八国山だより

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田中宇 「多極化を認めつつも自滅する英米エスタブ 」

2022-07-22 04:51:08 | 国際
田中宇 多極化を認めつつも自滅する英米エスタブ より、抜粋転載
  *太字および青字はブログ著者による

 英国元首相でリベラル派のトニー・ブレアが7月17日、英米関係などを議論する英国のシンクタンク「ディッチリー財団」の年次会合で講演し、いくつか重要なことを述べた。私なりに解釈すると、ブレアは講演で以下の5点の要旨を語った。

(1)中央銀行群のQEによる経済歪曲、新型コロナへの対策(超愚策)、ウクライナ戦争による資源危機によって、西側(欧米日=米国側)経済が破綻し、市民の生活水準が大きく下がった。
(2)QEのバブル膨張が資産家だけを肥え太らせ、貧富格差が拡大した結果、欧米でポピュリズムが勃興し、SNSに扇動されて、醜悪で非生産的な政治対立が激化して、米国は内政混乱で覇権運営どころでなくなった。 (Tony Blair's Speech: After Ukraine, What Lessons Now for Western Leadership?)
(3)米欧が衰退した半面、中国が経済台頭して米国と対等になり、近代史上初めて西洋と東洋が肩を並べる。中国は台頭しただけでなく、国家体制や市民生活のあり方について米国側と異なるシステムを構築して対抗してきている。今後の世界は2極化、もしくは(露イランインドなど他の非米大国も台頭して)多極化する。これは第2次大戦、冷戦終結と並ぶ歴史的大転換だが、前の2つが米国側(米英。民主自由体制)の勝利になったのと対照的に、今回の大転換は米国側の敗北、もしくは勝てるかどうか不明な状況になっており、かなりヤバい。 (Tony Blair believes the West's dominance is coming to an end. Here's why)
(4)米国側の諸国は団結し、非米側に流されていく国の増加を阻止する必要があるが、中国を敵視したり、米国側と中国側の経済を分離する策をとるべきでない。米国側は、中国の(非リベラルな)姿勢を改めさせる努力を続け、中国の動きを見据えつつ協調関係を続けねばならない。米国側は、中国が対抗姿勢を改めないままさらに台頭して世界の2極化・多極化が固定化した場合に、自分たちの民主自由体制をどう守るかを考えねばならない。 (Era of Western dominance ending – Tony Blair)
(5)米国側は、軍事費をもっと増やして(中露に対する)軍事的な優位を維持せねばならない。コロナやそれ以外の感染症に対する(インチキな)ワクチン開発と世界への普及を進めねばならない。米国は、共和党がコロナワクチン接種拒否を扇動する状況を改めねばならない。われわれは、人類に対する(インチキな)温暖化人為説の刷り込みを続けねばならない。

 私が知る限り、英米の著名なエスタブ権威筋の指導者が、ここまで明確に米国側の覇権自滅と多極化、米国側が中国に負ける可能性が大きい点について述べたのは初めてだ。これまで米覇権の崩壊や多極化は、未来の懸念事項として表明されてきた。今回のブレアは、すでに米覇権は崩壊していて米中2極化や多極化が不可避だという論旨だ。英米エスタブの世界では、自分たちの文明が中国・非米側に負けると明言すると袋叩きにされる。だからブレアは「負けるか、もしくは勝てるか不明な状態」などと言っているが、彼の本音は多分「米国側は中国・非米側に負ける」ということだろう。 (米国が英国を無力化する必要性)

 ブレアの講演でもう一つすごい点は、バブル膨張策であるQEが金融資産保有者(金持ち)だけを肥え太らせ、インフレが貧困層を打撃して貧富格差が拡大した結果、ポピュリズム勃興などの政治混乱が拡大し、そこにコロナとウクライナによる経済収縮が加わって米国側の経済衰退と覇権低下が起きた、と言っていることだ。QEの愚策性を指摘するエスタブ人士がいなかった中で、これは珍しい(彼は直接QEという言葉を使わず、異例の通貨政策 unconventional monetary policy などと婉曲表現している。また彼は、リーマン危機への有効な対策はQEしかなかったとも言っている)

 日本からみると気になることがもう一つある。ブレアは今回の演説で「近代史上初めて東洋(East)が西洋(West)と肩を並べうる状態になった」と言っている。ブレアは同時に、日本を西側民主諸国の一つに列挙しており、日本は西洋(米国側)の一部という認識らしい。しかし、ふつうに考えて日本は「東洋」である。戦前の日本は、東洋の新興国・地域覇権国として、西洋をしのぐ存在になろうとしていた。日本は冷戦時代に「西側(親米側)」だったが、それと「東洋・西洋」の区分は違う。日本は、漢字文化圏だし儒教っぽいし、神道や仏教や稲作に包まれており、理性より情緒で、一神教がはびこる西洋と異なるやおよろずの東洋の国である。日本は民主主義国を自称するが、実のところ誰が議員になっても官僚が実質的に支配する官僚独裁の国だ。ほとんど企業や学校は、表向きだけ民主主義で、実は権威主義だ。戦後の日本は対米従属策として、なんちゃってな西側民主主義をやってきただけだ。自民党と中国共産党は、意外と似ている。 (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本)

 となりの中国は覇権を拡大しており、ブレアも暗示しているように米英は中国・非米側に敗北することがほぼ確定している。米国が衰退すると、対米従属は無意味になる。すでになっている。これから米国で共和党が復権したら、同盟諸国に対する軽視が激化する。米国が衰退して中国が台頭するなら、日本も、対米従属とか西側民主主義をこっそり捨てて、中国と同じ「東洋」の側に入るのも「あり」になる。日本人の多くは、マスコミ権威筋による対米従属プロパガンダの一つである「嫌中」に染まっており、「中国と一緒に東洋に入ったらどうでしょう」などと言うと、とたんに「アカ」呼ばわりされる(今や日本共産党・アカも嫌中だけど)。しかし。 (米エスタブが言うなら良いのか。フランシス・フクヤマ「多極化世界と日本」)

 しかし、予測として書いておきますが、日本にはいずれ「中国と一緒に東洋に入るのが良い」と言い出す人々が、アカ・左翼でなく、右派・ナショナリストの方から必ず出てくる。早く出てこい。日本は、中国と一緒に東洋に入るのが良い。その方が発展する。これは日本のために言っている。アカでも黄色でも塗ってください。

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