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英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

10年早まったのか「1984」

2010-07-21 | イギリス

ジョー・ウォルトン「英雄たちの朝(ファージングⅠ)」


1949年、イギリス南部に広大な敷地を持つ貴族の館。週末、そこで身内だけのパーティが催された。集まった者たちは保守党の要人そしてその妻たち。彼らは館の名に因んだファージング・セットと呼ばれる政治派閥の面々である。館で生まれ育ち、周囲の反対を押し切ってユダヤ人実業家と結婚したルーシーも夫とともにこのパーティに招かれていた。その夜、下院議員が殺害される。死体に何かのメッセージなのかユダヤ人のワッペンが残されていた。駆けつけたスコットランド・ヤードの刑事カーマイケルは、この事件に何か陰謀めいた臭いを感じる。そして第2の事件が・・・・。ここまでだと、伝統的な館、密室殺人事件です。が、この話がちょっと違うのが、1949年のイギリスが我々の知っているイギリスとは違うということ。先の戦争は連合国側の勝利で終わってはおらず、ルドルフ・ヘスの来英を期とし講和が成立。ヒトラーはいまだ健在で東部戦線はいつ果てるとも無く続いている状況。大陸のユダヤ人の絶滅作戦も進行中という時代なのです。
3部構成の最初の巻ということなので全体の評価は未知数ですが、ちょっと今後に期待できる読み応えでした。館での貴族の生活描写も興味深いですし、ナースリー・ティーという子供たちのための午後のお茶の時間があるということも初めて知りました。(アッパークラスの夕食は子供といっしょには行わないことが多かったために、このお茶の時間が子供たちの夕食を兼ねてたんですって・・) 館の図書館でルーシーの夫が読みふける本がジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男」というのもご愛嬌。それにしてもイギリス人には同性愛者が多いのかなあ・・。この作品に限らず多いですよね。
この巻の結末が暗示する全体主義と独裁への傾斜は「1984」への流れなのでしょうか。作中オーウェルの「1984」は「1974」と改変されて登場しています。

早く次巻の発売を・・。






あっちっち・・・

2010-07-20 | 日常
先週のドカ雨も凄かったけど、
梅雨明け途端の猛暑も凄すぎます。
本日、福岡36度を超えてます。



写真は日曜日、小倉です。
この日は祇園祭、据え太鼓の競演会ですが・・・
暑すぎて、暑すぎて・・・
観覧席のベンチがあっちっち、で座れたもんじゃありません。





お城が揺らめいて見えます。


「老い」は楽しくもある

2010-07-05 | イギリス

デイヴィッド ロッジ「ベイツ教授の受難」


ベイツ教授は「言語学」の先生。極度の難聴で大学は早期退職。悠々自適の生活と思いきや、やり手の奥さんに少々遠慮した毎日を送っています。高性能の補聴器を両耳に付けてはいるが、反響の大きい場所では使い物にならないし、電池を買い忘れて肝心な時には聴こえないなど失敗談が自嘲気味に語られていきます。自身の「老い」も相当ですが、ベイツ先生のお父さんの「老い」もなかなかなもの。おしっこも近いし、ボケもかなり深刻です。なんとか環境の良い介護施設に入ってもらおうとベイツ先生、お父さんを説得しているのですが・・・。
これだけですとただの「老い」小説なのですが、ここに不思議な女子学生が絡んできます。うーん、このアレックスという女子学生、「遺書」をテーマに論文を書くのだと近づいてくるのですが、どうも最初から存在がイラつきます。よせばいいのにベイツ先生、このアレックスに押し切られる形で彼女の自宅を訪問するはめになっちゃうのですが。
読み始めのコミカルさ、アレックス登場後のやばさ、後半のシリアスな場面などなど、展開はけっこう面白いのですが。どこかバランスが欠けた印象が拭いきれません。何かがじゃまをしているのです。何かというと・・・・。そうだ、アレックスだ。彼女のエピソードが中途半端で全体の調和を乱しているように思えます。もっと彼女の「悪女」さを強く出すか、逆に徹底的に彼女に仕返しをするかすれば、もっと違った印象にもなったでしょうに・・・。そもそも彼女を登場させないほうが良かったかも。
家族が集うキリスト降誕日とボクシングデイの過ごし方は、日本のお正月とそれほど変わりませんね。
それと、言語学の知識(もちろん英語も)があれば、もっと笑えたのかも。
色々といちゃもん付けましたが、ちゃんと面白く、考えさせられるお話でした。