英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

哀し苦いヴィンテージ・・

2010-10-25 | イギリス

ポール・トーディ
「ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン」



「イエメンで鮭釣りを」でファンタスティックな世界を与えてくれたポール・トーディの第2作です。
冒頭からいきなり読者を鷲掴み・・・。政治家も訪れるロンドンの高級レストランに男が一人訪れます。予約席に案内された彼は、一見風采の上がらない格好・・・。その彼がソムリエにオーダーしたワインは、「シャトー・ペトリュスの1982年もの」1本3000ポンドなり。一気に緊張が走る店内。支払い能力を疑うマネージャーのクレジットカードの写しを取らせて欲しいとの慇懃な申し出に、彼は分厚い札束を見せることで応えます。得意顔でペトリュスをサーブするソムリエ・・・、そしてこの騒動に気づいた付近の客は、興味津々、彼を見つめる。しかし、彼は・・・、ちょっと様子が変だ。彼は誰か見えない相手と会話し、歌っているようだ。そして何と!まだ目の前のボトルを飲んでしまっていないのに、もう1本、同じ1982年のペトリュスを注文するのだった。
彼、ウィルバーフォースは深刻なアルコール中毒で、膨大なワインコレクションに溺れる日々。かつては新興IT企業経営者の先駆けとして成功をおさめた彼であるが、今の財務状況は一文無し寸前。彼の転落の軌跡を時代を遡ることでたどるのが、この物語です。
「酒飲みの自己弁護」と良く言いますが、彼自身はことの深刻さを十分に理解できていません。飲酒量を指摘されると、テイスティングだと切り返す。妻を事故で亡くした責任も、妻自身が引き起こしたとばかり弁明する。彼を崩壊に導くきっかけとなったのが、古い邸宅の地下にあるフランシスのワインコレクションとの出会いなのですが・・・。
コルクを抜かれたワインは空気と触れ合うことでその素晴らしさを存分に発揮させます。しかし、どんな極上のワインもその後はひたすら酸化が進み、ただただ醜悪な液体になるばかりです。ウィルバーフォースの一瞬の輝きと転落もこのワインと同じだったのでしょうか。やるせなさと哀しさが時にユーモアを交えながら語られていきます。

ポール・トーディ、ありがとう!






ガーデニングワールドカップ2010ナガサキ

2010-10-19 | 日常

H.I.S.傘下となり、再出発したハウステンボス。その最初の大型イベントが、これ、「ガーデニングワールドカップ2010ナガサキ」。チェルシーフラワーショー等のメダリストたちが競うこの企画を3連休の中日に訪れてみました。フラワーショーの会場はパレスハウステンボスの前庭を中心に設けられ、マルシェも立ち賑わっています。この日はH.I.S.ハウステンボスとしては最高の2万人を越す入場者数だったとか。


チェルシーフラワーショー3年連続ゴールドメダリスト石原氏が自ら作品の解説をしています。


解説の合間に、気軽に写真撮影に応じていただけました。


石原氏の庭。
昔からここにあったかの様な自然な演出です。






今回のフラワーショー全体のテーマが「平和」ということで
ちょっとコンセプトの強い作品も



池の上に東屋、掘り炬燵の様に見えます。
座っているのはガーデナー、ジム・フォガティ氏とH.I.S.社長の沢田氏です。



今年のチェルシーゴールドメダリスト、アンディー・スタージョン氏の作品。


松かさから種子が飛び出すイメージを庭に表現したニコ・ウィッシング氏の作品。


隣接するパレスハウステンボスでは何組も結婚式が行われていて、
新郎新婦が馬車で行き来します。


パレスの庭はイングリッシュガーデンの対極にあるバロック式庭園。案内が不十分だったのかこの庭はひっそり・・・。


フラワーショーの第2会場には正直がっかり。
いっそのこともっとベタに植木市を開催するとかすればよかったかも。




で、テーマパークゾーンはハロウィンまっさかり。


娘には、こちらの方が楽しいよね。











2010-10-06 | イギリス

ドロシー・L・セイヤーズ「ナイン・テイラーズ」


有閑貴族で探偵好きなピーター・ウィムジー卿。彼は次男坊だから土地に縛られることもなく、どこへでもフットワーク軽く従僕のバンター引き連れてお出ましになる。大晦日、2人の乗るダイムラーがとある村で脱輪。途方に暮れる2人の耳に鐘の音が。導かれるままにたどり着いた教会で客人として歓待されるウィムジー卿。たまたま欠員が出た新年の鳴鐘を9時間ぶっ続けで手伝うこととなったのですが・・・・。
ウィムジー卿が村を後にした後、顔が潰され手首が切断された死体が墓地から発見される。何がこの村に起きているのか。過去にあった宝石盗難事件は関係があるのか。捜査のために招聘されたウィムジー卿の推理は如何に。
このお話の主人公は教会の鐘塔に吊るされた鐘たちです。それぞれに名前が付けられ、その鳴らし方も色々な作法?があり、教区の皆から大切に扱われています。正直、前半はこの鳴鐘法云々がちょっと退屈。でもこの鐘を鳴らしている時こそが真相に迫るヒントなのです。
訳文は村人のリアリティを出すためか、方言丸出し台詞が多用されますが、ちょと読みづらかったかな。それとウィムジー卿を「御前さま」と呼ぶことにはちょっと苦笑・・。寅さんに出てくる御前様・・笠 智衆を思い出しちゃいました。そう言えば御前様の寺では蛾次郎が鐘を撞いていたなあ・・・。
後半はスイスイ。めでたしめでたしというラストではありませんが、「そう来たか!それじゃあ、あんたも犯人じゃん」という面白さです。



話は変わりますが、鐘が印象に残った作品としては、コニー・ウィリスの「ドゥームズデイ・ブック」があります。映画では・・・「史上最大の作戦」ですかね。教会の屋根に引っかかってしまった落下傘部隊の兵士。連合軍侵攻を知らせる鐘が兵士の顔横で鳴り続けます。結局兵士は助かるのですが、鐘の音を間近で長く聞いていたため耳がきこえなくなってしまうんですね。