英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

ドレイクの方程式って?

2008-02-26 | イギリス

イアン・R・マクラウド「夏の涯ての島」

SFを前にすると、ちょっと構えてしまいます。描かれる時代設定、システム描写に拒絶反応を起こさないかと心配してしまうのです。さて、この作品集はどんなもんでしょうか・・・・。

「帰還」
何回も宇宙からの帰還を繰り返し、その度に家族とまったく同じ再会をする宇宙飛行士のお話。
ちょっとブラッドベリの「火星年代記」を思い出しました。

「わが家のサッカーボール」
人間が動物に変身することが出来る能力を身に付けた未来。お母さんが変身したのは、なんと「ナマケモノ」。

「チョップ・ガール」
「双生児」でも出てきた英空軍戦略爆撃飛行中隊。何でも縁起を担ぐ兵士達の中にあって、中隊で働く彼女は「不運(戦死)」の象徴であった。そんな時、絶対に帰還する全ての運を味方に付けた飛行士が現れて・・・。
一番SFらしくない作品。

「ドレイクの方程式に新しい光を」
カプセルを服用するだけで他言語を習得出来たり、羽根を付けて空を飛行出来たりする未来。山奥にこもり、ひたすら地球外知的生命体とのコンタクトを試みる老科学者。その研究はもはや時代遅れとして世間から忘れられた存在となっていた。彼の人生、そして恋を振り返りながら語られる物語。何かデジタル化の波に抗って生き続ける現代のアナログ人間を表しているような印象を持ちました。随所に出てくるSF作家達へのオマージュも。
村の郵便局で、頑なに仕分け棚を守り続けるフランス人女性がいい味を出しています。
ドレイクの方程式とは、地球外知的生命体が存在する確立を求める数式です。

「夏の涯ての島」
歴史改変物です。第一次世界大戦で敗戦したイギリスは全体主義が支配する体制となっていた。その指導者とオックスフォードの老教授の関係とは・・・・。
もともと長編として書かれて、短くされた物とあって読み応えがあります。ファシスト政権下のロンドンの風景は・・・、在英ユダヤ人の運命は・・・。

「転落のイザベル」
「10001世界」の物語。「転落」の英語「fall」がキーワードとなるお話です。独特の世界観がキレイな語り口で描かれます。私にとってはこのアタリが限界かも・・・・・。

「息吹き苔」
同じく「10001世界」でのお話ですが・・・・・。正直ついて行けませんでした。ギブアップです。

ちょっと脳天気な脳外科医

2008-02-23 | イギリス

イアン・マキューアン「土曜日」

ヘンリー・ペロウンは自他共に認める脳神経外科の名医。美人の妻は有能な顧問弁護士として働き、彼女の父は著名な詩人でフランスにシャトーを持っている。その祖父の影響でオックスフォードを出た娘は新進の詩人として文学賞を取り自作の出版も決まっている。息子は音楽を志し、ブリティッシュ・ブルースのジャンルで国を超えて評価を得ている。交通至便なロンドン中心部にセントラルヒーティングが完備した居を構え、エンジン音が自覚できないベンツを愛車とする。そんな何の悩みも不安も無いであろうペロウンの週末の一日は・・・。

ジョン・マグレガー作「奇跡も語る者がいなければ」が、ダイアナ元妃死去の一日を多角的、パノラマ的に描き出したのに対し、この「土曜日」ではヘンリー・ペロウンの目を通して、細密画のように、むしろ高速度デジタルハイビジョンカメラの様に一日が余すことなく記録されていきます。下垂体腫瘍を切除する手術の場面が・・・・、息子の指から迸る旋律の煌きが・・・、スカッシュのラリーでバウンドするボールの軌跡が・・・・、バックミラーにちらりと映る赤い不安が・・・。
語られるのは2003年2月15日の土曜日。イラク戦争を間近に控えたロンドン。ペロウンは夜明け前に目が覚めてしまい窓の外にある目撃をしてしまう。遠くの恐怖と近くの恐怖。恐怖と安堵、不安と安らぎ、興奮と沈静・・・・。年齢、性別、国籍、収入等関係なく押し寄せる、グローバルかつ身近な恐怖と不安に対し、日常生活の中で折り合いをつけていかなければならない現代人のさだめと哀しさ。
久しぶりにイッキ読みをしてしまいました。

ペロウンの自宅はロンドン中心部、フィッツロヴィア地区、テレコムタワーの近くという設定。地図から推察するにフィッツロイ・スクエアに面する一角であろうか。作者マキューアンも実際このあたりに居を構えているということ。最寄の地下鉄駅はウォーレン・ストリート駅。グレート・ポートランド・ストリート駅。ユーストン・スクエア駅。リージェント・パーク駅も徒歩圏内で計6本の路線を利用することが出来る場所。実際この一角の写真はこのサイトで見ることができます。どう見ても庶民が暮らせる場所ではないですね。
http://www.urban75.org/vista/fitzroy.html


読んでいる途中、何故か村上春樹を思い出してしまいました。
手術中、バッハのゴールドベルク変奏曲を流させるというくだりと、次の一節の部分がそうさせたのでしょうか。
~「アンナ・カレーニナ」と「ボヴァリー夫人」という定評ある名作を読み通したこともある。(中略)それで結局、何が分かっただろう。~(土曜日)
~僕は「カラマーゾフの兄弟」と「静かなドン」を三回ずつ読んだ。「ドイツ・イデオロギー」だって一回読んだ。円周率だって小数点十六桁まで言える。それでも彼らは僕を笑うだろうか?たぶん笑うだろう。死ぬほど笑うだろう。~(羊をめぐる冒険)

学生時代、「ドイツ・イデオロギー」がテキストとして使われた演習がありました。ある日、私の番でその数ページ分の発表をレジュメを使って行ったところ・・・、先生から「今のが、大学における発表と呼べるものでしょうか・・・」ととても静かに怒られてしまいました。けっこう自信を持って行った発表だっただけにかなり凹んだことを憶えています。それ以来「ドイツ・イデオロギー」と聞くだけで耳が熱くなります。1年後、同じ先生の原書購読の時間、独語の訳を分担された個所を私が行うと、「流暢かつ完璧な訳ですね」と静かに今度は褒めていただき、これまた耳が熱くなったことを思い出します。

市川崑逝く

2008-02-14 | 日常

私にとって市川作品といえば「細雪」ですね。映画館で始まったとたんに「もう一度観たい」と感じてしまいました。
冒頭の雨に煙る嵐山のシーンでの微妙にずらされた4人姉妹のお膳の位置。そして花見のシーン。子供達の赤い帽子、燃えるような枝垂桜・・・。流れるヘンデルのラルゴ・・・。単純に色彩だけで涙が出そうになってしまったことが思い出されます。
戦争の足音が近づく中での束の間の平和。家の格式を守ろうとする長女、三女の縁談に気をもむ次女、自由な世界に憧れる四女、そして三女に微妙な感情を懐く次女の夫・・・・・。
やっぱり「吉兆」の仕出し弁当は美味しかった・・・・くだりなど、今となって笑いを誘うエピソードも入っていて。
「雪子ちゃん、ねばらはったなあ」 柔らかな大阪弁も心地良い映画でした。

あと「吾輩は猫である」もお気に入りです。

ご冥福をお祈りします。

カムデンにはボートで

2008-02-13 | イギリス
カムデン・ロック・マーケットが火事になったというニュースが10日流れましたね。どれくらいの被害かわかりませんが、早く復活して欲しいものです。ロンドン有数のフリーマーケットとして有名なこのエリア。日曜日もオープンするのでその日は大混雑。最寄の地下鉄カムデンタウン駅は日曜午後には混雑回避のため降車専用になるので注意が必要です。(もうひとつ、この駅はぎりぎりゾーン2になっていますので、トラベルカード等での乗り越しにはご注意を。ロンドンの地下鉄では乗り越し精算ではなく、罰金となる規則ですから) このマーケットは複数のマーケットが運河(ロックは水門の意味です)と鉄道に挟まれた一角にかたまった物です。広場もあれば、ビル内もあるといった感じ。もちろん古着・雑貨系の素人ストゥール(店)も並びますが、大半はプロの常設でオリジナル商品も沢山あります。チャイニーズやタイフーズの屋台なんかも出ていますが、飲食店は人出に比べて少なめ・・・。フライド・ヌードルと称する焼きそばを食べてみましたが、なんとも無国籍なテイストでした。
大混雑のフリマ。くれぐれもスリには気をつけて。



妻が買ったデニムのジャケット


カムデンへのアプローチとして船というのはいかがでしょうか。パディントン駅のちょっと北、リトル・ベニスと呼ばれる場所から遊覧カナル・ボートが出ています。ロンドンにはかつての水運として利用された運河が数多く残っているのです。
私達がボートに乗ろうとうろうろしていると、女性が声をかけてくれました。地図をわたしながら、「乗場は橋をわたって向こう側、でも急いで、時間だから!」 走って乗場を目指すと、無線で連絡が入ってたらしく、係員のオジサンが向こうから「スローダウン、スローダウン」と笑いながら手を振ってくれてます。カムデンまでの料金を払ってボートに乗り込むと席は満席・・・、すると真ん中あたりの客が「ここに君達のスペシャルシートを取っておいたよ」、と2人分の席を空けてくれました。
ボートは橋をくぐり、時には長いトンネル(真っ暗)をくぐり狭い水路を50分かけてカムデンに向います。運河の横は、かつては船を曳航する馬が通ったに違いない小道になっており、ジョギングする人や、散歩する人でけっこう賑やかです。魚釣りをしているオジサンもいます。ちょうどボートがオジサンの前を静かに通った時、いきなり小さな魚が釣れたのでボート中から拍手が送られます。オジサン、照れて帽子を脱いでちょっと会釈・・・・。途中から、お屋敷街の裏庭っぽいところを通るのですが、乗り合わせたお客さんの半数ぐらいが、どこぞのコーラス団の関係者らしく、誰からとも無く歌が始まります。いつの間にか混声合唱を聞きながらの船旅です。リージェント・パークの北側に出て、しばらく進むとロンドン動物園(ZOO)。ここで何人かのお客さんが降ります。再びボートが動き出し、ほどなくカムデンの赤茶けた建物が見えて来て終着・・・・となります。
もちろん逆方向のツアーも可です。



こんな感じです。

読んだことがなかったブリテン

2008-02-10 | イギリス
ウィリアム・ブリテン
「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」


読書のローテーションの中にこういう作品集を入れると息抜きになっていいですね。フレンチのフルコースの合間にでる「お口直しのソルベ」というか、食後のチーズと言いますか、気分転換にも一日の締めくくりにも使える作品集です。
大御所ミステリー作家に心酔する者達がご本家張りに事件を解決したり、事件を起こしてみたりというブリテンの「~を読んだ」シリーズを初めてまとめ上げたのがこの本。パロディ集というよりそれぞれのご本家の世界に誘う愛情に満ちたブックガイドとなっています。後半の作品は「おまけ」ですが、やはりポーやディケンズ、ドイルなどに引っ掛けた小品です。
個人的には「レックス・スタウトを読んだ女」「アガサ・クリスティを呼んだ少年」「ダシール・ハメットを読んだ男」「ジョン・クリーシーを読んだ少女」「ザレツキーの鎖」が気に入りました。レックス・スタウトとジョン・クリーシーは私にとって「読んだことがない」作家でしたので今後の楽しみが増えました。


「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」
「エラリー・クイーンを読んだ男」
「レックス・スタウトを読んだ女」
「アガサ・クリスティを読んだ少年」
「コナン・ドイルを読んだ男」
「G・K・チェスタトンを読んだ男」
「ダシール・ハメットを読んだ男」
「ジョルジュ・シムノンを読んだ男」
「ジョン・クリーシーを読んだ少女」
「アイザック・アシモフを読んだ男たち」
「読まなかった男」
「ザレツキーの鎖」
「うそつき」
「プラット街イレギュラーズ」

地下鉄映画

2008-02-07 | イギリス
久しぶりに大阪出張に行ってきました。地下鉄御堂筋線に乗りながら、駅の構内アナウンスで繰り返される「トビラが閉まります」のイントネーションがやはり関西風なことに妙に感心しちゃいました。かつて近鉄奈良線沿線に住んでいたので人で溢れかえる天井の低い難波駅も懐かしく感じます。大阪の地下鉄は東京と違って南北、東西とだいたい決まっているので分かりやすい。でも運賃は高いぞ。それと東梅田、西梅田から他路線に乗り換えようと思うと地理感がないと大変ですよね。
さて、唐突ですが地下鉄を舞台にした映画の中でお薦めはというと・・・、次の2本ですかね。



1本目は、84年公開のリュック・ベッソンが監督した「SUBWAY」
クリストファー・ランバート主演で イザベル・アジャーニも艶っぽく演じていました。巨大なパリの地下鉄(メトロ)網を根城に生息する若者たちを描いたこの作品、現実のメトロを舞台としていながら近未来のイメージを上手く醸し出した意欲的な名作だと思います。若きジャン・レノがさえないドラマー役で出ているのも見所です。
パリのメトロ駅はロンドンと比べるとホームが向い合わせのドーム状で広く開放感があります。駅名も大きく掲げられており、どの駅に着いたかがすぐに分かります。巨大な構内広告ポスターもなかなかアートしています。地下鉄ですから基本地下を走りますが、結構地上も走ります。セーヌ河を橋で渡る路線もあります。(そこからのエッフェル塔の眺めがいいですよ) 映画の中でも出てきますが、シャトレ駅の構内なんかは隣のレ・アル駅とRERのシャトレ-レ・アル駅と繋がって、回りのショッピングモールと相まって巨大地下帝国の様相です。動く歩道も用意されてますが、ローラースケートが欲しくなります。



2本目はロンドンの地下鉄を舞台としたオムニバス映画「Tube Tales」。タイムアウト誌が公募した脚本9作品をボブ・ホスキンス、ユアン・マクレガー、ジュード・ロウなど9人がそれぞれ監督したというもの。軋むレールの音、生暖かい風、埃っぽくでも甘い香り・・・・ロケも実際の駅構内で行われており、ロンドン地下鉄を満喫できます。この映画がシャレているのがそれぞれのタイトル、クレジットが画面の中に上手くはめ込まれていること。例えば壁の落書きだったり、食べてるフライドポテトだったり・・・、見つける楽しさも魅力の一つですね。それ以外にもさり気ない仕掛けがされてたりして・・・。DVDで何回か観ると「ああっ」て見つけられますよ。

チャイニーズ・ルーレット

2008-02-01 | 日常

このパッケージ、なかなかいいデザインですね。
真ん中の「肉餃子」の文字が、何の肉でも最高の食材にしてしまう味に対する大きな自信を表していますし、シズル感たっぷり、ぱりぱりの焦げ目がついた写真が食欲を大いにそそります。極めつけは「本場中国」の文字。世界3大料理のひとつ中華料理の「本場」ですよ「本場」!!焼き餃子は中国には無い!という不埒な噂を払拭するキメコピーですね。そして左上に燦然と輝く「CO-OP」のロゴマーク。「安全・安心」のロイズ保険です。1844年にイギリス、ロッチデールで生まれた協同組合運動の長い歴史の結晶です。
これで売れないはずは無い!ですね。最高の食材を最高のレシピで作り上げ、万全の安全保障で食卓にお届けする!今年のデザイン賞はこれが本命でしょう。