日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎望郷(未来探偵ロクロ その14)

2024年04月02日 | ◎本日の想像話
「軌道エレベータは膨大な重量を支える必要がある。軽く、なおかつとんでもない強度を持つ物質。私は政府からの資金で研究を続けていた。しかし、おもわしい成果はいつまでも得られなかった。いよいよ政府から研究資金打ち切りの打診があった。追い詰められた私は須田の基礎研究を盗んでしまった。須田の研究を私の名前で発表したのだ。しかし発表をもって世界中の研究者が動いた。その事で、軌道エレベーターは完成したのだ。盗んだのは事実だ。しかし妻子の命を奪っても良いという道理はない」
 一通りの告白を聞いたミツオが口を開く。
「命を救う方法を一つ思いつきました。しかし絶対というものではありません。地上への通信手段が無い今、それしかないと考えます。やらせてもらえますか」
 伊集院博士に断る理由は無かった。 協力の同意を得たミツオはエリーと博士に指示を出した。
 その間にも軌道エレベーターは静かに上昇を続ける。


 同時刻、地上。
 道明寺と佐々木が肩を並べて夜道を歩いていた。道明寺の足下は心もとなく揺れている。したたかと酔っているようだ。佐々木は転ばないように道明寺の肩を支えている。
「何だが、今夜はずいぶんチカチカするわね」
「何がだ」
「いつもあんなにチカチカしていたかしら。それても私が酔っているからかしら」
「だから何がだ」
 佐々木は道明寺の言っている事が分からなくて声を荒げる。
「軌道エレベーターのライト」
 佐々木は見上げる。
 たしかに上空に伸びる軌道エレベーターの支柱にしつらえてあるライトが点滅を繰り返している。
「どうだったかな」
「うそでしょ」
 驚きながら道明寺はハンドバッグから、あわててタブレットを取り出す。
 ペンを一心不乱に走らせ、書き留める。理解出来ない佐々木はしばらく道明寺を観察していたが、いっこうに止まらない手にしびれを切らせて道明寺に問いかける。
「お取り込み中、恐縮ですが、何を書いていらっしゃいますか」
 道明寺は、佐々木の方を見ずに一点を見据えたまま返答する。
「軌道エレベーターの点滅に意味があるの。あれはモールス信号よ。それに信号を送っているのはミツオとエリーよ」  

コメント
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