人形即興曲
序:静謐な森
乱菊は、深い深い森の中を歩いていた。その果てにある一軒の屋敷を訪ねるためだ。乱菊の家は代々呉服屋を経営しており、今から行くところはそのお得意先だった。しかし父が死に、母も早くに亡くなっていたので親戚は早々に店をたたんでしまい、一人娘の乱菊だけが残された。そのため、その屋敷でお世話になることになったのだ。乱菊はもうすぐ成人する歳であったため、これを機に独り立ちを考えていた。というか、独り立ちをしたかった。しかし乱菊にはまだ職もなく、とりあえずは居候させてもらうことに落ち着いた。
「…本当に何もないところねえ…。」
一応地図は預かってきたが、目印になるようなものが何もない。乱菊は困り果てたが、とにかく足を進めることしか方法はなかった。ともすれば足を取られそうなほど足元に草が茂ってきた頃、やっとそれらしき銃日本風の屋敷が見えた。
間近で見ると更に大きく感じる。中に誰がいるのか、どんな人物なのか乱菊は一つも知らない。父は通っていたらしいが、自分がそれに付いていったことは一度もなかった。
ゆっくりと門を開け、石造りの通路を渡ると、やっと入り口の前に立つことが出来た。呼び出し鈴などはない。仕方なしに戸を開けて「ごめん下さい」と言った。
声を掛けて暫く経ったが誰も現れないので、乱菊はもう一度声を掛けてみた。すると奥から人が歩いてきた。美しい金糸の髪だ。自分の髪よりもうんと薄い色をしている。
「…いらっしゃいませ。松本乱菊さんですね?お話は伺っております。こちらへ。」
「…あなたは?」
「吉良イヅルと申します。ここに住まわせて頂いている者の一人です。」
そう言って微笑む人はとても美しかった。瞳は碧眼で、純日本人には見えない。顔からは女性に見えるが、身体は骨ばっているので男性かもしれない。乱菊は失礼を承知しながら聞いてみることにした。
「失礼ですけど、女性かしら、男性かしら?」
イヅルと名乗ったその人はふっと悩ましげに微笑み、何か孕んでいるような面持ちをして言った。
「どちらに見えます?」
乱菊はそれ以上何も言えなくなり、黙り込んだ。それを見やり、イヅルはふふ、ともう一度笑ってはぐらかすように向こうへ手をやった。
「私のことは、男と思って頂いても女と思って頂いても結構ですよ。さ、こちらへ。ご案内致します。他にも同居者の方がいらっしゃいますが、それは順を追ってご紹介を。」
乱菊はこの館で一波乱ありそうだと思いつつ、少しばかりここでの生活が楽しみになった。しかし不安が隠しきれないのも事実だ。一体ここに何があるというのか分からないが、どうしてか背筋がぞくりと寒くなるのを感じた。
やっとこさパラレル連載開始です。結局純和風にした模様。ちょっと大正ロマンに憧れていたのですが、やっぱり日本家屋でお人形が好みだったのでこれに。これからキャラも増えていきます。もしかしたら人形っぽい見た目の人ならCPキャラ以外にも出てくるかもしれません。(兄様とかな。笑)夢見すぎな連載ですが、暫しお付き合い下さると幸いです。
序:静謐な森
乱菊は、深い深い森の中を歩いていた。その果てにある一軒の屋敷を訪ねるためだ。乱菊の家は代々呉服屋を経営しており、今から行くところはそのお得意先だった。しかし父が死に、母も早くに亡くなっていたので親戚は早々に店をたたんでしまい、一人娘の乱菊だけが残された。そのため、その屋敷でお世話になることになったのだ。乱菊はもうすぐ成人する歳であったため、これを機に独り立ちを考えていた。というか、独り立ちをしたかった。しかし乱菊にはまだ職もなく、とりあえずは居候させてもらうことに落ち着いた。
「…本当に何もないところねえ…。」
一応地図は預かってきたが、目印になるようなものが何もない。乱菊は困り果てたが、とにかく足を進めることしか方法はなかった。ともすれば足を取られそうなほど足元に草が茂ってきた頃、やっとそれらしき銃日本風の屋敷が見えた。
間近で見ると更に大きく感じる。中に誰がいるのか、どんな人物なのか乱菊は一つも知らない。父は通っていたらしいが、自分がそれに付いていったことは一度もなかった。
ゆっくりと門を開け、石造りの通路を渡ると、やっと入り口の前に立つことが出来た。呼び出し鈴などはない。仕方なしに戸を開けて「ごめん下さい」と言った。
声を掛けて暫く経ったが誰も現れないので、乱菊はもう一度声を掛けてみた。すると奥から人が歩いてきた。美しい金糸の髪だ。自分の髪よりもうんと薄い色をしている。
「…いらっしゃいませ。松本乱菊さんですね?お話は伺っております。こちらへ。」
「…あなたは?」
「吉良イヅルと申します。ここに住まわせて頂いている者の一人です。」
そう言って微笑む人はとても美しかった。瞳は碧眼で、純日本人には見えない。顔からは女性に見えるが、身体は骨ばっているので男性かもしれない。乱菊は失礼を承知しながら聞いてみることにした。
「失礼ですけど、女性かしら、男性かしら?」
イヅルと名乗ったその人はふっと悩ましげに微笑み、何か孕んでいるような面持ちをして言った。
「どちらに見えます?」
乱菊はそれ以上何も言えなくなり、黙り込んだ。それを見やり、イヅルはふふ、ともう一度笑ってはぐらかすように向こうへ手をやった。
「私のことは、男と思って頂いても女と思って頂いても結構ですよ。さ、こちらへ。ご案内致します。他にも同居者の方がいらっしゃいますが、それは順を追ってご紹介を。」
乱菊はこの館で一波乱ありそうだと思いつつ、少しばかりここでの生活が楽しみになった。しかし不安が隠しきれないのも事実だ。一体ここに何があるというのか分からないが、どうしてか背筋がぞくりと寒くなるのを感じた。
やっとこさパラレル連載開始です。結局純和風にした模様。ちょっと大正ロマンに憧れていたのですが、やっぱり日本家屋でお人形が好みだったのでこれに。これからキャラも増えていきます。もしかしたら人形っぽい見た目の人ならCPキャラ以外にも出てくるかもしれません。(兄様とかな。笑)夢見すぎな連載ですが、暫しお付き合い下さると幸いです。