映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

「レイチェルの結婚 ~Rachel Getting Married~」

2009年11月07日 | 映画~ら~
2008年  アメリカ映画


アン・ハザウェイ主演のドラマです。主人公キム(アン・ハザウェイ)は、薬物依存のためリハビリ施設に入所しているが、姉のレイチェル(ローズマリー・デウィット)の結婚式のために一時帰宅をする。しかし何年もリハビリ施設に入所しているキムと家族との間には溝があり、当然自分が花嫁の介添え人(メイド・オブ・オーナー)に選ばれると思っていたキムだったが、姉のレイチェルは別の友人に頼んでしまう。中毒患者である妹を信用できないのだ。


この映画の予告編を映画館で見たときの衝撃を、今でも忘れられられません。その予告編の中にいたアン・ハザウェイに、私の目は釘付けになりました。私の中のアン・ハザウェイのイメージが一瞬にして崩れ去ったほど。個人的にアン・ハザウェイはあまり好きな女優ではなかったのです。どの映画を見ても華やかで優等生で、何を見てもどんな役柄も同じ。きれいだけどそれだけ。そのうち消えていくだろうと思っていました。『プラダを着た悪魔』でも、頭がいい役のはずなのに、全然賢そうに見えなかったし(映画自体はそれなりにすきなのだけど)、「これは演技力による配役ではないだろう」と。それと前後して彼女の実生活でも彼氏が詐欺行為で逮捕とか、「やっぱり頭悪いんか…」と妙に納得したりして。女優としての奥深さを全く感じなかったのです(ああ、私ボロクソに言ってるわ…でも正直な感想です)。

それが、この『レイチェルの結婚』のなかのアン・ハザウェイはこれまでの役柄とは180度違う。同一人物とは思えないほど全く違う表情の彼女がそこにいました。私の中ではこの役が今までの彼女の映画の中で一番合っていると思います。華やかさの全く無い、むしろ汚れ役。ヤク中でセックス依存症に虚言癖まで併せ持つ最強の汚れ役です。そしてどの映画の中でも、「あたし、きれいでしょ?」とキラキラと輝いていたのに、この映画の中ではそんな星が瞬くようなキラキラ感は皆無。誰も触れられないような深い過去を背負った陰のある役に徹底的に徹していて、彼女のこの役にかける女優魂をまざまざと見せ付けられました。もう、文句のつけようが無い。各映画賞の主演女優賞ノミネート、文句なしです。


話が進むにつれ、キムの薬物中毒だけでは収まりきらない、もっと根深い問題がこの家族には潜んでいることが見えてきます。ヤク中であることが原因で起こしてしまった出来事が家族をどん底へ突き落とし、それから10年経っても彼女はリハビリ施設に入ったまま。自分を責めるけれども、ヤク中を克服することができない自分の弱さへの憤りとそれでもどうにもならないことへの無力感。もしかしたらその出来事を防げたかもしれないと自分を責め、家族から距離を置くようになった母親(デボラ・ウィンカー)。嘘だらけの妹を信用できず、責めたてる姉。それをどうにもできない父親(ビル・アーウィン)。誰もがその出来事に罪悪感と悲しみと、そして表立って触れられない後ろめたさを感じている家族の姿を、本当に丁寧に描いています。

すごく地味な作品で、暗くて、見るタイミングを間違えると落ち込みすぎてしまうんじゃないかと思うほどの作品ですが、とても丁寧に、そして実はなかなか分かち合えないけれど愛に溢れていて、いつまでも心に残る作品です。

この映画を見ながら、『普通の人々』(アメリカ映画1980年)を思い出しました。


とにかく、アン・ハザウェイの演技がすばらしいです。そして脇を固めている俳優たちもすばらしく、すべてがぴったりとパズルのようにはまった配役です。
そしてこの映画の監督はジョナサン・デミ。『羊たちの沈黙』の監督です。この映画の批評で「(監督作品の中で)『羊たちの沈黙』以来の最高傑作」評されたそうなのですが、異議なし!です。



おすすめ度:☆☆☆☆☆    抜群です。『愛を読む人』以来の衝撃です。


最新の画像もっと見る