1月31日は、ロックバンド「セックス・ピストルズ」のジョン・ライドンが生まれた日(1956年)だが、ノーベル賞作家、大江健三郎の誕生日でもある。
大江健三郎は、1935年、愛媛県の大瀬村で生まれた。7人きょうだいの上から5番目だった。10歳の小学生だったときに日本が敗戦。
高校生のときにいじめを受け、県内のべつの高校へ転校した。転入先の高校で、後に映画監督となる伊丹十三と同級生になり、親交を結んだ。そして大江は伊丹の妹と交際するようになり、後に結婚した。
一浪して東京大学に入学。仏文科に進み、サルトルを研究。小説や戯曲を書き、東大在学中の23歳のときに『飼育』で芥川賞を受賞。大江より2年前に芥川賞を受賞した石原慎太郎に続いて、社会人経験をへずいきなりプロの小説家という学生作家となった。
以後、『個人的な体験』『万延元年のフットボール』『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』を書いた。
59歳のとき、ノーベル文学賞を受賞。受賞記念講演のタイトルは、ノーベル賞の先輩である川端康成の受賞記念講演『美しい日本の私』のパロディで『あいまいな日本の私』だった。ノーベル賞受賞の報に、当時の文部省はあわてて大江に文化勲章を授与しようとしたが、大江は、自分は戦後民主主義者で、民主主義に勝る権威と価値観を認めないとして、これを辞退した。
大江は60歳のころ、『燃えあがる緑の木』三部作を完成し、いったん小説家卒業宣言をしたが、後に宣言を撤回して、ふたたび小説を書きはじめた。2023年3月、老衰のため没した。88歳だった。
1980年代、大江健三郎は多くの男子学生によって読まれていた。
「日本の作家は、大江健三郎以外はみんな根無し草だ」
そう言う学生仲間もいた。
『万延元年のフットボール』を読み衝撃を受けた。知性と情念と、日本の土着的な歴史と、ヨーロッパ文明の教養と、そういったものをこねて丸めてぶつけられた巨大なかたまりだった。『万延元年のフットボール』のような重量感ある迫力をもった小説は、日本には多くない。『ヒロシマ・ノート』にも感心した。
かつて、ある若手の流行作家と話をしていたとき、作家は体力が大事だという話になって、その人がこんなことを言った。
「大江健三郎さんなんか、水泳やってますからね。ええ、泳いでます。年輩の方だけど、ぼくなんかより、よっぽど体力があると思う」
そんな話をした数カ月後、「大江健三郎、ノーベル文学賞受賞」のニュースが耳に飛び込んできた。そう、やっぱり作家は体力。水泳をやってノーベル賞なのである。
(2024年1月31日)
●おすすめの電子書籍!
『小説家という生き方(村上春樹から夏目漱石へ)』(金原義明)
人はいかにして小説家になるか、をさぐる画期的な作家論。村上龍、村上春樹から、団鬼六、三島由紀夫、川上宗薫、江戸川乱歩らをへて、鏡花、漱石、鴎外などの文豪まで。新しい角度から日本の大作家たちの生き様、作品を検討。
●電子書籍は明鏡舎。
https://www.meikyosha.jp
大江健三郎は、1935年、愛媛県の大瀬村で生まれた。7人きょうだいの上から5番目だった。10歳の小学生だったときに日本が敗戦。
高校生のときにいじめを受け、県内のべつの高校へ転校した。転入先の高校で、後に映画監督となる伊丹十三と同級生になり、親交を結んだ。そして大江は伊丹の妹と交際するようになり、後に結婚した。
一浪して東京大学に入学。仏文科に進み、サルトルを研究。小説や戯曲を書き、東大在学中の23歳のときに『飼育』で芥川賞を受賞。大江より2年前に芥川賞を受賞した石原慎太郎に続いて、社会人経験をへずいきなりプロの小説家という学生作家となった。
以後、『個人的な体験』『万延元年のフットボール』『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』を書いた。
59歳のとき、ノーベル文学賞を受賞。受賞記念講演のタイトルは、ノーベル賞の先輩である川端康成の受賞記念講演『美しい日本の私』のパロディで『あいまいな日本の私』だった。ノーベル賞受賞の報に、当時の文部省はあわてて大江に文化勲章を授与しようとしたが、大江は、自分は戦後民主主義者で、民主主義に勝る権威と価値観を認めないとして、これを辞退した。
大江は60歳のころ、『燃えあがる緑の木』三部作を完成し、いったん小説家卒業宣言をしたが、後に宣言を撤回して、ふたたび小説を書きはじめた。2023年3月、老衰のため没した。88歳だった。
1980年代、大江健三郎は多くの男子学生によって読まれていた。
「日本の作家は、大江健三郎以外はみんな根無し草だ」
そう言う学生仲間もいた。
『万延元年のフットボール』を読み衝撃を受けた。知性と情念と、日本の土着的な歴史と、ヨーロッパ文明の教養と、そういったものをこねて丸めてぶつけられた巨大なかたまりだった。『万延元年のフットボール』のような重量感ある迫力をもった小説は、日本には多くない。『ヒロシマ・ノート』にも感心した。
かつて、ある若手の流行作家と話をしていたとき、作家は体力が大事だという話になって、その人がこんなことを言った。
「大江健三郎さんなんか、水泳やってますからね。ええ、泳いでます。年輩の方だけど、ぼくなんかより、よっぽど体力があると思う」
そんな話をした数カ月後、「大江健三郎、ノーベル文学賞受賞」のニュースが耳に飛び込んできた。そう、やっぱり作家は体力。水泳をやってノーベル賞なのである。
(2024年1月31日)
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人はいかにして小説家になるか、をさぐる画期的な作家論。村上龍、村上春樹から、団鬼六、三島由紀夫、川上宗薫、江戸川乱歩らをへて、鏡花、漱石、鴎外などの文豪まで。新しい角度から日本の大作家たちの生き様、作品を検討。
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