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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

7月22日・ベッセルの視差

2018-07-22 | 科学
7月22日は、「フォークの神さま」岡林信康が生まれた日(1946年)だが、天文学者、ベッセルの誕生日でもある。宇宙の彼方の恒星までの距離をはじめて計算した人である。

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルは、1784年、ドイツのミンデンで生まれた。父親は役所に務める公務員だった。
14歳でブレーメンの貿易会社に奉公に出たフリードリヒは、そこで貨物船の航行技術に接するうち、数学への興味を深めた。また、船の位置を決定する根拠となる天文学に関心をもつようになった。
貿易会社を辞めたベッセルは、ブレーメンに近い天文台の助手に転職した。彼はそこで3千個以上の恒星の位置を測定する観測、研究に関わった。
この業績が買われ、彼は25歳でケーニヒスベルク天文台の所長に任命された。この天文台で観測、研究を続け、彼は5万個以上の恒星の位置を測定した。
1846年3月、ケーニヒスベルクで後腹膜腫瘍により没した。

ベッセルが、恒星までの距離を算出した方法は、おおよそこういう手順らしい。
彼はまず「大気差」というものを精密に測った。「大気差」とは、恒星からの光が宇宙を伝わってきて、地球の大気圏に入ると、光が屈折し、見かけの高度が、実際の高度より大きくなる現象のことで、この差は水平線近くに見える恒星ほど大きくなる。大気差は大気の温度や気圧などによっても変化するので、現在でも各天文台ごとに観測データをもとに独自の「大気差」を算出しているのが実情だというが、ケーニヒスベルク天文台の所長となったベッセルは、膨大な観測データから求めた「大気差」を発表した。
つぎにベッセルは「視差」を計算した。
たとえば、はくちょう座61番星の位置をある日に観測したとすると、その半年後、地球が太陽のちょうど反対側にまわったときに、いま一度61番星を観測する。すると、2度の観測の角度の差が求められるわけで、この角度に、さらに地球が太陽をまわる軌道の直径を底辺とした三角形を想定すれば、恒星までの距離が計算できる。
こうやって、恒星までの距離は求められた。

もちろんベッセルだけが恒星の距離を計算していたわけではなく、当時の天文学者たちは競争で算出にしのぎを削っていたけれど、ベッセルの業績は突出していた。
現在では、宇宙に打ち上げられたヒッパルコス衛星による観測で、より正確な恒星までの距離が求められているが、ベッセルが算出した値はいい線をいっていたらしい。

ベッセルはまた、天体の運動を観測して得たデータのずれを発見して、そのすぐそばに、まだ見つかっていない星が隠れていると推測していて、それが後に発見されたりもしている。その功績により、小惑星や月面のクレーターに「ベッセル」の名が冠せられている。

日本では江戸幕府の水野忠邦が天保の改革をおこなっていた時代に、こうやって宇宙の彼方の一点をじっと見つめていた人がいるのだと思うと、不思議な心持ちがする。
(2018年7月22日)


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