20世紀イギリス短篇選(上)
この上巻では一部を除き第2次世界大戦あたりまでの作品が収録されています。巻頭を飾るキップリングの作品は19世紀末の発表ですから厳密に言って「20世紀・・」ではないのですが、これがいきなり重厚で沈痛なテーマで迫ってきます。大英帝国が最大限に膨張しようとしていた当時の、まさに帝国の辺境で帝国を支え続ける4人のイギリス人たち。鉄道関係の技師たち、医者、そして現地支配層を操る役人。本国から遠く離れた過酷な土地で彼らは何を信じて日々を送るのか・・・。
続くベネット、モーム、フォースターと「死」をテーマとしたものが並ぶ構成・・・。ちょっと息が詰まりそうになったところで、ウッドハウスが登場します。チェルシーの芸術家が多く集まるアパートでの出会い・・・。ジーヴス物なんかとはちょっと違うウッドハウスが楽しめます。
戦争で傷ついた夫の帰還を複雑な思いで迎える妻の話であるロレンスの「指ぬき」、数多くの翻訳が出ているハックスリーのミステリー「ジョコンダの微笑」・・・・・・、イギリスがまだ大きな帝国だった頃、時代を映し出しながら描かれた作品たちが楽しめます。
「船路の果て」ラドヤード・キップリング
「故郷への手紙」アーノルド・ベネット
「ルイーズ」サマセット・モーム
「岩」E・M・フォースター
「上の部屋の男」P・G・ウッドハウス
「キュー植物園」ヴァージニア・ウルフ
「痛ましい事件」ジェイムズ・ジェイス
「指ぬき」D・H・ロレンス
「脱走」ジェイス・ケアリー
「ジョコンダの微笑」オルダス・ハックスリー
「幽鬼の恋人」エリザベス・ボウエン
「単純な生活」H・E・ベイツ