環境法令ウオッチング

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第166回国会の議論から⑰ 自動車NOx・PM法改正案その1 法案への評価

2007-04-26 08:56:24 | 大気汚染
2007年4月26日  
 4月13日、第6回衆議院環境委員会において、自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(自動車NOx・PM法)の一部を改正する法律案について、審議が行われ、附帯決議を付して可決されました。本日から数回にわたり、その議論の内容についてふれていきます。

1.中央環境審議会答申と法案の整合性への評価
 自動車NOx・PM法改正案は、中央環境審議会の意見具申を踏まえて提出されました。大気部会自動車排出ガス総合対策小委員会の報告に基づき、同審議会では、①低公害車普及が現状のままに推移する場合、②交通量が増大し、低公害車普及が伸び悩む場合、のいずれの仮定のもとで推計をしても、自動車NOx・PM法の対策地域全体では、平成22年におおむね環境基準を達成するものと予測をしています。しかし、交通量が極めて多い道路が交差したり重層構造になっていたり、あるいは大型車の通行割合が多い沿道など、11から15の地点においては、環境基準が非達成という予測もされています。
 こうした点を踏まえ、浅野直人福岡大学法学部教授は、本法案に対して、以下の4点を評価できる点として指摘しました。
①局地対策に自治体を中心とした取り組みを進めるために、知事が窒素酸化物等の重点対策地区を定めることができるようになること、その地区内での計画を策定し、重点的に対策を講じることができるようになるということ
②交通需要を増大させる特定建物を新設する際の届け出義務及び届け出をした者に対する知事からの意見提出、勧告、公表及び特定建物の維持管理を義務づける制度は、早期段階での環境配慮を可能にする仕組みであること
③これまで野放であった対策地域の周辺地域内自動車に関しても、自動車排出窒素酸化物等の排出抑制の措置についての報告義務等を課すことは、現行法制定当初からの課題の解決の第一歩になること
④荷主の役割に関しては、積載効率の向上等、窒素酸化物等の排出抑制について幅広く努力義務を課し、貨物運送事業者と協力するなどによってこれを促すこととしており、これによって運送事業者の努力を促進させる、また、荷主の努力を促進させる、こういうことを認識させることができ、行政が適切な啓発をするということも相まって、従来よりも取り組みの進展が期待できること
 
 一方、課題としては、以下の点を指摘されました。
 『局地の重点対策計画が、審議会が指摘しております総合的な都市構造や道路構造の見直しを含む長期的対策につながるものとして機能し得るかどうかは、改正法十六条二項四号とか、あるいは十八条二項四号の運用の問題ということになるわけでございますが、余り手法が限定された計画になってしまいますと機能が限られてしまいますので、こういう計画の策定に際しても、必要な関係行政主体、その他多くのものが参画できることを十分に確保するということによって、この点を補うことができることを期待したいと考えております。また、改正法二十条の特定建物新設届け出制度でございますが、知事意見が形式的なものになることがないように、適正に環境配慮が行われるように運用されることを特に期待いたしたいと存じます。また、運用に当たっての透明性確保というのは大事なことでございますので、制度運用上の自治体での工夫がさらに必要ではないかと考えているわけでございます。最後に、周辺地域内自動車使用事業者の計画策定義務制度でございますが、これは対象事業者を的確に把握できるような、その点の担保の仕組みが整備されるということが必要だろうと思いまして、特に、自動車登録所管官庁からの情報入手等の運用上の支援体制の充実は、ぜひとも必要であろうかと存じております。』

2.大気汚染公害訴訟等からの観点
 東京大気汚染訴訟は、東京高裁の和解勧告を受け、東京都が独自案を提示し、自動車メーカー側は、この案をもとに和解交渉に応じることを表明しましたが、国は当初、和解交渉自体を否定していました。現在は、可能な限りの公害対策を推進していくということで、原告側と協議が進められております。
 この和解協議においては、環境省関連の対策として、①自動車NOx・PM法の規制強化、②PM2.5の環境基準の策定及び常時測定体制の拡充、という問題が、解決のための大きなかぎになっているとされています。東京大気汚染訴訟の原告側代理人である原希世巳弁護士は、こうした状況から、本法案を次のように評価しています。
 
 『今回の改正案につきましては、私ども、率直に申し上げまして、大変期待をしておりました。対策地域外からの非適合車、流入車の規制をいよいよ本格的に国としては初めて検討するということでありました。対策メニューを見てもさまざまなことがございます。今回法案化された地域外の事業者に対する一定の義務づけなどを初め、さらには対策地域内の非適合車の走行を禁止する、あるいは車種規制を全国に適用するなどの直接的な規制も検討されて、メニューに挙げられているというような点も私どもは大変注目いたしました。これは、いよいよ国も流入車対策の検討に本格的に着手するということを期待いたしました。しかし、その後の経過、でき上がった法案を拝見しますと、はっきり言いまして、残念ながら、期待を裏切るものというふうに言わざるを得ません。
 まず第一、平成19年2月の中環審の意見具申では、対策地域外の自動車所有者に車種規制のような重い負担を強いる手法は適切ではないとして、流入車を直接規制するような対策は否定された。その理由とするところは、環境基準未達成の地点が特定の局地に限定されつつあることを考慮したんだとされております。しかし、これは同じ意見具申の中で、対策地域全体において排出量抑制を図ることが必要であるということから流入車への対策が必要であると述べていることと整合しないように思われます。現在の大都市における、さきに申し上げたような汚染実態を考えれば、やはり、地域外からの未対策車は大都市部への乗り入れを基本的に禁止するというような対策が欲しかったというふうに思います。
 第二に、荷主や自動車集中施設、これは特定建物という表現で法案になっていますが、の設置管理者についての義務づけも、今回の法案では完全に抜け落ち、わずかに荷主の努力義務と特定建物の新設者に対する届け出義務が規定されるだけとなった点であります。荷主は確かに間接排出者ということになりますが、荷主がいなければ交通需要はそもそも発生しない。しかも、特定地域内の事業者に比較して、買いかえコストなど、地域外の事業者はコストが少ないということが考えられます。したがって、荷主の負担する運送コストを節減できる可能性がある。負担の公平を維持して規制の実効性を高める上でも、荷主に対する規制は重要であったというふうに思います。特定建物の新設者に届け出義務を課す今回の法案、これは大変結構だと思いますけれども、これも重点対策地区内のものに限っているという点は、まだ不十分ではないかと思います。大都市圏において新たな交通負荷を発生させるような施設をつくる場合は常に環境への負荷を最低限に抑えるための努力を求める、対策地域全体の新設者に届け出義務を課すということも検討されてしかるべきだったと思います。・・・・・・国は、西淀川公害裁判から始まって、5回、公害発生原因者として責任を認められております。今こそ公害発生の責任者として、公害根絶のための徹底的、抜本的な対策を講じてほしいというふうに思います。PM2.5の問題については、せめて欧米並みに環境基準を設定して、系統的な環境対策を行っていくということが必要だと思います。また、本法に関連しても、荷主、集中施設設置管理者に対する規制強化のみならず、未対策の車は大都市地域には乗り入れさせないというようなことなどを早急に具体化して、排ガス公害をなくしていくという確固たる姿勢を国民に示していただければというふうに思います。』

3.自治体からの評価
 兵庫県では、平成五年に兵庫県自動車排出窒素酸化物総量削減計画を策定しました。本計画のもと、兵庫県では、車種規制の徹底指導、低公害車、低NOx車のテスト導入、民間事業者へのモデル貸与等の普及啓発、また系統管制等によります交通規制の高度化、公共交通機関によりますノーマイカー通勤の実践、日本初の条例によりますアイドリングの禁止、またそのアイドリングをした場合の違反時の罰金、といった新たな施策が展開されています。
 またさらに、兵庫県は、阪神地域における自動車公害は地域内に車庫を有する自動車以外の他の地域からの流入による自動車に起因していることが多いという考えから、現在の自動車排ガス規制及び自動車NOx・PM法による規制のみでは対策が不十分である、として自動車NOx・PM法の排出基準を満たさない車両重量8トン以上の自動車が阪神東南部地域の一般道に流入することを禁止するという措置を盛り込んだ条例を策定。これにより他地域からの流入車両の規制を実施しています。
 自治体関係の参考人としては、小林悦夫・財団法人ひょうご環境創造協会顧問が、兵庫県職員という立場で上記実務を行ってきた経験を踏まえ、次のように意見を述べました。

 『今回の法改正によりまして、このような大気汚染が著しい地域を重点対策地域として指定し、都道府県がその対策計画を定めるとともに、地域内の建物を新設する際の措置、また、流入車対策といたしまして周辺地域の事業者に対策計画を策定させることは、これまで進めてきた自動車公害対策の中で、今後課題の残る局地汚染地域の対策としては重要な施策でございまして、これらの施策が、従前から行われてきた車種規制等、また兵庫県等が行っております独自の対策と相まって相乗効果が発揮されるということを期待するものでございます。
 ただ、これらの施策、対策につきましても、例えば都道府県が対策計画を策定したとしましても、その事業の実施に当たっての事業費が確保できなければ、この計画は絵にかいたもちになるわけでございます。また、周辺事業者におきましても、この状況は同様でございます。
 そのようなことから、政府におかれましては、この対策の遂行に必要な財源の確保、また対策に係る直営事業の実施、府県等に対する交付金の確保、事業者に対する税制上の優遇措置等について要望する次第でございます。』 

【官報ウオッチング】
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【行政情報ウオッチング】
環境省
「平成19年度 地球温暖化防止に係る国民運動におけるNPO・NGO等の 民間団体とメディアとの連携支援事業」の事業案件の募集について
若林環境大臣の水俣病犠牲者慰霊式への出席について

経済産業省
産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会容器包装リサイクルワーキング・グループ(第43回)、中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会容器包装の3R推進に関する小委員会(第6回)合同会合(第3回)
総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会電力安全小委員会に新たに設置したワーキンググループについて

国土交通省
6月1日は「景観の日」~美しく風格のある国づくり~「日本の景観を良くする国民運動推進会議」全国大会の開催について

資源エネルギー庁
ガス事業制度改革について
省エネルギー政策について

【判例情報ウオッチング】
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ISO14001
◆「環境法令管理室」に「4月16日から4月22日までに公布された主な環境法令一覧」をアップしました/2007.4.21
◆「環境法令管理室」に「4月16日から4月22日までに発表された改正予定法令一覧」をアップしました/2007.4.21