佐藤優に対してよいイメージを持っていなかった。ずいぶん前に小林よしのりと罵倒を繰り返していたので,彼が書く本など読む気にもなれなかった。
しかし,池上彰との対談形式という本書,非常に読みやすく,本質から逃げずに書いているところが評価できる。
評価する点は次の通り。
- 「大学入試共通テスト」試行テスト2回分を,ふたりとも実際に解いている。
- 池上彰は元都立高校教諭経験,佐藤優は大学講師経験など,現場経験からの声が生々しい。
- 主観ではなく客観で書かれている。具体的には,「英語より最初に日本語の勉強が重要」という主張への根拠を歴史と世界を比較して紹介。
- 現在の格差社会の元凶が小泉構造改革にあるとの,自分との共通認識。
教育に関する書籍は,とくに「専門家」が書くと受験産業の匂いがしてたまらない。英語四技能(読む,聞く,書く,話す)の民間検定導入など,まったくもってお金の匂いしかないし,試験の公平性の担保の点で僕も支持しない。
それにしてもはっきりしているのは,「アクティブラーニング」とは机上だけで学ぶものではないということがより鮮明にあぶり出されたことである。
アクティブ,すなわち「主体的」であるから,学校内で「教わるきっかけ」はあっても生徒は自分で「姿勢」を身につけなければならない。
しかし,こんなことは,実社会にでればすぐにわかることである。主体的に動けない組織・個人はすぐに腐っていくからだ。命令されたことしか仕事をしないという人種と付き合うこともあるが,辟易している。どんなに変な仕事であっても,むしろ誰もやりたがらないことに先行して取り掛かってこそ,レッドオーシャン戦略ではないブルーオーシャン戦略があると強く信じているし,糧になっている。
それでも,僕は「共通テスト」の形式では「選抜に適さない」可能性が高いと指摘する。これは,両氏も指摘している「偏差値分布のフタコブラクダ」があるからだ。
これは,「記念受験する層」と「本気で受験する層」がいるからであり,いまのセンター試験にも明瞭に現れている。高校現場としては「センター試験ぐらい受けておけ」ということなのだろうし,それだけで合格する大学などいくらでもある。
主体的な学びについていえば,「好きなことをしっかりやる」と同時に「基礎教養」をしっかり身につけることが重要だ,という両氏の主張にも賛成である。「おしん」を観ていてもわかるように「あれまあ,おしんさんはどこであれほどの作法を身につけられたの」というセリフがしばしば出てくる。
「おしん」の時代も令和の時代も本質は同じ。しっかりした教養と好きなことを身につけた者が生き残れるということだ。
「AIは仕事を奪わない」という指摘にも同感である。
AIに会社の部下を通して「添削」させてみたことがあるが,見事にAIが間違えた。両生類の親子の違いを記す問題に「子は陸上で肺呼吸,親は水中で鰓呼吸をする」という誤答をテキストデータにして入力したにも関わらず,AI採点は「丸」なのである。99.67%だかの採点力があるとのAIだったが,まだまだこんなものなのだ。たしかにこれは極端な例であり,事実「工場の単純作業」は消えているが,そうではない仕事がいくらでもあるのが「人間を相手にする仕事」というものだろう。
本書は2019年4月に発売されてたが,まったく存在に気づかなかった。そこは少し損をしたかもしれない。
とにかく始まる2020年入試改革。慌てることなく「学問の本質」「教養」を養えばよいのだ。
そのために有効な手段として,僕はやはり「釣り」という自然を相手にする「人間の予測を超える魚類の動き」を主体的に学ぶ行為を,学問としてもあらためて推薦したい。