10月末の熊野は,好天に恵まれて初夏のように暑かった.夕景の楯ヶ崎を見ようということで,15時過ぎに楯ヶ崎遊歩道を歩いて,滝のような汗を流しながらも無事に英虞崎の先端にたどり着く.太陽はまだ煌々と輝き,海が太陽の光を反射していた.
英虞崎についたのは16時過ぎだったので,日没まで時間がたっぷりあって少々時間を持て余す.楯ヶ崎の勇姿やトンビ,海や空など写真に撮ってのんびり過ごすことにする.すると,いつしか楯ヶ崎が徐々に茜色に染まっていく.
太陽は二木島湾南側の山の方へ沈んでいくと同時に最後まで煌々と輝き,辺りに強烈な西日を降りそそぐ.太陽の光を反射した水面がとても眩しかった.そして,太陽の高度低下と共に眩しく輝く水面は徐々にその面積を狭めていく.日没まであともう少しだ.
夕陽の強烈な西日を浴びた楯ヶ崎は,まるで真っ赤になって燃えているようだった.もちろん日中の楯ヶ崎もすばらしいけれど,茜色に染まった夕景の楯ヶ崎は,地球の鼓動を肌で感じ取れる神秘的な光景だった.
太陽はとうとう二木島湾南側の山の下へ沈む.すると,辺りはすこしずつ暗くなりはじめて,あれほど蒸し暑かったのが嘘のように今度は急に肌寒くなってきた.暗くなると静けさがより強調されて,波の音が大きく聞こえるような気がした.
太陽が山の下に隠れるまでの数分間は,光と影のグラデーションが刻々と変化し,楯ヶ崎はいろいろな表情を見せてくれた.太陽が沈んでいくと同時に,楯ヶ崎は下の方から陰で暗くなっていく.地球が自転していることを改めて思い知らされた.
この光と影の競演ショーは,あっという間の内に終わってしまって,楯ヶ崎はすっかり暗くなってしまった.楯ヶ崎での一日が終わった瞬間でもあった.陽の当たっていない楯ヶ崎は,なんだかちょっぴり寂しげのように思えた.
一方で,海の方はまだまだ明るい.紺碧色の熊野灘の水平線付近は,まだほのかに茜色を帯びている.そして,上空には筆でさらったような雲がなびいていた.暗くなる前に早く戻らなきゃいけないと思いつつも,その場から足が動かなかった.
それにしても,陽が暮れ出すと暗くなるまであっという間だ.さっきまで真っ赤に染まっていた楯ヶ崎を見ていたのが,かなり前のことのように思われた.楯ヶ崎の夕景は本当にすばらしかった.さあ,もう帰ることにしよう.
熊野灘,そして黒く染まった英虞崎に別れを告げて,暗くなった楯ヶ崎遊歩道の中へ戻っていくことにした.駐車場へたどり着く頃には,辺りは漆黒の闇に包まれ波の音だけがこだましていた.
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