ⅲ まとめと考察
1 日本史に「神道指令」を記載するのは当然である理由
①日本文明の重要な要素の一つである神道のありようを、大きく変えてしまった歴史的事件だから。
②戦争及び占領に関する「ハーグ陸戦条約」に明らかに違反する、国際法無視の占領行為だから。
(※②に関しては、かなりあとになるが、「昭和時代:占領期の描き方」で総合的にくわしく検証する。)
したがって、育鵬社と自由社以外は、6社とも《日本人のための歴史教科書》としては失格と評価する。
2 いわゆる「人間宣言」の記載について
「人間宣言」と呼称してわざわざ書くのであれば、詔書の全文を資料として載せるべきだろう。
ことさらに最後あたりの一つの文の中から「天皇ヲ以テ現御神(あきつのみかみ)トシ・・・」の部分だけを採りあげ、独自解釈して「人間宣言」だと強調しながら、一方、神道指令には言及しようとしない、東京書籍・帝国書院・教育出版はきわめて悪質だと思う。
※その一文を素直に読めば、《新聞や軍部(の一部?)が世間に流布・宣伝していた「現人神説」と、、「連合国」が主張していた「選民思想」・「日本の世界征服の野望説」を、国民や連合国の誤解を解くために否定(=・・・二モ非ず)されているように読める。
天皇陛下が、《(それまでの自分のあり方を否定して、あるいは、これまで自分は間違っていたが、)本当は自分は人間である、と宣言する》という内容ではない。ただ、《(昔から)天皇は現御神ではない》言われているだけだ。
※参考資料として<昭和二十一年一月一日詔書>(新日本建設に関する詔書)の全文を以下に紹介する。
青字化している二つの文が、いわゆる「人間宣言」としてGHQや《GNQ検閲下のマスメディア》が独自解釈して宣伝した部分。
茲ニ新年ヲ迎フ。顧ミレバ明治天皇明治ノ初國是トシテ五箇條ノ御誓文ヲ下シ給ヘリ。曰ク、
一、廣ク會議ヲ興シ萬機公論ニ決スヘシ
一、上下心ヲ一ニシテ盛ニ經綸ヲ行フヘシ
一、官武一途庶民ニ至ル迄各其志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメンコトヲ要ス
一、舊來ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ
一、智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ
叡旨公明正大、又何ヲカ加ヘン。朕ハ茲ニ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス。須ラク此ノ御趣旨ニ則リ、舊來ノ陋習ヲ去リ、民意ヲ暢達シ、官民拳ゲテ平和主義ニ徹シ、敎養豐カニ文化ヲ築キ、以テ民生ノ向上ヲ圖リ、新日本ヲ建設スベシ。
大小都市ノ蒙リタル戰禍、罹災者ノ艱苦、產業ノ停頓、食糧ノ不足、失業者增加ノ趨勢等ハ眞ニ心ヲ痛マシムルモノアリ。然リト雖モ、我國民ガ現在ノ試煉ニ直面シ、且徹頭徹尾文明ヲ平和ニ求ムルノ決意固ク、克ク其ノ結束ヲ全ウセバ、獨リ我國ノミナラズ全人類ノ爲ニ、輝カシキ前途ノ展開セラルルコトヲ疑ハズ。
夫レ家ヲ愛スル心ト國ヲ愛スル心トハ我國ニ於テ特ニ熱烈ナルヲ見ル。今ヤ實ニ此ノ心ヲ擴充シ、人類愛ノ完成ニ向ヒ、獻身的努カヲ效スベキノ秋ナリ。
惟フニ長キニ亘レル戰爭ノ敗北ニ終リタル結果、我國民ハ動モスレバ焦躁ニ流レ、失意ノ淵ニ沈淪セントスルノ傾キアリ。詭激ノ風漸ク長ジテ道義ノ念頗ル衰へ、爲ニ思想混亂ノ兆アルハ洵ニ深憂ニ堪ヘズ。
然レドモ朕ハ爾等國民ト共ニ在リ、常ニ利害ヲ同ジウシ休戚ヲ分タント欲ス。朕ト爾等國民トノ間ノ紐帶ハ、終始相互ノ信賴ト敬愛トニ依リテ結バレ、單ナル神話ト傳說トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(あきつのみかみ)トシ、且日本國民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル觀念ニ基クモノニモ非ズ。 朕ノ政府ハ國民ノ試煉ト苦難トヲ緩和センガ爲、アラユル施策ト經營トニ萬全ノ方途ヲ講ズベシ。同時ニ朕ハ我國民ガ時艱ニ蹶起シ、當面ノ困苦克服ノ爲ニ、又產業及文運振興ノ爲ニ勇往センコトヲ希念ス。我國民ガ其ノ公民生活ニ於テ團結シ、相倚リ相扶ケ、寬容相許スノ氣風ヲ作興スルニ於テハ、能ク我至高ノ傳統ニ恥ヂザル眞價ヲ發揮スルニ至ラン。斯ノ如キハ實ニ我國民ガ人類ノ福祉ト向上トノ爲、絕大ナル貢獻ヲ爲ス所以ナルヲ疑ハザルナリ。
一年ノ計ハ年頭ニ在リ、朕ハ朕ノ信賴スル國民ガ朕ト其ノ心ヲ一ニシテ、自ラ奮ヒ自ラ勵マシ、以テ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ。
3 「神の子孫」という意味
天皇を「現人神」と言う人々は古代以来いたし、直近では昭和初期:戦前の(一部の)軍部・新聞・言論人もそうだったと言われている。
しかし、多くの日本人は、《(神様のように、または神様扱いされている)偉い人》という理解をしていたと思われる。
《天皇・皇室は天照大神の子孫》ということを信じ・認めている日本人は多い。
その伝統的日本人にとっては、《天照大神は神》ならば、当然《天皇陛下は神の子孫》だ。
また、その文脈で言えば、《自分の祖先を氏神様として尊崇している伝統的日本人》もまた、《神の子孫》なのだ。
こういう歴史的感覚・認識は、神話時代からつづいている国の国民(民族)でなければなかなか理解(実感)しがたいことなのだろう。
~次回、神道の総まとめと考察~
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