映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

「パンズ・ラビリンス~Laberinto del Fauno(Pan's Labyrinth)~」

2008年04月16日 | 映画~は~
2006年 メキシコ=スペイン=アメリカ映画

おとぎ話です。「おとぎ話」というと、子供だましで面白くない…と印象を持つかも知れませんが、そんなスケールではありません。もう圧倒的です、この映画。

1944年。内戦終結後のスペイン。戦争で父を亡くしたオフェリアと母は、再婚相手であるヴィダル大尉と暮らすべく森の中の駐屯地へ。ヴィダル大尉は独裁を振るう冷酷な男。気に入らないものは次々と殺していく。父親の死、妊娠中の母。自分を疎ましく思う義父。駐屯地での生活。オフェリアにとっては耐えられない現実。そんな彼女の前にある日妖精が現れ、オフェリアは魔法の王国の王女で、王は彼女の帰還を待っていると知らされる。自分が王女であると証明するには3つの試練をクリアしなければならない。オフェリアは現実世界の苦しみから逃れ生き延びるためにも、その試練に立ち向かうことにした。

この映画ものすごいのです。「素晴らしい」と言う言葉では陳腐に聞こえるかもしれませんが、ほかに言葉が見つからない。グロテスクでおどろおどろしくて、残忍で、それでいて美しい。

おとぎ話って、お姫様が出てきてきれいなドレスを着て幸せに暮らす…ような、ものすごく幸せに満ち溢れたディズニーチックなイメージをしませんか?私たちが通常子供のときに聞かされるおとぎ話って、良いとこ取りですよね。でも、子供ながらになんとなく納得いかなかったり、理不尽に思ったり、残酷に感じたりすることってありませんでしたか?白雪姫だって、美しさゆえに毒を盛られて殺されそうになるし、シンデレラだって、かぼちゃの馬車やガラスの靴の魔法は12時に解けてしまう。日本のおとぎ話だってそう。かぐや姫は育ててくれた両親を残して月に帰らなくてはならない。子供のころから私の中でおとぎ話って、幸せに溢れたものではなくて、どうも気持ち悪さが胸に残るものでした。何か重大な秘密を隠されているような。

この映画では、おとぎ話に隠された残忍性、救いようのない不幸、そしていつものメルヘンもすべて包み隠さず表現されています。幼いころには教えてもらえなかった、おとぎ話の本当の姿が、抜群の映像とともに押し寄せてきます。そくぞここまで表現してくれた!と。

スペインの映画というと、『オールアバウトマイマザー』や『トークトゥーハー』くらいしか見たことがないのですが、いつも驚かされるのがその色彩の鮮やかさ。ただきれいなだけではなく、鮮やかな色だからこそ持つ毒味も含まれた、独特の色彩美が特徴なのですが、この映画の中でもそのセンスが垣間見られます。また、登場するキャラクターが恐ろしい!しかもただヴィジュアルとして恐ろしいのみならず、性格の多面性・心の裏表があり心理的な恐怖をあおられ、さらにほんの少しのかわいらしさが加味され、どうにも魅力的。怖いからただ逃れたいのではなく、怖いけど心挽かれる。そんな人間の心理をついたような、棘を持った美しさ。そしてグロい。小さい子が見たらトラウマになるくらい強烈なデザイン。

オフェリアの目の前に現れる「妖精」も、「妖精」と訳せばかわいいけど、正直化け物です。小さい姿のときは馬鹿でかいカマキリみたいだし、人間サイズになるともうこの世のものではないし。この世のものではないけど、二本足で立っていて自分を王女であるというこの化け物の言葉を信じたくなるオフェリアの気持ち。客観的に見ていたら、「なんでこんな化け物についていくーーーっっっ???」とオフェリアの行動に驚きますが、そのくらい彼女の現実世界はひどかったということなのでしょう。とにかくキャラクターたちは気色悪さのなかに人間味を持ち合わせているんです。ただただ化け物だったらここまで気持ち悪くない。ゾンビとか首なしお化けとかそういう怖さとは違う、また『リング』の貞子とか「元・人間」である幽霊とも種類の違うモンスターたち。「こんなのいねーよ」とは言い切れない、「本当はいるかもしれない」と思わず信じたくなる出来です。

この映像美はさすが。各国の映画賞の美術賞を総なめにしているのも納得です。だってこれ以外にどの映画が取れるというの?というくらいずば抜けています。そしてただ映像が素晴らしいだけでなく、映画として本当に面白い。

スペインというラテン文化がある国だからこそ出せる独特の雰囲気が、この映画を恐ろしいながらも妖艶さのある仕上がりにしています。そう、映像に艶やかさがあるのです。ラブシーンがあるとかそういう意味ではなく、映像そのものに。

オフェリア役の女の子の演技、ものすごくいいです。引き込まれます。映画が終わるまで、その手を離してくれません。その世界にどっぷりはまりたい、そんな気分になります。そしておとぎ話だからなのか、登場人物の性格をきちんと端的に表現しているし、無駄がない。だからといって単調ではないし、奥深さにかけることもない。いい塩梅なのです。これが普通のドラマだったら、人間の描き方が少し物足りなく感じると思いますが、この映画ではこれが功を奏しています。


私、ものすごく褒めてますね。残念だった部分を探してみましょうか…んーーー…それを探すのが難しい。あ、でかいカエルがちょっと笑えた。その見た目がちょっと安っぽくて、ほかのキャラたちとある意味一線を画しているような。そのくらいでしょうか。全然残念ポイントではなくて、むしろ面白いんですけどね。

この映画、本当に本当に映画館で見たかったです。テレビで見ちゃったの、ワタクシ。独特の世界のある映画ですし、キャラクターのデザインも強烈なので、苦手な方はとことん苦手だと思います。でも、私はこの映画に惚れました。強力におすすめ。


おすすめ度:☆☆☆☆☆


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