2007年4月21日
グリニッシュ・ビレッジから発行された『産業廃棄物法改革の到達点』(著者:北村喜宣・上智大学法学部教授)に関する書評を頂戴したので、掲載いたします。
1.著者の紹介
本書の著者・北村喜宣上智大学法学部・法科大学院教授は、行政法・環境法を中心に研究活動をされ、なかでも廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法)に関しては、第一人者であると言っても過言ではない。北村教授の研究活動は、机上にととどまることなく、全国の産業廃棄物処理業者や排出事業者、自治体、警察などを対象としたフィールドワークによって支えられているため、現場感覚の議論が展開されていることが大きな特徴であると言える。
そうした実績から、北村教授は、環境省をはじめとする中央省庁や自治体における各種審議会の委員長、委員等を数多く経験されている。最近では、本書でも触れられている優良性基準適合認定制度や欠格要件に関する審議会にもその名を連ねている。また、新司法試験においても環境法の試験委員として問題の作成にもあたられている。
研究者の論文は、学術的見地から論を展開するのが通常であり、一般の読者にはなかなか手が出しづらいのが実状である。しかし、北村教授の場合は、具体的なフィールドワークの積み重ねを主体とした社会学的アプローチによる論文構成が特徴であるため、本格的論文でありながらとても読みやすいことに特徴がある。
2.本書の特色と読み方
(1)第一部 廃棄物処理法の法政策
第一部は、①廃棄物処理法の性格、②産業廃棄物処理業者と自治体との関係、について述べられている。このなかで、排出企業の廃棄物管理担当者にとって、特に重要なのは、産業廃棄物処理業者と自治体との関係について知ることである。
産業廃棄物処理業者への規制や基準は、一見、排出企業の廃棄物管理担当者には無関係のように思えるかも知れない。しかし、自治体と産業廃棄物処理業者との間にどのような約束事があり、その履行のためにどのような指導がなされているかを理解することは、業者選定や現地確認の際の見極めて大きな武器となる。排出企業の廃棄物管理担当者には、コンプライアンスのスキルが不可欠であるが、そのなかで条例をはじめとした自治体政策のあり方をマスターすることは必須であると言えよう。
(2)第二部 改正ラッシュの廃棄物処理法
第二部は、2003年、2004年、2005年とたて続けに改正された廃棄物処理法の改正内容について、立法段階にまで遡って解説したものである。
改正の内容を正確に把握するのは、なかなか困難である。しかしながら、なぜ、改正が必要になったのか、という社会的要請に立ち返り、その解決策は何かと筋道をたてて考えていくことにより、その整理・把握は非常に容易となる。本書の中心部分を構成する第二部は、まさしくそうした視点から3年間の法政策の動きが解説されている。なお、3年間の改正動向を概観すると、以下のようなキーワードが見えてくる。
①2003年改正
疑い物への対応、不法投棄未遂罪の創設、悪質許可業者への許可取消義務化、広域処理認定特例制度の創設。
②2004年改正
国の役割強化、廃棄物処理施設の諸問題対応、不法投棄対策の強化、硫酸ピッチ問題。
③2005年改正
大規模不法投棄事件への対応、無許可輸出の取締強化、罰則強化
(3)第三部 適正処理実現のための優良化戦略
第三部は、産業廃棄物処理業者優良化基準適合認定制度について詳細に解説がなされている。優良化基準適合認定制度は、産業廃棄物処理業者を対象とした制度であるが、審議会の委員を務められた北村教授は、本書において、『制度趣旨は排出事業者の優良化にある』とされている。廃棄物処理法における排出事業者責任に関する規定は強化されていく傾向にあるが、それを全うするためには、まず排出事業者自身が優良化されることが必要であることは間違いない。
また、排出事業者にとって、その責任を果たすためには、グッドパートナーとしての産業廃棄物処理業者をどのようにして選定するかが重要なポイントとなる。産業廃棄物処理業者における情報公開は、年々進展をみせてはいるが、そでもまだ十分なものとは言えない。限られた情報をどう読むか、あるいはどのような情報公開を求めるか、そして、両者間におけるビジネス・コミュニケーションはいかにあるべきか、についても第三部において展開されている。
(4)第四部 循環型社会と産業廃棄物処理
2000年の循環基本法の制定を機に、廃棄物・リサイクルをめぐる法政策は大きく転換された。個別リサイクル法が次々と制定され、廃棄物処理法も毎年のように改正がなされている。第四部では、廃棄物・リサイクルの法体系についてわかりやすく解説されている。
第四部でも触れられているようにリサイクル偽装の不法投棄に関する点は、排出事業者にとってもたいへん重要なポイントであるといえる。廃棄物とは何か、その定義は実務上も問題となりやすく、誤った対応をすればコンプライアンスの視点からも弊害が生じる可能性が大きい。この点は、排出事業者側に十分なスキルがないと、知らず知らずのうちに法令違反に加担してしまう場合もあることから、注意が必要な項目でもある。
(5)第五部 産業廃棄物処理法の実施
第五部は、主に自治体において廃棄物処理法をどのように運用・執行していくかについて触れられている。自治体とのコミュニケーションは、産業廃棄物処理業者だけではなく、排出事業者にとっても重要な課題である。とくに、廃棄物適正管理において、管轄の自治体がどのような見解をもって法の運用を実施しているかは、実務と直結する問題であるといえる。
通常の業務も当然のことながら、不法投棄や不適正処理に巻き込まれた場合、どのような管理体制を敷き、そのような対応をするか、という緊急事態への準備は万全になされていなければならない。その過程において最もポイントとなるのが、行政とのコミュニケーションである。本書では、そこまで踏み込んだ解説はなされていないが、前提となる行政の思考方法について分析されており、廃棄物適正管理体制を構築する際には、大いに参考となるであろう。
講演録
最後に、北村教授が行った『循環型社会の方向性と各主体の役割』と題する講演が収録されている。このなかで、排出意業者はマーケットにおいて廃棄物適正処理をする大切な主体として位置づけられている。
排出意業者には、廃棄物処理法上、適正価格での発注が義務付けられている。この適正価格には確固とした定義があるわけではないが(『行政処分の指針について(通知)』では、都道府県が把握した一般的な処理料金の半値以下、とされている)。本書では、この価格は最終処分までに要する費用までを含めて構成されていることに注意すべきである、と指摘されていることに注目すべきであろう。
※本書のお申込は、こちらへ
【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。
【行政報ウオッチング】
環境省
中央環境審議会野生生物部会の開催について
吉野熊野国立公園西大台利用調整地区における利用調整の期間及び利用者の人数の範囲等を定める告示についての意見の募集について
「第1回かおり環境部会」の開催について
経済産業省
全産業活動指数、全産業供給指数(平成19年2月分)
国土交通省
日本風景街道戦略会議の提言について「日本風景街道の実現に向けて 提言」~美しい国土景観の形成を目指した国民的な運動を~
厚生労働省
ダイオキシン類による健康影響等の調査結果について(平成18年度)
資源資源エネルギー庁
電力調査統計を更新
東京都
東京都環境審議会を開催
【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。
【ISO14001】
◆「産業廃棄物処理委託契約」に関するコンテンツを追加しました/2007.4.15
◆「環境法令管理室」に「4月6日から4月15日までに公布された主な環境法令一覧」をアップしました/2007.4.15
◆「環境法令管理室」に「4月6日から4月15日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2007.4.15
グリニッシュ・ビレッジから発行された『産業廃棄物法改革の到達点』(著者:北村喜宣・上智大学法学部教授)に関する書評を頂戴したので、掲載いたします。
1.著者の紹介
本書の著者・北村喜宣上智大学法学部・法科大学院教授は、行政法・環境法を中心に研究活動をされ、なかでも廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法)に関しては、第一人者であると言っても過言ではない。北村教授の研究活動は、机上にととどまることなく、全国の産業廃棄物処理業者や排出事業者、自治体、警察などを対象としたフィールドワークによって支えられているため、現場感覚の議論が展開されていることが大きな特徴であると言える。
そうした実績から、北村教授は、環境省をはじめとする中央省庁や自治体における各種審議会の委員長、委員等を数多く経験されている。最近では、本書でも触れられている優良性基準適合認定制度や欠格要件に関する審議会にもその名を連ねている。また、新司法試験においても環境法の試験委員として問題の作成にもあたられている。
研究者の論文は、学術的見地から論を展開するのが通常であり、一般の読者にはなかなか手が出しづらいのが実状である。しかし、北村教授の場合は、具体的なフィールドワークの積み重ねを主体とした社会学的アプローチによる論文構成が特徴であるため、本格的論文でありながらとても読みやすいことに特徴がある。
2.本書の特色と読み方
(1)第一部 廃棄物処理法の法政策
第一部は、①廃棄物処理法の性格、②産業廃棄物処理業者と自治体との関係、について述べられている。このなかで、排出企業の廃棄物管理担当者にとって、特に重要なのは、産業廃棄物処理業者と自治体との関係について知ることである。
産業廃棄物処理業者への規制や基準は、一見、排出企業の廃棄物管理担当者には無関係のように思えるかも知れない。しかし、自治体と産業廃棄物処理業者との間にどのような約束事があり、その履行のためにどのような指導がなされているかを理解することは、業者選定や現地確認の際の見極めて大きな武器となる。排出企業の廃棄物管理担当者には、コンプライアンスのスキルが不可欠であるが、そのなかで条例をはじめとした自治体政策のあり方をマスターすることは必須であると言えよう。
(2)第二部 改正ラッシュの廃棄物処理法
第二部は、2003年、2004年、2005年とたて続けに改正された廃棄物処理法の改正内容について、立法段階にまで遡って解説したものである。
改正の内容を正確に把握するのは、なかなか困難である。しかしながら、なぜ、改正が必要になったのか、という社会的要請に立ち返り、その解決策は何かと筋道をたてて考えていくことにより、その整理・把握は非常に容易となる。本書の中心部分を構成する第二部は、まさしくそうした視点から3年間の法政策の動きが解説されている。なお、3年間の改正動向を概観すると、以下のようなキーワードが見えてくる。
①2003年改正
疑い物への対応、不法投棄未遂罪の創設、悪質許可業者への許可取消義務化、広域処理認定特例制度の創設。
②2004年改正
国の役割強化、廃棄物処理施設の諸問題対応、不法投棄対策の強化、硫酸ピッチ問題。
③2005年改正
大規模不法投棄事件への対応、無許可輸出の取締強化、罰則強化
(3)第三部 適正処理実現のための優良化戦略
第三部は、産業廃棄物処理業者優良化基準適合認定制度について詳細に解説がなされている。優良化基準適合認定制度は、産業廃棄物処理業者を対象とした制度であるが、審議会の委員を務められた北村教授は、本書において、『制度趣旨は排出事業者の優良化にある』とされている。廃棄物処理法における排出事業者責任に関する規定は強化されていく傾向にあるが、それを全うするためには、まず排出事業者自身が優良化されることが必要であることは間違いない。
また、排出事業者にとって、その責任を果たすためには、グッドパートナーとしての産業廃棄物処理業者をどのようにして選定するかが重要なポイントとなる。産業廃棄物処理業者における情報公開は、年々進展をみせてはいるが、そでもまだ十分なものとは言えない。限られた情報をどう読むか、あるいはどのような情報公開を求めるか、そして、両者間におけるビジネス・コミュニケーションはいかにあるべきか、についても第三部において展開されている。
(4)第四部 循環型社会と産業廃棄物処理
2000年の循環基本法の制定を機に、廃棄物・リサイクルをめぐる法政策は大きく転換された。個別リサイクル法が次々と制定され、廃棄物処理法も毎年のように改正がなされている。第四部では、廃棄物・リサイクルの法体系についてわかりやすく解説されている。
第四部でも触れられているようにリサイクル偽装の不法投棄に関する点は、排出事業者にとってもたいへん重要なポイントであるといえる。廃棄物とは何か、その定義は実務上も問題となりやすく、誤った対応をすればコンプライアンスの視点からも弊害が生じる可能性が大きい。この点は、排出事業者側に十分なスキルがないと、知らず知らずのうちに法令違反に加担してしまう場合もあることから、注意が必要な項目でもある。
(5)第五部 産業廃棄物処理法の実施
第五部は、主に自治体において廃棄物処理法をどのように運用・執行していくかについて触れられている。自治体とのコミュニケーションは、産業廃棄物処理業者だけではなく、排出事業者にとっても重要な課題である。とくに、廃棄物適正管理において、管轄の自治体がどのような見解をもって法の運用を実施しているかは、実務と直結する問題であるといえる。
通常の業務も当然のことながら、不法投棄や不適正処理に巻き込まれた場合、どのような管理体制を敷き、そのような対応をするか、という緊急事態への準備は万全になされていなければならない。その過程において最もポイントとなるのが、行政とのコミュニケーションである。本書では、そこまで踏み込んだ解説はなされていないが、前提となる行政の思考方法について分析されており、廃棄物適正管理体制を構築する際には、大いに参考となるであろう。
講演録
最後に、北村教授が行った『循環型社会の方向性と各主体の役割』と題する講演が収録されている。このなかで、排出意業者はマーケットにおいて廃棄物適正処理をする大切な主体として位置づけられている。
排出意業者には、廃棄物処理法上、適正価格での発注が義務付けられている。この適正価格には確固とした定義があるわけではないが(『行政処分の指針について(通知)』では、都道府県が把握した一般的な処理料金の半値以下、とされている)。本書では、この価格は最終処分までに要する費用までを含めて構成されていることに注意すべきである、と指摘されていることに注目すべきであろう。
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【官報ウオッチング】
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環境省
中央環境審議会野生生物部会の開催について
吉野熊野国立公園西大台利用調整地区における利用調整の期間及び利用者の人数の範囲等を定める告示についての意見の募集について
「第1回かおり環境部会」の開催について
経済産業省
全産業活動指数、全産業供給指数(平成19年2月分)
国土交通省
日本風景街道戦略会議の提言について「日本風景街道の実現に向けて 提言」~美しい国土景観の形成を目指した国民的な運動を~
厚生労働省
ダイオキシン類による健康影響等の調査結果について(平成18年度)
資源資源エネルギー庁
電力調査統計を更新
東京都
東京都環境審議会を開催
【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。
【ISO14001】
◆「産業廃棄物処理委託契約」に関するコンテンツを追加しました/2007.4.15
◆「環境法令管理室」に「4月6日から4月15日までに公布された主な環境法令一覧」をアップしました/2007.4.15
◆「環境法令管理室」に「4月6日から4月15日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2007.4.15