映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

「イントゥ・ザ・ワイルド ~Into the Wild~」

2008年11月10日 | 映画~あ~
2007年 アメリカ映画

先月、知り合いから借りて観ました。

何不自由なく裕福な家庭に育ったクリス。大学を卒業した彼は、両親の期待をよそに旅に出ることを決意する。それまでの自分の人生の中では目にしたことのなかった様々な現実や社会を目の当たりにし、さらに彼は「人生の探求」を追い求めてアラスカの大自然の中へ。


クリスを演じるのは、エミール・ハーシュ。この俳優さん、この映画で初めて知りました。彼の身を削るような演技、すごいです。大自然での生活で、彼はどんどん痩せこけていくんだけど、メイクで頬に陰りを作るとかそんな程度のものではなくて、見ていて本当に「骨粗しょう症、大丈夫かしら?」と心配になるほど。『マニシスト』(未見)のDVDのパッケージにあるクリスチャン・ベールの激やせにも俳優根性を感じましたが、エミールはんもすごい。しかも、悲壮感なし。そう簡単に食料を調達できないような環境で生活しているから、やせていくのは当然なんだけど、「自分が好きで、選んでやっている」からこそ、そこに絶望感や悲壮感は漂ってないのね。

クリスの父親役をしているのが、ウィリアム・ハート。『バンテージ・ポイント』で大統領役で出ていた俳優です。ウィリアム・ハートのお父さん役、すごくいいです。彼の存在感のおかげで、クリスと両親、特に父親との人生観の対比が際立っています。

クリスが彼の年齢で人生に求めるものと、彼の両親が彼らの人生において求めてきたものとのギャップ。両親たちは「経済的な裕福さ」を求めて生きてきて、そこに価値を置いている。だからクリスが卒業式後の食事の席にボロボロの車で現れたこと、「新しい車を買ってあげる」との申し出に、なぜクリスが怒ったのかが理解できない。でもクリスが求めていたのは、お金とか経済的な「成功」ではなく、人生の探求だった。

それでも彼の生い立ちを見てみると、裕福な家庭に生まれ育って、何不自由なく生活し、大学にも通わせてもらって将来有望な青年。だからこそできる旅であるのではないかと思いました。クレジットカードを捨て、所持金の1ドル札に火をつけて一文無しの状態から旅を始めるのだけど、お金を燃やすというのは観ていて気持ちのいいものではない。募金するとかほかにもいくらでも方法はあるのに、何で燃やすかなぁ、と。それは映画の演出とかではなく、クリスがその方法を選んだのだから仕方がないけど(この映画、実話がベースです)。そう、金持ちの家庭に育ったからこその思考だし行動だと思います。まだ本格的なたびを始める前だから、その後お金がないことで困ることを想像できなかったんだろうけど。後にマクドでバイトしてみたり。そういう矛盾や滑稽さ、「こいつ、馬鹿だな」という人間の“現実味”が詰まった映画です。

クリスの「内なる自分との対話」、そして旅を通して知り合う様々な人々との交流が描かれていて、対極にあるようなこの2つがとても印象的です。特に印象に残っているのは、ロンという老人との出会い、そして2人での生活。言葉少なだけれども、心に響いてくる場面です。この映画、主人公はクリスなのだけど、それぞれの登場人物の感情のゆれが、いい塩梅で描かれていて感心します。ロンの孤独感、クリスを失いたくないという恐怖感や、クリスの両親の必死の捜索、それでも息子の居所が全くわからないという「針のむしろ」のような生活。妹の兄を思う気持ちと同時に兄と両親との間で苦悩する姿。いやみがなく、強調しすぎることもなく、しかしながら映画に深みを出すのに十分に描かれています。クリスの周囲の人々の心の揺れにも注目です。

脇役としてヴィンス・ヴォーンも出演してます。『ドッジボール』に出てた俳優ね。この映画の中のヴィンス・ヴォーン、彼の出演している映画の中で一番約にはまっているのではないか、と思います。彼の出演している映画って、『ウェディング・クラッシャーズ』とか『Mr&Mrsスミス』とか何本か観ていますが、もしこの映画で初めて彼を知ったら、たぶん彼に対する印象も違ったものになっていたのではないかと思うほど。いやー、いい配役です。


この映画、ショーン・ペンが監督をしているのですが、とても彼の色の強い作品だと思います。感動に持っていこうとか泣かせようとか、そういう作風ではなくて、
人間のおろかさ、滑稽さ、かわいらしさ、すばらしさ…そういう人生の出来事を華美に描くのではなく、ありのままを描いています。


この映画、日本で現在公開中だそうですね。大作好きな方には物足りないかもしれませんが、ちょっと考えさせられるだけでなく、大自然の美しさも堪能できるいい作品です。



おすすめ度:☆☆☆




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