池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

プレビュー『エルミーヌの選択』(10)

2020-08-30 15:52:46 | 日記
アントナンがモーリスのところへ来て、昨夜のいきさつを話す。
すでにアントナンは、エルミーヌに相当入れ込んでいる様子だ。

 翌朝、アントナンは僕のところに来て、前の夜の出会いについて僕に話した。彼は、いま僕が君に話したのとほぼ同じ言葉を使っていた。そして、最後にこんな言葉を付け加えた。

「彼女は手間やお金がかかる女性ではない、すでにきれいなんだから……もし彼女が僕を好きになってくれるなら、これは僕の善行為ということになる。だって、昨日僕と出会わなかったら彼女がどうなっていたかわからないじゃないか?……僕は本格的に職探しをしようと思うんだ……まあ月に二百フランは稼げるだろう。それを彼女と分ける。きっと幸せだろうな……君はどう思う? 僕は、あの可哀そうな娘が本当に好きになっている。彼女が藁の帽子をかぶり、きれいなドレスとハーフコートを着て、絹のハーフブーツを履いていたら、きっと天使のようにきれいだろうな……彼女と会えてよかった。これで僕も働かざるをえなくなる。おそらく、彼女がいなければ、そんな気にはぜったいならなかっただろう……一緒に来てくれないか。彼女の部屋を探して家具を買うんだ」

 僕は着替えをしてアントナンについていった。その娘にはもっと注意するように彼に忠告したかったのだが、彼は明らかにその娘に気を奪われていたので、それも無駄になってしまいそうだった。それで僕は黙っていた。


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