またベンチに座り込む。絶望的な気分だ。
すぐ傍を、通勤の男女が通り過ぎていく。彼らは、公園内にへたり込んでいる人種には一瞥もくれない。別世界の生き物とでも思っているのだろう。
つい最近まで、自分もそうした勤労者の一人であったはずなのに、今では遠い昔のことのように思える。
その時、視線を感じて、目を上げた。
公園の端から私をじっと見ている男がいる。
背広にコート姿。髪は灰色で黒縁メガネをかけている。
なんとなく品のよさそうな紳士だ。
その男は、私の方へ歩き始めた。
その紳士と目が合った。どこかで見たことのある顔だと思った。
男はまっすぐに私に向かってくる。
貧困というのは人間を心底悲観的にするらしい。別に悪いことをしたわけでもないのに、私の頭に浮かんだのは「逃げよう、捕まったら大変なことになりそうだ」ということであった。
私は立ち上がって走り去ろうとしたが、再び激痛が走る。一歩、二歩、三歩・・・痛くて歩けない。もう駄目だ、捕まってしまう・・・
その時、私の名前を呼ぶ声が後ろからした。