1月14日は、作家の三島由紀夫が生まれた日(1925年)だが、「密林の聖者」シュヴァイツァー博士の誕生日でもある。
アルベルト・シュヴァイツァーは、1875年、ドイツとフランスのあいだでずっと領有権問題で争われてきたアルザス地方で生まれた。彼が生まれた当時はドイツ領のカイザースベルクで、現在はフランス領のケゼルスベールとなった。父親は牧師で、その地方では裕福な家庭だった。アルベルトは父親にピアノやオルガンなど音楽を習った。
子どものとき、近所の子と取っ組み合いのけんかをして、相手をねじ伏せた。そのとき、負けた相手が負け惜しみに言った。
「お前みたいに毎日肉入りのスープを飲んでいたら、お前なんかに負けやしない」
アルベルトはこのことばにショックを受けた。これが恵まれない人のために身を捧げようとする彼の人生のターニングポイントになった、と、子ども時代のケンカは、シュヴァイツァーの伝記のなかのもっとも印象的な場面のひとつである。
大学で神学や哲学を学んだ後、30歳以降は人のために尽くすと決心し、大学の医学部に入り直した。38歳のとき、医学博士の免許をとると、医療環境の貧しいアフリカのガボンへ出発した。ガボンは大西洋岸にある赤道直下の国で、そこに診療所を作り、医療活動をおこなった。診療所で博士が傷口に赤チンを塗ると、現地の黒人は、
「早く治るようにもっとたくさん塗ってくれ」
と訴えた。運営資金に困ると、博士はヨーロッパへ行き、パイプオルガンのコンサートでバッハの名演奏家ぶりを披露して資金を作り、それを診療所に注ぎ込んだ。
シュヴァイツァー博士は、人道主義の医師、バッハ作品のオルガン演奏家として知られるが、ほかにも彼は腕のいい建築家であり、バッハ、カント、ゲーテの研究家であり、キリスト教をはじめとする宗教・神学を研究する学者であり、平和を求める政治活動に奔走する活動家でもあり、幅広い分野で活躍し、多くの専門的著作を残している。万能の人であった彼の頭脳は老いてなお衰えるところを知らなかった。
シュヴァイツァーは、ヒロシマ、ナガサキの原爆投下に怒り、反核運動を展開して、77歳のとき、ノーベル平和賞を受賞した後、1965年9月、ガボンのランバレネで没した。
シュヴァイツァー博士の著作については、イエス・キリストの生涯や聖書についての評論や、ゲーテについての文章など、いろいろ読んだ。
彼の自伝『水と原生林のはざまで』『私の幼年時代』と、エドガー・バーマン著『シュヴァイツァーとの対話』は愛読書である。どこを読み返してもとてもおもしろい。
シュヴァイツァー博士のような、高い教養と知性をもった文明人が、あえて困難な逆境に乗り込んで挑み、向学心と知的好奇心の炎を燃やし続けながら、強靭な意志をもって「生命への畏敬」を実践し続けるのは、容易なことではない。様々な本を読んで、その人となりを知れば知るほど、及び難しの念が募る、恐るべき人物である。
日々生活と苦闘する人には、博士のつぎのことばが生きる支えになるのではないか。
「不思議に聞えるかもしれないが、教養ある者は、ない者にくらべて、原生林の生活に堪えやすい。なぜならば前者は後者の知らない慰めをもつからである。まじめな書を読むと、土人の不信や、動物の跳梁で終日戦い疲れた機械のような存在を止めてふたたび人間にかえる。いつも自分に帰って新しい力をうる道を知らない人はわざわいなことだ!」(野村實訳『水と原生林のはざまで』)
(2024年1月14日)
●おすすめの電子書籍!
『大人のための世界偉人物語2』(金原義明)
人生の深淵に迫る伝記集 第2弾。ニュートン、ゲーテ、モーツァルト、フロイト、マッカートニー、ビル・ゲイツ……などなど、古今東西30人の生きざまを紹介。偉人たちの意外な素顔、実像を描き、人生の真実を解き明かす。人生を一緒に歩む友として座右の書としたい一冊。
『大人のための世界偉人物語』(金原義明)
世界の偉人たちの人生を描く伝記読み物。シュヴァイツァー、エジソン、野口英世、キュリー夫人、リンカーン、オードリー・ヘップバーン、ジョン・レノンなど30人の生きざまを紹介。意外な真実、役立つ知恵が満載。人生に迷ったときの道しるべとして、人生の友人として。
●電子書籍は明鏡舎。
https://www.meikyosha.jp
アルベルト・シュヴァイツァーは、1875年、ドイツとフランスのあいだでずっと領有権問題で争われてきたアルザス地方で生まれた。彼が生まれた当時はドイツ領のカイザースベルクで、現在はフランス領のケゼルスベールとなった。父親は牧師で、その地方では裕福な家庭だった。アルベルトは父親にピアノやオルガンなど音楽を習った。
子どものとき、近所の子と取っ組み合いのけんかをして、相手をねじ伏せた。そのとき、負けた相手が負け惜しみに言った。
「お前みたいに毎日肉入りのスープを飲んでいたら、お前なんかに負けやしない」
アルベルトはこのことばにショックを受けた。これが恵まれない人のために身を捧げようとする彼の人生のターニングポイントになった、と、子ども時代のケンカは、シュヴァイツァーの伝記のなかのもっとも印象的な場面のひとつである。
大学で神学や哲学を学んだ後、30歳以降は人のために尽くすと決心し、大学の医学部に入り直した。38歳のとき、医学博士の免許をとると、医療環境の貧しいアフリカのガボンへ出発した。ガボンは大西洋岸にある赤道直下の国で、そこに診療所を作り、医療活動をおこなった。診療所で博士が傷口に赤チンを塗ると、現地の黒人は、
「早く治るようにもっとたくさん塗ってくれ」
と訴えた。運営資金に困ると、博士はヨーロッパへ行き、パイプオルガンのコンサートでバッハの名演奏家ぶりを披露して資金を作り、それを診療所に注ぎ込んだ。
シュヴァイツァー博士は、人道主義の医師、バッハ作品のオルガン演奏家として知られるが、ほかにも彼は腕のいい建築家であり、バッハ、カント、ゲーテの研究家であり、キリスト教をはじめとする宗教・神学を研究する学者であり、平和を求める政治活動に奔走する活動家でもあり、幅広い分野で活躍し、多くの専門的著作を残している。万能の人であった彼の頭脳は老いてなお衰えるところを知らなかった。
シュヴァイツァーは、ヒロシマ、ナガサキの原爆投下に怒り、反核運動を展開して、77歳のとき、ノーベル平和賞を受賞した後、1965年9月、ガボンのランバレネで没した。
シュヴァイツァー博士の著作については、イエス・キリストの生涯や聖書についての評論や、ゲーテについての文章など、いろいろ読んだ。
彼の自伝『水と原生林のはざまで』『私の幼年時代』と、エドガー・バーマン著『シュヴァイツァーとの対話』は愛読書である。どこを読み返してもとてもおもしろい。
シュヴァイツァー博士のような、高い教養と知性をもった文明人が、あえて困難な逆境に乗り込んで挑み、向学心と知的好奇心の炎を燃やし続けながら、強靭な意志をもって「生命への畏敬」を実践し続けるのは、容易なことではない。様々な本を読んで、その人となりを知れば知るほど、及び難しの念が募る、恐るべき人物である。
日々生活と苦闘する人には、博士のつぎのことばが生きる支えになるのではないか。
「不思議に聞えるかもしれないが、教養ある者は、ない者にくらべて、原生林の生活に堪えやすい。なぜならば前者は後者の知らない慰めをもつからである。まじめな書を読むと、土人の不信や、動物の跳梁で終日戦い疲れた機械のような存在を止めてふたたび人間にかえる。いつも自分に帰って新しい力をうる道を知らない人はわざわいなことだ!」(野村實訳『水と原生林のはざまで』)
(2024年1月14日)
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人生の深淵に迫る伝記集 第2弾。ニュートン、ゲーテ、モーツァルト、フロイト、マッカートニー、ビル・ゲイツ……などなど、古今東西30人の生きざまを紹介。偉人たちの意外な素顔、実像を描き、人生の真実を解き明かす。人生を一緒に歩む友として座右の書としたい一冊。
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