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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

12月26日・藤沢周平の時代精神

2015-12-26 | 個性と生き方
12月26日は、『北回帰線』を書いた米国の巨人、ヘンリー・ミラーが生まれた日(1891年)だが、時代小説家、藤沢周平の誕生日でもある。

藤沢周平は、1927年、山形の鶴岡で生まれた。本名は、小菅留治(こすげとめじ)。家は農家で、彼は5人きょうだいのまん中だった。
働きながら中学の夜間部をでた小菅は、山形の師範学校をでて、22歳の年に中学校教師になった。が、その後、肺結核となり、休職して入院生活を送った。右肺の一部を手術で切除したという。
退院後は、東京にでて、業界新聞の記者となり、仕事のかたわら、小説を書きはじめ、文芸誌の新人賞に投稿しだした。
投稿をはじめて数年後、44歳の年に雑誌の新人賞を受賞し、翌年、『暗殺の年輪』で直木賞を受賞。47歳の年に業界新聞をやめ、作家生活に入った。
江戸時代の庶民や下級武士の哀歓を描いた時代小説作品で知られ、『本所しぐれ町物語』『蝉しぐれ』『たそがれ清兵衛』『漆の実のみのる国』などを書いた後、1997年1月、肝炎により没した。69歳だった。

歴史小説と時代小説とは、別ものである。自分の感覚としては、時代小説は主に江戸時代を舞台にすえ、当時の風俗を背景に人情を自由に描いたもの。一方、歴史小説は、歴史の文献を踏まえ、そこに書かれている事実を骨格として、想像力で肉付けして、あるまとまった感慨を表したもの、である。
歴史小説と時代小説の境目は判然としないけれど、藤沢周平は明らかに時代小説の作家で、司馬遼太郎は歴史小説家である。
自分は歴史学の研究者だから歴史書は読むけれど、歴史小説はあまり読まないし、時代小説にいたってはまったくと言っていいほど読まない。それでも藤沢周平作品をいくつか読んだことがあるのだから、いかに藤沢周平が高名か、ということである。

藤沢周平は、ヒューマニズムの作家である。温かい人情があり、市井の名もない人々の価値をすくい上げようとする作者のやさしい目がきらめいている。
それでもなお、自分があまり時代小説を読む気にならないのは、「時代小説」と銘打ちながら、時代小説には時代性があまり感じられないからかもしれない。
たしか、芥川龍之介がどこかでこういう意味のことを書いていた。
「現代の歴史小説というのは、現代人が、過去のその時代へ行って、当時の服を着て歩いているようなものばかりである。風俗は当時のものだが、感じ方や考えていることは現代人そのままである。できれば、そういう歴史小説ではなく、風俗は現代のままで、感情や考え方だけが昔の時代を反映している、そういう歴史小説を読んでみたい」
自分もまったく同感で、たぶん、何百年も昔の人は、いまとはぜんぜんちがった価値観で生きていた人が多いと思うので、そういう変わった考え方の人間や時代精神そのものを見てみたいと思う。
(2015年12月26日)



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