映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

『バベル ~Babel~』

2009年01月25日 | 映画~は~
2006年 アメリカ映画


どこでこの映画の感想を読んだのか聞いたのか、その情報の出所は覚えていないけど、「絶望的な気分になる」と言っていたのがとても印象に残っていた。そういう映画の場合、あくまで私個人の場合だが、「見るタイミング」を誤ると、その後自分が落ち込んでなかなか回復できなくなったり大変なことになる。シリアスな映画や考えさせられる映画の場合、自分がすでにちょっと元気がないときだったりするともう大変。その後の生活に影響を及ぼすほど落ち込んだりする。大袈裟じゃなくて、これ、本当に。

だから、「絶望的な気分になる」という感想を聞いて、「これは気をつけねばいけない作品だ」と警戒していた。世界中で起こった、一見何の関係もないような出来事が、本人たちも気づかぬところで繋がっているという内容の映画。その中で東京も描かれていて、役所こうじと菊池凛子の演技の評判が良いとも聞く。ものすごく見たい。でも結局「うまいタイミング」が見つけられず、映画館には行かなかった。



そして先日、やっといいと思えるタイミングがめぐってきた。2年間蓄積された期待を裏切らないすばらしい映画だった。そして少なくとも「絶望的な気分になる」映画ではなかった。いくつかの物語が同時進行で進められ、皆がどこかで繋がっているという作りは『ラブ・アクチュアリー』『クラッシュ』などと同じ手法なのだけど、『バベル』ではそのつながりをお互いに認識していない。日々のちょっとした出来事が、別の国での大きな出来事に繋がっているのだけど、そのつながりが本人たちには見えていない、と言うのがものすごく皮肉で同時にものすごく現実的。


出演している俳優陣はものすごく豪華で皆主役級なのだけど、話がそれぞれに独立しているからかお互いの個性を殺しあうことなく1つの映画の中で共存しています。やっぱりお気になるのは菊池凛子さん。演じた女の子の役柄の過激さも当然あるのだけど、台詞が少ないのにどんどん彼女の世界に引き込まれていきます。10代の女の子の飾り気の無い素直な感情が、台詞が無くとも表情から存分に伝わってきました。

最近特に、日本が舞台の一つとして描かれる作品が多いですが、この映画は結構うまく描けていたんだじゃないかと思います。ただ、ファーストフード店と思われるお店で、茶碗と箸で食事をしている光景は無理やり日本らしさを埋め込んだ感が強くて「ハリウッドの中の日本」を抜け出せていないように感じましたが。

ウィキペディアでこの映画についての項目(2009年1月25日現在)を読みましたが、菊池凛子さんが聾者を演じたことに関しての反対の動きがあったんですね。ここ読むまで知りませんでした。手話と聾者の認識にマイナスの影響を与えると言う理由だそうですが。確かに凛子さんの演じたチエコはの行動はものすごくショッキングだけど、聾者全員に彼女のイメージを重ね合わせて見るかといわれると、私に関してはそういうことはありません。ただ、そういう障害を持った人が身近にいない人、もしくは少しでも偏見を持っている人にはそういう感覚を持たれる可能性が無いとは言い切れないな、と思いました。少なくとも私はこの記事を読むまで、そこまで想像できませんでしたが。ただ、彼女の演技はすばらしかったことは事実。そしてこの映画に描かれた聾者の女子高生たちの日常を見ることで、今まで考えたことの無い視点だったので考えさせられたし、そういう現状があるということに気づかされよかったと思います。


リチャードがベビーシッターの女性を電話で罵るところとか、スーザンが彼に再び心を開き始めるところとか、孤独な心を抱えた女子高生の葛藤やそれゆえの行動とか。人間の美しさや醜さや、滑稽さ。そういう素直な感情の側面をうまくえがいた作品だと思いました。

リチャードとスーザンの面倒をずっと見てくれたツアーガイドにお金を渡そうとするシーン。結局彼は受け取りませんでした。メキシコ人女性が共に迷子になったアメリカ人の子供たちを懸命に救おうとするシーン。チエコと父親が向き合うシーン。それのシーンを見たとき、確かに暗いし重いし、絶望的な面も描いた映画なのだけど、実はとても前向きなメッセージがふくまれた作品であると感じました。




おすすめ度:☆☆☆☆



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