池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつく老人の日常

空間の歴史(10)

2024-03-28 18:08:31 | 日記

うろうろしながら、ようやくたどり着いたのが西口公園の広場だ。

ベンチに座って足や手を伸ばす。

周囲には、段ボールハウスの住人らしき人間が多い。植込みの中に青いビニールシートでテントを張っている者もいる。

朝から酔ったような顔つきもいれば、噴水近くでのんびり将棋を指すのもいる。

その横をサラリーマンやOLや学生が通り過ぎていく。

浮浪者風の男が話しかけてきた。

私が、池の端に座ったままいつまでも動かないので、行き場所がなく途方に暮れていると思ったのだろう。

「食えよ」

彼は、菓子パンを私に差し出した。

私は、男の手からパンをひったくり、いきなりかぶりついた。しかし、咀嚼する力が弱っているらしく、パンの皮がゴムのように思える。飲み込むと胃の周りに血が回り腹が暖かくなった。その時、ぽろぽろ涙が出た。

男は、私の肩をぽんぽんと叩きながら、いろいろと自分の身の上話をした。そして、話の終わりに、一緒に段ボール拾いをやらないかと誘ってくれた。

「椎名町の方へちょっと行ったところに買取所があるんだ。そこならリヤカーも無料で貸してくれる」

悪くない話だ、と思った。ともかく、ぶらぶらしているより働きたい。

その男に促されるままにベンチから立ち上がったとき、ぎくりと腰と膝に激痛が走った。

寝返りも打てないほどの狭い所で一晩過ごしたせいだろう。

とても一日リヤカーを引いて働けそうな状態ではない。

私は、男の提案を断った。

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