また長くなったけど、これが最後。すべからくお題を無視したというか、せいぜい掠めた程度のSS七連発。お付き合いいただきありがとうございます。
ハッピー・ハロウィン!
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07:本当は、悪戯したかったの
魚が釣られている入り口を、少し体勢を低くして通過してからボンバルリーナは不満そうに口を開いた。
「邪魔なんだけど」
「俺の寝床だ、文句を言うな」
にべも無い返事に、ボンバルリーナはため息を一つ零した。
「今日のハロウィンに、子どもたちに天日干しの魚?」
「魚もじゅうぶんおやつにはなる」
「珍しいのね」
「懲りたからな」
ハロウィンのことなど完全に抜け落ちていた一年前。何も無いと言えば、確かコリコパットだったか、筆か何かを持ち出して右目の周りまで斑にしてくれたのだ。日が日なだけに怒るわけにもいかず、斑を消すのに骨を折った記憶があった。
「ボンバルは、何か用意したのか?」
「私はお子様たちの変身を手伝ったからもういいのよ」
「そうか」
ランパスキャットの耳がぴくりと何かに反応した。近づいてくる。
「トリック オア トリート!?」
姿を見せたのはコリコパットにギルバート。手にはいろんな袋が握られているから、ここらには最後に回ってきたのだろう。ボンバルリーナは魚を手渡しているランパスキャットの背を見ながらクスッと笑った。ちゃんとお兄ちゃんしているのが、なんだか不思議だ。
「優しいのね、お兄ちゃん」
首尾よく少年たちを追い出したランパスキャットに、ボンバルリーナが言う。
「たまに相手してやるのも悪くない」
「あら。何だかんだ言って、いつも彼らを気に掛けているくせに」
「そうかもな」
当たり障りの無い会話をしている間にも、ランペルティーザにシラバブ、なぜか箒に乗ってきたヴィクトリアとミストフェリーズなどがやって来て、そのたびにランパスキャットは干物になった魚を手渡している。
「・・・まずいな。ミストとは予想外だった」
「彼、仔猫じゃないのに魚あげたの?」
「ヴィクにやってミストにやらないのもどうかと思ってな」
ジェミマが来ていない。彼女のことだ、絶対来るに違いない。しかし、魚はもうない。
どうしたものか、とランパスキャットに考える暇は無かった。
「トリック オア トリート!?」
「来た・・・」
半ば放心気味に呟いて、ランパスキャットは綺麗な三毛の少女を迎え入れた。
「ランパス、お菓子無いの?」
「・・・お前の健康を思ってやらないことにした」
「嘘!ランペル魚もらったって言ってたもん。私の分は?」
ランパスキャットが返答に窮している。ボンバルリーナは助け舟を出すか、修羅場に突入するのを見守るかと微笑みながら様子を伺っている。
ジェミマの大きな褐色の瞳にじっと見つめられたランパスキャットは、体裁が悪いのか露骨に顔を背けた。
「悪い、足りなかった」
「あそ。じゃあ悪戯していい?」
「は・・・?いや、よくはない」
泣かれるかと思っていたランパスキャットは間の抜けた声でジェミマをみやった。ジェミマはニコニコと楽しそうに満面の笑みを浮かべている。妙に可愛らしいドラキュラメイクはボンバルリーナが施したものか。
「よくないって言ったってダメ。普通は余分に用意しておくものよ、何があるかわかんないんだもん。おやつをくれないなら悪戯しちゃうからね」
「あー・・・」
よくわからない声を洩らし、かりかりと耳を掻いたランパスキャットは観念したかのようにため息を吐いた。
「何をする」
「エヘヘ、一つ言うこと聞いてよ」
「何だ」
「肩車して。私が小さい頃はよくしてくれたでしょ?」
少し成長して、おとなになろうとしている少女が言った。ランパスキャットは瞠目して、それから苦笑の混じった柔らかな笑みを浮かべた。美しくなった、それでもやっぱり彼女の笑顔は昔のまま。
「少しだけだぞ」
「うん、いいよ。あんまり頑張って腰痛めちゃったら大変だもんね、そんなに若くないんだし」
「お前なあ、俺はそんなに歳食ってないぞ」
「私から見たらおじさんだし」
何か言ったら即減らず口が返ってくる。ランパスキャットはくしゃくしゃとジェミマの頭を撫でてから、肩車をしてやる。急に高くなった目線に、ジェミマは頬を紅潮させてきょろきょろしている。
「危ないからあんまり動くなよ」
「うん」
ねぐらから外に出て、白い月の光を浴びるランパスキャットとジェミマ。
ねぐらの入り口で、ボンバルリーナは微笑を浮かべ立っている。かつてはよく見かけた光景だ。楽しそうな妹猫の様子を見てほんの少しだけ思う。
ねえ、ジェミマ。本当は、悪戯したかったんじゃない?
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本当は、悪戯したかったの
たまには、こんな夜だっていいかも。
ハッピー・ハロウィン!
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07:本当は、悪戯したかったの
魚が釣られている入り口を、少し体勢を低くして通過してからボンバルリーナは不満そうに口を開いた。
「邪魔なんだけど」
「俺の寝床だ、文句を言うな」
にべも無い返事に、ボンバルリーナはため息を一つ零した。
「今日のハロウィンに、子どもたちに天日干しの魚?」
「魚もじゅうぶんおやつにはなる」
「珍しいのね」
「懲りたからな」
ハロウィンのことなど完全に抜け落ちていた一年前。何も無いと言えば、確かコリコパットだったか、筆か何かを持ち出して右目の周りまで斑にしてくれたのだ。日が日なだけに怒るわけにもいかず、斑を消すのに骨を折った記憶があった。
「ボンバルは、何か用意したのか?」
「私はお子様たちの変身を手伝ったからもういいのよ」
「そうか」
ランパスキャットの耳がぴくりと何かに反応した。近づいてくる。
「トリック オア トリート!?」
姿を見せたのはコリコパットにギルバート。手にはいろんな袋が握られているから、ここらには最後に回ってきたのだろう。ボンバルリーナは魚を手渡しているランパスキャットの背を見ながらクスッと笑った。ちゃんとお兄ちゃんしているのが、なんだか不思議だ。
「優しいのね、お兄ちゃん」
首尾よく少年たちを追い出したランパスキャットに、ボンバルリーナが言う。
「たまに相手してやるのも悪くない」
「あら。何だかんだ言って、いつも彼らを気に掛けているくせに」
「そうかもな」
当たり障りの無い会話をしている間にも、ランペルティーザにシラバブ、なぜか箒に乗ってきたヴィクトリアとミストフェリーズなどがやって来て、そのたびにランパスキャットは干物になった魚を手渡している。
「・・・まずいな。ミストとは予想外だった」
「彼、仔猫じゃないのに魚あげたの?」
「ヴィクにやってミストにやらないのもどうかと思ってな」
ジェミマが来ていない。彼女のことだ、絶対来るに違いない。しかし、魚はもうない。
どうしたものか、とランパスキャットに考える暇は無かった。
「トリック オア トリート!?」
「来た・・・」
半ば放心気味に呟いて、ランパスキャットは綺麗な三毛の少女を迎え入れた。
「ランパス、お菓子無いの?」
「・・・お前の健康を思ってやらないことにした」
「嘘!ランペル魚もらったって言ってたもん。私の分は?」
ランパスキャットが返答に窮している。ボンバルリーナは助け舟を出すか、修羅場に突入するのを見守るかと微笑みながら様子を伺っている。
ジェミマの大きな褐色の瞳にじっと見つめられたランパスキャットは、体裁が悪いのか露骨に顔を背けた。
「悪い、足りなかった」
「あそ。じゃあ悪戯していい?」
「は・・・?いや、よくはない」
泣かれるかと思っていたランパスキャットは間の抜けた声でジェミマをみやった。ジェミマはニコニコと楽しそうに満面の笑みを浮かべている。妙に可愛らしいドラキュラメイクはボンバルリーナが施したものか。
「よくないって言ったってダメ。普通は余分に用意しておくものよ、何があるかわかんないんだもん。おやつをくれないなら悪戯しちゃうからね」
「あー・・・」
よくわからない声を洩らし、かりかりと耳を掻いたランパスキャットは観念したかのようにため息を吐いた。
「何をする」
「エヘヘ、一つ言うこと聞いてよ」
「何だ」
「肩車して。私が小さい頃はよくしてくれたでしょ?」
少し成長して、おとなになろうとしている少女が言った。ランパスキャットは瞠目して、それから苦笑の混じった柔らかな笑みを浮かべた。美しくなった、それでもやっぱり彼女の笑顔は昔のまま。
「少しだけだぞ」
「うん、いいよ。あんまり頑張って腰痛めちゃったら大変だもんね、そんなに若くないんだし」
「お前なあ、俺はそんなに歳食ってないぞ」
「私から見たらおじさんだし」
何か言ったら即減らず口が返ってくる。ランパスキャットはくしゃくしゃとジェミマの頭を撫でてから、肩車をしてやる。急に高くなった目線に、ジェミマは頬を紅潮させてきょろきょろしている。
「危ないからあんまり動くなよ」
「うん」
ねぐらから外に出て、白い月の光を浴びるランパスキャットとジェミマ。
ねぐらの入り口で、ボンバルリーナは微笑を浮かべ立っている。かつてはよく見かけた光景だ。楽しそうな妹猫の様子を見てほんの少しだけ思う。
ねえ、ジェミマ。本当は、悪戯したかったんじゃない?
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本当は、悪戯したかったの
たまには、こんな夜だっていいかも。