5月8日は、映画「無防備都市」のロッセリーニ監督が生まれた日(1906年)だが、日本の文学者、澁澤龍彦の誕生日でもある。
澁澤龍彦は、1928年、東京で生まれた。父親は銀行員だった。
彼の家は、第一国立銀行(現みずほ銀行)や、東京ガス、帝国ホテル、東京証券取引所など500社以上を創業させた、あの渋沢栄一の遠縁にあたり、龍彦は渋沢栄一に抱っこしてもらったこともあるという。
龍彦は、戦時中の高校生時代は理系にいたが、戦後、フランス語を勉強しだし、東大の文学部仏文科に進んだ。卒論は「サドの現代性」だった。
マスコミ志望だったが、結核にかかったこともあって就職に失敗した彼は、フランス文学の翻訳や、小説を書いて生計を立てる生活に入った。
マルキ・ド・サド作品のほか、ジャン・コクトー、ジョルジュ・バタイユの作品を翻訳し、そのほか、フランスの文学や文化を紹介する評論を多く書いた。
33歳のころには、翻訳出版したサドの『悪徳の栄え』が、わいせつ文書とされ、検察との長い法廷闘争を戦った。
1987年8月、喉頭ガンの療養中に頚動脈瘤の破裂により没。59歳だった。
小説に『エピクロスの肋骨』『唐草物語』『ねむり姫』『うつろ舟』『高丘親王航海記』などがある。
幻想、暗黒、猟奇を好むロマンの人、澁澤龍彦は、日本でも特異な地位を占める文学者で、若いころから彼の本をずっと読んできた。サイン会で見かけたこともある。
翻訳ではとくにバタイユの『エロティシズム』、コクトーの『大胯びらき』に感心した。『エロティシズム』は、ほかの大学教授が訳した訳もあるが、教授訳は最低で、澁澤訳は絶品、とても比較にならない。『大胯びらき』はもう何度読み返したか知れない。
小説では、泉鏡花賞を受賞した『唐草物語』や、読売文学賞受賞作の『高丘親王航海記』など、澁澤龍彦以外には書けない独特の妙味があって、すばらしい。
たとえば短編集『唐草物語』中の「空飛ぶ大納言」は、平安時代の蹴鞠の達人の話なのだけれど、「ひとたび蹴りはじめると、妖魔にでも取り憑かれたかのごとく病みつきに」なるという蹴鞠に、読んでいるうち、いつの間にか自分も魅了され、のめりこんでしまう。そして、うっとりとなって、自分も鞠といっしょに舞い上がっていくかのような浮遊感を感じる。現実からふわりと飛び立ち、異次元へ迷い込んで、美しくも妖しい夢を見させてくれる、そんな「夢遊感」が澁澤文学にはある。
澁澤龍彦は、あの、およそ頑丈そうでない華奢なからだで、幻想の一大帝国を築き上げた、知の巨人と呼ぶにふさわしい人だった。
(2017年5月8日)
●おすすめの電子書籍!
『つらいときに開くひきだしの本』(天野たかし)
苦しいとき、行き詰まったときに読む「心の救急箱」。どうしていいかわからなくなったとき、誰かの助けがほしいとき、きっとこの本があなたの「ほんとうの友」となって相談に乗ってくれます。いつもひきだしのなかに置いておきたいマインド・ディクショナリー。
●電子書籍は明鏡舎。
http://www.meikyosha.com
澁澤龍彦は、1928年、東京で生まれた。父親は銀行員だった。
彼の家は、第一国立銀行(現みずほ銀行)や、東京ガス、帝国ホテル、東京証券取引所など500社以上を創業させた、あの渋沢栄一の遠縁にあたり、龍彦は渋沢栄一に抱っこしてもらったこともあるという。
龍彦は、戦時中の高校生時代は理系にいたが、戦後、フランス語を勉強しだし、東大の文学部仏文科に進んだ。卒論は「サドの現代性」だった。
マスコミ志望だったが、結核にかかったこともあって就職に失敗した彼は、フランス文学の翻訳や、小説を書いて生計を立てる生活に入った。
マルキ・ド・サド作品のほか、ジャン・コクトー、ジョルジュ・バタイユの作品を翻訳し、そのほか、フランスの文学や文化を紹介する評論を多く書いた。
33歳のころには、翻訳出版したサドの『悪徳の栄え』が、わいせつ文書とされ、検察との長い法廷闘争を戦った。
1987年8月、喉頭ガンの療養中に頚動脈瘤の破裂により没。59歳だった。
小説に『エピクロスの肋骨』『唐草物語』『ねむり姫』『うつろ舟』『高丘親王航海記』などがある。
幻想、暗黒、猟奇を好むロマンの人、澁澤龍彦は、日本でも特異な地位を占める文学者で、若いころから彼の本をずっと読んできた。サイン会で見かけたこともある。
翻訳ではとくにバタイユの『エロティシズム』、コクトーの『大胯びらき』に感心した。『エロティシズム』は、ほかの大学教授が訳した訳もあるが、教授訳は最低で、澁澤訳は絶品、とても比較にならない。『大胯びらき』はもう何度読み返したか知れない。
小説では、泉鏡花賞を受賞した『唐草物語』や、読売文学賞受賞作の『高丘親王航海記』など、澁澤龍彦以外には書けない独特の妙味があって、すばらしい。
たとえば短編集『唐草物語』中の「空飛ぶ大納言」は、平安時代の蹴鞠の達人の話なのだけれど、「ひとたび蹴りはじめると、妖魔にでも取り憑かれたかのごとく病みつきに」なるという蹴鞠に、読んでいるうち、いつの間にか自分も魅了され、のめりこんでしまう。そして、うっとりとなって、自分も鞠といっしょに舞い上がっていくかのような浮遊感を感じる。現実からふわりと飛び立ち、異次元へ迷い込んで、美しくも妖しい夢を見させてくれる、そんな「夢遊感」が澁澤文学にはある。
澁澤龍彦は、あの、およそ頑丈そうでない華奢なからだで、幻想の一大帝国を築き上げた、知の巨人と呼ぶにふさわしい人だった。
(2017年5月8日)
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苦しいとき、行き詰まったときに読む「心の救急箱」。どうしていいかわからなくなったとき、誰かの助けがほしいとき、きっとこの本があなたの「ほんとうの友」となって相談に乗ってくれます。いつもひきだしのなかに置いておきたいマインド・ディクショナリー。
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