池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

空間の歴史(11)

2024-03-29 15:42:38 | 日記

またベンチに座り込む。絶望的な気分だ。

すぐ傍を、通勤の男女が通り過ぎていく。彼らは、公園内にへたり込んでいる人種には一瞥もくれない。別世界の生き物とでも思っているのだろう。

つい最近まで、自分もそうした勤労者の一人であったはずなのに、今では遠い昔のことのように思える。

その時、視線を感じて、目を上げた。

公園の端から私をじっと見ている男がいる。

背広にコート姿。髪は灰色で黒縁メガネをかけている。

なんとなく品のよさそうな紳士だ。

その男は、私の方へ歩き始めた。

その紳士と目が合った。どこかで見たことのある顔だと思った。

男はまっすぐに私に向かってくる。

貧困というのは人間を心底悲観的にするらしい。別に悪いことをしたわけでもないのに、私の頭に浮かんだのは「逃げよう、捕まったら大変なことになりそうだ」ということであった。

私は立ち上がって走り去ろうとしたが、再び激痛が走る。一歩、二歩、三歩・・・痛くて歩けない。もう駄目だ、捕まってしまう・・・

 

その時、私の名前を呼ぶ声が後ろからした。

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