朝露と芳香。(静謐と無様。から続いています)
「…騒々しいね、昨日から。」
藍染は手にしていた書物をふと机上に置き、部屋の外を見つめた。おそらく自分の勘が当たっていれば、十番隊のあの美しい副官が座しているはずである。しかし気付いているということを知らせてみても、いっこうに彼女は戸を開けようとはしない。仕方なしに藍染は、声を出して彼女を呼び寄せた。
「入って来なさい、と言っているんだよ。松本君?」
その声に応えるように、乱菊はゆっくりと戸を開けた。部屋の奥には、藍染が何ともなしに座っている。乱菊はいささか戸惑いを感じながらも、何か言わなければと思い口を開いた。
「藍染隊長、うちの隊長をむやみに虐げるのは止めていただけませんか?」
「おや、いつ僕が彼の言うことを無視したっていうのかな。彼の言い分は聞いてあげているじゃないか。受け入れるかどうかは別としてね。」
藍染は、そう言われることに対して不快感を隠さなかった。余程勝手な言い分をしているのは彼の方ではないか、とも思う。自分はこれでも本当に副官である雛森桃のことを気に入っているのに、一方的な独占欲で彼女を縛っているのはむしろ彼の方ではないか、と。
「そんなことを言っているんじゃありません。本当にあなたが彼女を大事にしているのならば、うちの隊長がそんなことをあなたに頼むわけがありませんでしょう?」
「…本当に、君達は言動や行動がそっくりだね。」
僅かに嘲笑しながら、藍染が言う。それに少しばかり眉の端を吊り上げつつ、乱菊は続ける。
「私は彼のことを信頼し、尊敬しておりますので、彼の意向に沿っているまでにございます。」
「本当に尊敬だけなのか疑問だけどね。」
「何を馬鹿なことを。」
「まあいいさ。君もいつか分かる時が来るよ。君が信じているものがどういうものなのかを。」
乱菊は、その言葉に眉間の皴を深くする。はっきりと藍染を強い瞳で射抜くように見据えると、「私はただあの方と可愛らしいあの子が幸せになってくれればいいと思っているだけですから。」と立ち上がって踵を返した。乱菊は、自分が信じているものがいつか藍染の手によって壊されるのだと言われているようで歯痒かった。藍染はただただ自分の中で小さな駒が美しい位置に収まっていくようで、満足気にふっと目を伏せ笑みを深くした。
桃は、五番隊舎へと足を速めた。彼女の上司は朝から書類整理にいそしんでいたので、少しでも心身を和らげることが出来ればと思い茶菓子を買って帰る途中だった。すると上司の自室から、何やら神妙な話し声が聞こえる。
そっと耳を澄ますと、それは自隊の隊長と、幼馴染の副官である乱菊の声であることに気付く。さては逢引だろうか、と彼女は微かにショックを受けた。確かにお似合いかもしれない。乱菊は抜群のスタイルと顔をしているし、自分ももう少し大人の女性であれば、と羨むほどなのだ。もしかしたら、と思うとなぜだか桃の瞳からは涙が零れた。
「桃!?お前何泣いてんだ?」
「ふわあっ!!」
背後から突然声をかけてきたのは、他でもない乱菊の上司であり、自分の幼馴染だった。日番谷は桃の肩に手を乗せながら、「どうした?」とやんわり聞いた。桃はその声にまた泣きそうになった。変わっていない。彼は昔から何も変わっていない。流魂街にいた時も、自分が声を上げて泣いていると決まって肩に手を乗せ、同じように「どうした?」と聞いてきてくれた。
「シロちゃ…。」
思わず昔の名を呼びながら、日番谷に抱きつく。それは決して恋人にするようにではなく、別の情を孕んだ抱擁だった。日番谷はそのことを知りながらも、彼女を抱く手に力を込めた。
なぜこいつはこんなに頑張ろうとするんだろう、と日番谷は思う。別の男でもいいのに。お前を想う男なんて藍染でなくとも、むしろ俺でなくともいるのに。日番谷はそのことを悔やみつつも、彼女を慰むこの位置にいることを僅かながらも嬉しく思った。
桃は、結局その後暫く泣き続け、藍染に茶を淹れなければならないと言い去っていった。日番谷はそっと頭をもたげ、朝降っていた雨に濡れた花を見やった。彼女はこの花に似ている、と柄にもないことを思う。外見はとてもささやかだが、どんなに雨に濡れても、枯れもせず、落ちもしない花は彼女のように強い。ふとその花から香が匂ったような気がして、日番谷は気恥ずかしい思いに顔を背けた。
一方通行片思い第二弾!aya様からのキリリクでございます。有難うございます。ちょっと続きもの風味です。やー何かこういうのも新鮮でいいですね。イメージと合っていると嬉しいのですが…(心配)キリリク小説はリクして頂いた方のみお持ち帰り自由です。aya様、こんな駄文で宜しければもらってやって下さいませ。(泣)
「…騒々しいね、昨日から。」
藍染は手にしていた書物をふと机上に置き、部屋の外を見つめた。おそらく自分の勘が当たっていれば、十番隊のあの美しい副官が座しているはずである。しかし気付いているということを知らせてみても、いっこうに彼女は戸を開けようとはしない。仕方なしに藍染は、声を出して彼女を呼び寄せた。
「入って来なさい、と言っているんだよ。松本君?」
その声に応えるように、乱菊はゆっくりと戸を開けた。部屋の奥には、藍染が何ともなしに座っている。乱菊はいささか戸惑いを感じながらも、何か言わなければと思い口を開いた。
「藍染隊長、うちの隊長をむやみに虐げるのは止めていただけませんか?」
「おや、いつ僕が彼の言うことを無視したっていうのかな。彼の言い分は聞いてあげているじゃないか。受け入れるかどうかは別としてね。」
藍染は、そう言われることに対して不快感を隠さなかった。余程勝手な言い分をしているのは彼の方ではないか、とも思う。自分はこれでも本当に副官である雛森桃のことを気に入っているのに、一方的な独占欲で彼女を縛っているのはむしろ彼の方ではないか、と。
「そんなことを言っているんじゃありません。本当にあなたが彼女を大事にしているのならば、うちの隊長がそんなことをあなたに頼むわけがありませんでしょう?」
「…本当に、君達は言動や行動がそっくりだね。」
僅かに嘲笑しながら、藍染が言う。それに少しばかり眉の端を吊り上げつつ、乱菊は続ける。
「私は彼のことを信頼し、尊敬しておりますので、彼の意向に沿っているまでにございます。」
「本当に尊敬だけなのか疑問だけどね。」
「何を馬鹿なことを。」
「まあいいさ。君もいつか分かる時が来るよ。君が信じているものがどういうものなのかを。」
乱菊は、その言葉に眉間の皴を深くする。はっきりと藍染を強い瞳で射抜くように見据えると、「私はただあの方と可愛らしいあの子が幸せになってくれればいいと思っているだけですから。」と立ち上がって踵を返した。乱菊は、自分が信じているものがいつか藍染の手によって壊されるのだと言われているようで歯痒かった。藍染はただただ自分の中で小さな駒が美しい位置に収まっていくようで、満足気にふっと目を伏せ笑みを深くした。
桃は、五番隊舎へと足を速めた。彼女の上司は朝から書類整理にいそしんでいたので、少しでも心身を和らげることが出来ればと思い茶菓子を買って帰る途中だった。すると上司の自室から、何やら神妙な話し声が聞こえる。
そっと耳を澄ますと、それは自隊の隊長と、幼馴染の副官である乱菊の声であることに気付く。さては逢引だろうか、と彼女は微かにショックを受けた。確かにお似合いかもしれない。乱菊は抜群のスタイルと顔をしているし、自分ももう少し大人の女性であれば、と羨むほどなのだ。もしかしたら、と思うとなぜだか桃の瞳からは涙が零れた。
「桃!?お前何泣いてんだ?」
「ふわあっ!!」
背後から突然声をかけてきたのは、他でもない乱菊の上司であり、自分の幼馴染だった。日番谷は桃の肩に手を乗せながら、「どうした?」とやんわり聞いた。桃はその声にまた泣きそうになった。変わっていない。彼は昔から何も変わっていない。流魂街にいた時も、自分が声を上げて泣いていると決まって肩に手を乗せ、同じように「どうした?」と聞いてきてくれた。
「シロちゃ…。」
思わず昔の名を呼びながら、日番谷に抱きつく。それは決して恋人にするようにではなく、別の情を孕んだ抱擁だった。日番谷はそのことを知りながらも、彼女を抱く手に力を込めた。
なぜこいつはこんなに頑張ろうとするんだろう、と日番谷は思う。別の男でもいいのに。お前を想う男なんて藍染でなくとも、むしろ俺でなくともいるのに。日番谷はそのことを悔やみつつも、彼女を慰むこの位置にいることを僅かながらも嬉しく思った。
桃は、結局その後暫く泣き続け、藍染に茶を淹れなければならないと言い去っていった。日番谷はそっと頭をもたげ、朝降っていた雨に濡れた花を見やった。彼女はこの花に似ている、と柄にもないことを思う。外見はとてもささやかだが、どんなに雨に濡れても、枯れもせず、落ちもしない花は彼女のように強い。ふとその花から香が匂ったような気がして、日番谷は気恥ずかしい思いに顔を背けた。
一方通行片思い第二弾!aya様からのキリリクでございます。有難うございます。ちょっと続きもの風味です。やー何かこういうのも新鮮でいいですね。イメージと合っていると嬉しいのですが…(心配)キリリク小説はリクして頂いた方のみお持ち帰り自由です。aya様、こんな駄文で宜しければもらってやって下さいませ。(泣)