪えてベッツィ伯母さんの住むドーバーを目指すデイヴィッドがたどる道は、以前ご紹介した「最後の注文」で男たちがドライブした道なんでしょうね。