池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

港町

2021-02-04 14:50:58 | 日記
 翌朝、私の不安は的中した。妻は不調を訴え、よく眠られなかったとこぼした。バイキング形式の朝食に、妻は少ししか手を付けなかった。私は妻に、薬を飲んでしばらくベッドで横になっているように言い、自分はフロントの横で新聞を読んだりテレビを観たりして時間をつぶした。

 チェックアウト時刻が迫り、部屋に戻ると、妻は目を覚ましていた。泣いていたらしく、シーツで顔を覆った。私はカーテンを開けた。窓ガラスの向こうには、雑然とビルが建ち並ぶ地方都市のありふれた光景があった。その上を、ちぎれた雨雲が足早に過ぎていく。

 ねえ、私は死ぬまで、ずっとこんな調子なのかしら? どう思う? 妻が尋ねた。少し涙声だった。そんなことないさ、どんなことだって時間が経てば変化するものだし、実際に君は良くなっているよ、と私は断言した。 妻はしばらく黙っていたが、少し鼻をすすりながら、ゆっくりと起きあがり、シャワー室に入って着替えを始めた。

 私は、まだ窓の向こうを見ていた。霧のような細かい雨粒が、風に飛ばされ、古ぼけたビルの裏壁を叩いていく。突然、雲が切れて空が明るくなり、太陽光線が雨粒をきらきら反射させたが、すぐにまたすぐに暗くなった。
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