環境法令ウオッチング

2006年7月から2007年12月までの環境法令情報・行政情報・判例情報を掲載。

東京大気汚染訴訟 東京都『大気汚染訴訟の協議に対する都の提案及び要求』を読む

2006-11-30 08:24:01 | 大気汚染
2006年11月30日 
 東京都は、東京大気汚染訴訟(平成8年5月に一次訴訟提訴、平成14年10月判決)の控訴審結審(平成18年9月)に際し、東京高裁裁判長からの和解の可能性を聴取したい旨の発言等を受け、『大気汚染訴訟の協議に対する都の提案及び要求』を提出しました。今回は、その内容について検討してみます。

1.東京大気汚染訴訟第一次判決(平成14年10月29日東京地裁)の概要
(1)訴訟内容
 自動車排ガスで健康被害を受けたとして、平成8年年5月の第1次提訴にはじまり、平成12年11月の第4次提訴までの原告計505名(東京都内のぜんそく患者や遺族等)が国・東京都・自動車メーカー7社等に対して総額約22億3,800万円の損害賠償と汚染物質の排出差し止めを求めたもの。原告には184人の未認定患者(公害健康被害の補償等に関する法律による認定を受けていない人)が含まれていました。

(2)判決内容 
 道路端から約50mまでに居住するなどにより気管支ぜんそくを発症、悪化した公害病未認定患者1人を含む計7人について排ガスと被害の因果関係を認め、「国などは住民の健康被害を防止する有効な策をとらなかった」と判断。国、都、首都高速道路公団に総額7,920万円の賠償が命じられました。
 最大の争点になった自動車メーカーの責任については「できる限り環境への負荷を低減するよう努める社会的責務がある」とされましたが、「過失は認め難い」と賠償責任を否定しています。また、差し止め請求も棄却されました。

2.それぞれの対応
(1)東京都
 一次訴訟について、東京都は、『国の自動車排出ガス規制責任の有無について明示的な判断をなさず、道路管理者にのみ、現実的には回避することがほとんど不可能な責任を負うべきことを求めたものであり、その内容、論理には、都として到底承服できないものがあ〔る〕』としながらも、『自動車排出ガス特にディーゼル排気微粒子(DEP)による健康被害は、今日の社会的な問題であり、大気汚染の改善こそが行政の根本的使命であるという認識が肝要であること、また、個別の健康被害と自動車排出ガスとの間の因果関係という極めて解明困難な問題を裁判手続で決着させることができるのかという疑問、等諸般の事情を複合的に勘案し、今回はこれ以上訴訟を継続して結論を先送りすることをせず、都に対する請求を一部認容した裁判所の判断を受け容れて、5名の原告の方々への損害賠償金の支払を行うこととした』として、控訴せず、一部の被告との間で判決が確定しています。

(2)国
 判決を受け、扇国土交通大臣(当時)は、次の談話を発表しましたが、『排ガスとぜんそくの因果関係が明確でない』として、東京高裁へ控訴しました。
『本日、東京地方裁判所において、東京大気汚染公害訴訟(東京大気汚染物質排出差止等請求事件)の第一次訴訟の判決言渡しがありました。今回の判決では原告側の主張する自動車の排出ガスと健康影響との因果関係が認められ、排出の差止請求は否定されたものの、損害賠償請求については一部認められたものであり、国にとって非常に厳しい内容であると受け止めています。今後は、判決内容を詳細に検討したうえで、本件訴訟で国を代表する法務省など関係機関と協議し、対応を検討したいと考えています。しかしながら、私としては、道路交通環境の改善は喫緊の課題と認識しており、本件訴訟の背景となっている大気環境の現状を踏まえて、道路交通環境対策について、新たな施策を講じることも含め、一層の推進を図るよう担当部局に指示を行ったところです。国土交通省としては、できるだけ早急に総合的な施策を取りまとめて、道路交通環境の改善に向けて更に努力してまいる所存です。』

3.東京都『大気汚染訴訟の協議に対する都の提案及び要求
(1)本訴訟及び本提案に対する都の基本的考え方
 東京都は、一審判決後に控訴を見送り、賠償金を全額支払ったことで、既に一定の行政的、社会的責任を履行している、としながらも、①判決から約4年が経過した現在、被害者を救済することの重要性は、今でも全く変っていないが、このまま裁判の流れにまかせているだけでは何ら抜本的な解決には繋がらない、②この問題は、裁判やその判決で対応可能な範囲を超えて社会全体の課題として位置づけ、解決すべき段階にある、とし、以下の考えを示しています。
□大気汚染の根本的な原因は、国の自動車排出ガス規制の怠慢にあるが、国は、一審で責任を認められたにもかかわらず、未だに正当な現況認識を欠いたまま、大気汚染に対する不作為の責任を取ろうとしていない。
□一審では責任を認定されていないものの、被告である自動車メーカーに対しては、高度で成熟した自動車文明社会を築くために欠かせない企業の社会的責任を担う見地から、被害者救済に対する協力を求めたい。

(2)東京都医療費助成制度提案の具体的内容
□対象地域:都内全域
□対象疾病:気管支ぜん息(一審判決で因果関係が認められた「気管支ぜん息」を対象)
□対象者(都の大気汚染健康障害者医療費助成条例に準拠)
□現に上記疾病にかかっている者
□東京都の区域内に引き続き一年以上住所を有する者
□医療保険各法により医療に関する給付が行われる者
□公健法・都条例等による認定者を除く
□喫煙者を除く
□助成範囲:入院時食事療養費を除く本人負担分を全額助成
 □助成総額:約40億円/年
 □助成に対する負担割合:都(3分の1)、国(3分の1)、首都高・メーカー(各6分の1)
 □別に制度運営経費が発生
□所得制限:所得制限なし
□期間:本制度の枠組みは5年間維持し、5年後に検証のうえ、見直しを実施
□認定審査:認定審査を実施(審査方法、支給方式等詳細は今後検討)

4.東京都提案の意義
 今回の東京都提案に対しては、①国は『排ガスとぜんそくの因果関係が明確でない』として財源負担には否定的、②自動車メーカー側は協議に応じる模様である、との報道もなされています。一方、原告側からは対象範囲について不十分、との意見が出されています。しかしながら、『大気汚染による健康被害者の救済と自動車排出ガス対策の強化を早急に実施することが行政本来の使命である』とする東京都の姿勢は評価できるものであると思います。
 東京都は、訴訟段階から『道路自体が大気汚染の本来の原因であるはずがなく、そこを走行する自動車がどのような質・量の大気汚染物質を排出するものなのかが問題』であり、『国の自動車排出ガス規制の怠慢』が、根本的な原因であると主張してきました。また、実際の施策としても、地方公共団体が自動車排出ガスについての排出源そのものを規制する権限を全く持ってなかった中で、ディーゼル車の走行規制の規定を含む都民の健康と安全を確保する環境に関する条例を制定しています。
 東京高裁が和解勧告をしていることに鑑みれば、東京都の提案をたたき台として、建設的な議論が展開されればと思います。

【官報ウオッチング】
〔告示〕
自動車の燃料の性状に関する許容限度及び自動車の燃料に含まれる物質の量の許容限度(環境省告示第142号/平成7年環境庁告示第64号)の一部改正)
 自動車排出ガス規制の強化に伴い、自動車の排出ガス対策に占める燃料品質の役割がますます重要になってきている。燃料性状の改善と自動車排出ガス対策技術とが適切に組み合わされることにより自動車排出ガス低減に資するため、今回の自動車の燃料の許容限度を、軽油及びガソリン中の硫黄分を0.005質量%(50ppm)から0.001質量%(10ppm)に低減する。

【行政情報ウオッチング】
経済産業省
鉱工業生産・出荷・在庫指数速報(平成18年10月分)
資源・エネルギー統計速報(平成18年10月分)
機械統計速報(平成18年10月分)
化学工業統計速報(平成18年10月分)
窯業・建材統計速報(平成18年10月分)
繊維・生活用品統計速報(平成18年10月分)
紙・パルプ・プラスチック製品・ゴム製品統計速報(平成18年10月分)
鉄鋼・非鉄金属製品・金属製品統計速報(平成18年10月分)

資源エネルギー庁
日・インドネシア エネルギー・鉱物資源協力に関する共同声明
ガス事業生産動態統計(11月分)

東京都
東京大気汚染公害訴訟の解決に向けた都の提案

【判例情報ウオッチング】
福井地裁は、27日、池田町の産業廃棄物民間最終処分場の予定地内にある町有地を巡り、同町が産廃業者らを相手取り、土地境界線確定を求めた訴訟で、町有地の里道約400平方メートルと水路約480平方メートルの境界を確定する判決を言い渡しました。同町は平成15年に国から里道と水路の譲渡を受け、隣接する土地を所有する産廃業者らと境界線確定協議を続けてきていました。

ISO14001
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公害問題における不法行為の時効・除斥期間 ③終わらぬ水俣病問題 今後の論点

2006-11-29 08:26:33 | 健康被害
2006年11月29日 
 『公害問題における不法行為の時効・除斥期間』最終回は、関西水俣病訴訟判決による不法行為の時効・除斥期間の考え方を確認したうえで、チッソ側の主張について考えていきます。

4.関西水俣病判決にみる不法行為の時効・除斥期間の考え方
 水俣病に関する不法行為の時効・除斥期間の考え方については、一次訴訟においてチッソ側が主張した「原告らが認定を受けてから三年以上経過している」という論旨に対し、「損害は継続的に発生しており、消滅時効が進行するという解釈は到底とり得ない」と退けられ確定しています。一方、国と県は東京訴訟や関西訴訟などの国賠訴訟で時効論を主張し、平成16年10月15日の最高裁判決において、以下の通り一部が認められています。

 『民法724条後段所定の除斥期間は、「不法行為ノ時ヨリ二十年」と規定されており、加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には、加害行為の時がその起算点となると考えられる。しかし、身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解するのが相当である。このような場合に損害の発生を待たずに除斥期間が進行することを認めることは、被害者にとって著しく酷であるだけでなく、加害者としても、自己の行為により生じ得る損害の性質からみて、相当の期間が経過した後に損害が発生し、被害者から損害賠償の請求を受けることがあることを予期すべきであると考えられるからである。原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして、是認することができる。

 上記見解に立って本件をみると、本件患者のそれぞれが水俣湾周辺地域から他の地域へ転居した時点が各自についての加害行為の終了した時であるが、水俣病患者の中には、潜伏期間のあるいわゆる遅発性水俣病が存在すること、遅発性水俣病の患者においては、水俣湾又はその周辺海域の魚介類の摂取を中止してから4年以内に水俣病の症状が客観的に現れることなど、原審の認定した事実関係の下では、上記転居から遅くとも4年を経過した時点が本件における除斥期間の起算点となるとした原審の判断も、是認し得るものということができる。

 以上によれば、上告人らの上告は、前記第2(昭和35年1月以降、チッソ水俣工場の排水に関して規制権限を行使しなかったことが違法であり、上告人らは、同月以降に水俣湾又はその周辺海域の魚介類を摂取して水俣病となった者及び健康被害の拡大があった者に対して国家賠償法1条1項による損害賠償責任を負うとした原審の判断は、後述のとおり、正当として是認することができる。そうすると、本件患者らのうち、昭和34年12月末以前に水俣湾周辺地域からその地域外へ転居した者については、水俣病となったことによる損害を受けているとしても、上告人らの上記の違法な不作為と損害との間の因果関係を認めることはできない)の限度で理由があるから、主文第1項記載の部分につき原判決を破棄し、同第3項記載の部分につき原判決を変更すべきものであるが、その余の上告はいずれも理由がないので、これを棄却することとする。』

4.チッソの主張
 今回の報道では、チッソ側の準備書面では、①原告の多くは1995年の政治決着前から感覚障害を自覚しており、症状を知ってから消滅時効期間の3年以上を経過している、②原告の症状が、提訴から20年前の1985年10月3日以前に発生していた場合、損害賠償請求権がなくなる除斥期間が経過している、と主張しているとされています。
 これまでの判決を読むと、司法は、時効・除斥機関の起算点について、『加害及び損害を知ったとき』をどうとらえるか、『加害行為後、一定期間を経て損害が発生した場合』にどう対応するか、『時効の援用が権利の濫用となる場合』があるか、『損害の発生』の時点をどう判断するか、といったポイントについて、起算点の繰上げや因果関係の証明にかかる期間の排除などによって被害者を救済する法律構成を展開していることがわかります。しかしながら今回の訴訟では、それらの法律構成をとってもなお、時効・除斥期間にかかるのだ、というのがチッソ側の主張理由であると思います。
 上記判例に照らしてみた場合、問題となるポイントは、①1995年の政治決着を時効の起算点とすることの是非、②①を起算点とした場合に、症状を知ったときの判断をどうするか、③1985年10月3日以前に発症していた場合、損害賠償請求権の除斥期間の経過を条文通り認めるか、です。
 チッソ側の主張を当てはめると、①については、『加害行為と損害との因果関係について争いがあるときは、その結論が行政庁などによって公的に示された時から時効期間が進行するものと解するを相当とする』とする日本化工クロム労災訴訟一審判決(東京地裁昭和56年9月28日判決)を基準として考えた場合、平成7年の『政治解決』がその公的に示された時効の起算点である、と、②については、準備書面において記載している通り、『原告の多くは1995年の政治決着前から感覚障害を自覚しており』、症状を知ったときも平成7年の『政治解決』のときである、と考えられます。③については、今回の提訴から逆算して、20年の除斥期間が経過している、ということになります。
 一方、原告側は、①及び②については、水俣病不知火患者会の大石利生会長の「言葉に表せないほど腹立たしい。症状が現れるのに時間が掛かる場合もあれば、症状があっても水俣病と自覚していたわけでない原告もいる」との発言が、③に対しては、水俣病被害者互助会(佐藤英樹会長)の谷洋一事務局長の「排水を止めてからも汚染が続いていたことは明らか。時効を持ち出すこと自体、チッソが水俣病と向き合っていないことの証左」「加害者として恥ずべき行為で、まさに公序良俗に反する主張」との発言が、2006年11月25日の熊本日日新聞夕刊に掲載されています。

5.被告が時効を援用するのは権利の濫用として許されない場合
 予防接種ワクチン禍東海地方訴訟一審判決(名古屋地裁昭50年10月31日判決)では、『被告が時効を援用するのは権利の濫用として許されない場合』の判断基準を判事していますが、それは、本来公益を守るべき国の責任に対して論じられたものでした。これが民間企業の不法行為に対しても及ぶのであれば、今回のチッソ側の主張は退けられることになりますが、それはかなり困難なことであるように思えます。それゆえ、今後の審理においては、4.でみた論点などが議論されていくことになるのではないでしょうか。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
環境省
ジフェニルアルシン酸(DPAA)等の健康影響に関する調査研究及びDPAAの毒性試験について
公害健康被害補償不服審査会裁決について
改正容器包装リサイクル法に関する地域別説明会の開催について
市区町村における家電リサイクル法への取組状況について
廃家電の不法投棄の状況について
産業廃棄物の不法投棄等の状況(平成17年度)について
「第41回全国野生生物保護実績発表大会」審査結果
eco japan cup 2006受賞者決定と表彰式・エコプロダクツ展での展示・紹介のお知らせ

経済産業省
CDMプロジェクト政府承認審査結果について(申請者:電源開発株式会社、住友商事株式会社)
商業販売統計速報(平成18年10月分)

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

ISO14001
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公害問題における不法行為の時効・除斥期間 ②終わらぬ水俣病問題 主要判例の法律構成

2006-11-28 08:22:37 | 健康被害
2006年11月28日
 公害・労災・公益被害に関する不法行為をめぐる時効・除斥期間の起算点については、これまでに下記のような判決が出されています。民法第724条の条文が示す『損害及び加害者を知った時から3年間』『不法行為のときから20年』という時効・除斥期間の起算点をどう判断するのか、どのような状況をもって損害及び加害を知ったとき及び不法行為のときを断定するのか、など、不法行為によって異なる状況に対して、どのような法律構成によって対応しているか、みていきます。

3.不法行為をめぐる時効・除斥期間の起算点に関する主要判例
(1)(加害及び)損害を知ったときの判断基準
【日本化工クロム労災訴訟一審判決(東京地裁昭和56年9月28日判決)】
 本判決では、民法第724条後段の『不法行為のときから20年』の期間については、同条の文意、立法の経緯からしても消滅時効の規定であることは明らかであるとした上で、加害行為と損害の因果関係に争いがある場合についての考え方を示しています。

『次に時効の起算点について考える。民法724条前段にいわゆる損害を知った時とは、単に損害の発生を知った時ではなく、加害行為が違法であって、不法行為を原因として損害賠償を請求しうるものであることを知った時をいうものと解すべきところ、右加害行為と損害との因果関係について争いがあるときは、その結論が行政庁などによって公的に示された時から時効期間が進行するものと解するを相当とする』

(2)加害行為後、一定期間を経て損害が発生した場合の判断基準
【松尾ヒ素鉱毒訴訟判決(宮崎地延田支部昭58年5月23日判決)】
 本判決では、加害行為の起算点について、一定期間経過後に損害が発生した場合については、加害行為があり、かつ、それによる損害が発生した時を意味する、との考えを示しています。

 『民法724条後段には不法行為の時より20年とあるけれども、これを加害行為の行われた時から20年と解するならば、行為後一定期間を経て損害が発生する場合は、損害賠償請求権が発生する前にその消滅時効が進行を開始するという矛盾が生じ、消滅時効は権利を行使しうる時から進行を開始するとの一般原則(民法166条1項)にも背馳することとなり、殊に、行為後20年以上を経て損害が発生する場合は、それにつき被害者が全く救済されないという不法な事態を避けられないこととなる。このような点に鑑みると、同法724条後段にいう不法行為ノ時とは不法行為の成立要件が充足された時、すなわち、加害行為があり且つそれによる損害が発生した時を意味するものと解するのが相当である。もっとも、通常の場合には、加害行為時に、仮に損害が未だ現実化、顕在化していないとしても、それが将来現実的に発生すべきことの認識が客観的には可能である(従って損害賠償請求権も客観的には行使可能である)ために、その行為の時をもって損害が発生したものとみなし、従って損害賠償請求権も発生したものとして処理する、ひいてはその時から消滅時効の進行が開始するものと扱うのが相当と解されるけれども、損害の客観的認識可能という前提の充たされない場合には、右の擬制は採用しえず、損害が現実化、顕在化するまでは時効は進行しないものというべきである』

(3)時効の援用が権利の濫用となる場合の判断基準
【予防接種ワクチン禍東海地方訴訟一審判決(名古屋地裁昭50年10月31日判決)】
 本判決は、被告が時効を援用するのは権利の濫用として許されない場合、についての考え方を示したもので、とても重要な判決です。本来、『権利の濫用』及び『信義則違反』は最終手段であり、それ以外に法律構成できない場合に用いられるものであるといえます。いわば、伝家の宝刀を抜いた判例であるといえます。

『しかしながら、本件の場合には、被告が時効を援用するのは権利の濫用として許されないものであると考えられる。後にも触れる通り、予防接種禍による被害は惨たんたるものであり、殊に本訴原告らの場合においてそうである。これらの被害児は伝染病のまん延を防止するという公益目的のためにその意思にかかわらず物心もつかないうちに強制的に予防接種を受けさせられ、その結果ある者は短い一生を終えなければならず、その余の者はその後家族共々長く重篤な後遺症に呻吟する事態となった。その有り様は後に認定する原告各論の通り、まさに目を覆わしめる程のものである。・・・・・・このような事態の下にあっては、被害者の救済は全国民すなわち被告国の責務でなければならず、単に時間が経過したとの一事をもって被告がその義務を免れるとするのは著しく正義に反し、到底許容できないものである。消滅時効制度の本質について種々論じられているところであるが、本件の如き場合において、被害者を権利の上に眠る者と評価すること、或いは現状を固定して損害賠償請求を封ずることの不当性は明らかであり、結局被告の消滅時効の援用は援用権の濫用として許されない』

(4)損害発生の判断基準
【筑豊じん肺訴訟上告審判決(最高裁2004年4月27日判決)】
 本判決は、原審及び福岡高裁による『「不法行為ノ時」とは、「不法行為の構成要件が充足したとき」すなわち「加害行為があり、それによる損害で客観的に(被害の認識に関係なく)一部でも発生したとき」と解すべきである』という除斥期間の起算点を、『当該損害の全部または一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである』として、要件の緩和をした点に着目できます。そして、この考え方は、同年10月の水俣病関西訴訟判決へと引き継がれていきます。

民法724条後段所定の除斥期間の起算点は、「不法行為ノ時」と規定されており、加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には、加害行為の時がその起算点となると考えられる。しかし、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである。なぜなら、このような場合に損害の発生を待たずに除斥期間の進行を認めることは、被害者にとって著しく酷であるし、また、加害者としても、自己の行為により生じ得る損害の性質からみて、相当の期間が経過した後に被害者が現れて、損害賠償の請求を受けることを予期すべきであると考えられるからである。
 これを本件についてみるに、前記のとおり、じん肺は、肺胞内に取り込まれた粉じんが、長期間にわたり線維増殖性変化を進行させ、じん肺結節等の病変を生じさせるものであって、粉じんへの暴露が終わった後、相当長期間経過後に発症することも少なくないのであるから、じん肺被害を理由とする損害賠償請求権については、その損害発生の時が除斥期間の起算点となるというべきである』

 上記のように、司法は、時効・除斥機関の起算点について、①加害及び損害を知ったとき、をどうとらえるか、②加害行為後、一定期間を経て損害が発生した場合に、どう対応するか、③時効の援用が権利の濫用となる場合があるか、④損害の発生の時点を、どう判断するか、といったポイントについて、起算点の繰上げや因果関係の証明にかかる期間の排除などによって被害者を救済する法律構成を展開していることがわかります。

※明日は、関西水俣病判決にみる不法行為の時効・除斥期間の考え方を検証するとともにチッソ側の主張について考察する予定です。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
環境省
国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会管理運営分科会(第1回)議事要旨
平成19・20年度一般競争(指名競争)参加資格審査申請書作成要領 建設工事、測量・建設コンサルタント等」 を掲載しました
「環境技術実証モデル事業」に関するシンポジウムの開催について
中央環境審議会環境保健部会(第16回)の開催について
環境技術実証モデル事業 ヒートアイランド対策技術分野(建築物外皮による空調負荷低減技術)における実証機関の選定及び実証対象技術の募集について
第19回「化学物質と環境円卓会議」の開催について

経済産業省
「電動立ち上がり補助いす」、「棒状つえ」、「自転車用空気ポンプ」のSG基準の制定及び改正について
第5回グリーン物流パートナーシップ会議の開催について

国土交通省
第5回グリーン物流パートナーシップ会議の開催について

厚生労働省
ダイオキシン類による健康影響等の調査結果について

【判例情報ウオッチング】
熊本地裁で、27日、水俣病不知火患者会の認定申請者が国と熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が開始されました。チッソ側は、準備書面通り、損害賠償請求権がなくなる除斥期間が経過している、ことを主張。国と熊本県は、自らの加害責任を認めた水俣病関西訴訟の最高裁判決に基づき、1960年1月以降の規制権限不行使については国賠法上、違法であることは争わない、としています。

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公害問題における不法行為の時効・除斥期間 ①終わらぬ水俣病問題 法は思いを超えるか

2006-11-27 08:15:24 | 健康被害
2006年11月27日 
 混乱が続く水俣病訴訟をめぐり、週末、次のようなニュースがありました。本日から数回にわたり公害問題における不法行為の時効・除斥期間について考察していきます。

1.民法における不法行為の時効・除斥期間
『熊本、鹿児島両県の水俣病認定申請者1,000人以上が原告となり国と熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めている訴訟で、チッソが「既に時効が成立している」と主張する準備書面を提出していることが24日、分かった。水俣病に関する損害賠償請求訴訟で国、県は時効を主張してきたが、チッソは1973(昭和48)年に敗訴した一次訴訟で時効論が却下されて以来、取り下げていた。原告弁護団は「水俣病の被害は長期にわたり今も継続しているのに、時間経過を理由に賠償責任を逃れようとする姿勢は許されない」と反発している。
 準備書面は、①原告の多くは1995年の政治決着前から感覚障害を自覚しており、症状を知ってから消滅時効期間の3年以上を経過している、②原告の症状が、提訴から20年前の1985年10月3日以前に発生していた場合、損害賠償請求権がなくなる除斥期間が経過している、と主張している。
 その上で、仮に加害行為と損害との因果関係など損害賠償請求権の要件が認められた場合でも、「消滅時効の完成と除斥期間の経過により、請求権は消滅している」と指摘。「和解の余地はない」と争う姿勢を明確にしている(熊本日日新聞 2006年11月25日朝刊 久間孝志)』

 民法第724条では、『不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為のときから20年を経過したときも、同様とする』としており、今回の準備書面による主張は、この点を争点としたものであるといえます。
 時効については、熊本水俣病第一次訴訟判決において、「原告らが認定を受けてから3年以上経過している」とするチッソ側の主張を、「損害は継続的に発生しており、消滅時効が進行するという解釈は到底とり得ない」として退けたうえで確定(一方、国と県は東京訴訟や関西訴訟などの国賠訴訟で時効論を主張、一部が認容)している経緯があります。

2.なぜ、チッソは時効・除斥期間にこだわるのか
 上記のような司法判断があるにも関わらす、それでもなお、チッソ側が時効にこだわる背景を、熊本日日新聞の記事は次のように伝えています。

『チッソ総務人事部も「汗をかいて1万人以上と和解した事実がある。その10年後に突然、相次ぎ提訴された」と現行訴訟への戸惑いを隠さず、「最高裁判決でも除斥期間の経過が一部認められた。本来、当事者が主張しなくても裁判所が判断することだが、あえて争点として申し上げた」と説明する。
 チッソ幹部は、新たな政治決着を模索する与党関係者にも裁判での決着を望む意向を伝えており、争う姿勢を前面に打ち出しつつある(熊本日日新聞 2006年11月25日朝刊 亀井宏二)』

 チッソ側があくまで裁判での決着を望むのは、時効による明確な区切りをつけ、水俣病問題を終結させたい、との思いがあるからでしょう。事件発生から50年以上が経過し、チッソの内部にも当時の加害に直接携わった人はほとんど存在しないなかで、企業としてのリスクマネジメントを考えれば、これはこれでありうる判断であるといえます。しかし、被害者の側からすれば、チッソが存在する限り、時とともに思いが薄れることはあっても消えることはありません。その思いをどう捉え、どう行動するか、企業経営にとっては、とても難しい問題です。
 ホラー作家スティーヴン・キングの作品に『痩せゆく男』という小説があります。旺盛すぎる食欲のため、超肥満体である弁護士が、ある夜、不謹慎な運転でジプシーの老女をひき殺すという事件を起こします。ところが彼は、警察を抱き込んで、裁判では無罪を勝ち取ります。怒ったジプシーの長老は彼の頬に触れつぶやきます。「痩せてゆく・・・」と。翌日から弁護士は物凄い勢いで痩せはじめ、135Kgあった身体は骨と皮だけになってしまいます。自分に「呪い」がかけられている事に気付いた弁護士は、マフィアの助けを借りてジプシーの長老に戦いを挑みますが、自分よりも大切なものを失う結果となり、最後は自滅への道を歩んでいくことになります。
 もちろん、チッソがこの弁護士と同様であるとは言いませんが、将来に対して再び禍根を残したことも事実でしょう。この点、熊本日日新聞の記事は、『「決して水俣病の原因企業であることを否定するわけではないし、補償責任を放棄するわけでもない」と強調するチッソ。しかし原告への疑念があるとしても、実質審理の前に時間の経過を理由に責任を逃れようとする手法は、容易には理解を得られないだろう。(熊本日日新聞 2006年11月25日朝刊亀井宏二)』と結んでいます。

※明日は、これまで出された判例から、不法行為をめぐる時効・除斥期間の起算点の考え方を考察する予定です。

官報ウオッチング
〔政令〕
特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令(政令第363号/平成13年政令第396号の一部改正)
1 報告の徴収
 都道府県知事は、①第一種特定製品整備者に対しフロン類の回収の委託又は引渡しの実施の状況について、②第一種特定製品廃棄等実施者に対しフロン類の引渡しの実施の状況等について、③第一種フロン類引渡受託者に対し法第19条の3第4項に規定するフロン類の引渡しの再委託について承諾する旨を記載した書面の保存に関する事項等について、④第一種フロン類回収業者に対し新たに引取証明書の交付並びに引取証明書の写しの保存及び送付に関する事項について、報告を求めることができることとする。
2.立入検査
 都道府県知事は、①第一種特定製品整備者の事務所又は事業所に立ち入り、その整備に係る第一種特定製品及び関係帳簿書類を、②第一種特定製品廃棄等実施者の事務所又は事業所に立ち入り、その廃棄又は譲渡に係る第一種特定製品及び関係帳簿書類を、③第一種フロン類引渡受託者の事務所又は事業所に立ち入り、関係帳簿書類を、検査することができることとする。
施行日:平成19年10月1日

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(政令第364号)
 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律附則第一条第二号に掲げる規定(下記の1から4)の施行期日は、平成18年12月1日とする。
1 目的、基本方針、国及び地方公共団体の責務等に、容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する事項を加える(第1条、第3条等関係)。
2 「容器包装」に、容器及び包装自体が有償であるものが含まれることが明確となるよう、定義規定を改める(第2条第1項及び第2項関係)。
3 「分別収集された容器包装廃棄物の再商品化のための円滑な引渡しその他の適正な処理に関する事項」を基本方針に定める事項に追加する(第3条第2項関係)。
4 再商品化の義務を果たさない特定事業者に対する罰則を「50万円以下の罰金」から「100万円以下の罰金」に引き上げる(第46条関係)。

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令(政令第365号/平成7年政令第411号の一部改正)
1 プラスチック製容器包装の再商品化手法の追加
 容器リサイクル法では、燃料以外の製品への再商品化を原則としており、燃料として利用される製品については、政令で定めるものに限定している。この燃料として利用される製品に、ペットボトル以外のプラスチック製容器包装に係る分別基準適合物を圧縮又は破砕することにより均質にし、かつ、一定の形状に成形したもの(固形燃料等)を追加する。
2 事業者に対する排出の抑制を促進するための措置に関する規定
[1] 指定容器包装利用事業者の業種
 改正後の容器リサイクル法においては、容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種を政令で指定し、これに属する事業者(指定容器包装利用事業者)の容器包装廃棄物の排出抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を主務大臣が定めることとしている。
 この指定容器包装利用事業者の業種として、「各種商品小売業、飲食料品小売業、織物・衣服・身の回り品小売業、自動車部分品・附属品小売業、家具・じゅう器・機械器具小売業、医薬品・化粧品小売業、書籍・文房具小売業、スポーツ用品・がん具・娯楽用品・楽器小売業及びたばこ・喫煙具専門小売業」を指定する。
[2] 容器包装多量利用事業者の要件
 改正後の容器リサイクル法においては、容器包装の使用量が政令で定める要件に該当する「容器包装多量利用事業者」に対し、容器包装の使用量及び取組の実施状況に係る定期報告を義務付けることとしている。この容器包装多量利用事業者の要件として、「当該年度の前年度における容器包装の使用量が50トン以上であること」を定める。
[3] その他
 このほか、容器包装多量利用事業者に対する命令に際し主務大臣が意見を聴く審議会等、容器包装多量利用事業者に対する報告徴収事項、地方支分部局に対する権限の委任等所要の規定を整備する。
施行日:平成19年4月1日

【行政情報ウオッチング】
環境省
国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会管理運営分科会(第1回)議事要旨

国土交通省
基準緩和自動車の認定要領の一部改正に係るパブリック・コメントの募集について
冬柴大臣会見要旨(平成18年11月24日河川行政についてコメントあり)


【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

ISO14001
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◆「環境法令管理室」に「11月20日から11月26日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2006.11.25


フロン類回収破壊法施行令改正閣議決定内容

2006-11-26 08:42:37 | 地球温暖化
2006年11月26日
 特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令は、平成18年6月8日に公布された「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に係る法律の一部を改正する法律」の施行に伴い、改正法において新たに立入検査等の対象となった第一種特定製品廃棄等実施者等に対する立入検査等の実施方法を定めるもので、平成18年11月21日に閣議決定されました。なお、10月6日からパブリックコメントの募集(11月4日締切)がかけられていますが、まだ結果の集約発表はなされていません。

4.特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令-閣議決定 
(1)報告の徴収
 都道府県知事は、①第一種特定製品整備者に対しフロン類の回収の委託又は引渡しの実施の状況について、②第一種特定製品廃棄等実施者に対しフロン類の引渡しの実施の状況等について、③第一種フロン類引渡受託者に対し法第19条の3第4項(その他主務省令で定める事項)に規定するフロン類の引渡しの再委託について承諾する旨を記載した書面の保存に関する事項等について、④第一種フロン類回収業者に対し新たに引取証明書の交付並びに引取証明書の写しの保存及び送付に関する事項について、報告を求めることができることとされました。

(2)立入検査
 都道府県知事は、①第一種特定製品整備者の事務所又は事業所に立ち入り、その整備に係る第一種特定製品及び関係帳簿書類を、②第一種特定製品廃棄等実施者の事務所又は事業所に立ち入り、その廃棄又は譲渡に係る第一種特定製品及び関係帳簿書類を、③第一種フロン類引渡受託者の事務所又は事業所に立ち入り、関係帳簿書類を、検査することができることとされました。

(3)
 施行日は、平成19年10月1日とされました。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

ISO14001
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容器リサイクル法施行令閣議決定内容

2006-11-25 09:01:58 | リデュース・リユース・リサイクル
2006年11月25日
 今年の通常国会で成立した改正容器リサイクル法の施行については、複数の段階にわけて実施されることとなっておりますが、本改正はその先陣をきるものです。3.の改正については、10月6日のパブリックコメントの募集がかけられた下記政令について、その意見を集約のうえ、11月21日の閣議決定されました。

2.容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令-閣議決定
 本年6月に成立した「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律」(平成18年法律第76号)のうち、下記の規定の施行期日を、平成18年12月1日とすることとされました。
①目的、基本方針、国及び地方公共団体の責務等に、容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する事項を加える(第1条、第3条等関係)。
②「容器包装」に、容器及び包装自体が有償であるものが含まれることが明確となるよう、定義規定を改める(第2条第1項及び第2項関係)。
③「分別収集された容器包装廃棄物の再商品化のための円滑な引渡しその他の適正な処理に関する事項」を基本方針に定める事項に追加する(第3条第2項関係)。
④再商品化の義務を果たさない特定事業者に対する罰則を「50万円以下の罰金」から「100万円以下の罰金」に引き上げる(第46条関係)。

3.容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令-閣議決定
(1)プラスチック製容器包装の再商品化手法の追加
 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器リサイクル法)では、燃料以外の製品への再商品化を原則としており、燃料として利用される製品については、政令で定めるものに限定しています。この燃料として利用される製品に、ペットボトル以外のプラスチック製容器包装に係る分別基準適合物を圧縮又は破砕することにより均質にし、かつ、一定の形状に成形したもの(固形燃料等)が追加されます。

【主なパブリックコメントから】
□意見
 再商品化手法として固形燃料化を追加することは、容器包装リサイクル法本来の趣旨に反するため、反対する。マテリアルリサイクルの問題点については、技術開
発、残渣の有効利用等方法を検討して解決すべきである。
□回答
 固形燃料等の化石燃料の代替性の高い燃料への利用については、その燃料としての特性からエネルギー効率の高い施設において利用することができることから、
従来の再商品化手法では円滑な再商品化の実施に支障を生ずる場合に、固形燃料等の燃料として利用される製品の原材料として緊急避難的・補完的に利用することとしたものです。
□意見
 固形燃料化を緊急避難的・補完的措置とすることは、当該手法の利用拡大が阻害され、実用化が困難となる原因となるため、他の再商品化手法と同等に扱うべきである。
□回答
 循環型社会形成推進基本法において、環境負荷の低減にとって有効と認められるとき以外は、再生利用を熱回収よりも優先するという基本原則が定められています。このため、従来の再商品化手法では円滑な再商品化の実施に支障を生ずる場合に、固形燃料等の燃料として利用される製品の原材料として緊急避難的・補完
的に利用することとしたものです。
□意見
 現在RPFの売却は困難と聞いている。RPFはプラスチックが完全に溶融化されていないため、溶融化されている物に比べ日本容器包装リサイクル協会規定の極微量の塩素濃度測定(JIS Z 7302-6法)では塩素濃度のバラツキが発生し、又故意的なサンプリングにより塩素濃度等の品質管理が困難との情報もある。固形燃料についても溶融固化物にすべきである。
□回答
 固形燃料等の品質については、今後、運用指針を検討することとしております。

(2)事業者に対する排出の抑制を促進するための措置に関する規定
①指定容器包装利用事業者の業種
 改正後の容器リサイクル法においては、容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種を政令で指定し、これに属する事業者(指定容器包装利用事業者)の容器包装廃棄物の排出抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を主務大臣が定めることとされています。
 この指定容器包装利用事業者の業種として、「各種商品小売業、飲食料品小売業、織物・衣服・身の回り品小売業、自動車部分品・附属品小売業、家具・じゅう器・機械器具小売業、医薬品・化粧品小売業、書籍・文房具小売業、スポーツ用品・がん具・娯楽用品・楽器小売業及びたばこ・喫煙具専門小売業」が指定されました。

【主なパブリックコメントから】
□意見
 容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種を「小売業」に限定せず、「中身メーカ」を含めたすべての容器包装利用事業者とすべき。また、発生抑制に
加え、再使用容器の利用を促進するための措置を設けるべきである。
 容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種を「小売業」に限定するべきではない。飲料メーカーなど、特にリターナブル容器の利用が衰退してきてい
る業種を指定容器包装利用事業者に加えるべきである。
□回答
 改正容器包装リサイクル法において、指定容器包装利用事業者の業種は「容器包装の過剰な使用の抑制その他の容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種」とされています。小売業については、容器包装の使用量が多いこと、マイバッグ等を持参するなどの代替手段によって使用量の低減が可能であること、既に一部の小売業者が使用を抑制する取組を進めており一定の成果を得ている一方事業者間の取組に差がみられることなどから、「容器包装の過剰な使用の抑制その他の容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種」として指定したものです。その他の業種については、今後必要に応じて、容器包装リサイクル法や資源の有効な利用の促進に関する法律に基づく措置等を検討してまいります。また、リターナブル容器の利用の促進に向けて、リターナブル容器の普及の可能性がある新たなビジネスモデルの導入の支援等を行うこととしております。
□意見
 小売業に加えてプラスチック袋の使用量の多いクリーニング業も対象とすべきである。
□回答
 容器包装リサイクル法は商品の容器及び包装を対象としており、クリーニング業で提供されるようなサービスに付随する容器及び包装は本法の対象外です。

②容器包装多量利用事業者の要件
 改正後の容器リサイクル法においては、容器包装の使用量が政令で定める要件に該当する「容器包装多量利用事業者」に対し、容器包装の使用量及び取組の実施状況に係る定期報告を義務付けることとしている。この容器包装多量利用事業者の要件として、「当該年度の前年度における容器包装の使用量が50トン以上であること」が定められました。

【主なパブリックコメントから】
□意見
 50トン未満は野放しということにならない様、年度を追って規定量を下げていく方向を目指すべきである。
□回答
 事業者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進の状況を踏まえて適切に対応してまいります。

③その他
 このほか、容器包装多量利用事業者に対する命令に際し主務大臣が意見を聴く審議会等、容器包装多量利用事業者に対する報告徴収事項、地方支分部局に対する権限の委任等所要の規定が整備されています。

【主なパブリックコメントから】
□意見
 「取組が著しく不十分である」についての解釈を明らかにすべきである。また、不十分と判断された場合、何を基準として勧告に係る措置を命ずる所管省庁や担当
審議会が決定されるかを明確にすべきである。
□回答
 例えば、原単位(販売額当たりの容器包装使用量等)が著しく増加している場合や判断の基準となるべき事項に定められた取組をまったく行っていない場合は「容
器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進の状況が判断の基準となるべき事項に照らして著しく不十分であると認めるとき」に該当します。また、改正容器包装リサイクル法において事業者による排出の抑制を促進するための措置に関する規定の主務大臣は、その事業者が容器包装を用いて行う事業を所管する大臣(事業所管大臣)とされています。なお、各事業と事業所管大臣及び審議会との具体的な対応関係については、今後、周知してまいりたいと考えております。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
環境省
平成19年度京都議定書目標達成計画関係予算概算要求について
第2回「揮発性有機化合物排出インベントリ検討会」の開催について
中央環境審議会総合政策部会第1回環境基本計画点検小委員会の開催について
我が家の環境大臣 我が家の「eco宣言☆」募集について
フロン回収・破壊法に基づく平成17年度の業務用冷凍空調機器からのフロン類の回収量等の集計結果について
中央環境審議会野生生物部会鳥獣保護管理小委員会の開催について
中央環境審議会野生生物部会の開催について

経済産業省
平成17年度のフロン回収・破壊法に基づく業務用冷凍空調機器からのフロン類の回収量等の報告の集計結果について
総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 電力安全小委員会報告書(案)に対する意見募集
平成17年特定サービス産業実態調査確報

国土交通省
自動車の安全・環境に関する世界統一基準が3項目採択されました

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

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第6次水質総量規制 公害対策会議決定へ

2006-11-24 07:22:04 | 水質汚濁
2006年11月24日  
 今週の閣議及び公害対策会議では、『化学的酸素要求量、窒素含有量及びりん含有量に係る総量削減基本方針(東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海)-公害対策会議』『容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令-閣議決定』『容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令-閣議決定』『特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令-閣議決定』の3本の政令と1本の基本方針が決定されています。本日から3回に渡り、その概要について記載いたします。

1.化学的酸素要求量、窒素含有量及びりん含有量に係る総量削減基本方針(東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海)-公害対策会議
(1)総量削減基本方針の根拠
 総量削減基本方針は、水質汚濁防止法第4条の2に基づき、人口及び産業が集中し、汚濁が著しい広域的な閉鎖性海域の水質改善を図るため、工場・事業場のみならず、生活排水等も含めた発生源全体からの汚濁負荷量について削減目標量、目標年度等を定め、総合的・計画的な水質保全対策を推進しようとするものであり、「水質総量規制制度」の根幹をなすものです。
 水質総量規制制度においては、環境大臣が、指定水域ごとに目標年度、発生源別及び都府県別の削減目標量に関する総量削減基本方針を定め、これに基づき、関係都府県知事が、削減目標量を達成するための総量削減計画を定めることとされています。削減目標量を達成するための具体的な方途としては、下水道の整備等の生活系排水対策、指定地域内事業場(日平均排水量が50㎥以上の特定事業場)の排出水に対する総量規制基準の適用、小規模事業場・農業・畜産農業等に対する削減指導等があります。なお、削減目標量は、人口及び産業の動向、排水処理技術の水準、下水道の整備の見通し等を勘案し、実施可能な限度において定めるものとされています。
 水質総量規制制度は、昭和54年以来5次にわたり、化学的酸素要求量(COD)を対象に、また、第5次総量規制からは窒素及びりんを新たな対象項目に加え実施されています。対象水域は東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海とされ、また、これら水域への流入域である20都府県の関係地域が対象地域となっています。現行の第5次水質総量規制における総量削減基本方針は平成13年に策定され、平成16年度を目標年度として着実にCOD、窒素及びりんの汚濁負荷量の削減が図られてきました。

(2)東京湾、伊勢湾及び大阪湾の水質改善の状況
 東京湾、伊勢湾及び大阪湾においては、水質が改善されてきた水域があるものの、COD、窒素及びりんの環境基準達成率の改善が不十分な状態です。また、大規模な貧酸素水塊が発生し、生物が生息しにくい環境となっております。
 他方、大阪湾を除く瀬戸内海においては、窒素及びりんの環境基準を概ね達成しており、CODの環境基準達成率は70%にとどまっているものの、濃度レベルは他の指定水域に比較して低い状況にあります。
《参考-第6次水質総量規制の在り方について(答申)平成17年5月中央環境審議会》
①COD負荷量
 水質総量規制が開始された昭和54年度におけるCOD負荷量は、東京湾において477t/日、伊勢湾において307t/日、瀬戸内海において1,012t/日でした。汚濁負荷の削減対策の推進により、第5次総量削減基本方針の目標年度である平成16年度までに、東京湾において228t/日、伊勢湾において203t/日、瀬戸内海において630t/日まで削減されることとなっています。昭和54年度から平成16年度までの削減率は、東京湾において52%、伊勢湾において34%、瀬戸内海において38%となっています。現在、第5次水質総量規制によりCOD負荷量の削減対策が進められており、平成16年度の削減目標量は達成される見通しとなっています。

②窒素・りん負荷量
 平成11年度における窒素負荷量は、東京湾:254t/日、伊勢湾:143t/日、瀬戸内海:596t/日でした。第5次総量削減基本方針の目標年度である平成16年度までに、東京湾:249t/日、伊勢湾:137t/日、瀬戸内海:564t/日まで削減されることとなっています。平成11年度から平成16年度までの窒素負荷量の削減率は、東京湾:2%、伊勢湾:4%、瀬戸内海:5%となっています。
平成11年度における燐負荷量は、東京湾:21.1t/日、伊勢湾:15.2t/日、瀬戸内海:40.4t/日でした。第5次総量削減基本方針の目標年度である平成16年度までに、東京湾:19.2t/日、伊勢湾:14.0t/日、瀬戸内海:38.1t/日まで削減されることとなっています。平成11年度から平成16年度までの燐負荷量の削減率は、東京湾:9%、伊勢湾:8%、瀬戸内海:6%となっています。現在、第5次水質総量規制により窒素及び燐に係る汚濁負荷量の削減対策が進められており、平成16年度の削減目標量は達成される見通しとなっています。

(3)第6次水質総量規制の概要
①平成21年度を目標年度とする削減目標
□東京湾
 COD:211t/日
 窒素含有量:208t/日
 りん含有量:15.3t/日
□伊勢湾
 COD:186t/日
 窒素含有量:129t/日
 りん含有量:10.8t/日
□瀬戸内海(大阪湾)
 COD:561(144)t/日
 窒素含有量:476(121)t/日
 りん含有量:30.6(8.2)t/日

(4)今後の予定
①総量削減計画
 東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の関係都府県知事は、この総量削減基本方針に基づき、総量削減計画を策定し、都府県ごとの発生源別の削減目標量及び削減の方途等を定めることとされており、平成19年6月の策定を目途に各都府県において検討が進められることとなります。

②総量規制基準
 総量削減計画に基づき、各都府県において汚濁負荷量を削減するための具体的な措置が講じられていくこととなりますが、特に、工場・事業場に対しては、通常の濃度基準による排水規制に加え、汚濁負荷量(排水濃度×排水量)についての総量規制基準が適用されることとなります。
 この総量規制基準は、本年10月13日の環境省告示(平成18年10月環境省告示第134号、同第135号及び同第136号)により示される範囲内において、業種等の実態に応じて各都府県ごとに定めることとされており、総量削減計画の策定に併せて各都府県知事が設定し、平成19年夏以降、一定の猶予期間を経た上で工場・事業場に適用される予定です。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
後刻アップします。

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【ISO14001】
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二酸化炭素海底下地層貯留に関する専門委員会報告書骨子案を読む

2006-11-23 12:30:15 | 地球温暖化
2006年11月23日
 二酸化炭素海底下地層貯留(CCS)について検討を重ねていた中央環境審議会地球環境部会二酸化炭素海底下地層貯留に関する専門委員会は、20日、報告書骨子案を公表しました。環境省は、来年の通常国会において、二酸化炭素海底貯留技術(CCS)の実施を可能とするために、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法)改正案を提出する予定です。本日は、報告書骨子案から、法制化の枠組みを検証してみます。

1.許可制による実施
 二酸化炭素海底貯留(CCS)の実施に際しては、平成19年4月から施行される海洋汚染防止法に基づく廃棄物海洋投入処分の許可体系と同様に、『実施計画(適切な貯留場所の選択を含む)、環境影響の事前評価、監視計画等に基づく「有期限の許可」を環境大臣が発給し、監視結果等に基づいて許可更新を行う仕組みとする』ことが適切であるとされました。
 許可の申請書主体は、当該貯留行為を行う事業者とされました。なお、排出行為を行う者と貯留行為を行う者とが異なる場合については、『許可申請に当たって必要とされる、貯留される二酸化炭素流の特性等の情報に関する伝達等について、国際的な動向も踏まえ、制度的な検討を行う必要がある』とされています。
 一方、審査主体は、二酸化炭素海底下地層貯留については、貯留地点周辺の地層の構造及び海域における環境影響等を適切に審査する必要があることから、『国が行うことが適切である』とされています。
 許可制は、一般に禁止されていることを、一定の要件を満たした者に対して禁止を解くというものですので、二酸化炭素海底貯留(CCS)の実施を許可制としたことは、当然であるといえるでしょう。

2.行動基準の策定
 2006年11月に開催されたロンドン条約議定書第1回締約国会合で改正された同議定書附属書Iにおいては、貯留目的の二酸化炭素流については、①海底下へ貯留されること、②二酸化炭素が圧倒的(overwhelmingly)であること、③分離・回収プロセス及び原料に起因し、偶発的に含まれる物質を含みうる(可能性に留意すること)、④廃棄物その他の物が廃棄目的で添加されないこと、が盛り込まれています。骨子案においてもこの点を指摘し、『予防的アプローチに基づき、二酸化炭素海底下地層貯留に関する判定基準の設定について検討することが適切である』としています。具体的な基準の策定はこれからの作業となりますが、もしものときに備えた予防的アプローチによる基準策定は不可欠であるといえます。

3.貯留地点の選択とアセスメント
 どこに貯留するかは、最大のポイントです。ロンドン条約における廃棄物海洋投入処分では、一律に排出海域を特定するしくみが取られています。しかし、二酸化炭素流の海底下地層貯留の許可発給の手続きに関して骨子案では『事業者が、事業ごとに当該貯留を計画する地点を選定して、潜在的影響の検討及び監視計画の策定を行った上で、当該貯留地点を適切に選択することが重要である』とされました。
 また、廃棄物海洋投入処分の許可に当たっては、海洋投入処分を企図する排出事業者が、廃棄物の排出海域における海洋環境の保全に著しい障害を及ぼすおそれがないことを示すため、事前に潜在的影響の評価を行うこととされています。二酸化炭素流の海底下地層貯留の場合も同様に、二酸化炭素及び二酸化炭素流に含まれる不純物が漏洩した場合に海洋環境に与える影響について、『国が、法令又は指針等によって具体的な検討内容、検討手法、監視項目等を明確にしておく必要がある。海底下地層に貯留された二酸化炭素流が海洋環境に与える影響の評価は、当該貯留を企図する事業者が行う必要がある』とされました。

4.二酸化炭素海底貯留(CCS)の位置づけ
 骨子案では、二酸化炭素海底貯留(CCS)の位置づけを次のように示しています。
『我が国としては、短期的には二酸化炭素地中貯留技術について研究開発を進めていくこととし、京都議定書第一約束期間においては、着実に現行の温室効果ガスの削減対策を推進していく必要がある』
 『2100年以降の長期的展望に立てば、化石燃料資源も枯渇の方向に向かうと考えられることから、二酸化炭素地中貯留技術は、将来における社会経済システムの抜本的な変革や、安全かつ確実な革新的技術が出現するまでの21 世紀における「つなぎの技術」として位置付けることが適当である』

 二酸化炭素海底貯留(CCS)を削減対象とするかどうかは、先に行われた第2回京都議定書締約国会議において、2008年の第4回締約国会議で決定することが合意されています。来年、民間団体や国際機関で議論し、各国がこれを踏まえた意見を提出。第3回締約国会議で議論したうえで、第4回会議で決定する運びです。したがって、日本国内において法制化が進められたとしても、しばらくは手を上げる事業者は少ないものと思われます。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
環境省
「トキ野生復帰シンポジウム~羽ばたかせよう朱鷺を、美しい日本の空へ~」の開催について
石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく指定疾病の認定に係る医学的判定の結果について
新・生物多様性国家戦略の実施状況の点検結果(第4回)(案)の意見募集について

経済産業省
全産業活動指数・全産業供給指数(平成18年9月分)

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【ISO14001】
◆「役立つ!ISO14001関連書籍」に新しい書籍を追加しました/2006.11.19
◆「環境法令管理室」に「11月13日から11月19日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2006.11.19

資源ごみ抜き取り事件への自治体の対応 所有権帰属型と公表型はどちらが有効か?

2006-11-22 06:42:58 | リデュース・リユース・リサイクル
2006年11月22日 
 9月11日の記事で、茨城県内で古新聞・古雑誌などの資源ごみが集積所から不法に持ち去られる事件が多発しているニュースを紹介しましたが、今度は、滋賀県内で『資源ごみとして家庭から出された空き缶の中から、アルミ缶だけを持ち去る業者が滋賀県内で横行している』とのニュースがありました(京都新聞)。原因は、中国でのアルミ需要の増加です。中国では、現在、建設ラッシュが続き、ビルのサッシ用などの需要が高く、アルミ不足になっている状況です。これにより、アルミ相場が高騰。これに目をつけた業者が家庭用ごみからアルミの空き缶を抜き取っているとのことです。

1.所有権帰属型の規定例
 滋賀県内の自治体の対策としては、守山市が平成16年に『守山市廃棄物の減量および適正処理ならびに環境美化に関する条例』を改正し、家庭系廃棄物の所有権について、『排出基準に従い排出された家庭系廃棄物であって前条第1項の規定によりごみ集積所に排出されたものに係る所有権は、市に帰属するものとする(第15条の2第1項)』『市または市が指定する者以外の者は、前項に規定する家庭系廃棄物を収集し、または運搬してはならない(第15条の2第1項)』とする規定を加えています。
 所有権という民法物権法におけるもっとも強力な権利を有することを法的に宣言する意味は、大きいといえます。しかし、抜き取った業者が第三者へ売り渡した場合の即時取得(取引により、第三者が平穏・公然・善意・無過失で動産の占有を開始した場合は、その動産の権利を取得する/民法第192条)の問題や、侵奪行為の告発など、いざことが生じたときの権利主張のための手続きが煩雑であることは否めません。それゆえ、実際に告発にまで至る例は私の知る限りまだありません(9月11日の記事では、茨城県警がパトロールの強化や窃盗容疑での検挙に乗り出した、との報道を引用しましたが、その後、実際に検挙に至ったというニュースは発表されていません)。

2.公表型の規定例
 大津市では、平成16年に『大津市廃棄物の処理及び再利用の促進並びに環境の美化に関する条例』を改正し、『市又は市から委託を受けた者以外の者が、市が行う定期収集を受けるためにごみ集積所に排出された物を収集し、又は運搬した場合には、市長は、これらの行為を行わないように命ずることができ、その命令に従わなかった場合には、その旨を公表することができる(第45条第1項第6号)』、としました。
 上記の場合、単なる行政指導ではなく、法的根拠を持つ行政命令であるといえます。こうした公表型の規定は景観条例など他の分野でも見受けられますが、公表後の社会的影響の度合いがはかりかねないため、意外と実行例は多くありません。有名な例では、東京都国立市が、国立市都市景観条例に基づき大規模行為景観形成基準に従うよう勧告したマンション業者に対して、勧告に従わなかったとして公表した例などがあります。
 しかし、今回の一連のアルミ缶抜き取りに対して、大津市では、上記の規定に基づく業者の『公表』を実施(環境部ごみ減量推進課に確認)、本格的な対策に乗り出しています。なお、本措置の行使に際しては、『市長は、前項の規定により公表をしようとするときは、あらかじめ、公表をされるべき者に、その理由を通知し、書面又は口頭により意見を述べ、及び証拠を提出する機会を与えなければならない(第45条第2項)』として、手続的保障機会も規定されています。

3.所有権帰属型と公表型はどちらが有効か?
 資源ごみ抜き取り事件に対する自治体の対策は、現在のところ、上記の2つの条例規定に大別できます。所有権帰属型の場合は、趣旨は明確ですが、窃盗罪の適用検討など、実行に至るまでが大変であるといえます。一方、公表型の場合は、所有権帰属型に対してペナルティの度合いがはかりかねるという難点がありますが、実行はしやすく、そのぶん現実的な効果があると思います。(もっとも、併記型も存在しますが)。

 廃棄物・リサイクル関連事件は、市況の変化によってもたらされます。価値が上がれば抜き取りがなされ、下がれば不法投棄の対象となります。そもそも資源ごみが資源としてのみ扱われる(廃棄物として扱われない)ならば、こうした問題が生じる余地も少なくなると思います。そのためには毎度毎度になりますが、廃棄物・リサイクル法制の抜本的な改革が不可欠であるといえるでしょう。

官報ウオッチング
〔政令〕
海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令の一部を改正する政令の一部を改正する政令(政令第362号/平成18年政令第348号の一部改正)
 北海海域における船舶の燃料油の品質の基準に係る規定の適用を平成18年11月22日から起算して1年間猶予することとした。(附則関係)
施行日:平成18年11月22日

【行政情報ウオッチング】
環境省
気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)及び京都議定書第2回締約国会合(COP/MOP2)の結果について
「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令」について
中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会容器包装の3R推進に関する小委員会(第4回)、産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会容器包装リサイクルWG(第41回)合同会合(第1回)の開催について
遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律に基づく第一種使用規程の承認申請案件に対する意見の募集(パブリックコメント)について
国内における毒ガス弾等に関する総合調査検討会(第3回)の開催について
中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会食品リサイクル専門委員会(第4回)、食料・農業・農村政策審議会総合食料分科会食品リサイクル小委員会(第10回)合同会合(第3回)の開催について
平成18年度大気汚染防止推進月間について

経済産業省
「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」及び「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令」について
水力発電設備に係る調査について

厚生労働省
第3回ボイラー等の自主検査制度の導入の可否に関する検討会議事録

【判例情報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【ISO14001】
◆「役立つ!ISO14001関連書籍」に新しい書籍を追加しました/2006.11.19
◆「環境法令管理室」に「11月13日から11月19日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2006.11.19

京都議定書第2回締約国会議閉幕 ②途上国への支援とスターン・レビュー

2006-11-21 07:25:48 | 地球温暖化
2006年11月21日  
 第2回は、途上国への支援とスターン・レビューについて概観したいと思います。とくにスターン・レビューについては、今後の政策を推進していくうえでの示唆に富んだ内容であると思います。

3.途上国への支援
 2005年のCOP11において合意された気候変動の影響やそれに対する脆弱性及び適応に関する5ケ年作業計画の前半期(2007年まで)の具体的な活動内容について合意され、今後、各国・関係機関からの情報を集め、適応対策の策定に資する知見を集積すること、同計画を「ナイロビ作業計画」とすることについて合意しました。
また、途上国における適応対策のために、2001年のCOP7で決定されたCDMクレジットの2%を原資とする「適応基金」について、管理原則・運営形態・運営組織の構成につき決議され、これを基に、次回COP/MOP3において、同基金を付託する機関の決定を目指すこととされました。
 今次会合においてその5年間の実績の見直しと継続について議論が行われることになっていた技術移転に関する専門家グループ(EGTT)については、『今後はこれを拡充しつつ、諮問的役割を果たし続けるべき』、と主張を行った先進国側に対し、途上国側は、①同グループを改組・格上げし、独自の予算執行権限を持ち、先進国から途上国への技術移転を監視・管理できる権限を持った理事会(TDTB)の新設、②知的所有権を買い取り、途上国に無償で技術を供与するための多国3間技術取得基金(MTAF)の設置、③技術移転の進捗状況を客観的に評価する指標(performance indicator)の作成、という提案を行い、意見が対立しました。
結果として、時間的制約もあり、上記論点を今次会合では解決できないとの意見で一致し、①EGTTのマンデートをもう1年延長させること、②来年5月の次回補助機関会合(SB)において同グループの評価・見直しについて継続議論すること、の2点について合意されました。

 途上国への支援については、「適応基金」の適正な運営が重要なポイントであると思います。運用主体については、先送りをされましたが、特定の地域・国に偏らない運営がなされなければ意味がありません。また、途上国にとって使い勝ってのよいものであることも不可欠の要素です。

『「適応基金」は、海水面の上昇や干ばつ、水不足など温暖化による悪影響に途上国が適応するための支援策で2008年にも運用を始める。途上国の温室効果ガス排出量を削減することで先進国が得た収益のうち2%を自動的に積み立てて支出。支出先が特定の国に偏らないよう配慮し、運用方針を決める際は議定書加盟国が1票ずつ投票することで合意したが、運用主体などは積み残された(毎日新聞)』

『議定書のもとに設置されている「適応基金」は、先進国が途上国で二酸化炭素(CO2)の削減事業を行い、削減分に応じて国連が発行するクレジットの2%が自動的に積み立てられる仕組み。これを利用して、温暖化の被害を受けている途上国での農業支援などを行うのが目的だ。草案は、基金が途上国にとって利用されやすいものであるとする原則や、事業実施までの意思決定を短期間に行うといった運営形態に合意。気候変動による影響の科学的評価を優先する先進国と、一刻も早い事業の実現を求める途上国が歩み寄った形で、来年の締約国会議までに、どこが基金を運営するのかを決定し、2008年に運用が開始される見通しになった(読売新聞)』

4.スターン・レビュー
 気候変動枠組条約第12回締約国会合(COP12)直前(10月30日)に発表されたスターン・レビューの著者、ニコラス・スターン卿(英国気候変動・開発政策の経済担当政府特別顧問)による下記のプレゼンテーションが行われました。

『気候変動は、世界が今まで経験したことのないような最大の市場の失敗を引き起こすだろう。今後10~20年以内に緊急に行動をとるべきだ。大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させるための協力ですばやい行動の経済的コストは世界のGDPの1%にしかならないし、緩和措置は経済成長につながる。長期目標はとても重要だし、短期的には柔軟に対処しなければならない。また説得と公平という視点も重要だ。炭素市場(カーボン・マーケット)、技術開発、及び明確な政策との相互関係も重要である。また、森林破壊を解決するための国主導の努力、及び適応と開発との密接な関連は重要であり、増加しつつあるODAとグローバルエネルギーの研究開発を行なうべきである。行動が遅れることによって深刻な経済的影響が起こるだろう。排出を抑えるためのコストは成長と調和する。決定的で強力な行動が緊急に必要とされている(JCCCAホームページより)』

 スターン・レビューを一読して感じたことは、①短期的は利益よりも長期的な利益に着目すべき、②気候安定化に投資をすることが、結果として投資をしないことを上回る利益を得ることができる、③気候安定化への投資は、いかなる国にとっても経済成長に水を差すものではない、ということです。どの視点をとっても、首肯できるもので、アメリカ合衆国の復帰や先進国と途上国の対立の氷解を暗に促す内容となっていると思います。
 また、スターン・レビューでは、国際規模で効果的に対応するには次の3つの要素を政策に織り込む必要がある、としています。
①炭素価格で、税金、取引もしくは規制を通して実践する
②低炭素テクノロジーの開発をサポートし、実用化する
③エネルギー効率化の妨げとなっている障壁を取り除き、気候変動に対処するには一人ひとりに何ができるのかについて情報を与え、教育し、説得する
 ①はいわゆる経済的手法による規制で、今できることを実践しようというもの、②は中長期的な視点で人間の英知に期待しようというもの、③は①②を実行していくうえでもっとも大切な教育をしっかりやっていこう、というもの、であるといえると思います。現在の日本の状況について考えると、②がやや優先されて進んでいるような感じがします。この問題を根本的に解決し、将来世代に禍根を残さないためには、やはり三位一体で政策を進めていく必要があるのではないでしょうか。

【官報ウオッチング】
新しい情報はありません。

【行政情報ウオッチング】
環境省
中央環境審議会自然環境部会(第8回)及び自然公園小委員会(第12回)の開催について
平成18年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰について
「国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会」の第1回「指定に関する分科会」の開催について
グリーン購入法に係る特定調達品目及びその判断の基準等の見直しの概要(案)に対する意見の募集について
平成18年度 街区まるごとCO2 20%削減事業の採択案件について
日本経団連との懇談会について
生態影響に関する化学物質審査規制/試験法セミナーの開催について
「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律施行令の一部を改正する政令」について

経済産業省
気候変動枠組条約第12回締約国会議(COP12)及び京都議定書第2回締約国会合(COP/MOP2)の結果について
廃棄物埋設施設及び特定廃棄物管理施設並びに原子炉施設(廃止措置及び運転終了)に係る平成18年度第2四半期の認可、検査及び確認の実施状況について

国土交通省
「下水道事業におけるストックマネジメント検討委員会」の設置及び開催について―ストック増大に伴い、今後の事業手法のあり方について検討します―

【判例情報】
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【ISO14001】
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◆「環境法令管理室」に「11月13日から11月19日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2006.11.19