日記

日々の雑記にございます。

ハロウィン企画7

2007-10-30 20:47:43 | ハロウィン企画
 また長くなったけど、これが最後。すべからくお題を無視したというか、せいぜい掠めた程度のSS七連発。お付き合いいただきありがとうございます。
 ハッピー・ハロウィン!

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07:本当は、悪戯したかったの

魚が釣られている入り口を、少し体勢を低くして通過してからボンバルリーナは不満そうに口を開いた。

「邪魔なんだけど」
「俺の寝床だ、文句を言うな」

にべも無い返事に、ボンバルリーナはため息を一つ零した。

「今日のハロウィンに、子どもたちに天日干しの魚?」
「魚もじゅうぶんおやつにはなる」
「珍しいのね」
「懲りたからな」

ハロウィンのことなど完全に抜け落ちていた一年前。何も無いと言えば、確かコリコパットだったか、筆か何かを持ち出して右目の周りまで斑にしてくれたのだ。日が日なだけに怒るわけにもいかず、斑を消すのに骨を折った記憶があった。

「ボンバルは、何か用意したのか?」
「私はお子様たちの変身を手伝ったからもういいのよ」
「そうか」

ランパスキャットの耳がぴくりと何かに反応した。近づいてくる。

「トリック オア トリート!?」

姿を見せたのはコリコパットにギルバート。手にはいろんな袋が握られているから、ここらには最後に回ってきたのだろう。ボンバルリーナは魚を手渡しているランパスキャットの背を見ながらクスッと笑った。ちゃんとお兄ちゃんしているのが、なんだか不思議だ。

「優しいのね、お兄ちゃん」

首尾よく少年たちを追い出したランパスキャットに、ボンバルリーナが言う。

「たまに相手してやるのも悪くない」
「あら。何だかんだ言って、いつも彼らを気に掛けているくせに」
「そうかもな」

当たり障りの無い会話をしている間にも、ランペルティーザにシラバブ、なぜか箒に乗ってきたヴィクトリアとミストフェリーズなどがやって来て、そのたびにランパスキャットは干物になった魚を手渡している。

「・・・まずいな。ミストとは予想外だった」
「彼、仔猫じゃないのに魚あげたの?」
「ヴィクにやってミストにやらないのもどうかと思ってな」

ジェミマが来ていない。彼女のことだ、絶対来るに違いない。しかし、魚はもうない。
どうしたものか、とランパスキャットに考える暇は無かった。

「トリック オア トリート!?」
「来た・・・」

半ば放心気味に呟いて、ランパスキャットは綺麗な三毛の少女を迎え入れた。

「ランパス、お菓子無いの?」
「・・・お前の健康を思ってやらないことにした」
「嘘!ランペル魚もらったって言ってたもん。私の分は?」

ランパスキャットが返答に窮している。ボンバルリーナは助け舟を出すか、修羅場に突入するのを見守るかと微笑みながら様子を伺っている。
ジェミマの大きな褐色の瞳にじっと見つめられたランパスキャットは、体裁が悪いのか露骨に顔を背けた。

「悪い、足りなかった」
「あそ。じゃあ悪戯していい?」
「は・・・?いや、よくはない」

泣かれるかと思っていたランパスキャットは間の抜けた声でジェミマをみやった。ジェミマはニコニコと楽しそうに満面の笑みを浮かべている。妙に可愛らしいドラキュラメイクはボンバルリーナが施したものか。

「よくないって言ったってダメ。普通は余分に用意しておくものよ、何があるかわかんないんだもん。おやつをくれないなら悪戯しちゃうからね」
「あー・・・」

よくわからない声を洩らし、かりかりと耳を掻いたランパスキャットは観念したかのようにため息を吐いた。

「何をする」
「エヘヘ、一つ言うこと聞いてよ」
「何だ」
「肩車して。私が小さい頃はよくしてくれたでしょ?」

少し成長して、おとなになろうとしている少女が言った。ランパスキャットは瞠目して、それから苦笑の混じった柔らかな笑みを浮かべた。美しくなった、それでもやっぱり彼女の笑顔は昔のまま。

「少しだけだぞ」
「うん、いいよ。あんまり頑張って腰痛めちゃったら大変だもんね、そんなに若くないんだし」
「お前なあ、俺はそんなに歳食ってないぞ」
「私から見たらおじさんだし」

何か言ったら即減らず口が返ってくる。ランパスキャットはくしゃくしゃとジェミマの頭を撫でてから、肩車をしてやる。急に高くなった目線に、ジェミマは頬を紅潮させてきょろきょろしている。

「危ないからあんまり動くなよ」
「うん」

ねぐらから外に出て、白い月の光を浴びるランパスキャットとジェミマ。
ねぐらの入り口で、ボンバルリーナは微笑を浮かべ立っている。かつてはよく見かけた光景だ。楽しそうな妹猫の様子を見てほんの少しだけ思う。

ねえ、ジェミマ。本当は、悪戯したかったんじゃない?


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本当は、悪戯したかったの

たまには、こんな夜だっていいかも。

ハロウィン企画6

2007-10-29 21:00:54 | ハロウィン企画
 キャスト変動が微妙な感じですね。さて、ハロウィン企画も残すところ今日と明日のみ(ハロウィン当日は?)

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06:ほうきで空も飛べそう

「見事な満月だね。これだけ明るいと星も形無しだよ」

劇場の入り口に置かれたぼろぼろのベンチの上で、ミストフェリーズは空を見上げていた。
声を掛けた相手は、劇場の入り口にたたずんだままうんともすんとも言わない。
いや、「すん」とか言われても困るのだが。そういや、「うん」と「すん」て語呂を合わせただけだったよなあ、と思考が飛んでいきかける。

「ヴィクトリアは、何の仮装をするんだ?」
「え?ああ、魔女だって言ってたよ」

唐突に、答えではなく疑問がやってきた。こんなことがしょっちゅうなのだろうか、だとしたらジェリーロラムやギルバートはどんな風に立ち回っているのか聞いておかなくてはならない。
また、思考がどこかに飛んでいきそうになった。それを止めたのはやはりアスパラガスの声。

「ふん、なかなか似合っているな」

何事かと、老い猫の視線の先を見やれば仮装したヴィクトリアが立っていた。
黒いカラスのような衣装に黒いとんがり帽子。手には古めかしい箒。まごうことなき魔女だ。

「お前は何に仮装するんだ?衣装なら奥にあるぞ」
「えっとね、僕はもうそういう歳でもないし元々黒猫だから仮装も何も無いんじゃないかな」

答えたものの、相手が聞いているかどうかは定かでない。老いた劇場猫は、慣れない衣装で慎重に足を運んでいるヴィクトリアを見ていた。

「ヴィクトリア、その衣装とメイクは自分でしたのか?」
「いいえ、ガス。ディミにしてもらったの」
「ほう。なかなかの腕前だ、今度手伝ってもらわんといかんな」

ディミータが聞いたら吃驚するだろうとミストフェリーズは思いつつ、近づいてきたヴィクトリアに手を差し伸べた。黒い手袋をはめた手が、差し出された手に重ねられる。

「ねえ、ミスト。この毛並みが緑色になったら私は完璧な”悪い魔女”ね」
「緑か・・・今日は満月だから僕の力も増幅されるし、変えられないことはないよ。変えないけどさ」
「そうなの?ちょっとおもしろそうなのに」

ヴィクトリアは半ば本気なのだろうかと、ミストフェリーズはやや焦る。緑の毛並み、なんてマンカストラップ辺りが卒倒しそうだ。シラバブは泣き出すのではなかろうか。オールドデュトロノミーの心臓が驚きで止まっても困る。

「ミスト?どうしたの?」
「え?あ、いや、何も無いよ。緑は無理だけど、空は飛べるかも」
「空?もしかして、これで?」

ヴィクトリアは持っていた箒をまじまじと見つめる。

「そう、それさ。満月で風もほとんど無いし、人間たちは人間たちのお祭りに夢中だからね。絶好のコンディションってわけさ」
「素敵ね。私たちふたりでなら飛べそうな気がするわ」
「そうだよ、僕らならできるよ。誰にも止められない!」

ミストフェリーズはヴィクトリアが握る箒に掌をかざした。箒をあたたかな光が包み、地から浮き上がっていく。

「じゃあ、景気良く行こう!ガス、またね!」
「ハッピー・ハロウィン、ガス」

黒猫と、黒い衣装に包まれた白猫は、滑るように夜空に消えていった。
それをおもしろそうに見送って、アスパラガスはふんと小さく鼻を鳴らした。

「まだまだ、鍛錬が足りないな」

ミストフェリーズとヴィクトリア、二匹のやりとりはまだまだ硬い。急に冷え込んだ気がしたのは気温のせいだけではあるまいと、アスパラガスは劇場の奥に姿を消した。


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ほうきで空も飛べそう
アスパラガス/ミストフェリーズ/ヴィクトリア

いろいろごめんなさい。

ハロウィン企画5

2007-10-28 20:26:38 | ハロウィン企画
 昨日の「ぬるぽ」なタイトルに反応してブログをのぞきにきてくださった、たぶん猫や四季にまったく関心のない方が多いっぽいです(笑)。
 全く関係ない話ですが、JR浦和駅の電車到着のメロディーは浦和レッズの歌なのですね。浦和レッズ♪浦和レッズ♪とやたらそこばかり頭に残るやつ。今日は駅が赤かったです。サポーターすげー。

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05:無敵の呪文「trick or treat」

街は子どもたちの歓喜の声が響く夜。閑静なこの教会にも、やってくる子どもたちのためにあかりが灯っている。
礼拝堂から離れた教会の片隅に、オールドデュトロノミーはいる。いつものようにぼんやりと、眠っているようで起きている、そんなふうに。

「私は・・・」

地を這うような低い声に、長老猫はわずかに目を上げた。長い毛並みに埋もれ、どこにあるかもわかりにくい両の目は、それでも確かに目の前の痩身の男を見ていた。

「ここを離れるつもりはない。だが、あんたがその力を使えば私はここにいられないだろうな。何故だ、何故私を野放しにしておく?」
「マキャヴィティや、わしはここに来たものに何も与えなければ何も奪いもしない。お前さんがわしを必要としなくなれば、自らここを離れていくはずじゃ」

マントも仮面も無い、金色の毛並みに鮮血が流されたような緋色の瞳だけが、それだけでこの痩身の男を犯罪王だと知らしめていた。

「私があんたを必要としている、か。それならばその理由が私にはわからない」
「本当の幸せを求めているのであろう。お前さんもジェリクルの一員なのであれば、天上に上ることを考えるであろう?」
「笑止の沙汰だな。犯罪王とさえ言われる私に天上の世界など」

口元を不敵にゆがめ、マキャヴィティは長老猫をにらむように見据えた。凍りつくような視線、しかしオールドデュトロノミーはごくごく穏やかな表情で変わらずそこに座っている。

「良いことをしたから天上に上れるのではない。幸せの姿を心から望むものが天上に上り、求めた幸せの姿に生まれ変わっていくのじゃ」
「幸せの姿か。破壊し、肉を引き裂いて赤く濡れた己の手を見つめる日々に望む幸せの姿など存在はしない」
「そうかのう?少なくとも、お前さんには友達もいるし心穏やかに笑っていた日もあったじゃろう?ゆっくりと記憶を辿ってみるがよい。それに、これからでも遅くはないしの」

ほっほっ、と何が可笑しいのか毛並みを揺らして笑う長老猫から目を逸らし、マキャヴィティは窓の外を見た。
丸い月が輝いている。狂気を煽る銀色の光。狼男が変身し、魔女は宴を開く満月の夜。今夜の街には狼男も魔女もたくさん出没しているが、それとて本物ではない。己の固く曲がった爪は本物だ。幾たびも血に濡れた凶器。

「そうじゃな、今日からでもいいだろう」

まだ、先ほどの話は続いていたのか。マキャヴィティはもういいとばかりに踵を返し、部屋を出ようとした。
その時。かちゃりと音がして部屋の扉が開かれる。
見下ろしたマキャヴィティの視線が、見上げてくる仔猫の視線と絡まった。純粋無垢なエメラルドグリーンの瞳は、見慣れない男をじっと見つめている。
そのにごり無い視線にいたたまれずに、その仔猫の傍を通り抜けようとしたマキャヴィティの手がぐいと掴まれる。小さな手は、驚くほど小さなその手は、驚くほど力強い。

「なんだ」

抑揚の無い声と共に冷たい視線を向け、それでも幼子はにっこりと笑って空いている手を差し出した。

「Trick or Treat?」

つたない発音と明るい笑顔。凍てついた男の心に容赦なくしみこんで来る温かさ。己を恐れない幼子の、それどころか期待に満ちた瞳。リズミカルな決まり文句が、何かの呪文のように凍った心を溶かしていく。
マキャヴィティの瞳から狂気の色が薄らいでゆく。彼は自由な片手をぐっと握り、幼子の前でぱっと開いて見せた。何も無かったはずの手にはキャンディが三つ。

「ありがとうございます!」

律儀にお礼を言って、小さな手がキャンディを握り締めた。
ほんのわずか、触れた手がとても温かかった。自由になったマキャヴィティは僅かに微笑んで、音も立てずに部屋を後にする。

「・・・それでいいんじゃ」

長老猫の独り言をかき消すかのように、扉がきしんでパタンと閉まった。

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無敵の呪文「trick or treat」
オールドデュトロノミー/マキャヴィティ/シラバブ

仔猫はシラバブでした。神と悪魔。幸せの姿ってなんだろう。

ハロウィン企画4

2007-10-27 19:37:31 | ハロウィン企画
 今日のSSが最強に長い。描写細かくしすぎだ;SSなんだから省けるとこ省かないとな。というわけで、明日の分とかはちょっと反省して短くなってたりする。

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04:子供たちが笑うなら

カッサンドラが次々と焼き上げるスコーンを大きめの皿に並べつつ、タンブルブルータスは首を傾げた。今日は何かあったのかと。
彼の視線はずっと、同じ模様を持った小柄な彼女に向いていて、その彼女はお昼前からかぼちゃを蒸しては裏ごしをして、時には細かく刻んだりしながら今に至る。

「ハロウィンはいいわね、タンブル。子どもたちが来るのが楽しみだわ」
「ああ、そうだな」

そうだった、とタンブルブルータスは胸のうちで独りごちた。今日はハロウィンとかいう日で、どうりで街中猫も人もみんなそわそわと落ち着かないわけだ。
小柄な身体でくるくるとよく動いては、おいしそうなスコーンを焼いているカッサンドラだって例に洩れず楽しそうにしている。

「タンブル、ひとつ味見してくれない?」
「いいのか?」
「ええ。子どもたち向けだからあなたにはちょっと甘いかもしれないけど」

タンブルブルータスは、ちょっと迷って最初に焼きあがったスコーンに手を伸ばした。焼きたてのおいしそうにスコーンはほくほく湯気を立てているけれど、熱いに違いない。冷めているほうが幾分か甘さも和らぐ。

「どう?おいしい?」

彼がスコーンを手にとってから口に運び、飲み込むまでを見届けてカッサンドラが口を開いた。

「すごく、うまい」

さっくりとした歯ざわりにほっこりとする優しい甘さ。パンプキンの色や風味も生かされているし、ダイス状になったオレンジ色の実が混ぜ込まれているのがちょっと嬉しい。
タンブルブルータスの反応に満足したように、カッサンドラは最後のタネを焼きにかかった。

「カッサ」

いつものように低い声で、いつものように短く、タンブルブルータスはタネをオーブンに入れて一息ついた彼女を呼んだ。
いつものように呼ばれて、カッサンドラは振り向いた。だいたい表情で分かる、彼は今何か言いたいことがあるのだろうと。

「なに?」

毛並みについた粉を払いながら、短い問いを返す。

「その・・・どうしてだ?」

何がどうしてなのか。タンブルブルータスの言葉はいつも少なくて、必要な部分さえ削り取られている。考えていることをうまく言葉に置き換えられないせいだと、カッサンドラはわかっているけれど。

「どうして・・・私がこんなに楽しそうなの、ということ?」
「それも、あるが」

言いよどんでいるのか、言葉を選んでいるのか、タンブルブルータスの視線はふらふらと彷徨っている。
カッサンドラは静かに微笑んで、いい具合にあら熱の飛んだスコーンを手に取った。

「私が小さい頃は、確かにハロウィンなんて意識したこともなかったしできる状態でもなかったわ。街は荒れていたし、冗談でもお菓子がほしいなんて言えなかったもの」

カッサンドラが淡々と話しながら、その手にそっと力を込めればスコーンは簡単に割れてくれた。まずは、見た目は上々の出来。ほんの少し、笑みを深くして再び口を開いた。

「いつからだったかしらね、ハロウィンにお菓子を口にできるようになったのは。でも、あなたも知っている通り私はもらう側ではなくてあげる側だったわ」
「カッサ、俺は知っているんだ。もらう側になってみたいって、言ったことがあっただろう」
「そうね。でも、一度でもあげる側に回っちゃったらもうもらう側に戻れない気がしたの」

割った半分のスコーンは皿の上に載せて、手に残った半分をまた半分にする。橙色のかぼちゃのかけらがころりと零れてテーブルの上にはねた。

「そんな思いをしているのに、どうして私が楽しそうなのか聞きたいのでしょう?」
「・・・ああ、そうだ」

半分の半分になったスコーンも皿に置いて、カッサンドラは手の中に残ったお菓子を見た。誰が最初に来るのだろうか。シラバブだろうか、コリコパットかもしれない。みんな目を輝かせてやってくるに違いない。
そして、手渡されるスコーンを見てもっともっと笑顔になってくれるなら、それはこの上ない喜びなのだ。

「幸せなの、子どもたちの笑顔を見られるのが。ハロウィンの思い出って、ちょっと苦いものだと思っていたわ。でも、どんなに思い出を辿っても、幼い子たちが嬉しそうに笑ってくれたことばかりがよみがえるの」
「子どもたちが笑ってくれるから、それでいいと?」
「ええ、そうよ。ハロウィンにお菓子をもらいに行ってみたかったことは事実。でも、それが叶わなくたって私は今こんなに幸せでいられるの。子どもたちには、いつかお菓子をもらえたことが幸せだったって思ってほしいし」

ふわりと微笑んで、カッサンドラは自ら作ったスコーンを漸く口に運んだ。

「うん、我ながら上出来ね」
「店を開ける」
「あら、猫のお菓子屋さんなんて誰か買いに来るのかしら」
「俺が専属の顧客になろう」

どこまで冗談でどこまで本気か分かり辛いタンブルブルータスの真顔。カッサンドラはおかしそうにクスクスと笑った。

初めてのハロウィンの思い出は、幼い弟猫や妹猫の笑顔。その次も、幾度目かわからないハロウィンの思い出も少年少女たちの笑顔。
子どもたちが笑ってくれるなら。今日という日もまた、明日には幸せな思い出になるだろう。

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子供たちが笑うなら
カッサンドラ/タンブルブルータス

若い猫の中ではカッサンドラが最年長。素敵なお姉さん。

ハロウィン企画3

2007-10-26 22:42:00 | ハロウィン企画
 台風接近中だってのに、明日は遅番の土曜出勤。しかしまあ、SSが日に日に長くなりますな。

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03:こんな日は、大人たちだって楽しそう

一抱えほどのかぼちゃを持って、カーバケッティは慎重に歩いていた。重い。躓いたら踏ん張りがきかないだろう。
己の足元に七割方、時折見る前方には三割方しか注意が向いていない。
だから、己の背後に対しては無防備そのもので、無遠慮に近づく気配にすら気づいていなかったのだ。

「カーバ!」
「!?」

明るい声に、カーバケッティは飛び上がるほど驚いた。が、幸か不幸かかぼちゃの重さでちょっとも身体は浮かなかった。
どくどくと鳴る心臓を落ち着けようと息を吸い、それを吐き出しながらゆっくりと振り向く。そこにあったのは、想像通り黄色くて小さな虎猫の明るい笑顔。

「重そうね、手伝おうか?」
「いや、大丈夫だ。ランペルもどこかに行くところだろう?」

カーバケッティはそう言いつつ、道端に大きなかぼちゃをおろした。腕がだるい。
ランペルティーザは斑猫の問いに答えることはせず、黒い布を広げて見せた。ちょっと首を傾げたカーバケッティも、すぐにピンと来たようだ。

「どうなるか楽しみだ」
「今からディミのところに行って着付けとメイクしてもらうの」
「へえ、ディミか。まあ・・・そうだな、妥当な線だよな」

お菓子作りなどするものかと言い張っていた彼女を思い浮かべ、カーバケッティは呟いた。でも、ハロウィンは楽しみだとも言っていた。彼女の役割もきちんと用意されているわけだ。

「カーバのとこにも行くわよ。おいしいの作ってよね。あ、でも、マンゴのところに行ってからね」
「マンゴはおばさんと一緒に作ってんだろう?それより後となると厳しいな」
「なあに言ってんのよ、カーバのお菓子おいしいの知ってるんだから」

まぶしいほどの笑顔だ。カーバケッティは苦笑を返した。
今からこかぼちゃを甘いお菓子に変身させる。仮装に負けないくらいの変身を遂げたお菓子を見たら、街の若猫たちはどんな笑顔を見せてくれるだろう。
それを想像するだけでもわくわくするではないか。

「カーバ、楽しそうね」
「うん?そうか?」
「ええ、そうよ。ジェリーにも会ったけど、ジェリーも楽しそうだった。ボンバルとも道で会ったけど、やっぱり楽しそうだった。カーバも、なんか楽しそう」

どうして?と小さく首を傾げるランペルティーザ。
どうしてだろう、カーバケッティは自分に問いかけた。

「たぶん、みんなわくわくしているんだ。俺たちだって、おばさんやガスやバストファさんからお菓子をもらってた頃がある。だからわかるんだ、お菓子をもらえることがどんなに嬉しいか。貰ってくれる方が嬉しいと、作ったほうもすごく嬉しい。それを想像してわくわくしているんだろうな」
「ふうん・・・じゃあ、私たちは喜んでもらいに行っていいのね?」
「もちろんさ」

カーバケッティが胸を張ると、ランペルティーザは再び笑顔を弾けさせた。

「行ってくるね!ちゃんと私の分取っといてね!」
「わかってるよ」

言うが早いか、疾風のように去ってゆく後姿を見送って、カーバケッティは大きな荷物を抱え上げた。えっちらおっちら戻ったら、大急ぎで準備をしなければならないだろう。

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こんな日は、大人たちだって楽しそう
カーバケッティ/ランペルティーザ

この二匹は舞台でも仲良しに見えます。

ハロウィン企画2

2007-10-25 19:54:21 | ハロウィン企画
家に帰ってからパソコンを付けるのが面倒だ;そんなわけで、本日は第二弾。記念の週に猫に行きたいと思いを募らせつつ。

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02:街中に漂う甘ぁい香り

「ジェリー!」

劇場から出てきた可憐な女性の姿を認めて、崩れそうなベンチに退屈そうに座っていたコリコパットは嬉しそうに声を上げた。

「コリコ?どうしたの?」
「ちょっとガスに用事。ジェリーはお稽古か?」
「ええ、そうよ。ガスは奥にいるわ、ランペルとバブも来ていたわよ」

いつもはこんなところに来ない仔猫たちが次々と訪ねてくる。
今日はハロウィンだから、仮装の道具を借りにきているのだろう。
コリコパットも例に洩れず、といったところかとジェリーロラムは微笑んだ。

「ランペルとバブもか、早いな。俺、ギルと待ち合わせてるんだけど」
「ギルはまだ見てないわ」
「ふうん、そっか。タントのとこにでも寄ってんのかな」

地面を見つめて独り言のように呟いたコリコパットだったが、勢い良く顔を上げるとニッカと笑った。

「俺、一番最初にジェリーんとこ行くからな」
「ふふ、待っているわ。ギルと一緒に来なさい、タントと一緒に作るから」
「サンキュ。ギルとどこから行くか揉めなくてすむよ」

トンと軽やかに地面に降り立って、コリコパットは伸びをした。
そしてきらきらと期待に満ちた瞳をジェリーロラムに向ける。

「ここに来るまでも、街中甘い匂いでいっぱいだったんだ。すっげえ楽しみ」

人間のこどもたちだって、きっと目を輝かせて夜の訪れを待っているのだろう。
おとなたちは、猫だって人だって準備に大忙しだ。ジェリーロラムも昨夜からタネは仕込んである。
かぼちゃを蒸したり、漉したり、焼いたり、煮たり。優しい甘さをお菓子に変えて、夜を待っている。
細く開けた台所の窓から、まずは香りのお裾分け。

「おいしいの作るから、夜まで我慢ね」
「何作ってくれるんだ?」
「お楽しみよ」

微笑んで軽くウィンクしてみせるジェリーロラム。
その時、向こうからギルバートが走ってきた。彼の連れてきた風にすら甘い香りが絡み付いている気がする。

「それじゃあ夜にね」
「うん、夜に」

ジェリーロラムとコリコパットは手を振り合ってその場は別れた。
どんな衣装で現れてくれるのだろう。
どんなお菓子を用意してくれるのだろう。
心のうちで、そんな風に思いながら。

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02:街中に漂う甘ぁい香り
コリコパット/ジェリーロラム

うちは、この二匹は恋仲です。タントとギルもしかり。

ハロウィン企画1

2007-10-24 23:00:24 | ハロウィン企画
☆更新しないというのもちょっと・・・と思ったので。ブログでできる企画なぞ。お題ものに挑戦。一週間でSS7本(つまり一日一本)いきます。
 お題は灰色歌人様より頂戴いたしました。ブックマークしておきます。
 今週は遅番なので、アップする時間も遅いと思いますが・・・では、本日は第一弾。

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01:満月の下、準備万端

「精が出るねえ」

もう外はひんやりとする季節だと言うのに、
マンカストラップの額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
必死に格闘している相手はかぼちゃ。
オレンジ色の。

「やあ、ジェニエニドッツ。これが終わればだいたい終わりだ」
「こっちもほとんど準備できたよ。あとはきれいな袋に詰めてやれば準備完了さ」
「そうか。子どもたちは喜ぶだろうな」

力と熱が篭っていた手を少し休め、リーダー猫はふっと笑う。
彼の脳裏に浮かぶのは仔猫たちの笑顔だろうか。

「おばさん、これ使うけどいいか?」

照明を浴びてきらきら光るセロファンの包装材を手に、ひょっこりと顔を覗かせたのはマンゴジェリー。
明け方、泥棒仕事の帰りにマンカストラップと鉢合わせ、否応なしに来るべき時の準備に引き込まれたのだ。

「いいねえ、なかなかセンスの良い選択だよ」
「クッキーはこれで包んで口を縛ったらいいけど、パイはどうする?」
「ここで食べて行けばいいんじゃないかい?」

夜、仔猫たちはおやつを求めてここにやってくるだろう。
かぼちゃのクッキーにパンプキンパイ。
暖かな光を灯すジャック・オ・ランタン。
心躍る一夜への準備は着々と進んでいる。

「日が沈みかけてきたな」

マンカストラップが窓の外に目を向けて呟いた。

「今日は満月だよな」
「月が教会の十字架にかかる頃には準備完了だ」

少年少女の明るい声が響く少し前。
白黒縞のリーダー猫と、赤毛の泥棒猫と、まだら模様のおばさん猫は忙しく準備に勤しんでいる。
この夜に一つ、思い出を残してあげたいと思いながら。

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満月の下、準備万端
マンカストラップ/マンゴジェリー/ジェニエニドッツ

ハロウィンが満月の日なのかってのは知りませんが。